軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

episode52

「ウィオレスは派手にやったな。リーティア嬢のは綺麗だったよ」

「ありがとうございます」

部屋に戻って直ぐにウィザ様が褒めてくれる。どうやら全てお見通しらしい。

「やらなきゃ意味ないですよ。面白くないし。師匠これ」

ポケットから先程の陣を取り出し、空中に広げる。青い霧のような膜に覆われたそれは鈍く光る。

「ああ、後でな」

ウィザ様が手をかざすと陣は消えた。

「ウィオレスのわがままに付き合わせてしまって悪かったね」

「いえ、それほどでも……」

「遠慮しなくていい。あれは完全にわがままだからね」

ウィザ様はふっと笑った。

「話の続きでもしようかな。座ってくれ」

「はい」

咳払いをして話し始める。

「君の魔力量は国防のためにも見過ごせない。だから制御の仕方は学んでもらう。これに拒否権は無いんだ。すまないね」

「謝ることでは無いです。当たり前のことですから」

彼の魔法の威力を見れば当然のことだった。一個人に魔力暴走を引き起こされ、国が滅亡したら堪ったものではないだろう。

「その、学ぶのはどれくらいの頻度でしょうか。学校があるので休日とかしか無理なのですが……」

「二週間に一回で大丈夫だよ。もちろん多忙な時は調整する。日程はリーティア嬢の都合が合う日にここでやろう」

「え、師匠私の予定は?!」

別のソファに寝っ転がっていたウィオレス様はガバリと起き上がった。

「お前は暇だろう」

「暇じゃないですって! 色々あるんですよ。めんどくさい事が」

「大丈夫、お前ならできる」

「全く人使いが荒いんだから……仕方ないなぁ。公爵令嬢、師匠から貰ったはずの指輪を貸してください」

手のひらを出される。が、指輪は今私の手元には無い。

「さっき使ったのでリーティア嬢は持ってないです。はい、どーぞ」

ジョシュア様が代わりに彼の手に指輪を落とした。

「どうも」

そう言ってウィオレス様は自身の指に着けていた指輪と私の物をくっ付けた。

金属がこすれる音がして、光が放たれる。

「魔法省に来る日はこれに少量の魔力を込めて私の名前を呼んで。迎えに行くから。いちいち馬車を使って来たら噂が立つ」

「私は目立つの嫌だから」と付け加え、彼は私に向かって指輪を放り投げる。私は慌てて手の中に収めた。

(危ない……落とすところだった)

「お前……」

直ぐにウィザ様がウィオレス様を窘める。

「すみませーん。手が滑りましたぁ」

思ってもないだろう。両手をヒラヒラさせながら、瞳が愉快げに輝いている。

「こんな奴だが、優秀には変わりないから多少目を瞑ってくれ。相手を傷つけることはしないから。それと公爵にこの書簡を渡してくれると嬉しい」

出された書簡を受け取る。

「それでは時間にうるさくて気難しいお方に呼ばれているので先に失礼するよ」

ウィザ様はトンッと指輪をはめた手で机上を叩き、姿を消す。

「リーティア嬢、馬車まで送りますね」

「お願いします」

「二人とも歩くの? めんどくさくない?」

部屋を退出しようとしたところでウィオレス様の声が後ろから追いかけてきた。

「それ以外に何か方法が?」

「あるさ」

駆け寄ってくる。手を取られた。抵抗する暇もない。

「──馬車まで送ってあげる」

視界が光に包まれる。そして瞳を開ければ目の前に馬車がある。

「ほら、一瞬だった。歩くより楽さ」

「この人魔力の無駄使いしてる……」

呆れたようにジョシュア様が見ているのをウィオレス様は無視した。

突然現れた三人組に御者が驚いて腰を抜かしていたので、私は自分で扉を開けて中に入る。

「今日はありがとうございました」

「またねー」

言い終わる前にウィオレス様は戻っていってしまう。本当に自由なお方だ。

「……すみません。同じ魔術師として謝罪します。では、学校でお会いしましょう」

「はい。ジョシュア様も今日は案内ありがとうございました」

別れの挨拶を終えて私は皇宮をあとにしたのだった。

◇◇◇

「わーおねえさま、おかえり!」

邸の中に入ると、セシルが駆け寄ってきた。

「ただいま」

手を握ってグイグイ引っ張りながら、セシルは私が塔の中で何をしたのか教えてとせがむ。

「どう? 魔術師さま、すごかった?」

「そうねぇ。凄いと思うわ、とても大きな魔法を簡単に使っていたの。この邸宅よりもっと広範囲を消滅させていたわ」

「そうなのね。でも、壊されたら困るわ」

セシルは眉をひそめた。

(あの人、いざとなったら平気で壊しそうだわ。死人が出るから使わないって言ってたけど……)

そんなことを考えていると、階段の影から飛び出てきたアリアを見つけた。どうやら私が帰ってきたことによって魔法が解け、部屋の外に出られるようになったらしい。

「あら、アリア」

「リーリー! アリアを置いていったんだから構ってよぉ」

「わかったわ。何をしたいの?」

頬を膨らませ、ぐずるアリアの髪を撫でる。

「そこに……おねえさまの妖精がいるのね」

途端冷ややかな声が隣から聞こえてきた。

「セシル?」

妹から発された声だとにわかには信じられない。

私の指の先をセシルは睨みつける。

「リーティアおねえさまは私のおねえさまなのっ! 私が優先だわ! ずっと帰ってくるの窓辺で待ってたんだから!」

「そんなこと言ったらアリアの契約者もリーリーだもんっ! 部屋で待ってたもん!」

セシルには見えても、聞こえてもいないはずなのに、両者の間で火花が散っている。

「二人ともやめて」

「「だって! あの子が!」」

ビシッと同時に相手を指す。

(セシル、本当に見えてないのよね? バッチリ、アリアがいるところ指してるわ)

アリアは私の指の先から移動していた。つまり、精霊が見えてないと指せないのだが……。

気配を感じとっているのだろうか。だとしたら凄い才能だ。

「喧嘩はしないで。二人は何をしたいの?」

セシルが私の手を取り、上目遣いでおねだりする。

「えっとね。絵本読んで、一緒に寝よ? おねえさまの契約精霊がいない所で」

「アリアは〜この妨害してくる子がいない場所でかまって欲しい」

相反している。薄々気がついてはいたが、この二人は折り合いが悪い。

「おねえさま、私が先よね?」

「アリアだよね?」

「えっと……」

ジリジリ詰め寄ってくる二人にどう返答しようか悩んでいたその時。

エントランスが再びざわめき立つ。

それに伴い私達に近づいてくる足音があった。

「────それじゃあ私がもらおうかな」

視界がぶれて、高くなる。

ヒョイッと私を抱き上げたのはお父様だった。

「お父様! お仕事終わったのですか」

夕食前の帰宅はとても珍しい。一年で数回しかないのだ。

「ああ、今日だけね。いつも帰ってくる時間にはリーティアは寝ている。だから一番会う時間が少ない私が優先だろう」

私を抱き抱えたまま、柔らかだが有無を言わさない声でお父様は二人に伝えた。

「むぅ。仕方ないわ。お父様なら譲ります」

「そちらの妖精さんもいいかな」

「リーリーは貴方と一緒にいるのが好きだから……」

渋々といった感じで了承した。

「ありがとう。それじゃあリーティア、私に今日の出来事を話してくれるかい。塔の中にはお父様は入ったことがないから、どういう場所なのか知りたいんだ」

「ええもちろんですお父様」

「セシルもおいで。一緒に話を聞こう」

「はーい」

私は抱きかかえられたまま談話室に移動して、今日あったことをお父様に話したのだった。