軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

074 3つの可能性

俺――アレン・クロードは、【零落の間】の外から空を見上げる。

仄暗い結界の輝きが、シナリオの異変を告げていた。

普段であれば教師陣の対応のために解除されているはずの結界が、異様な色彩を纏って【忘れられた星樹林】を覆い尽くしている。

その光景を見た瞬間、俺は理解した。

この結界が、メインエピソードⅣの開幕を示すものだと。

――だけど、おかしい。

(どうして今、このタイミングで……)

俺は困惑に眉をひそめた。

一年早く留学してきたリリアナの存在によって、ジュリアン襲撃イベントが前倒しになったのは理解できる。

だとしても、納得できないことがあった。

この時点だとまだ、このエピソードが発生するための条件が全て揃っていないはずなのだ。

だからこそ、俺も可能性を排除して動いていた訳だが――

「いや、それについて考えるのは後だ――【プロテクト】」

今は一刻でも早く、正しい状況を把握し、対処法を考える必要がある。

俺はプロテクトを発動すると、それを足場にしながら素早く近くの高台に移動し、周囲を観察する。

すると、すぐに異変の発生地点を見つけることができた。

【忘れられた星樹林】の中では珍しい拓けた空間にて、漆黒の翼を背から生やしたジュリアンが空中に浮かび、その足元には今まさに討伐されたであろう古竜ブルートの首が横たわっている。

さらにその近くには――リリアナ、ユーリ、そしてグレイたちの姿があった。

「上位エリアに、グレイたちまで……?」

想定外の展開に、俺は首を傾げる。

ジュリアンが現れたことに比べれば些細な内容だが、細かい部分でも本来のシナリオと差異が生まれているようだ。

この段階で理由を推し量ることはできないが、とにかく危機的状況であることには変わらない。

ブルートに関しては、光景から察するにグレイが上位エリアにいたことでヤツもそちらに登場し、それをジュリアンが討伐したのだろうか。

奴の実力的には容易だろうし、性格を考えれば十分にありえそうだ。

「考えながらも動かないとな」

俺は高台から飛び降り、走りながら状況を整理していく。

まずはジュリアンの情報だ。

ゲームにおいて、ジュリアンのレベルは65(ちなみに、ブルートは50)。

かつて討伐した悪魔種のバフォールは60程度であり、その差は僅かだが……力量については大きな隔たりが存在していた。

なぜか?

それは奴――ジュリアンが暗黒属性を有しているからだ。

闇属性の上位に位置するその力は、無と基本属性への抵抗力が大幅に上昇し、倍率は闇属性のそれを大きく上回る。

そのため、バフォールには通用した攻撃も、ジュリアンには通用しないのだ。

さらに厄介なのが、暗黒属性は聖属性――もしくはその上位属性である神聖属性でしかトドメを与えることはできないという点。

そんなジュリアンを本来のシナリオではどうやって倒すのか。

それはグレイがレイヴァーンによる最後の試練を突破し、獲得した『魔を打ち払う聖なる炎魔法』を使って討伐するのだ。

実際のところゲームにおいて、ジュリアンは大した強さの敵ではない。

初めて聖なる炎を扱うグレイとプレイヤーがその強さを実感するための戦いであり、言ってしまえば通過点に過ぎないボスなのだ。

しかし、現状ではそんな単純な話ではない。

「今のグレイは、まだ聖なる炎を獲得していないから」

その有無によって、ジュリアンの討伐難度は大きく変動する。

というより、それがないだけで不可能に近いはずだ。

だからと言って、シナリオ通りグレイの覚醒を期待するわけにもいかない。

――なにせあの力は、 グ(・) レ(・) イ(・) が(・) こ(・) れ(・) か(・) ら(・) 迎(・) え(・) る(・) こ(・) と(・) に(・) な(・) る(・) 最(・) 大(・) の(・) 絶(・) 望(・) を乗り越えた時、初めて獲得できるものだから。

今のグレイにはまだ、その力を授かる資格はない。

結果、ゲームでは通過点に過ぎなかったジュリアン戦が、現実となった今において最上の脅威へと変化する。

この場にいる者ではトドメを与える手段がない以上、状況は最悪であり――

「――いや、違う」

瞬間、 一(・) つ(・) の(・) 可(・) 能(・) 性(・) が脳裏を過った。

グレイが神聖属性を獲得できなかったとしても、この場にはたった一人、ジュリアンを正攻法で倒せる存在がいる。

すなわち、聖なる属性を扱える唯一の存在――

「―――― 俺(・) だ(・) 」

俺が、やるしかない。

俺(アレン) のヒールであれば、ジュリアンにもトドメを与えることができる。

ただし、課題は山積みだ。

グレイの聖なる炎と違い、俺のヒールは元々攻撃スキルではないため火力不足。

トドメを与えるにしても、バフォール戦のように最後の一押しとしてしか使えないだろう。

それまでに、なんとしてでもジュリアンを瀕死に追い詰める必要がある。

この結界内にいる戦力と、全ての要素。

それらを組み合わせた俺は――なんとか紙一重で、 こ(・) の(・) メ(・) イ(・) ン(・) エ(・) ピ(・) ソ(・) ー(・) ド(・) Ⅳ(・) を(・) 突(・) 破(・) す(・) る(・) た(・) め(・) の(・) 唯(・) 一(・) の(・) 策(・) を導き出した。

「スレスレもいいところだが……これ以外に、俺たちが生き残る術はない」

とはいえ、その策を実行に移すには、まだ一つだけ足りない要素があった。

今(・) の(・) 俺(・) た(・) ち(・) では、メインエピソードⅣを完全に乗り越えることはできない。

ここから訪れるであろう展開を想像した俺は、今のうちににやっておくべきことのため、異空庫の指輪から一つの球体を取り出す。

――――――――――――――――――――

【解放のスキルオーブ】

・対象スキルの潜在能力を開放し、新たに進化スキルを獲得することができる。

※対象スキルのレベルが10(MAX)および、対象者のレベルが40以上の時のみ使用可。

――――――――――――――――――――

シャドウセンチネルの討伐によってレベルが上がり、使用条件を満たした最後の強化パーツ――解放のスキルオーブ。

俺は握りしめた手に、ゆっくりと魔力を流していく。

すると、まるで呼応するように無数のシステム音が響き渡った。

『対象者の解析が終了しました』

『【ヒール】の潜在能力を開放することが可能です』

『開花させる可能性を、以下から選択してください』

そんな前置きの後、3つのメッセージウィンドウが目の前に浮かび上がる。

『――【 拡張(かくちょう) と 深化(しんか) 】――』

『――【 限定(げんてい) と 継続(けいぞく) 】――』

『――【 反転(はんてん) と 冒涜(ぼうとく) 】――』

そこに刻まれていたのは、ヒールに秘められた3つの可能性。

それらを前に、俺は一瞬も躊躇わなかった。

なぜなら、選ぶべき答えは既に決まっていたから。

今、俺に必要なのはたった一つ。

「俺は――【 限(・) 定(・) と(・) 継(・) 続(・) 】を選択する」

その瞬間、新たなスキル獲得を告げるシステム音が頭の中に響き渡るのだった。