軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

48.魅了されたステファン(2)

ダイアナ・シラー伯爵令嬢の訪問から1週間後、ゼントから頼んでいた報告書が届いた。

それによると、少なくともダイアナは国に報告されている魅了の術者ではないし、魔法使いでもなかった。

シラー伯爵家は海辺の領地を持ち、交易に力を入れていて、儲かっている家のようだ。

羽振りもよいらしいので、腕のいい魔法使いを召し抱える事は可能だろう。

「うーん」

報告書を見てシャイナは唸る。

「シャイナ、魅了を使える者が自分ではなく、他人に惚れさせる事は可能なのか?」

「あんまり聞いた事ないですねえ、惚れ薬を作れるとは聞きます。でも一過性のものらしいですよ、効果を持続させるには飲ませ続けないとダメです」

「今のステファンになら、飲ませ続けるのは可能だ」

「そうですけどね。なら、ダイアナ嬢がここに通ってる意味がないですよね、あれきっとエスカリオットさんに魅了をかけるためだと思うんですけどねえ」

この1週間でダイアナは2回、シャイナの店を訪れている。2回ともエスカリオットと最初のようなやり取りだけして帰った。

お茶に誘うとか、差し入れのお菓子を持ってくるとかもない。

試しに2回目の訪問の時は、シャイナはエスカリオットにダイアナを見つめてみるようお願いした。

「見つめる?なぜだ?」

エスカリオットは分かりやすく嫌そうだった。

「魅了が少し効いてるんだなー、と思ってもらう為です。あんまり手応えがないと、1回で落としにくるかもしれません、そうなると危険です」

「………」

顔をしかめるエスカリオット。

「エスカリオットさん、貴族で騎士だった時の事を思い出してください。さ、甘く見つめてみましょう」

「シャイナ」

シャイナが促すと、すぐに甘く名前を呼ばれた。

少し熱をはらんだエスカリオットの目とシャイナの目が合う。

かあっとシャイナの顔に熱が集まった。

「で、出来るじゃないですか、それですよ」

ぱっと目を逸らすと、エスカリオットがむっとする。

「これはシャイナだから出来るのであって、あの女には無理だ」

「いやいや、仕事だと思ってやりましょう」

「嫌だ」

「えー、じゃあ、見るだけでいいです。3秒、3秒でいいのでダイアナ嬢を見ましょう」

「分かった、3秒だけだ」

という訳で、エスカリオットはちゃんと3秒、ダイアナを見た。およそ恋に落ちたとは言い難い事務的な目付きだったけれども、ダイアナはとても満足そうな笑みを浮かべる。

そしてご機嫌で帰っていったので、やはり目的はエスカリオットを魅了する事のようだ。

「もう騎士団に通報でよくないか?ステファンの状態を見れば何かあることは明白だ」

3秒でもダイアナを見るのが嫌だったらしいエスカリオットが投げやりに言う。

「あれだけでは、伯爵令嬢の取り調べは無理ですよ。ステファンさんを隠されたら終わりですしね」

「禁術が絡んでいるんだ、騎士団だって無能じゃないだろう、何とかする」

「どうやって魅了してるかくらいは調べないと。それに騎士団が踏み込んだりしたら、ステファンさんに危害が及びます」

「だが、あの女、また来るぞ」

「そうですね、困りましたね、また来るだろうなあ。次は5秒くらい見ないとダメだろうなあ」

「3秒しか無理だ。そもそも、あの女はステファンをどこで拾ったんだ?」

「あれ、そうですね、どこだろう?ご令嬢と冒険者なんて街中で会わないですよね」

ステファンは見た目こそ、貴族っぽい爽やか金髪だが、平民上がりの、叩き上げの冒険者だ。そこと伯爵令嬢は変な組み合わせではある。

シャイナはここは目線を変えて、ステファンの最近の行動を調べてみるのもいいかもしれない、と思う。

「ギルドで聞いてみますか」

冒険者の足取りはギルドで聞くのが手っ取り早い。

シャイナとエスカリオットはギルドへと向かった。

***

「ステファンさんの直近の仕事はこちらですね」

ギルドの受付にて、馴染みの美少年職員、マリオが依頼書を見せてくれる。

「おっと、いきなりどんぴしゃですよ、エスカリオットさん」

依頼の内容を見てシャイナは嬉しそうに納得した。

ステファンが直近に受けた仕事は、1ヶ月程前に受けた、シラー伯爵家の持ち船の航海の護衛依頼だった。

「隣国までの往復2週間程の航海だったんですけど、この航路は、最近海難事故が多発している地点を通るルートで、事故が頻発しているのは魔物の関与があるのでは、と疑われてたんですよ。

シラー伯爵様より、今回の積み荷はかなり大切だから絶対に事故に遭う訳にはいかないと、Aランク以上の指名がありましたので、ギルドとしては実績もあるステファンさんを紹介したんです」

マリオが説明してくれる。

「ステファンさんは、無事に依頼も終えられてます。シラー伯爵様からは、かなり気に入られたようで、晩餐にも招待されていると言ってましたよ」

「ほほう」

ステファンは爽やか金髪イケメンで、Aランク魔法使いの剣士。おそらくその晩餐の席でダイアナが興味を持って近付いたのだろう。

そして、何らかの形で魅了をかけた。

「繋がったな」

エスカリオットが呟く。

「そうですね、ま、出会いを突き止めただけですが、前進ですね。それにしても、海か……」

シャイナは考え込む。

海……

船の事故を引き起こす魔物……

………ん?

おっと、これは、あっさり解決では?

シャイナは顔を上げた。

「マリオさん、ステファンさんからこの依頼の報告書ってあがってますか?もしあれば見せてもらいたいですけど」

シャイナがお願いしてみると、マリオは「いいですよ」と報告書も持ってきてくれた。