軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

019 支援職のクラスメイト

実験が成功し、俺が意気込んでいた矢先だった。

「あの、アレンくん。少しいいかな?」

「……え?」

突然、一人のクラスメイトが話しかけてくる。

検証が見られていたのかと焦りながら振り向き――俺は驚きに目を見開いた。

そこにいたのは、スラリと伸びる茶色の長髪に琥珀色の双眸を持つ、可愛らしさと純朴さを併せ持った女子生徒。

『ダンアカ』にも登場していたキャラクター、ユイナ・ネルソンだった。

「ユイナ・ネルソン……?」

「え? う、うん。もう覚えてくれたんだね、ありがと」

はにかむユイナに思わず見惚れそうになりつつ、冷静に努める

そんな状態の中、俺はゲームの彼女について思い返してみた。

ユイナは、グレイやルクシアのようなメインキャラクターではなく、アレンと同じモブクラスメイトの一人。

顔や名前に、戦闘中のキャラクターボイス、それから設定資料集に書かれた程度の情報しかない人物だ。

そして何を隠そう、彼女のジョブは【バッファー】。

俺(アレン) の【ヒーラー】と同じ支援職であり、他者への発動時に効果が半減するというゲームシステムによって、不遇を強いられた少女だ。

しかしアレンと違いパーティーへの採用率は高く、人気も非常に高かった。

それはなぜか。

ポーションなどのアイテムで代用が効くヒーラーとは違い、仮に効果が半減するとしても、対象の実力を底上げしてくれるバッファーは最低限役に立つから――

というのは建前で、最大の理由は別にあった。

それはずばり、彼女が可愛いからだ。

メインキャラクターほど突き抜けたデザイン的特徴はなくとも、それが逆に安心感を生むようなクセのないモブキャラゆえの可愛さは、死にゲーとして名高い『ダンアカ』をプレイする中で心の癒しとなった。

そのためか、一部の男性プレイヤーはユイナを固定メンバーとしてパーティーに入れ、システムを最大限活用することで死なせないよう奔走していたほどだ。

それはそれで逆にストレスが溜まるんじゃないか? と思わなくもないが、本人たちが楽しんでいるようなら何よりである。

そして、俺だってもちろん、他のメインキャラたちと同じようにユイナのことを魅力的に思っていた。

そんな彼女がいきなり話しかけてきたという事実に、戸惑いながらも応じる。

「それで、俺に何か用でも?」

「ううん、そんなに大したことじゃないんだ。ただ、昨日の自己紹介でアレンくんが【ヒーラー】だって聞いて。私も同じ支援職……【バッファー】だから親近感が沸いて、それで話しかけちゃったの……迷惑だったかな?」

「いや、そんなことはないよ」

落ち着いて答えを返しつつ、ホッと胸を撫で下ろす。

とりあえず、『不死人形』相手にヒールを使っていたことを指摘されるわけじゃなくて安心した。

俺はあくまでモブであり、現段階で下手に目立つつもりはないからな。

ただの交流が目的なら、彼女に応じても特に問題ないだろう。

それに、

「俺も、ユイナさんのことは前から知りたいと思っていたから」

「――……え?」

俺の発言を聞いたユイナは呆けたように目を丸くし、少し遅れて頬を赤く染めた。

(……うん、言い方を間違えた)

そんな彼女の反応を見て、俺は心の中で猛省する。

今のは特に、深い意味があったわけじゃない。

限られた情報しか提供されなかったモブクラスメイトのことを、ゲームをプレイしていた時からもっと知りたいと思っていたことを口にしただけ。

――なのだが、今の言い方なら別の意味で捉えられても仕方ないだろう。

急いで対処しなければ。

「いま、ほら、このクラスにいる支援職は、俺とユイナさんの二人だけだから。どうしてアカデミーに入ったのかとか、その辺りを聞いてみたくて」

……まあ、それも"今のところ"は、だけど。

俺はグレイにちらりと視線を送りつつ、彼女にそう告げる。

するとユイナは、

「あ、う、うん。そうだよね。ごめんね、何だか変な反応しちゃって……」

照れくさそうに、右手で自分の髪をくるくると巻くユイナ。

何とか誤魔化せたようで、事なきを得たとホッとする。

「あっ、あと、私のことはユイナって呼び捨てでいいよ。同級生だもん」

「そうか。なら、これからよろしく頼む、ユイナ」

「うん! よろしくね、アレンくん」

そんなちょっとした事故もありつつ、それから少しの時間、ユイナと他愛もない話を続けることに。

リリアナやルクシアなどのメインキャラクターと違い、彼女はモブキャラ。

関わってもシナリオに影響が出る可能性は低いだろうという安心感があるおかげか、思いのほか自然と会話が弾んだ。

――しかし、そんな時間は呆気なく終わりを告げることになる。

「失礼する」

入口から芯の通った声が響き、鍛錬場の生徒全員がそちらに視線を向ける。

するとそこには、輝くような金髪を靡かせる少女――入学式で新入生代表を務めていたユーリ・シュテルクストと、数人の取り巻きが立っていた。

(……そうか、もう始まるんだな。『ダンアカ』のチュートリアル戦が)

俺は息を潜め、これから起きるイベントを見届けることにした。