軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

55.タイダルの傭兵達(2)

「ビーツ!」

再びヨダの叱責がとび、ビーツは口をつぐむ。

「仲間がいろいろと下世話なことを言ってすまない」

ヨダが謝り、シャイナは少し冷静になって、まずは情夫やら無理矢理やらの誤解を解かなくてはと思う。

身ぶりで、猿ぐつわを外して欲しいと訴えると、ヨダは悲しそうに首を振った。

「すまない、しんどいとは思うが、俺達も何とか隊長を助けたくて必死なんだ。君は魔法使いの端くれだと聞いている、君の口をここで自由にするわけにはいかない。隊長には手厚くしているようだが、要求がおままごとレベルにしろ、無理強いは無理強いだ。君を信用は出来ない」

悲しそうだけど言ってる事は失礼なヨダ。

端くれではなく、Aランク魔法使いですう。

そして、おままごとレベルの要求なんてしていませんんん。

無理強いもしていませんんん。

シャイナは再びむっとする。

噂だけを鵜呑みにして、魔法使いのランク照会をちゃんとギルドでしてないのだろうか、と憮然とした所で、ランクの照会には身許の証明がいるのを思い出す。

流しの傭兵で、ギルドに登録していなければランクの照会は難しいだろう。

しかもBランク以上は、本人が望めば依頼主以外にはランクを非公開にも出来る。シャイナは非公開だ。

広く公にしていないだけで隠している訳ではないので、ステファンのように、パーティーを組んだ事のある冒険者や、エスカリオット関係で関わった城の騎士や傭兵の一部はシャイナのランクを知っているが、一般の人達はシャイナのランクなんて知らないのだ。

私のランクは調べようがないか。

納得するシャイナ。

シャイナを端くれ程度の魔法使いとして認識しているヨダは、猿ぐつわで呪文を封じていればシャイナに害はないと考えているようだ。

無詠唱での魔法は、それこそ高位の魔法使いでないと使えない。

「猿ぐつわを外して、こんな町中で魔法を使われて騒ぎになっては隊長がやって来る可能性がある。奴隷の首輪には制約を課せるだろう?君の安全を優先させるような制約を課していれば、俺達は隊長とやり合う事になる、それは避けたいんだ。俺達だってしんどいし、隊長だってしんどいに決まってる」

そんな制約はしていないのだが、ヨダが辛そうにするので、釣られてシャイナの顔も曇る。

「もう気付いているだろうけど、俺達の目的は死神エスカリオットの奴隷からの解放だ。俺もビーツもエスカリオットがタイダルの騎士だった時にその下で戦っていたんだ。だから、奴隷として縛られているのは見てられないんだよ。

町から離れたら、君の猿ぐつわを取って君と話し合いがしたい。隊長に手厚くしてくれている君なら、何が隊長にとって最善か分かってくれると信じている」

ヨダが熱意のある真っ直ぐな目でシャイナを見つめる。

「今はこれ以上の主張は控える。君が反論出来ないのにこちらの意見ばかりを通すのはフェアじゃないからね」

ヨダはそう付け加えて、それ以降は黙った。

ビーツもそれに倣って黙る。

ガタゴトと馬車が進む音だけが聞こえる。

えーと、奴隷でいるのは本人の意志なんだけどな。

困ったな。

馬車に揺られながら、シャイナはどうしたものかと悩む。

目の前の三白眼の男は、「奴隷でいるのはエスカリオットさん本人の希望なんですよー」なんて言っても信じてくれなさそうだ。

そして、ヨダ達がエスカリオットの騎士時代の仲間と分かった今、彼らを攻撃する訳にはいかないし、その理由もない。

逃げるのも、違うよね……。

ラシーンに里帰りした際、エスカリオットはタイダルの騎士時代の同僚のヘイブンと会って話して泣いたのだ。

シャイナの知らないエスカリオットの騎士時代、エスカリオットの経験した戦場、そこで苦楽を共にした仲間。

彼らとエスカリオットには、強い思いや絆があるのだと知った。

それはシャイナには絶対に分かち合えないものだ。

エスカリオットの為にも、ヨダとビーツと馭者の男は、エスカリオットにちゃんと会わせてあげたい。

会わせてあげたい、と思ってからシャイナは、彼らに会ってエスカリオットはどうするだろうか、と考える。

今度こそ、奴隷からの解放に納得するかもしれない。

そしたら、薬草店を出ていくのだろうか。

気心の知れた仲間達とタイダルに戻るだろうか。

エスカリオットには一番最初に、満月さえ乗り切れれば自由にすると宣言している。

今さら、撤回するわけにはいかないしそのつもりもない。

エスカリオットが望むなら、奴隷から解放しよう。

エスカリオットの強さがあれば、どこでも何なりとやって行けるはずだ。シャイナがギルドに話を付けて、剣士として登録してあげてもいい。戦場は懲り懲りだと言っていたけれど、腕のいい剣士なら護衛の話もたくさん来る。

エスカリオットは美しいし、貴族としての優雅な所作も身に付いている。魅了まで使ってきたダイアナ嬢でなくとも、正規のルートで護衛を依頼する貴族は多いだろう。

ヨダ達とパーティーを組めば大口の依頼も取れそうだ。ちゃんとやっていけると思う。

なんだ考えてみれば、独り立ちなんて簡単に出来るじゃん。

そう思うと、身を切られるように辛かった。

いかん、目が潤む。

シャイナは向かいの2人に涙目がバレないように、ごしごしと目元を拭った。