軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

episode2

数日後リーティアは父に呼び出された。

いつもは自分に無関心な父。

何故呼び出されたのか分からないが、流石に呼び出されたからには書斎に行かなければいけない。父からの伝言を伝えてくれた侍女に感謝を伝え、廊下をゆっくり歩く。

呼び出されたのはきっと皇帝陛下絡みのことだろう。

今になって婚約破棄とかだろうか……可能性は無いとは言いきれない。

だからだ、先程から手先が冷えきっている。少し怖い。無意識のうちに服の端を握っていたためシワが寄ってしまったのを慌てて伸ばす。

リーティアは自覚していた。アルバートは自分の事を好きではなくて、義務として接していることを。

一方通行の愛であることを。

それでもほんの少しだけ、妻となれば自分のことを義務ではなくても見てくれると期待していた。

たとえ見向きされなくても。陛下を支え、民のために尽くして帝国が発展していく手伝いが出来ればそれでいいとも。

なのに、どうしてこんなにも胸がざわつくのだろうか。

「きっと大丈夫。悪い知らせではないわ」

震えながら呟いた言葉は、誰にも聞こえることは無く空中に消えていった。

書斎の前に着き、ドアをノックする。

「お父様、リーティアです。入ってもよろしいでしょうか?」

すると奥から返事が返ってくる。

「入れ」

ドアノブを捻り、入室する。

「ご用件は何でしょうか?」

恐怖から声が震えるのを必死に隠しながら尋ねる。

リーティアは父と会話することが少なく、言葉を交えるとしても事務的なことだけ。だから何を言われるか予想がつかないのだ。

「陛下との婚約の件だ」

返答が返ってきた瞬間、心臓をわしづかみされたようななんとも言い難い痛みが広がる。

「お前は存在を知らないと思うが、帝国に女神のご加護を受けた聖女様が見つかった。聖女様は女神の加護で帝国に恩恵をもたらす存在だ。そのため、陛下に謁見した」

リーティアは何を言われてるのか分からなかった。頭の中が真っ白になり、思考が一瞬停止する。

それもそうだろう。

アルバートの側近でも皇族でもないリーティアに、聖女の内容など聞く機会なんてあるわけが無いのだから。

(あぁ)

心臓が引き裂かれたかのように痛い。だが、優秀であるゆえにその後に言われるであろう宣告が、分かってしまった。

それは────婚約破棄。

そしてその突然でてきた聖女様という人物が皇后になるのだ。

(い、や)

真っ青になり僅かに震えている娘の変化に気づかず、公爵は言葉を紡ぐ。

「聖女は発見されたら皇帝と結婚するのがしきたりらしい。だが皇妃ではなく 皇(・) 后(・) となる。お前は婚約者だがそれは関係ない。聖女様が皇后となり、貴女は皇妃として嫁ぐことになる」

思考が再び止まる。

(私は婚約破棄ではなくて、皇妃……?)

「お父様、婚約の破棄ではないのですか? 皇妃ですか?」

「陛下は聖女様に一目惚れをして求婚した後、聖女様も了承された。しかし聖女様は市井で生活してた為、執務をこなせるようになるには多くの時間がかかるだろう。それを解消するためにお前が皇妃として皇家に嫁ぎ、皇后がやるべき執務と公務を全てこなしてほしいと陛下から書状が届いている」

婚約破棄をされると思っていたリーティアは予想外のことに驚きを隠せない。

(破棄では無くて、皇妃として嫁ぐ……?)

本当にアルバートは聖女を愛しているのだろうか。

自分のことはもう見てくれないのだろうか。

例え見向きされなくても民のために尽くせればそれでいいと思っていたのに、想い人が他の人を愛していると思うと心が痛い。

泣きたくなり俯いていると、返答をしなかったことに痺れを切らしたのか公爵が口を開く。

「いいか? これは陛下からの命令だ。断ることは許されない。貴女は皇妃として皇家に嫁ぐのだ。そして陛下と、聖女様と民のためにその身を尽くせ。分かったか?」

「は……い……分かりました。お役に立つために皇家に嫁ぎます」

所々つっかえながら、リーティアはようやく絞り出すように言葉を紡ぐ。

「そうか用件はそれだけだ。戻っていいぞ」

興味が失せたのか、公爵の視線は目の前の書類に落とされ、ショックを受けた娘をいたわることもしない。

それは分かりきっていたことなのに、何故か酷く傷つき、リーティアは自身の胸を押さえて頭を下げる。

「分かりました……失礼します」

そっと書斎から退出する。

先程聞いた内容が自分の中で整理がつかず、ふらつきながら自室へと戻る。

婚約破棄にならなかっただけ、安心するべきなのだろうか。逆に破棄の方が自分にとってよかったのだろうか。

自分の道は幼い頃から決まっていたので、他の道など考えたことがなかった。

(わたし、は)

まだ心が痛く、息が苦しい。涙が溢れるのを必死に抑えるがポロポロと頬を伝って落ちていく。

「だれ、か」

不意に、誰でもいいから自分を慰めて欲しいと思った。優しくぎゅっと抱きしめ、頭を撫でてくれる人を。

だが、そんな人物なんて存在しないことをリーティアは知っていた。

「うぅ」

自室でひとり、枕に顔を埋めて声を押し殺しながら泣いてるうちに、リーティアはいつの間にか寝てしまった。

起きた時には日にちを跨ぎ、次の日のお昼近くになっていた。

どうやら泣き疲れて眠ってしまったらしい。

昨夜、泣いたために腫れぼったくなった目を擦り、寝起きでまだちゃんと動かない頭を回転させて昨日のことを思い出す。

ズキズキとした心の痛みが戻ってきて、リーティアは胸を押えた。

顔を横に小さく振りながら思う。

もういいじゃないか。陛下を慕う気持ちを封印してお側で手助けができれば──と。

そうして強引に心を納得させて寝台から降りた。