軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

episode5

先日のことを色々思い出していたら時間が迫ってきていた。

慌てて支度に取り掛かる。今日の装いは帝国では祝福の色とされている赤色を基調にした、色とりどりの花々が刺繍されたドレスだ。

長い髪は三つ編みにし、頭に巻き付けてバレッタで止める。最後に化粧を施して完成だ。

支度が終わったところでドアからノックの音が聞こえてきた。

「準備は出来たか? そろそろ出発しないと遅刻してしまうぞ」

イライラしながらノックした人物は父だった。

「はい。準備を終えましたのですぐに下に降ります」

支度が終わったことを伝えると父は馬車の前で待っていると言って戻って行った。

父がいなくなったところで、祝福の色を纏った自分を鏡を通して眺めながら、私はなんて大嘘つきなのだろうと思う。

だって見た目は祝福していても二人が結婚することに対してこんなにも心が荒れている。

そんな心を宥めるようにレリーナのことを知ってから毎日のように自分自身に唱え、もはや習慣化している言葉を紡ぐ。

私は完璧な淑女。完璧な淑女は感情を顔に出さず、嫌な出来事でさえ、嬉しいことのように立ち回る。大丈夫、私には出来る────と。

◇◇◇

馬車に乗り、教会に到着する。

今日の私は、ただ座って二人の挙式を祝うだけではない。新婦であるレリーナのウェディングドレスのベールを、後ろから持つことになってしまったのだ。

本来、ウェディングベールは新婦の親族、特に子供が持つのが慣例だ。しかしレリーナには親族がいないのだという。そこで彼女が名案とばかりに提案したのが、私が持つことだった。

彼女は満面の笑みで「だってすぐにリティと家族になるでしょう?」と言ったのだ。

私はこれを断ることが出来なかった。

例え後ろから陛下が絶対零度の空気を出し、威圧してきていても。ここで断り、レリーナが悲しそうにする方がよっぽど陛下の機嫌が悪くなることを知っていたからだ。

その為、渋々了承した私は今新婦の控え室に来ている。

「リーナ様、リーティアです。準備が出来次第すぐ式を始めるそうです」

奥から可愛らしい声が返ってくる。

「ええ分かったわ! 準備、出来たわよ」

その声を聞いて奥に入って行くと、純白のロングトレーンのある、肩を出すプリンセスラインのドレスを着たレリーナが居た。

レリーナの前まで来た私は正面のベールを降ろす。

「お綺麗です。陛下もきっと気に入ることでしょう」

これは本音だった。無意識に零れた言葉に、勝手に傷つきそうになる。でも彼がレリーナのこの姿を気に入らないわけがない。

私の装いは嘲笑い、目を向けることさえないけども。

私がそんなことを考えているなんて思ってもいないレリーナは幸せそうだ。そうやって幸せの中にいられる貴女が羨ましい。

「ふふふ。ありがとう。まだ陛下には見せてないの。こういうのはサプライズしなくちゃ!」

幸福な新婦の体現を見た私は眩しそうに目を細め、次にズキンと心が痛んだ。

◇◇◇

教会の鐘の音が響く。

厳かな雰囲気の中、新婦が式場にゆっくりと足を踏み入れる。私はその後ろをベールを持ちながら歩いていく。式場に入った瞬間、招待客からは感嘆の声と美しさに息を飲む音が聞こえる。

私は少しだけ口角を上げ、優しい目を携えながら少しうつむき加減でゆっくりと進む。

陛下の幸せに向かう道なのだ、陛下の幸せに続くならば私は他の人よりも祝福をしたい。

────たとえ相手が私でなかったとしても。胸が、張り裂けそうなほど痛んでいても。

先程から聞こえてくる褒め言葉は、全てレリーナに向けてだと思っていたリーティア。実はそんなことは無く、半分くらいの招待客はまるで女神のような美しい装いのリーティアに向けて呟いた言葉であった。

「レリーナ様も美しいけれど、リーティア様のあの慈しむような瞳は女神様のようだ」と

そのあと、新郎新婦は誓いの言葉を交わし、それぞれの指に指輪をはめた。

一通り式の段取りが終わり、ひと段落する。

あちらこちらからから「皇帝陛下、皇后陛下、ご成婚おめでとうございます!」と二人を祝福する声が響き渡り、それを聞いた陛下とレリーナは笑顔で手を振る。

私はその後ろで笑顔を顔に貼り付けて一言も言葉を発さず見守る。

少しだけ陛下を盗み見るととても幸せそうだ。

それを見るとああ、選択肢を間違えなかった。これで良かったのだと安堵する。

きっと今この式場でこんなことを考えているのは私だけだろう。

感情を表に出さず、大きな行事をやりきった。やれば出来るじゃないかと自分を褒めていると、いつの間にか誰も周りにいなかったので、公爵家の馬車で家へと帰宅の途についた。

眠る間際に次の大きな出来事について考える。

────それは私が皇妃として皇室に嫁ぐこと。

ずっと目指していた場所とは代わってしまったが、完璧な皇妃になれるのだろうか。不安で胸が潰れそうになりながら、そこで意識が途切れた。