軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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村のご老人が書いた手紙は、私が校正するので全部目を通してから出すことにしている。

預かった手紙は、勤務時間に添削するわけにはいかないので家に持ち帰り時間のある時に見ている。

ひとつひとつ内容を確認すると、『土地をあげるから帰ってきてくれ』とか『給料出すから村で働いてくれ』とか、そんな内容ばかりで思わず苦笑してしまった。

ラウは私のことをお義母さんには黙っておくとは言っていたけれど、レーラや両親のこともあるし、問い詰められたらあっさり白状しそうだ。

ラウは店の仕事をさぼったりお義母さんのいう事を無視したりと反抗期みたいなことをしていたけど、実際、力関係はお義母さんのほうが絶対的に上だった。

そういうことも、離れてみて客観的にいろんなことを見られるようになって気が付いたことだったが、ラウが仕事をさぼってばかりいた時も、今思うと、お義母さんは本気で注意をしていなかった。

いつも『ラウがごめんなさいね』と私に言ってくれていたが、それでもラウのことを強く窘めることはなかった。

今思うと、私への負担を意図的に増やしていたのでは……と疑ってしまう。

町にいたころの私は、幼い頃から仕事ばかりしていた。

あまり家に居たくないと確かに思ってはいたけれど、休日というものをちゃんと取ったことがないくらい、私は働いていた。

店の定休日もあったのに、そういう時は決まって『人手が足りないって言われたから手伝いに入れるかしら?』とお義母さんから、他所のお店の手伝いを頼まれたりしていた。

手伝いはお駄賃を頂けるので助かっていた面もあるが、よく考えると本当におかしい。

普通がどんなものか今まで考えてこなかったけれど、店でも工房でも農家でさえも、人は週に一度は休日を入れるのが当たり前なのだと、村で働くようになってようやく気が付いた。

お義母さんは誰に対しても公平な人で、仕事に対しても誠実な商売をしている立派な経営者だと思っていたので、とても尊敬して信頼していた。

だからあの人が間違ったことなどするはずがないと思っていたが……私の給金のことを黙っていたことも不自然だし、ほぼ休みなく、まだ子どもだった私が働いていたのも、どう考えてもおかしい。

そのせいか、私は恐ろしく世間知らずなのだ。ジローさんと町を出て、村役場で働くようになって、そのことを何度も思い知らされた。

仕事の知識に関しても、算術や帳簿のつけ方は精密すぎるくらい完璧にできるのに、その仕事の意味やどの法律がかかわっているのかなどを全然知らなかったりする。

『論旨は理解しているのに、主旨を知らないんだねえ』と村長さんに不思議そうに何度も言われた。

それについては心当たりがあり過ぎる。お義母さんがそのように私を育てたからだ。

まだ子どもだったから……。だから仕事の手法だけ教えて詳しいことは正式に嫁に来てから、とでも思っていたのだろうか。

以前ならそのように好意的に受け止められたと思うが、今はお義母さんへ不信感を抱くようになったせいであらゆることが疑わしく思えてならない。

ラウの事があったとはいえ、お義母さんは私にとって恩人で、一番尊敬していた人なのに、こんな風に疑うなんて私はなんと罰当たりなのだろう。でも考えれば考えるほど、不信感は募っていくのだ。

そんなふうにぐるぐると考え込んでいると、ジローさんがつんつんと私の頭をつついてきた。

「なに難しい顔してんのォ?これ、エロ君へのジジババからの手紙だろ?なんでこんなん請け負っちゃうかねえ。こんな手紙受け取って、エロ君が本当に帰ってきちゃったらどうすんだよ~。ディアさんもまだ移住するつもりないんだろ?なあ……本当に移住をちゃんと検討してみようぜ?ずっとこの田舎にいてもさ……」

「移住ですか……。そうですね……」

「なんかさァ、ディアさんなにか悩みでもあるんじゃねえの?最近なんかずっと考え込んでること多いだろ。どうした?て聞いても濁すしさあ。移住の件もこないだからはぐらかされている気がすんだよなァ」

おいちゃんに言えないようなことかぁ~?このむっつりさんめ~と明るくおどけながらジローさんは言うが、目は探るように私をじっと見ていた。

考えていることは確かにある。

どうすることが正解なのか分からなくて、先のことを考えられずにいたけれど、いっそなにもかも放り出してジローさんの言う通り移住してしまうほうが正しいのかもしれない。

私が悩んでいることも、もしかしたらただの考えすぎの可能性だってある。

私は黙ったままだったが、ジローさんは構わず話をつづけた。

「村役場は俺が紹介した仕事だけどさァ、義理立てしなくていいんだぜ。なあ、南の方の港町に移住しちゃどうだ?治安もいいし、働いている女性がたくさんいるから仕事も多いと思うんだ」

移住先はどこがいいかと以前からジローさんが色々話をしてくれていたが、やっぱり物流が盛んでご飯が美味しい港町あたりがいいんじゃないかとここ最近は何度も言っていた。

ジローさんと一緒にいろんな美味しい料理を食べて、驚いたり笑ったりするところを想像して、すごく楽しいだろうなと、話を聞きながらいつも思っていた、

「……そうですね、港町かあ。海の幸ってあまり馴染みがないから食べてみたいな……。

身の振り方を考えなきゃいけない頃ですし……移住するなら仕事とこの家の片づけをしなくちゃですね」

私が前向きな発言をするとジローさんはパッと顔を明るくさせた。

「お!やっと決心ついたか!家の片付けなんかいーんだよこのままで。村長には早く言ったほうがいいけどな。途中の仕事片付けときたいだろ?あ、あとクラトにも一応言っとかないとな」

じゃー酒は片付けちゃわないとなぁとジローさんは嬉しそうに言って、いそいそと保冷庫へと向かっていった。

ご機嫌な様子のジローさんを見ていると、うじうじ考えずにもっと早く決断すればよかったなとちょっと反省した。

とある懸念から、私から行動を起こすかあちらの出方を待つかと考えていたが、もう私には関係ないことなのだから、なにも気づかなかったことにしてどこか遠くに行ってしまうほうがいいのかもしれない、と思うことにした。

***

翌日、村長に近々村を出て別の土地へ行こうと思う、と告げると『それがいいよ』と言ってくれた。

「仕事は去年ディアちゃんが書類をわかり易くまとめてくれたし、あとのことは大丈夫だから、こっちのことは気にせんでいいからね。移住してもあのちゃらんぽらんと一緒ってえのがワシとしては心配なんだがねえ」

「ありがとうございます。これから必要な書類はこちらに作ってあるので、確認してください。……あの、短い間でしたけど、私みたいな余所者を雇ってくださってありがとうございました。本当に……色々ご迷惑を掛けて申し訳なかったです」

「いやいや、あんな安い給金で人の倍は仕事してくれたんだからコッチは有難さしかないって。ディアちゃんみたいな職業婦人はこんな田舎の村じゃあ勿体ないからねえ。もっと拓けた土地でいい仕事探したほうがいいって思ってたからねえ」

村長は笑って承諾してくれた。

後任がいるわけでもないし、書類は全部分かるようにまとめてあるから、辞めるのはいつでも構わないと言ってもらったが、残っている仕事について村長と話し合った結果、色々な準備も含めて、村を出るのは一月後にすると決めた。

村を出ることは次にクラトさんに伝えた。なにか言われるかと思ったが、クラトさんは『ジローと一緒で本当にいいのか?やめるなら今だぞ』と軽くからかってきただけで、どこへともいつとも聞いてはこなかった。

でも驚いた様子もなかったから、どうやらジローさんから事前に聞いていたようだ。二人だけで会っているところを見たことがなかったが、いつの間に会ったのだろう。ジローさんも私にそんなことを言わなかったので、ちょっとだけ除け者にされたようで寂しくも思った。

そして村のご老人がたには、字の手習いをしている方々へ最初に話をした。あとは時間のある時に村を回ってご挨拶をすることにした。

字を教えているご老人がたは、以前から村役場に顔を出してくれていて付き合いも長かったので、村を出ると伝えた時には、みんな驚きすぎて泣き出してしまった。私もびっくりしすぎて唖然としてしまった。

ラウに引き続き、せっかく村に来てくれた若者がまたいなくなってしまうなんて、と言われてしまって、ちょっと申し訳ない気持ちになったが、これも仕方がないことだ。

残りの一ヶ月、私は書類をまとめる作業と、あいさつ回りをするだけで割とのんびりと過ごしていた。空いた時間に希望者には字を教えることもあったが、字の手習いも、もとはと言えばラウへ手紙をだすためのものだったので、私が村を出てしまえばもうラウが移住してくる可能性は低いだろうからと言ってほとんどの人が手習いを辞めてしまった。

唯一、諦めきれないマーゴさんだけが熱心に手紙を書いていたが、ラウから返事が届くことはなかった。

***