軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ありふれた一日の話

「ヴィオレット様、こちらなどいかがでしょう」

「素敵だけれど、少し派手ではないかしら」

「華やかではありますが落ち着いた色味ですし。それに折角の式典ですから、少しくらい派手でも問題ないかと」

「ユランの卒業で私が着飾っても仕方がないじゃない」

「ユラン様にとってはこちらがメインですからね」

「なぁに、それ?」

ユランとヴィオレットが婚約して、二年の月日が流れた。

一足先に学園を卒業したヴィオレットは、変わらずにユランが用意してくれた邸宅に住んでいる。この家に連れられて以降、一度もヴァーハンの家には戻っていない。学園でメアリージュンを見掛けた事は何度かあったけれど、それだけだ。あの日から、両親がどうなったのか、知らないし、知っても意味はないのだろう。

「それに今年はシーナの王子様もご卒業で来賓も多いと聞きます。もっと派手でも良いくらいではありませんか?」

「ふふ、何と張り合っているの」

「ヴィオレット様の美しさを他国の方々にも知らしめる良い機会です」

「知らしめなくて良いわよ……」

生き生きとしてクローゼットの中を動き回るマリンを眺めながら、用意された紅茶に口を付ける。普段はシンプルなワンピースで過ごす事の多いヴィオレットだが、式典となれば相応のドレスアップが必須。自身の容姿についてはマリンの方がよく分かっているはずなのでほぼ一任してしまっているが、楽しそうで何よりだ。元々ヴィオレットを着飾るのが好きであったけれど、ヴァーハン家にいた頃はそういった機会に恵まれなかったから。

「良い機会ですし、新しく誂えるの有りですね……」

「今あるので充分よ。この間も、ユランが沢山買ってきてしまったんだから」

「あれは普段着ばかりです」

「持って来たのもまだまだ着られるんだし、増やす必要はないでしょう。これでは一度も袖を通さず終わる服が出てきてしまうわ」

この家に来た初めの頃は、ユランが毎日の様に色々と買い与えるのもヴィオレットを慰めるつもりなのだと思って嬉しく思っていたが、どうやら慰め半分趣味半分であったらしい。二年経った今でも定期的に大量の服や装飾品やらお菓子やら……それもヴィオレットの好みに一致しているから感服してしまう。

三回に一回は怒っているのだが、効いている気は今の所しない。そもそも二回は許している自分も、甘やかしている自覚はあるのだ。

「アクセサリーはどうなさいますか? ロゼット様とお揃いのイヤーカフは付けて行かれるんですよね」

「そのつもりよ。髪は下ろすか、緩く纏めるくらいにするつもり」

「でしたら長さのあるイヤリングなんかが合いそうですね」

「ネックレスはドレスの色に合わせて……指輪はコレだけで良いわ」

左手薬指に光る、大きな石の付いた指輪。ヴィオレットの卒業式の翌日、ユランが家に外商を呼び購入した婚約指輪である。

ヴィオレットとしては、まさか貰えるとは思っていなかった。というか想像していなかった。婚約したのだから、当然の流れと言えばそうなのだけれど。婚約者の段階でユラン名義の家に住まわせて貰っているし、それ以外にも与えて貰う物が多過ぎて。結婚指輪はまた別で選ぼうね~なんて呑気に笑っているユランへ、思考が停止して思わず表情が抜け落ちたのは、今となっては笑い話である。知能指数が低下して、結局ユランに任せっきりにしてしまった結果。

「まさかこんなに大きな石の指輪を選ぶなんて」

「トパーズを選ぶ辺り抜かりないですね」

黄金に輝く宝石は、ユランの瞳そのもの。台座までゴールドで、小さなダイヤがあしらわれ大変可愛らしいデザインではあるが。マリンからすると独占欲と牽制行為が鎮座している様にしか見えない。重そうである、色んな意味で。

「ユランに見守られているみたいで、文句言えなくなっちゃったのよね」

「……ヴィオレット様が気に入ったなら、それが一番ですよ」

純粋に喜んでいる主に水を注す程、マリンは無能なメイドではない。むしろユランにバレた時も面倒だし、ヴィオレットが喜んでいるならまぁいっか、と割り切る程度には重度の主馬鹿だ。

「さて、ではドレスとアクセサリーはこれで……後はお化粧に髪型ですね。腕がなります」

「マリンが生き生きしていて私も嬉しいわ」

「それは勿論」

クスクスと笑うヴィオレットは、美しい。

昨日も今日も明日も、王子様の隣で、幸せに笑うのだ。