軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

050 邂逅

「はあッ!」

「――――」

会場中が息を呑む中、リリアナとユーリの戦いが繰り広げられていた。

身軽な足捌きに鋭い振り、木製の剣がぶつかるたびに轟音が響き渡る。

その一つ一つの動きから、二人が飛びぬけた実力を有していることが見て取れた。

もはや誰も俺やグレイのことなど気にも留めていない。

一年生同士とは思えないほどハイレベルな応酬に、全員が固唾を呑んで見入っていた。

「――ふっ!」

「くぅっ!」

しかし、そんな均衡も徐々に崩れ始めていく。

ユーリの果敢な攻めは全てリリアナに凌がれ、逆に隙をついたリリアナの反撃が次々とユーリを捉える。

戦いは、明らかにリリアナの優勢で進んでいた。

(……まあ、ここまでは初めから分かっていたことだ)

原作(ゲーム) 通りなら、交流戦段階のユーリのレベルは32。

一年の中では突き抜けた数字だが、リリアナの45レベルには遠く及ばない。

「――まだだ!」

ここまで応酬で既に実力差は把握しているはずなのに、ユーリは諦めることなく攻めを加速させる。

その表情には苦痛や屈辱の色が見て取れた。

そうなるのも無理はない。

なにせ彼女はまだ、宿敵だと思っていたリリアナの本気を引き出すことすらできていないのだから。

レベル差があるのだから当然だと考えたくもなるが……実はそう単純な話でもない。

ここで少し、ジョブについて振り返ることにする。

【魔法剣士】は刀剣系と魔法系のジョブスキルを獲得でき、基本ジョブの中では最高峰の性能を誇っている。

とはいえ、それぞれ単独では専門職の【剣士】や【魔法使い】には敵わない。

【ヒーラー】の俺が瞬刃やファイアボールを使う時ほどの減衰率ではないにしろ、8~9割程度まで効果が落ちるのだ。

つまり、同じレベルの【魔法剣士】と【剣士】が剣だけで戦った時、基本的には【剣士】の方が優勢となる。

しかし今、圧倒しているのはリリアナの方だった。

それだけでも両者の間には、見た目以上に大きなステータス差が存在していることになる。

さらに畳み掛けるなら、リリアナは【魔法剣士】とは言え、どちらかと言えば魔法を得意とする後衛型だ。

にもかかわらず、魔法を使わない状態でユーリを圧倒してみせていた。

(ユーリが自分の才能に気付けば、ここから挽回する手がないわけじゃないが……)

現段階の彼女がそれに気付くのはまず不可能だろう。

その予想は正しく、決着はすぐについた。

「はぁああああああ!」

力強い踏み込みと共に起死回生を狙うユーリ。

「――――」

しかし、読んでいたとばかりにリリアナは軽やかにその攻撃を躱すと、ユーリの空いた喉元に切っ先を添えた。

ピタリと、二人の動きと時間が止まる。

大ダメージを与えたわけではないが、この時点で雌雄は決した。

「勝者、リリアナ・フォン・アイスフェルト」

静寂に包まれた空間に、リオンの宣言が鳴り響く。

「………………」

ユーリは悔しそうに表情を歪めつつも、結果自体は受け入れているようで、静かに引き下がっていく。

瞬間、会場中がざわついた。

「そんな、ユーリ様が負けるなんて……」

「しかも相手のリリアナ様は、終始涼しい顔のまま……」

「これでAクラスが三連敗? いったいどうなってるんだ!?」

驚きの声を上げるギャラリーたち。

そんな中、

「くそっ……」

他者に背中を向けて、血が出るんじゃないかと思うほど強く自分の拳を握りしめるユーリの姿が目に入った。

本来ならこの交流戦において、ユーリはグレイに実力を痛感させる側だった。

しかしリリアナが登場したことで逆の結果になってしまった彼女の表情を見て、俺は思わずため息を漏らす。

(この変化は、シナリオに影響を与える可能性が大きい。今後も注意しておかなくちゃな……)

そう考えていると、戦いを終えたリリアナが舞台から降りてくる。

そんな彼女を労うように、俺は声をかけた。

「お疲れ様、リリアナ。危なげなく勝ったな」

「……そうですね。今のユーリさんには隙が多くありましたから、そこさえ突ければ、問題なく」

リリアナはユーリの背中に視線を向けながら、少しだけ惜しむような表情でそう呟いた。

この様子だと、彼女もユーリの問題には気付いているようだ。

「伝えてやらなくていいのか?」

「……そう仰るということは、アレンさんも気付いていらっしゃるのですね」

少しだけ驚いたように目を見開いた後、彼女はにこりと微笑む。

「もちろん伝えたりはしませんよ。私から言ったところで受け入れてはもらえないでしょうし……そもそも、私は敵に塩を送るほど心優しい性格ではないのです……軽蔑いたしましたか?」

「いや……普通のことだと思うけど」

「……そうですか。なら安心しました」

一見、冷たいことを告げるリリアナ。

しかし言葉の意味を丁寧に解釈すれば、ユーリをライバルだと言っているに等しかった。

アドバイスうんぬんより、そっちを伝えた方がユーリのためになるような気もするが……いや、逆に憤慨するか。

まあいい。

ユーリがシナリオに深く関わってくるのは、メインエピソードⅡ以降。

そこまで到達していない今は、最低限の注意さえしておけば、大きな問題にはならない……はずだ。

「それでは、次――――」

そんなやり取りをしている間に、交流戦は再開していた。

まさかのEクラス側の三連勝から始まった交流戦。

しかしEクラスの快進撃はここまでだった。

主人公の幼馴染であるミクや、友人のトールが善戦し、ユイナも支援職とは思えない程には奮闘していたが……結局はその程度。

今挙げた三人も含め、残りは全てAクラス側の勝利に終わった。

Aクラスとして最低限のプライドを守れたことに、Aクラスの面々はホッとしている様子だったが……

それでも、代表のユーリが敗北した事実は彼らにとっても衝撃だったようで、元気を取り戻すまでとはいかなかった。

(さて。これからどうなるか……)

そんな大きな歪みを残しながらも、交流戦は幕を閉じるのだった。

◇◆◇

その日の放課後。

俺はいつものように一人、鍛錬場にやってきていた。

目的は当然、『不死人形』相手に鍛錬を行うためだ。

俺には今、急いで強くなっておきたい理由があった。

「一か月後に行われる中間試験……できればそれまでに、レベルを35以上にして、各パラメータやスキルレベルも上げておきたい」

ステラアカデミーの前期中間試験は、学園の北側に広がる巨大な森林ダンジョン【忘れられた 星樹林(せいじゅりん) 】で行われる。

ここは多種多様な魔物が存在するダンジョンであり、普段は結界によって封鎖されているが、試験中のみ解放されるのだ。

ここで重大な点が一つ。

【忘れられた星樹林】は非常に広大で、先日の【新星の迷宮】のような隠しエリアが幾つも存在する。

そしてその中の一つに、ヒーラーの 俺(アレン) が最強を目指す上で、 必(・) 須(・) の(・) ア(・) イ(・) テ(・) ム(・) が眠っているのだ。

「本来ならこの段階での獲得は不可能だし、入手はしばらく後にするつもりだったんだけど……事情が変わった」

転生した当日に立てた計画なら、二年次……つまり一年後に入手することを想定していた。

しかしバフォールやワーライガーといった強敵を立て続けに討伐したことで、俺のレベルは30にまで達している。

本当なら今の時期に15~20くらいまでいけばいいと考えていたことを思えば、どれだけ超速の成長かがよく分かることだろう。

さらに、後押しの材料が存在する。

「……リリアナから、 最高のお礼(ドラウプニル) を貰えたからな」

【ドラウプニル】によるMP上昇率の恩恵は、強敵との戦闘時はもちろん、普段の鍛錬時にも活かされる。

ポーションでは回復できるMP量に限度がある中、より効率的に熟練度を上げることができるからだ。

「まあ、ここまで条件が揃ってなお、あのギミックをクリアできるかは五分五分なんだが……」

正直、後に回した方が安全ではあるだろう。

ただ、

「これからどんな風にゲームシナリオが捻じれていくか分からない。先を急いで損はしないはずだ」

そんな訳で、方針は決まった。

これからは『不死人形』相手の特訓や、ダンジョン攻略によるレベル上げを中心に行っていくとして……

「……あとはそろそろ、 長(・) 剣(・) を使えるようにもならないとな」

【忘れられた星樹林】で獲得できるであろう武器を思い浮かべながら、俺はそう呟いた。

ただこちらに関しては、少し手間取る予感がしている。

【エンチャント・ナイフ】や【ナイト・ブリンガー】は敵に当てただけで効果が発生する武器であるため、良くも悪くも身のこなしさえ意識すれば、ダメージを稼ぐことができた。

しかし あ(・) の(・) 武(・) 器(・) を扱うためには、俺自体に剣を扱う実力が必要になってくる。

「誰かに教えを乞うのが一番の近道だよな。当てがないわけじゃないが……」

実際、 あ(・) の(・) キ(・) ャ(・) ラ(・) に受けてもらえるかは微妙なところ。

――そう、俺が考えていた直後だった。

「あれ? 誰かいるのか?」

「――――――」

聞き慣れた声――この世界でというよりは前世で何度も耳にしたその声が、突如として鍛錬場に響く。

俺は振り返り、そして見た。

少し長めの灰色の髪を持つ一人の少年――

「……グレイ」

――グレイ・アーク。

『ダンジョン・アカデミア』の主人公が、そこにいた。