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ブラウン家の呪われた双子

作者: あんど もあ

本文

「ブラウン家に、呪われた双子がいるそうだ」

そう言ったのは、従兄弟のカロル。

王立学園のお昼の食堂はほぼ満席。私とカロルの会話に、周りの人がさりげなく聞き耳を立てているのが分かる。

「どこのブラウン家?」

「お前の家だ。ブラウン子爵家」

アホか!、と言わんばかりの顔で私を見てる。

「そうなんだー。何代くらい前の話なんだろ」

「い・ま! 今、お前に呪われた双子の妹がいるといわれているんだ」

「知らなかった! カロル、私に双子の妹がいたの?」

「いるわけないだろう」

「じゃあ、カロルの妹のクリスティナと双子に間違えられたのかしら」

「クリスティナは可憐で愛らしくてお前より4歳も歳下だ。図々しい」

呪われた双子。私に知らされてない妹。うわっ、創作意欲が湧いてきた!

「……心配する必要は無かったみたいだな」

カロルが食器ののったトレイを、自分の分と私の分も持って席を立つ。私は「ありがと」と小さく手を振って、妄想に没頭した。

私はマリラ・ブラウン。兄が二人いる平凡な子爵家の娘。

そして、「マリエール」のペンネームで少女向けの小説を書いている新人作家だ。

幼い頃から妄想好きで、先日それを小説という形にして出版社に送ったら、目に留まって本にしてもらえた。

そしたらそれが同世代に受けて、「二作目を」と言われている。何としても一作目以上の小説を書いて、実力を認めてもらいたい!

うーん、双子に呪いがかかったのは何歳だろう。生まれた時から? だから姉は妹の存在を知らないんだ! あ、じゃあ、なぜ妹にだけ呪いがかかったのか……。そして、泣かせ所になる呪いを解くシーンは……。

私は昼休みいっぱい妄想を楽しんだ。次の本はこれで行こう!

「呪われた双子の噂は消えたんだが……。マリラ、大丈夫か?」

二週間後、王立学園の食堂で私はこれ以上なくしょんぼりしていた。

「大丈夫。新作が編集さんにダメ出しされただけ」

俯いて、もそもそとスプーンを口に運ぶ。

昨日、出版社に新しい小説を持って行ったのだが、編集さんの反応はイマイチだった。

「呪いを解くのが『愛の力』って、アバウト過ぎますよ。もっとリアリティが無いと」

「小説なのにリアリティですか?」

「そう、それが無いと読者がのめりこめないんです」

「はあ……」

「ご都合主義、って言われたくないでしょう」

「それは嫌!」

妄想を書いているのに、リアリティ?

そんなのどこを探せば見つかるんだろう。

昨日から考えているけど、全然分からない。

「私には少女小説の面白さは全然分からないが、クリスティナが次の本を楽しみにしている。元気だせ」

私の好きなプチトマトを、カロルが自分のサラダから私の皿に移してくれる。

「カロルぅ。いい奴」

顔を上げると、こっちを見ている女子生徒たちに一斉に睨まれた。何??

「元気が出た所で、残念な報告。今度は、マリラが双子の妹をメイドとしてこき使っているという噂が流れている」

「ドアマットか……」

「何の事だ?」

「あ、専門用語。他にも、婚約破棄とか欲しがり妹とか病弱な幼馴染とか」

と、言って気づいた。

私、サバサバ幼馴染ポジションだ!

まじまじとカロルを見る。顔が良くて優秀で、剣も強い伯爵家の嫡子。

きっとたくさんの女子生徒たちが狙っているカロルの昼食の席を、当然のように独占しているのは「コイツのことは男として意識してません〜」という態度の従姉妹の私。

うわーっ! そりゃあ腹が立つわ! 恨まれるわ! おかしな噂の一つや二つ立つわ!

あせって再び俯いてしまった私の手に

「どうした? 大丈夫かマリラ」

と、カロルが手を添える。

今、それやっちゃ駄目なやつー!

食堂中の殺気が背中に突き刺さった気がする。

カツカツと靴音を立てて、才女と名高い伯爵令嬢のポーレット様が私の横に来た。

「マリラ様。お聞きしたい事がありますの」

「はい、私にわかる事でしたら」

「あなたは双子で生まれたのですわよね。隠さないでくださいまし。以前子爵家で働いていた人から聞いた、確実な話ですから。なのに、子爵家にいるのはあなただけ。もう片方はどこにいらっしゃるの?」

「へ?」

私の双子の片割れに、何の興味があるんだろう。

「えーと、生まれてすぐに養子に行きました」

「どこに? まともな家なら、王立学園に入学しているはずですわよね。でも、あなたと同じ顔の生徒なんて入学してませんわ」

その時閃いた。

王立学園に入学していない。

こういう事実を織り込む事が「リアリティ」だ!

そうか、なら呪いの設定を……、うーん、理屈では分かっても実際にどうすれば……。

「マリラは質問に答えるどころじゃ無いようなので、私が代わりに答えるよ」

妄想に没頭した私に慣れてるカロルが口をはさむ。

「養子に出された双子の片割れは私だ。私は、マリラの双子の弟だよ」

周りから驚きの声が聞こえた。

そうだ、その話をしていたんだった。

母が三度目の妊娠をした時、お腹にいるのが双子と知った母の兄が「生まれたら、どちらか片方を養子にくれないか」と申し出たそうだ。

兄夫婦が子供が出来ない事を悩んでいる事を知っていた両親は快諾。

その後、男女の双子が生まれ、母は初めての女の子の私を手元に残して、男の子が伯父夫婦に引き取られた。

その事は特に隠す必要も無かったので、私たちは普通に仲良く育った。

伯爵家では一人息子、子爵家では末っ子扱いで可愛がられていたカロルは、兄たちどころか私にも負かされる泣き虫毛虫の甘えん坊だったのだが、妹のクリスティナが生まれてシスコンが爆発した。

クリスティナを守るのだと剣を習い始め、クリスティナに「お兄ちゃまステキ」と言われるよう熱心に勉強するようになった。

そもそも男女なのであまり似てなかった私たちは、今では似ても似つかない双子だ。

「つまり、今までのマリラに関する根も葉もない悪意のある噂は、あなたが流したという事かな」

カロルがポーレット様を睨みつける。

そっか、「呪われた双子」「ドアマット」の元ネタはこの人か……。

「この件は学園に報告し、家からも厳重な抗議を」

「私と友達になってください!」

「マリラ?」

カロルを無視してポーレット様に迫る。

「きっとポーレット様、少女小説の『白薔薇姫の呪い』とか『マリアンヌの悲しみ』とか『王子様は愛しい番を溺愛する』とか好きですよね! 私と少女小説について語り合いましょう!」

そして、私にリアリティをくれ!

『ポーレット様、ああいうの読むんだ』

『意外……』

と、ヒソヒソされて赤くなるポーレット様。

ポーレット様が断ろうと口を開く前に

「私の友達になると、もれなくカロルが付いてきますよ!」

と、 囁(ささや) いた。逃すものか私のリアリティ!

返事を飲み込んだポーレット様の手を取り、

「これからよろしくお願いします!」

と大満足の私だった。

数ヶ月後、『ブラウン家の呪われた双子』という本が出版された。少女向けの小説でありながら緻密な構成の内容で、恐ろしくも切ない泣ける小説だと話題になった。

王立学園の生徒の間では、どこかで聞いた事があるような……と囁かれたとか。