軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

初恋の続きを、エピローグにて

春の淡い光が、芝生に降り注ぐ。さあっと吹く風がシャロンの髪をさらさらと靡かせた。

ひとしきり泣いてすっかりくたびれたシャロンは、いつの間にかトラヴィスに抱きしめられていた。

慌てて離れようと身を捩ると、トラヴィスがダメだ、と抱きすくめる。

ひゅっと喉から声が出た。

「トトトトラヴィス様、離し」

「嫌だ、もう我慢しない」

ぎゅうっとさらに力が強くなる。

「……トラヴィス様」

シャロンが軽い怒気を含ませて名前を呼ぶと、トラヴィスが光の速さで離れた。シャロンは軽く睨みつける。

「トラヴィス様、わたくしの婚約は解消されたとはいえ、こんなところを誰かに見られては大変です。お父様に見つかりでもしたらそれはもうお怒りになって、トラヴィス様と会わせて貰えなくなるかもしれません」

今回の事件があって、心底肝が冷えたデリクは、シャロンを過保護に扱うようになった。

最近では一生嫁に行かずに家にいればいいと半ば本気混じりに口にすることもある。

「理由はそれだけか?」

トラヴィスが軽く口を尖らせる。整った形の眉が顰められ、海色の瞳がシャロンを非難している。

「大事なことです――きゃっ」

トラヴィスがもう一度シャロンを抱きすくめる。

「先ほど、フォンドヴォール公爵に婚約の了承をもらった。正式には状況が落ち着いてからになるが、シャロンの気持ちが僕にあるのならば、と」

頭上から降る声に、シャロンはぽかんとした。トラヴィスが笑いながら腕を解き、シャロンの指先を優しく持ち上げ、口づけをする。

「シャロン・レイ・フォンドヴォール公爵令嬢に、トラヴィス・ヴァン・デュバルが婚姻を申し込みます」

先ほどまで笑みを湛えていた瞳が、今は真剣な、愛しいものを見るかのような色を纏っていた。

声も出せないシャロンはトラヴィスを見つめた。トラヴィスは柔らかく微笑み、取り出した黒い重厚なケースをシャロンの前に出した。

蓋を開けると、中には日差しを浴びきらきらと輝く指輪が収まっていた。見る角度によって、淡い菫色にも、深い海の色にも見える石が光り輝いている。

「僕は、常に凛々しく振る舞う君も、愛らしく微笑む君も、惜しげなく自身の知識を人に分け与える優しさも、かなり無鉄砲なところも、全てが好きだ」

シャロンは、全身に広がる甘い痺れをこの上もなく幸福な気持ちで享受した。

この景色は、絶対に忘れないと誓う。目の前のトラヴィスの、赤くなった頬の色も、風の匂いもすべて。

「この一ヵ月、君のそばにいられて幸福だった僕に、どうかこれからも一番近くで君を愛する権利をもらえないだろうか。僕と、結婚してほしい」

シャロンが頷くと、ぽろりとまた一粒涙が落ちた。

トラヴィスが破顔し、美しく煌めく指輪をシャロンの指にそっとはめる。

「トラヴィス様、わたくし、トラヴィス様が大好きです。どうか末永く、よろしくお願い致します」

トラヴィスが顔を押さえる。手から見える頬が真っ赤だ。緊張が解けて、くそ……と呟く彼が愛おしくなって、シャロンはたまらずに抱きついた。

トラヴィスが一瞬息を呑み、やけくそにシャロンを抱きしめ返す。

長い指が、金色の髪を優しく撫でる。

視線を合わせて、トラヴィスの瞳に自分と同じ欲が揺らめいているのが見えた。

近づいてくる唇に、目を瞑る。

途方もなく、幸せであった。