軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

072 開幕

「……なんとか倒せたか」

鳴り響くシステム音を聞きながら、俺は深く息を吐く。

結果だけ見れば圧勝のように見えるが、実のところ際どい戦いだった。

作戦のうち、どれか一つでも失敗すればシャドウセンチネルとの間に塗り替えられない程の差が生まれ、泣く泣く撤退する羽目になっていただろう。

しかし、何はともあれ勝利は勝利。

期待しながら待っていると、とうとうその瞬間が訪れた。

「っ、これは……」

突如として、室内に眩い光が満ちていく。

その輝きは星空の瞬きとは異なり、まるで太陽のような純白の光だった。

光が収まると、シャドウセンチネルが座っていた玉座の上に、フワフワと浮遊する光の球体が現れる。

その光の中には、少し欠けたような刀身が目立つ、一振りの漆黒の剣があった。

右手でその柄を握った俺は、歓喜の笑みを浮かべる。

「ようやく、手に入れることができた。俺が最強に至るための最後のピース――【 冥星剣(めいせいけん) エクリプス】」

【 冥星剣(めいせいけん) エクリプス】。

それは、10の 星天宝具(せいてんほうぐ) の中でも特殊な立ち位置となっている長剣。

メインキャラのみが装備できる星天宝具はどれも飛びぬけた性能を有しており、その中でもエクリプスが持つ能力は最上位――なのだが、同時に最凶の外れ武器とも称されていた。

それはなぜか。

エクリプスは複数の優秀な能力を持つ代わり、 そ(・) れ(・) を(・) 上(・) 回(・) る(・) 複(・) 数(・) の(・) デ(・) メ(・) リ(・) ッ(・) ト(・) 効(・) 果(・) を(・) 有(・) し(・) て(・) い(・) る(・) からだ。

使いどころによっては圧倒的な実力を発揮するが、汎用性と持続力に欠け、死にゲーと呼ばれるゲームで扱うにはあまりにもピーキーな性能だった。

そう考えたのはプレイヤーだけでなく、ゲーム内のキャラクターも同様。

それ故、この武器は分類上【星天宝具】の一つとされているものの、格は他のものより1ランク下に設定。

そして、「自分の身を蝕んででも、勝ち取りたい何かがある者」にしか使う資格が与えられないよう、この地に封印された過去を持つ異例の武器だった。

実際、『ダンアカ』においてもエクリプスを主人公に装備させるプレイヤーはまずいなかった。

そこからも、この武器がどれだけ使い勝手が悪いかよく分かるだろう。

だけど――ここに一つ、例外が存在する。

「俺が―― ヒ(・) ー(・) ラ(・) ー(・) の(・) 俺(・) だ(・) け(・) が(・) 、 こ(・) の(・) 武(・) 器(・) の(・) 真(・) 価(・) を(・) 発(・) 揮(・) す(・) る(・) こ(・) と(・) が(・) で(・) き(・) る(・) 」

ちょうど、シャドウセンチネルを倒したことで俺のレベルが40、【ヒール】のスキルレベルが10(MAX)になり、【解放のスキルオーブ】の使用条件も整った。

さっそく新しいスキルを獲得し、試したいところだが……俺は首を横に振る。

「エクリプスの能力は、そんな軽い気持ちで使うようなものじゃない。試すのはちゃんとした場を整えてからだな」

とりあえず、中間試験が終わってからにすべきなのは間違いないだろう。

別に、急いで試さなくちゃいけない事情があるわけでもないし。

「とりあえず、上に戻るとするか」

順調にいったため、思っていたより短時間で事は済んだ。

中間試験が終わるまではまだ時間があるだろうし……できれば、グレイがブルートを討伐するところを、この目でちゃんと確認したいところだ。

エクリプスを異空庫の指輪に保管した俺は、【零落の間】を後にし――

――地上に戻った俺は、すぐ そ(・) れ(・) に気付いた。

「なんだ、アレは……?」

見上げると、そこには【忘れられた星樹林】全体を覆う結界が展開されていた。

試験中は、アクシデント発生時に教師陣がすぐ対応できるよう解除されているはずなのにだ。

『ダンアカ』ではなかった展開に、俺は思わず眉をひそめ……直後、ある違和感を覚えた。

「……待て。この結界、普段と少し雰囲気が違うぞ。どこか 仄暗(ほのぐら) いような……っ、まさか!」

刹那、俺の脳裏に一つの可能性がよぎるのだった――

◇◆◇

――数分前。

【忘れられた星樹林】、上位エリア。

「ハアッ! シィッ!」

「ギァァァァァ」

その場所では、後ろで結った白銀の髪と、蒼色の瞳が特徴的な少女――

リリアナ・フォン・アイスフェルトが颯爽と剣を振るい、次々と強力な魔物を斬り伏せていた。

魔物の群れを倒し終えた後、リリアナはふぅと息を吐く。

「ひとまず、これで30体。順調ではありますが……1位を目指すためには、いささか物足りませんね」

リリアナがこれまで倒してきたのは、どれも30レベルを超える強力な魔物であり、それを30体。

既に成績上位は確定しているものの、その瞳に満足の色は浮かんでいなかった。

ガサッ

「――――!」

直後、草をかき分けるような音が響く。

魔物の襲撃かと思い剣を構えるリリアナ。

しかし――

「貴女は……」

「っ、リリアナ・フォン・アイスフェルト……!」

そこにいたのは金色の長髪が特徴的な少女、ユーリ・シュテルクストだった。

彼女はリリアナの存在に気付くや否や、翡翠の瞳を細め、腰の剣に手を当てる。

一瞬で、緊迫した空気が場を支配する。

ユーリにとって、リリアナは因縁の相手であり、当然この試験でも上の成績になるよう意識していたはず。

そんな中、突如として遭遇したことによって、どう動くべきか逡巡している様子だった。

そして、それはリリアナも同様。

どう対応したものかと彼女が悩んだ直後――さらに予想外の展開が訪れる。

ガサッ

「「――――!」」

再びの足音に、ユーリとリリアナが同時に視線を向ける。

すると、

「……君たちは」

そこから姿を現したのは、灰色の髪を持つ少年――ここ最近、【ダブル・ジョブ】として周囲に名を轟かせているグレイ・アークだった。

彼を見たユーリが、わずかに眉を寄せる。

「グレイ・アーク……? いや、他にもいるのか」

その後ろには、水の精霊と契約したことで才能を開花させつつあるミク・アドレットと、ダンジョンで先輩冒険者を打ち破った自信から実力を増しているトール・ブロストの姿があった。

ただでさえ挑戦者の少ない上位エリアでの邂逅。

それも、そのうち4人が最下位クラスの学生という異常事態が発生する。

誰にとっても想定外の状況に、場には沈黙が流れ――それによって逆に冷静を取り戻した様子のユーリが、剣の柄から手を離し、4人に背中を向けた。

その様子を見たリリアナは、そんな彼女の背中に声をかける。

「あら、行かれるのですか?」

「……この人数で同じ場所に留まるのは非効率。ただそれだけだ」

「そうですか」

驚いたような、感心したようなリリアナの声。

そんな二人のやり取りを前に困惑するのは、後から来たグレイたちだった。

「えっと、二人はここで何を……?」

「ただ狩場が被っただけですよ。それより驚きました。まさかグレイさんたちもこの上位エリアにいらっしゃるとは」

リリアナも同じクラスメイトとして、当然グレイのことは把握していた。

彼らの実力が、著しい勢いで伸びていることも。

……もっとも、彼女が一番の興味を向けている 彼(アレン) には敵わないだろうが。

そんなリリアナの言葉に、グレイはここではないどこかを見るような、真剣な表情を浮かべた。

「……この試験で、どうしても超えたい相手がいるんだ。無茶なのは分かっていたけど……それでも諦められなかったから。ミクとトールには、付き合わせて悪いと思っているけど……」

「何言ってるのよ、グレイ。私たちの仲でしょ」

「ああ。それに上を目指したい気持ちは、オレも同じだからな」

同意するミクとトール。

そんな中、リリアナはふと浮かんだ疑問を尋ねようと思った。

「ちなみにグレイさん、貴方が告げる超えたい相手とは、もしかして――」

――しかし、その言葉が最後まで紡がれることはなかった。

突如として、辺り一帯――ダンジョン全体に及ぶのではないかと思う程、大規模な振動が発生したからだ。

「――ッ」

「っ、これは……」

「きゃっ!」

「なんだ!?」

「――――」

リリアナ、グレイ、ミク、トール、そしてこの場から立ち去ろうとしていたユーリを含めた全員が困惑に包まれる。

さらに、衝撃はそれだけで終わらない。

『ォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオ!!!』

―― 咆(・) 哮(・) が、辺り一帯に響き渡った。

驚くほどの声量を伴って放たれるそれは、大気と樹木を大きく揺らす。

並の魔物では考えられない程の魔力と重圧。

さらに厄介な点として、その咆哮はここからすぐ近く――上位エリアの範囲内から聞こえた。

(この咆哮も、ダンジョンに元からいた魔物によるものでしょうか? ……いえ、それにしてはあまりにも強力な気配。何やら嫌な予感がします)

一刻も早く逃げるべきかとも思うが……これだけの魔力量であれば、気付かぬうちに大規模の攻撃に巻き込まれる恐れすらある。

ここからどう動くべきか、判断するための情報がまったく足りていない。

リリアナはグレイたちと顔を見合わせると、ひとまず状況を確かめるべく現地に向かうことにした。

会話に参加しなかったユーリも同様の考えだったようで、5人で移動を始める。

その場所は、リリアナたちがいたところから走って1分とかからなかった。

森を抜けた先に突如として現れる拓けた巨大な空間。

そこに辿り着いたリリアナたちは、驚愕に目を見開くこととなった。

「これ、は……」

そこに聳え立つのは、城と見紛う程の巨大な体躯。

赤黒い鱗に覆われた肉体からは、彼女たちがこれまでに見てきた全ての魔物を凌駕する程の威圧感が発せられていた。

その正体はまさに、 煌血竜(こうけつりゅう) ブルート。

かつて紅蓮の勇者レイヴァーンと死闘を繰り広げた、古竜そのものであり――

―――― そ(・) ん(・) な(・) 竜(・) の(・) 首(・) が(・) 、 ポ(・) ト(・) リ(・) と(・) 落(・) ち(・) て(・) く(・) る(・) と(・) こ(・) ろ(・) を(・) 目(・) の(・) 当(・) た(・) り(・) に(・) し(・) た(・) か(・) ら(・) 。

「なんだ、これは……?」

「竜……の、死体……?」

「………………」

ユーリとグレイが、困惑した声を上げる。

声に出さずとも、リリアナも同様の衝撃を受けていた。

だが――彼女が真に驚くのはここからだった。

「クフ、クフフ……」

突如として上空から響き渡る笑い声。

その声にどこか聞き覚えがあったリリアナは視線を上げ、そして目を疑った。

そこにいたのは一人の人間――いや、違う。

通常の人間とは大きく異なる点があった。

漆黒の翼を背から生やし、まるで鳥のような姿で浮かび上がっている。

その後ろには、現在進行形でダンジョンを覆う結界が展開されていくのが見えた。

「あな、たは……」

リリアナの言葉に対し、その男はニコリと微笑み、告げる。

「お久しぶりです、 リ(・) リ(・) ア(・) ナ(・) お(・) 嬢(・) 様(・) ――あの日のやり残しを、今度こそ果たしに参りました」

◇◆◇

――その一方

【零落の間】の外で、アレンはようやく状況を理解していた。

「あの結界は、間違いない……!」

アレンが想定していた 展開(シナリオ) は、既に根底から崩れ去っていた。

なにせこれは、二年編の中間試験で発生するイベント――

「―― メ(・) イ(・) ン(・) エ(・) ピ(・) ソ(・) ー(・) ド(・) Ⅳ(・) の(・) 、 最(・) 終(・) パ(・) ー(・) ト(・) だ(・) 」

・NORMAL

『メインエピソードⅠ 【古竜の咆哮】』――――断絶

・EXTRA

『メインエピソードⅣ 【黒堕ちる鴉】』―――― 開(・) 幕(・)