作品タイトル不明
84.解放と
その朝、シャイナは厳かな気持ちでダイニングの食卓にエスカリオットと向かい合って座っていた。
これからエスカリオットを奴隷の身分より解放するのだ。
因みにモノローグで申し訳ないが、既にプロポーズは成っている。
タイダル公国から帰って来たのは昨日で、ハン国からの報酬の金はきちんと振り込まれていたのでエスカリオットはすぐに「結婚してくれ」と申し込んでくれた。
眩しいもののように見つめるようにして、為された求婚に、シャイナはそれなりにドキドキしながら「はい」と答えた。
そしてシャイナは、承諾の返事と共にエスカリオットをこのまま奴隷にしておきたくない、と伝えたのだ。
己の奴隷であるエスカリオットと結婚する、というのは、どう考えても外聞が悪いしシャイナ自身も腑に落ちない。
なので奴隷から解放させてほしいとお願いをした。
エスカリオットは少し考えてから「それなら解放後、すぐに教会で誓ってくれ」と言った。
以前に、奴隷の首輪はシャイナとの繋がりであるからと解放を断っていたから、それがなくなるのは落ち着かないようだ。
この寂しがり屋さんめ、と思ったシャイナである。
というわけで、これからエスカリオットを解放し、そのまま教会で夫婦の誓いもする。
貴族であれば結婚に際して何かと手続きが必要だが、平民の結婚は教会で誓い、立ち会った神父に台帳に記入してもらうだけだ。
式をするとなると予約や準備が必要であるが、誓いだけなら神父の時間が空き次第、すぐに出来る。
「首輪よ、聞け」
シャイナは言葉を紡いだ。
シャイナの言葉に反応して、エスカリオットの襟元から覗くミスリルのチェーンがキラリと光る。
一瞬、シャイナの脳裏にタイダルの二日目の夜の素肌にミスリルのチェーンだけ着けていたエスカリオットが過った。
同時に、この美しい男が自分のものなのだと実感して背筋がゾクゾクした感覚も甦る。
(うわっ、バカバカ)
シャイナは慌ててその刺激的な画を追い払い、解放に集中した。
エスカリオットが笑った気がする。
「彼の者を解放せよ」
少し心を乱してしまったが、続けて言葉を紡ぐ。無事に命令は出来たようだ。
チェーンがぱあっと光り、その形を変えた。
光が収まると、かたんと机の上に元の形状に戻った首輪が落ちる。
エスカリオットがゆっくりとそれを手に取った。
「あっけないものだな」
「作業としては簡単ですからね」
「そうだな」
エスカリオットがしげしげと首輪を眺める。六年ほど着けていたものだから愛着があったりするんだろうか。
「首輪自体は高価なものなので、そこそこの値で換金も出来ますけど、記念に取っておいてもいいですよ」
「それもいいな」
そう言うとエスカリオットは首輪を置いて立ち上がる。
「さてシャイナ。教会へ行くぞ」
エスカリオットは本当に“すぐ”の誓いを求めているようだ。
「あ、はい!」
愛しい黒豹を不安にはさせられないので、シャイナもいそいそと立ち上がる。
「ところでシャイナ」
「はい」
「さっき、いやらしい事を考えてなかったか?」
ニヤリとするエスカリオット。
「か、か、考えてませんよ!」
かなり刺激的なエスカリオットを想像してしまっていたシャイナは真っ赤になって否定した。真っ赤になっているので肯定しているも同然だ。
「俺の狐はいやらしいな」
「狼です! 考えてません!」
「いやらしいシャイナも好きだ」
「いっ、すっ……だから、考えてませんよ!」
ムキになりながらシャイナはずんずん歩いて家を出て、教会へと向かった。
教会に着くと、ちょうど神父の手が空いていてシャイナとエスカリオットはすぐに夫婦の誓いをした。神父に祝福されて教会を出る。
「これでまた、俺はお前のものだな」
エスカリオットが甘い声で言う。
「私もエスカリオットさんのものですよ」
負けじと言い返すとふっと笑われた。
「そうだな、俺の愛しい狐」
とてつもなく甘く蕩ける笑顔を向けられたが、シャイナはちゃんと訂正した。
「狼ですう」
爽やかな朝の光の中、二人は並んで家へと帰った。
fin