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公爵家カップルは同担拒否過激派

作者: 七瀬 紫苑

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放課後のサロンで一組のカップルが逢瀬をしていた。

この国の筆頭公爵家であるヴォルテール家の跡取り息子・フィリップ。公爵家という王家の次に高い身分に生まれ、容姿も成績も申し分ない。完璧という言葉が似合う男だ。

その婚約者であるマルグリット・ペールブルー。彼女もまた、公爵家に生まれた身だ。こちらは王族との婚姻歴もあり、王家に近い血をもつ。家柄はフィリップに劣らないし、容姿、成績、全てにおいて彼に釣り合うのはマルグリットしかいないと言われている。そしてそうあるべく努力を怠らないのが彼女である。

そんなふたりが放課後のサロンで紅茶を飲んでいた。

金曜日の放課後はふたりきりの時間。学院内の婚約者をもつ者にはそのような風習があり、彼らもまた、それに則って逢瀬をしていた。

学院に入るとその意味がよく分かる。王立学院に入学する者は男爵家から上の地位の者だけ。この国の中枢を担う貴族のこどもたちが学ぶ場だ。学院での課題はもちろん、跡取りである者は領地経営についても学ばねばならない。

また、長男以外は爵位が貰えないため、文官になるための勉強をしなくてはならない。遊ぶ暇などないし、婚約者との時間もとれないことがある。

だが将来、共に領地を守るふたりが同じ時間を過ごさないままなど、いいのだろうか。学院を卒業すればすぐに結婚する。まともに逢瀬していないふたりに結婚などできるのか。そんな不安から、週に一度くらいは必ず婚約者との時間を作ろうとの考えが広まり、それが「金曜日の放課後」になった。

風習に合わせ、フィリップ・ヴォルテール公爵令息と、マルグリット・ペールブルー公爵令嬢も、逢瀬を重ねていた。

「王立公園の花が咲いたそうだ。よければ見に行かないか」

「あら…もうそんな季節ですのね。ぜひ、見に行きたいですわ」

「では日曜日はどうだろうか。君の屋敷まで迎えに行くよ」

「ありがとうございます。お待ちしておりますわ」

話すことは大体、次のデート場所の相談だ。共に公爵家の人間。クラスは同じであるため、学院でのことを話す必要はない。時折難しい課題があれば話題になるものの、それも滅多にはない。

けれど今日は、少し話題が変わって…。

「あぁ…そういえば先日、下位クラスの女生徒がフィリップ様のことを素敵だと噂しておりましたわ」

始めたのはマルグリット。その言葉に少し空気が変わった。

「下位クラスとはあまり関わりがないと思っていたけれど…いつそんな話が?」

「生徒会役員からのお知らせを読んでいる時ですわ」

「…君も登壇していたはずだが」

「地獄耳ですのよ、わたくし」

フィリップは学院の生徒会長を。マルグリットは副会長を務めている。先日の生徒総会では、春季休暇も近いため、生徒会からの注意事項を読み上げたのだ。毎年休暇では羽目を外しすぎる生徒がいるから。

「それで?マルグリットは何を思ったんだい」

「意地悪なことをお聞きになるのね。わたくしのフィリップ様なのにって思いましたわよ」

「おや、嬉しいことを言ってくれるね。俺は君のものなんだ」

「当然ですわ。わたくしたちは生まれる前から婚約が決まっていた。つまりは誕生前から貴方はわたくしのものですわ。わたくしが貴方のものであるように」

「君も俺のものなんだ。それは素晴らしいね」

「それに、貴方が素敵だなんて今さらですわ」

「というと」

「この国の筆頭公爵家に生まれた貴方は全てを思っていますわ。けれどそれを当然とせず、与えられた地位に見合うよう努力している…そんな人が素敵でないはずがないでしょう。愚問ですのよ」

公爵令息であるフィリップには僻み声が後を絶たない。だが彼女は知っている。生まれのせいにせず、努力を怠らない姿を。だから上部だけを見て素敵などと言う人間には嫌気がさすのだ。

「わたくし、嫌ですの。フィリップ様が褒められるのは」

「俺もマルグリットにだけ分かってもらえたらそれでいいと思うよ」

「今からでも褒められないようにすればいいかしら。例えばお顔を変えるとか」

拳を握り、武力的解決を提案するマルグリット。彼女は時折武力行使を厭わない節がある。

「それは君が痛いから止めよう。それに俺の顔が悪くなってもいいの?」

「構いませんわ。わたくし、フィリップ様のお顔が好きなわけではありませんもの」

「こんなに君に愛される俺は幸せ者だね。でも…」

「なんでしょうか」

「君こそ、後輩に天使のようだと言われているんだよ」

「わたくしが?天使ですか?」

彼らは共に3回生。後輩というと一回生か、2回生か。どちらにしろ、マルグリットに親しい後輩はいない。どこの誰がそんなことを言っているのか。見当もつかなかった。

「奇特な方もいらっしゃるのね。わたくしが天使だなんて」

「いや、君は天使よりも可愛らしいよ。だから間違ってはない」

「あら、フィリップ様ったら、お口がうまいんだから。褒めても何も出ませんわ」

「事実を言っただけさ」

自覚のないマルグリットはまだフィリップの言うことを信じられずにいた。天使とは…絵画に出てくるような光の輪っかのある、あの天使だろうか。自分の頭上には光の輪っかがあるのか?そんなことさえ思っていた。

「去年、入学式に迷っていた一回生を案内しただろう。その時に君が天使のように優しかったと騒がれていたよ。あまりに騒ぐから今年は案内図を出したくらいだ」

「あぁ…2回生の時、そのようなこともありましたわね。というか、案内図にそのような思惑があったとは存じ上げませんでしたわ」

「二年連続で君の可愛さに気付かれたら困るからね。ライバルは少ないに限るよ」

「ライバルなんておりませんのに」

王立学院は国内で最も大きな学院だ。新入生は迷って当然。だが、これまで会場の案内図はなく、基本的には生徒会役員が、親しい上級生のいる者はその者に案内をしてもらっていた。フィリップとマルグリットは一回生の冬から生徒会役員となっていたため、2回生になって初の生徒会業務が入学式の案内係だった。

「ライバルばかりだよ。公爵家令嬢であり、筆頭公爵家次期当主の婚約者だから手を出す者がいないだけで」

「それならわたくしの方がライバルばかりですわ。フィリップ様はご自分の人気を分かっていらっしゃらないもの」

「そうかな」

「そうですわ」

「ねぇ、フィリップ様。東の島国では、“同担拒否過激派”という言葉があるんですって」

「なんだい、それは」

「同じ人を好きな人とは仲良くできないことを言うそうですわ。わたくしならフィリップ様を好きな方とは仲良くできません。だからわたくしはフィリップ様同担拒否過激派ですの」

「東には面白い言葉があるんだね。では俺はマルグリット同担拒否過激派かな。マルグリットを好きなやつがいたら家ごとこの国に居られなくするだろう」

「それだけですの?わたくしはこの大陸の地を二度と踏めなくいたしますわ」

「マルグリットは俺のこと好きすぎだよね」

「好きなんかじゃないわ。愛していますもの」

「嬉しいよ。俺も君のことを愛している」

時間だからと席を立つ二人。フィリップのエスコートでサロンを後にした。

そんな彼らを、冷や汗と共に見ていた生徒たちのことなんか、知りもせず───。