軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

17話 満月と狐火(2)

そしてその日の深夜、天高く月が輝く中、シャイナは前回と同じように無事に狼になった。

前足をくるんと裏返して、肉球を確認する。

うむ、大丈夫そうだ。ちゃんと理性があるまま狼になっている。

よし、後はエスカリオットさんから逃げるだけだ。

早速、抱き上げようとしてきたエスカリオットの手をシャイナはさっとかわした。

たたたっと、走ってエスカリオットと距離を取る。今晩は抱き締められて眠りに付く、なんて事はごめん被りたいのだ。

あの、前回の満月の次の朝はとても恥ずかしかったのだから。

「そう来ると思ってました、今回は捕まりませんよ」

エスカリオットがちょっとむっとしているのが分かる。

抱っこし続けられるのが嫌で、最近は獣化を全くしていなかったから、小動物欲求が高まっているようだ。

これは、捕まったら朝までコースだとシャイナは確信する。

しまったな、たまには狼になって、少しもふもふさせてあげておくべきだったかな……。

と後悔するが、今、後悔しても遅い。

今は、逃げ切る事だけを考えなくては。

そんな風に決意して、エスカリオットを見る。完全に獲物を見る目付きをした金色の目と目が合った。

どくんと心臓が跳ねる。

「お前、俺から逃げれると思っているのか?」

エスカリオットの声が低くなって、その瞳がゆらりと獰猛に輝いた。

1……

2……

3……

4秒でシャイナはエスカリオットに捕まった。

「チョロいな」

「ぐぬぅ」

優しい手つきで抱き締めらる。

いかん、これはいつものパターンだ。背中を撫でられて寝落ちするやつだ。

「離してください」

「嫌だ」

「困るんです、明け方に人に戻っちゃうんですよ!?エスカリオットさんは見慣れてても、私は恥ずかしいです。これ以上、離してくれないなら炎も使いますよ!本気ですよ!」

ここで負ける訳にはいかない。がうがうと一気にまくしたてると、ちょっとエスカリオットの腕が緩んだ。

ちらりと顔を伺うと、少しだけしょんぼりしているようにも見える。

「…………」

むむむ。

「……ちょっと、ナデナデするくらいなら構いません」

シャイナが折れると、優しく頭から背中を撫でられた。

ふわわわ……

気持ちよくなって、思わず目を閉じる。

…………。

はっ、いかん、いかん、寝落ちしてしまう。

「エスカリオットさん、寝ちゃうのでもうダメです」

「そうか」

エスカリオットは素直に撫でるのを止めてくれた。

あれ?素直だ。

「素直ですね」

「お前の嫌がる事はしたくない」

そう言うと、シャイナを下に降ろしてくれる。

おや?

こういう風にさっと離れられると、それはそれで寂しい気もしてしまう。

いつもはあんなにも離してくれないくせに。

「どうした?不満そうだな」

エスカリオットが輝く笑顔だ。

作戦?

これはひょっとして作戦?

駆け引き的なやつでは

ちらちらとエスカリオットを上目遣いで見る。

狼のシャイナはエスカリオットの膝にも届かないくらいの背丈しかないので、どうしても顔を上げて上目遣いになる。あざとくやっている訳ではない。

エスカリオットは珍しくぐっと、唇を噛むと、シャイナからふいっと顔を反らした。

「エスカリオットさん?」

「何でもない、狐のシャイナは可愛いな」

「狼です」

「ふっ」

「ちょっと?笑うとこじゃないですよ、狼ですう」

「ところで、狐のシャイナの操る炎は見たことないな」

エスカリオットがいつもの無表情に戻ってから言う。

「狼です」

「狼のようなシャイナの炎」

「いい加減、゛のような゛いらなくないですか」

「大体狼のシャイナ」

「ふんっ」

そこでエスカリオットは、シャイナから少し離れた。

「あれ?エスカリオットさん?」

「せっかくの機会だ、シャイナ。炎を出してみろ」

「あ、狼の時の炎に興味あるんですね」

「ああ」

「しょうがないですね……よっ」

シャイナは特に何の言葉も紡がずに、エスカリオットの手前に小さな炎を出した。

手のひら大くらいの小さな青白い炎だ。

炎の魔法ではない。

出せるかどうかちょっと不安だったけど、念じるだけで出せた。

「……狐火だな」

「えっ?」

「昔、イズナと戦った事があるが、奴らもこれを使った」

「狼なんですけどね」

「イズナは1匹につき、これを1つだけ出していたが、たくさん出せるのか?」

「うーん、おそらく……やっ」

ぼぼぼっと十数個の青白い炎が寝室に灯った。部屋の中が幻想的な光景になる。

エスカリオットはしばらくぼんやりと炎を見つめてから、ぽつりと言った。

「大したものだな、狐火は……厄介だ」

そうして剣を抜くと、手近な狐火を一閃したが、それは前に人間のシャイナが放った黒炎のようには斬れなかった。

ゆらり、と弱まりはしたが、まだ燃え続けている。

エスカリオットが、素早く三度ほど剣を振ると、狐火は少し名残を残しながらやっと消えた。

「エスカリオットさんでもすぐには斬れないんですね」

「ああ、おまけに触っても熱くない。何も感じないはずだ。何も感じないが深部をじわじわと焼くんだ」

「えー、不気味ですね」

「周囲の物も焼かない。完全に対生物用の殺しの炎だな」

「ますます不気味じゃないですか、消しますよ」

シャイナはえいっと炎を引っ込めた。青白い炎達はふっと消えた。

「狐火とはな、以前に狂暴なお前を父と兄とで押さえ込んだ時、2人はひどい火傷を負ってたんじゃないか?」

「あー、負ってました。治癒魔法でも中々治らなくて、ウェアウルフの一族は狼の時の方が回復が早いので、1週間くらいずっと狼でしたね」

「だろうな。深部の火傷は通常の治癒魔法では治しにくいだろう」

「やっぱり狼の私、強いのでは」

「これで理性がなくて、狂暴だったら、中々の相手だったな」

「エスカリオットさんを買っておいて良かったです」

シャイナの言葉にエスカリオットはふわっと笑い、側に来て屈んで頭をぽんぽんしてくれた。

「俺もお前に買われて良かった」

シャイナがドキドキしていると、エスカリオットはシャイナの横に座って、背中を優しく撫でてくれる。

その手つきはとても柔らかい。

満月の夜だと緊張していた不安もほどけて、柔らかく背中を撫でられて、シャイナはゆるゆると目を閉じた。

ー翌朝。

もちろん、起きるなりシャイナは真っ赤になり、真っ青になり、いろいろ忙しかった。