軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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親とは認めない、と私が言ったところで、父も母もポカンとしていた。

この言葉を言った瞬間、私は胸がズキンと痛むのを感じて、喉の奥がぐっと苦しくなった。

ここまでの事をされても、私は心のどこかでまだ、『親に愛されたい』という思いが残っていた事実に少しだけ悲しくなった。

だけどもう、その最後の感傷も捨てる。

最後までずっと捨てられなかった気持ちも、今日この瞬間に捨てると決意した。

一瞬呆けていた両親だったが、すぐに我に返って今まで以上の大声で私を非難し始めた。

「なにを訳の分からないことを言っているんだ!資格もくそもあるか!誰がお前を育ててやったと思っているんだこの罰当たりが!

子が親につくすなんて当たり前のことだ!それをまるで自分が可哀そうな目に遭っているかのように言いふらして、私たちに恥をかかせおって!愛されないだのなんだのと言う前に、自分のしていることを振り返ってみろ!本っ当に憎たらしいな!本当にお前は育て方を失敗したよ!

ディアがそういう小賢しい娘に育ってしまったから、レーラは素直で純粋な子になるよう育てたのに……!お前がレーラの人生を台無しにしたんだ!家族を壊して楽しいか?!お前のせいで何もかもめちゃくちゃだ!」

「親じゃないですって?!生さぬ仲の娘をここまで一生懸命育ててあげたのに、まさか恩を仇で返されるとは思わなかったわ!……あんたは昔っからそうよ!いっつも無愛想で可愛げがなくて、本当に私のレーラとは大違い……!

私にはいっつも無愛想な顔して他人みたいな口をきくくせに、あっちの女将さんにはこれ見よがしに『おかあさん~』ってべったり甘えていて、ホント憎たらしいこと!

別にあんたなんかに親と思ってもらわなくったって構わないですけどね!育ててやった恩くらいはキッチリ返しなさいよ!返し終わるまでは絶対に許さないんだからね!」

口々に酷い言葉をぶつけてくる両親に対して、もはや何の感情も湧いてこなかった。

上演されている舞台を遠くから眺めているような、そんな気持ちで彼らを眺めていた。

「……昔、他所のおうちの親御さんが、兄弟分け隔てなく子どもたちを大切にしているのを知って驚いたことがあるんです。

父さん、母さん。普通の親は、子どもを慈しみ、幸せになることを願うものなのだそうですよ?あなたたちが私に対して、そうであろうとしたことが、一度でもありましたか?

恩を返せとおっしゃるのなら、あなたたちは親としての役目をはたしてくれましたか?

なんと言われようとも、私には……返すべき恩がない。

それでもなお、私に無理を強いてくるというのなら、私にも考えがあります。あなたたちが私を許さないというのなら、私も二人を許しません」

「あっ……ああ言えばこう言う!親を見下すその態度が腹立たしいんだ!お前になにができるというんだ!給金の事を自警団にでも訴えるつもりか?残念ながら、家族間の揉め事なんか受け付けてくれないぞ。親が家出娘を強制的に連れ帰ったとしても、罰せられる決まりなどないんだよ。残念だったなあ」

この冬、私は法律や条例に関して詳しく勉強したから、自警団が取り締まる対象についてもよく理解している。そのうえで、私は『考えがある』と言ったのだ。

両親を犯罪者にしたいわけではないが、どうしても引き下がらない気なら、その手段にでるしかない……そう思った時、開け放したままにしていた扉から、第三者の声がした。

「お取込み中悪いんですけど、僕も話をさせてもらってもいいですか?」

やや間延びした聞きなれない声が聞こえてきて、部屋の中にいた全員が驚いて、扉のほうを振り返った。

開きっぱなしの扉の向こうには、やけに背の高い、若い男性が立っていた。

誰?と思ってポカンとしていると、突然レーラが叫んだ。

「えっ!ジェイさん……!やだ、なんで……?!」

レーラが『ジェイさん』と呼んだその人は、申し訳なさそうにぺこぺこと頭を下げながら扉をくぐって入ってきた。

(……この人が……ジェイさん……。この人も両親と一緒に来ていたの?)

そう思って両親のほうをちらりと見たら、二人とも驚愕の表情で震えているので、あ、これは一緒に来たわけじゃなさそうだなと理解した。

「き、君……な、なんでここに居るんだ?ま、まさか、ずっとつけて来ていたのか?」

「はい!レーラがいなくなってすぐにお義父さんたちも町を出たので、きっとレーラのところに行くと思ったのでついてきました!レーラのところまで案内してもらおうと思いまして~。見つからないようについてくるの大変でした!でもお陰様でようやくレーラに会えました!ありがとうございます!」

「い、いや……もう君とレーラは婚約を解消したって言ったじゃないか……レーラはこのラウ君と結婚するのだから……」

「ああ!それもあちらの女将さんに確認してきました!そんな予定はないので、僕と結婚するのになんの問題もないそうです!僕とレーラは正式に婚約して、結納金もお渡ししてありますからね、解消なんかされないですよ!」

「そ、それは……いずれ返すと主人も言っているじゃないですか。だからもうレーラとの結婚はなかったことにしてって申し上げましたでしょ?この子もやっぱりジェイさんとの結婚は嫌だって言っているから……ね?諦めて……いただけないかしら」

ジェイさんが突然現れてから、父も母もしどろもどろでなんだか様子がおかしい。

私と言い争っていた時の覇気がなく、あきらかにジェイさんの登場にものすごく動揺している。

私はジェイさんという人を観察してみるが、大柄のわりに猫背でどちらかというと気の弱そうな人に見えた。高圧的な物言いでもないし、両親が委縮する理由がよく分からない。

レーラを探すために両親のあとをつけてこんな僻地まで来たというのだから、行動力はものすごくあるらしい。それほどまでにレーラが好きだったのかと感心してしまう。

「いえ、レーラとは愛し合っていますし、一度は子どもを授かった仲ですからね!正式に結婚しないと!

実はね、お義父さんから婚約解消のお話をされたときに、司祭様にも相談したんですよ。そしたら解消手続きって結構大変なんですよね~まず結納の品をお互い返却して、両家立会で解消の手続きをしなきゃいけないんですよ!それを書面に残さないといけないから、結納金を返さないまま解消の手続きはできないんで、ちゃんと婚約は継続してますよって教えてもらいました!」

「はあ?!貴様……っいや、君、司祭様に婚約していると話したのか?……あ、あのなあ……だったらもう言ってしまうが、君とレーラの婚約は、単なる口約束で正式に交わしたものじゃないんだ。だから無効なんだ。受け取った金は正式な手続きを踏んだ結納金じゃないから、ただ金を貸しているだけみたいなものだ。それはちゃんと返すから、婚約とは別問題だ」

父の言葉に横で聞いているだけの私は、父のやり口の汚さに腹が立って仕方がなかった。

正式な婚約の手続きなんて、ジェイさんみたいな若者がちゃんと知っているはずがない。それを利用して最初からいつでも破棄できるよういい加減なことをしたのだろう。ジェイさんがこんな風にごねても、書類や手続きの不備を理由に言い逃れするつもりだったのだ。

このぶんじゃ、結納金もちゃんと書面で残されていなければ踏み倒すかもしれない。

純粋にレーラが好きで高額の結納金まで納めたのに、こんな仕打ちをされるジェイさんが私は不憫でならなかった。

憐みの目でジェイさんを見るが、彼は父の言葉にも表情を変えず、相変わらずニコニコしていた。

「それなんですけど、司祭様が親身に相談に乗ってくださいまして、お義父さんと交わした書類とか、全部確認してくれて、多少の不備はあるものの、交際の事実もあるんだしって言って、ちゃんと正式な婚約と認められるって公証人になってくれましたよ。だから問題ないです!」

「はっ……はああ?!なにを勝手なことを……!」

まさかの事態にその場にいた一同が驚愕していた。

婚約の儀式のひとつとして、家同士の婚約ではない場合、結婚を望む男女だけで婚約するということを司祭様にご報告申し上げて公証人になって頂くという方法もある。

たとえ書類に不備があろうとも、司祭様が認めたというのが本当なら、婚約は成立していると言える。だが、公正な立場の司祭様が、書類があるとはいえ、双方の意見を聞かずに認めてしまうのはずいぶんと珍しいことだなと不思議に思った。

「なんなのよそれ!そんなの認められるわけないでしょっ!勝手に決められた婚約なんか守る必要ないのよ!わたしたちもレーラも町には帰りませんから、町の司祭が何言おうと関係ありませんからね!勝手に言ってなさいよ!」

母がジェイさんに向かって怒鳴った。母はやっぱり全面的にレーラの味方のようで、レーラが嫌だという限り、その意見を貫き通す気らしい。

「そ、そうだな。ジェイ君、悪いが我々はもう町には戻らない予定なんだよ。レーラの醜聞がたって住みにくくなったからね、新天地でやり直そうと決めたんだ。レーラがもうあの町にはいられないというから、仕方がないだろう?君は花屋の跡取りだから、一緒に移住するわけにもいかないよな?だから二人の婚約は解消するしかないんだ」

「レーラのことは僕が守るから大丈夫ですよ!その、ご両親の移住の件なんですけど、ダメなんですよ~。僕、町を出るときに、お義父さんの仕事仲間から頼み事されていて、必ずお義父さんたちを連れて帰ってねって頼まれていたんです。

お義父さん、お仲間と一緒に進めていた仕事のお金、預かったままじゃないですか。その方たちが町の裁判所に訴えたから、これから裁判ですよ!争うにせよ和解するにせよ、ともかくそれが終わるまで移住できませんよ〜」

ジェイさんが投下した爆弾に再び驚くことしかできない。

なんと父は、仕事で預かったお金を返さずにこのまま移住するつもりだったようだ。

それでは、レーラを探すためというか、夜逃げしてきたというのが正解ではないか。