軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

19話 傭兵団からの誘い(1)

「やってしまった……」

冒険者ギルド事務所のロビーの隅のベンチで、シャイナは頭を抱えて完全に1個の白い毛だまりと化していた。

隣にはエスカリオットが腕と足を組んでゆったりと座っている。

「あんな、やっすい挑発に乗るなんて……うぅ。しかもアホのステファンさんの」

小さな前足で額を押さえ、ふわふわの白い耳をぺたんと倒してシャイナは身悶える。

ふさふさした尻尾がちょっと揺れる。

「……可愛い」

通りすぎる冒険者や職員が時々シャイナを見て足を止めるが、男であれ女であれ、シャイナに興味を持った者には傍らのエスカリオットの殺気が飛んで来るので寄っては来ない。

「うぅ」

「いい加減、立ち直れシャイナ」

「無理ですぅ、こんな所で炎まで使っちゃったんですよ」

うちひしがれるシャイナをエスカリオットはしばらく無言で見つめ、やがてぼそりと言った。

「……私のエスカリオット」

「はっ」

エスカリオットがにやりと笑う。

「確か、そう言っていたな」

「ち、違いますっ、あれはかっとなってつい」

「つい本音が出たんだな」

「そういう意味じゃないです!」

「そういう意味とは?」

「しょ、所有物って事ですよ!エスカリオットさんは私が買ったんですからね、そういう金銭的な事情からの言葉です!ちょっと、何笑ってるんですか!」

赤くなって慌てて取り繕うシャイナを、通りすがる人々がやっぱり「可愛い……」と言いながら、ちらちら見て行く。

「分かった、分かった。確かに俺はお前の奴隷だ」

くっくっと笑いながらエスカリオットがシャイナの頭をナデナデしてくる。

「奴隷ではありません、護衛です」

シャイナは、きっと睨んで訂正した。

「ああ、護衛だ。さて、ご主人様、腹が減ってきた」

エスカリオットが言い、シャイナもお腹が空いてくる。

「確かに、そろそろお昼ですね」

いつまでも落ち込んでいてもしょうがない、まずはお昼ご飯にしようかと思う。

「ああ、そろそろ帰って昼にしよう」

エスカリオットが立ち上がる。

そして、とても自然にひょいっとシャイナを抱き上げた。

あ、これはまずい。

抱き上げられて、シャイナは固まった。

これは……まずいやつだ。

知ってる。このまま、最悪夜まで抱っこされるやつ。

前回こういう気楽な感じで抱っこされて、夕御飯まで離してもらえなかったのだ。

今日は昼から薬草店も開けるのに困る。抱っこされたまま薬草店で働くなんて屈辱だ、どんな羞恥プレイだ、絶対に嫌だ。

「エスカリオットさん!降ろしてください」

シャイナは慌てた。

「ん?なぜだ?」

「人に戻ってから帰ります」

「戻る必要はないが?」

「あります」

「嫌だ、せっかく狐のシャイナなんだ」

ぎゅっとエスカリオットの腕に力がこもった。

まずい、まずいぞ、小動物への欲求のスイッチが入っている。

「狼です!こんな格好で帰りたくないです」

「この方が楽だろう」

「楽とかじゃないです」

「帰ってから戻ればいい」

「ダメです、このままずるずる店に立つ予感しかしません」

「なるほど、それもいいな」

エスカリオットがにっこりする。

いかあん、墓穴を掘った!

シャイナはさあっと青くなった。

じたばたしてみるけれど、エスカリオットはどうやっているのか、優しいけれどがっちりとシャイナをホールドしていて逃げ出せる様子はない。

落ち着け、落ち着こう、ここは頭を使って抜け出すべきだ。逃げても捕まるし。4秒で捕まるし。

シャイナは必死に考えてから口を開く。

「……私が人に戻って帰るなら、お昼に肉まんを買って帰れますよ」

ぴくり、とエスカリオットの眉が動いた。

よし!反応している。

シャイナはぐっと肉球を握りしめる。

「久しぶりですよね、肉まん。美味しいですよね、ほくほくで」

無表情だけど、エスカリオットが迷っているのが分かる。

いいぞ、この調子だ。

無意識にふさふさと尻尾が揺れる。

「中の肉汁がじゅわって皮に染み込むんですよね。買って帰って、一緒にカラシを付けて食べましょう、ね、エスカリオットさん」

エスカリオットは相変わらず無表情だけど、大分、揺らいでる様子だ。あとひと押しだ。

「ね、そうしましょう。休みの日で良ければ狼になって、ナデナデくらいはさせてあげます」

どうだ!!

「…………」

エスカリオットがじぃっとシャイナを見てくる。

しばらく、じぃっと見た後、

「昼時に肉まんとは卑怯だな」

そう言いながらも、シャイナを解放してくれた。

シャイナはエスカリオットの気が変わらない内にと、直ぐ様マリオに頼んで、個室の商談スペースを借り、人の姿に戻った。

マリオも狼のシャイナに「可愛いじゃないですか」と大興奮で、「触ってもいいですか?」とうずうずしていたけれど、もちろん、エスカリオットは触らせなかった。

人型に戻ってギルド事務所を出て、エスカリオットと共に家路につく。

やれやれ、危なかった。

あともう少しで、店の看板狼みたいになる所だった。

シャイナは胸を撫で下ろしながら、屋台でほかほかの肉まんを8個買って、無表情だが上機嫌のエスカリオットと共に薬草店兼自宅へと歩いた。

そして店が見えてきた所で、その入り口の段差に男が1人座っているのに気付いた。

カーキ色の傭兵団のジャケットを着たがっしりした男が、シャイナの薬草店の前で明らかにシャイナ達を待っていた。