軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

episode69

オールポートが私を連れて行ったのは舞台袖だった。

そこは大きくくぼんでいて、薄暗い奥の方にオークションに掛けられる品々が置かれていた。

(あ!)

お目当てはすぐに見つかった。オールポートも私をそのまま案内して、半分とれかかっていた布を外した。

「どうぞお好きなようにご覧ください。お気に召すものが見つかるまで」

ねっとりと粘着質な声が耳にこびりつく。気持ち悪い、生理的に受け付けないオールポートの視線をどうにか振り払い、置かれていたそれを凝視する。

現れたのは金の鳥籠。中にいるのは小さな小鳥でも鳩でもなくて────痛々しい傷だらけの妖精達だ。

(……なんて惨い)

籠の中の妖精達は薬で眠らされてるのかはたまた起き上がる気力や体力が無いのか。瞳を開けている妖精はおらず、死んだように眠っている。

そっと鳥籠に手を伸ばし、取っ手を握った。取り付けられた錠前は頑丈で、逃げ出すのを警戒してか鍵の上から魔法を二重にかけているようだ。

もしかしたら魔法だけなら私でも解けるかもしれない。そう思い、どのようにかけられているのか確認するためそうっと錠前に触れる。

「痛っっ」

途端、バチンっと一瞬指が弾かれたと思いきや、手ほどの魔法陣が浮かび上がり、パリンと割れた。

まさか触れるだけで魔法が解けるなんて。びっくりしてしまい呆然としてしまう。

(な、な、なんで!?)

何かした覚えはない。けれども弾かれた指先は紙で切ったみたいに直線状の傷ができ、間からぷくりと鮮血が丸みを帯びて溢れてきた。ずきずきと傷口が痛む。

「──解いたのですか?」

直後、耳元で囁かれゾワゾワッと全身に悪寒が走る。反射的に飛び退け、引きつった顔を向けてしまう。

「ナターリア様、いや、 偽(・) 者(・) さん」

白い歯をみせてオールポートはこの場に似合わない笑みを浮かべた。メガネを外して布で拭いてから掛け直す。

メガネ越しの彼の目は濁っていた。

「な、にを」

嫌な音を心臓は立てる。震える声は彼の言葉を肯定しているように聞こえたかもしれない。

カマをかけているに違いない。きっとそうだ。

(だって私のことを知っているはずがない)

まだ誤魔化せるはず。

ごくりと唾を飲み込んだ。

実は保険として認識阻害の魔法をかけてもらっていた。これにより、髪色だけではなくて顔かたちも他の人からは〝ナターリア〟になっているのだ。

「わたくしはわたくしですのよ?」

扇を取りだして震えそうな口を隠す。

「ははっつまらない演技はもういいですよ」

「演技ではありません。心外ですわ」

「ではなぜ黄金なのです?」

「は?」

何を言っているのか分からない。驚いた拍子に扇がカツンと音を立てて床に落ちた。

オールポートは手近にあった蝋燭に火をつけ、燭台に乗せた。薄暗かった空間に温かな──けれども怪しげな火が浮かび上がる。

それはオールポートの顔を不気味に照らした。

「私、 視(・) え(・) る(・) んですよ」

ぎゅうっと心臓が鷲掴みされたように痛む。私は浅い息を吐き出した。

(…………何がとはまだ言ってない。だから大丈夫、だいじょうぶよ)

動揺を表に出してはいけない。

黄金で私に繋がるのは瞳だけだ。黄金の瞳なぞごまんといる。それでも仮にもし、私の正体が露見してもアーベル伯爵役を担当したクリス様が魔術師だとは勘づいてないはず。していたとしても、もうすぐ外にいる魔術師様たちが入ってくるはずだから彼は捕まる。

私は時間を稼げばいい。そして妖精達の入った鳥籠を守れば後はどうにかなる。

ふぅっと息を大きく吐いて揺れる感情に蓋をした。

外向けの、前世で培った笑顔を顔に貼り付け、自らオールポートに近づいた。

「何が視えるのです? 黄金と言えば、お金関連ですの?」

「馬鹿な。魔力ですよ」

嘲笑うオールポートは鳥籠の右側にもあった布を剥ぎ取った。現れたのは檻に入れられた精霊たち。こちらもこんこんと眠っている。

「この世の魔力を持つ生物は全て色を纏っている。人間は基本的に同じような色合いだ。地味で目立たない」

口調が荒くなり、メガネを取り外した。

「けれども、お前は輝くような黄金だ」

心臓が止まったかと思った。

(これはまずい)

想定外だ。私個人だけで考えると最悪に最悪を重ねた物を引かれてしまったらしい。

多分、一番気づかれたらダメなところで。でも、普通なら絶対気づかれない部分。

筆頭魔術師のウィザ様や後継者候補のウィオレス様も知りえない。

変装がバレている────それだけでも大変なのに。

(愛し子関連で見破られてるんだわ)

ただ、一般人が「愛し子」その単語に辿り着く可能性は限りなくゼロに近いので、普通の人間とは違うが、私が具体的にどのような存在であるのかはわかってないはずだ。

「顔色が変わったな」

可笑しそうにオールポートは笑う。席側の賑やかさとは反対に、呼吸音さえ立てられないくらい私達の間は空気が張りつめていた。

「俺は特異体質らしい。保持する魔力が色で分かる」

一歩、距離が詰まる。

「地味な色合いだとしてもずっと視えてるのは目が疲れる。だから普段はこれで打ち消してる」

振るのは掛けていたメガネ。

「メガネがズレて視えてしまった時、目を疑ったよ」

一歩、また詰まる。舐めるような──毒蛇のような視線に私は囚われてしまう。逃れられない。

「つまらない色を纏っているはずのナターリアが、眩しいくらいの黄金なんだもんなぁ? しかもポケットの中に妖精を二匹も連れている」

咄嗟にポケットを押えた。全部バレている。

じわりと嫌な汗が背中をつたった。

(どうしたら切り抜けられる?)

答えは直ぐに出てこない。

「お前だけ色が違う。人間というか、妖精寄りの──何者だ?」

オールポートの手が、動けない私の顔面を掴む寸前。別の誰かにぐいっと引き寄せられる。

「馬鹿っ動け!」

叱責が降り注ぎ、上を見上げればさらさらな金髪。血よりも赤くて、けれども比べるもなく美しい真紅の瞳。どうやらウィオレス様が駆けつけてくれたようだ。

腰に腕を回され、抱き抱えるようにしてマントの中にすっぽり収まる。

狙ったように後方から火花が弾けるような音が耳を貫く。

熱気に包まれていた空間が一気に静まり、冷えていく。オークション参加者達は一斉に音の方向へ顔を向け、固まった。

そこには青く光る陣と、その上にぽたぽたと雨粒で床を濡らしながらマントの集団が佇んでいた。

「……お楽しみのところ申し訳ないが」

その声は静まり返った空間に、異様に響き渡る。

「お前らはここで終わりだ」

フードを脱いだ魔術師様は、首を切るような手振りをして高らかに宣告した。

「さあ、我々の手間を増やさず捕まってくれるな?」