軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

11話 満月の夜に(2)

***

見上げると大きくなったエスカリオットが自分を見下ろしていた。

エスカリオットさん?

あれ?巨大化してる??

巨大化したエスカリオットは見た事のないぽかんとした表情でシャイナを見ている。

しばらく呆然とシャイナを見た後、エスカリオットがしゃがんできた。

「シャイナか?」

む、何を言っているんだ。つい今しがた話していたではないか。

「もちろん、私です。エスカリオットさんは何故大きくなってるんです?まさか満月に巨大化する呪いとかじゃないですよね。狼の捕縛には好都合ですが」

「……喋った」

「む、喋れますよ、もちろん。ところで巨大化の呪いなんて聞いてませんよ」

「俺が大きくなったのではない。お前が小さくなったんだ」

「え?」

シャイナはそこで部屋を見回してみる。

天井がいつもより高い、ベッドも巨大だ。

「ええ!?」

キョロキョロすると、もふっと何やら白くてふわふわのものが視界を掠める。

「ん?」

シャイナは自分の足元を見てみる。

白い毛に包まれた可愛らしい獣の足がそこにはあった。

うん?

足をひっくり返してみるとちゃんと肉球もある。

後ろ足も同様だ。

うんん?

後ろを振り返ってみると、ふさふさした尻尾もある。

「思ってたより小さいな」

エスカリオットは右手でシャイナの頭から背中にかけて優しく撫でた。

「あっ、こら、エスカリオットさん気安く触りませんよ」

「駄目なのか?」

聞きながらも優しく撫でてくれる。

ふわわわ、気持ちいい。

「むう、気持ちいいので良しとしましょう。えーと、ところで今私はどういう状況でしょうか?」

「獣化したんだと思うぞ。狼というよりは……、小振りの白いキツネか?キツネにしては顔が丸いな」

エスカリオットはひょいっとシャイナを抱えると窓際へ行った。夜の窓ガラスに室内の様子が反射で写っている。

夜の闇に浮かび上がった室内には、エスカリオットに抱かれた愛らしい白いもふもふが居た。

「ええー!」

シャイナはエスカリオットの腕からぴょんと飛び出すと、窓に近付く。

全身真っ白なふさふさの毛。大きさは確かに狼というよりは小さい狐だ。顔は本来の狐よりも狸のような少し丸い顔で耳も少し丸みを帯びている。つぶらな瞳は人間の時の青色よりも少し濃くて藍色に近く、笑っているように光っている。

父や兄の狼とは全然違う。母の狼よりもずっと小さい。思ってた狼とは全然違う生き物がそこには居た。

「何ですか、これは!?」

「だからお前の獣化した姿だろう」

「でもこんなの狼じゃないです!」

「確かに誰も狼とは言わんだろうな」

「がーん」

「落ち込むな、喋れるなんてすごい事だろう」

「あっ、ほんとだ。何故喋れるんですかね?父も兄も狼の時は、言葉は伝わるけど話せませんでした。あっ、もしかしてまだ不完全な獣化でしょうか?ここからもう一段階あるとか?」

「どうだろうな」

「エスカリオットさん、そういう事なら油断は禁物ですよ。私を今の内に檻に入れておいてください。狂暴になるかも」

きりっと姿勢を正してエスカリオットを見る。

「いや、それは無駄だと思うが」

エスカリオットはシャイナを見下ろしながら何かを堪えるような顔をした。

「無駄?やれる事はやっておいた方がいいですよ。さあ早く」

シャイナの言葉にやっぱり何かを堪えながらエスカリオットはシャイナを抱っこすると、檻の扉を開けてシャイナをその中に降ろした。

エスカリオットが扉から外へ出る。

シャイナも続いて外に出た。

鉄格子の間の隙間から。

檻は大型の魔物用なのだ。鉄格子の間隔は小動物のサイズには適応していない。

隙間から外に出れてしまって、シャイナは赤面して俯いた。

くう……恥ずかしい。

なんたる計算違い……。

くっくっと笑い声が聞こえる。

顔を上げると、すぐ横でエスカリオットがしゃがんで笑っていた。

見たことない無邪気な笑顔だ。

「わっ、笑わないでください」

恥ずかしくて声が震えてしまう。

エスカリオットは笑ったままだ。

「エスカリオットさん!」

「ああ、すまない」

「とにかく!油断は禁物ですよ」

「そうだな」

そう言いながらも、エスカリオットは鞘付のベルトを剣ごと外すとベッドの脇に置いた。

「エスカリオットさん?」

「もう寝よう、シャイナ」

「え?聞いてましたか?油断は」

そこでひょいとシャイナはエスカリオットに抱っこされた。

エスカリオットはシャイナを抱っこしたままシャイナのベッドに横になる。

「何かあったら困るからこうして寝よう」

シャイナはエスカリオットにぎゅっと抱き込まれた。

「ちょっと、エスカリオットさん、私が17才のうら若い乙女だという事を忘れていませんか?離してください、こら!ぐぬぬ……」

シャイナは慌てて真っ赤になって抵抗したがびくともしない。

「暴れるな。寝付くまで撫でてやるから」

がっしりとホールドされて、背中を優しく撫でられる。

ふわわわ、気持ちいい。

どうやら獣化している時は人間としての理性よりも獣の感性が優位になるようだ。

撫でられて力が抜けてしまう。

「くっ、卑怯ですよ」

「心配するな。どうせ狐のお前には何も出来ない」

「狐ではありません、狼です」

エスカリオットがまじまじとシャイナを見る。ベッドの上でこんな至近距離で美しい金色の瞳に見つめられて、体がぞくぞくしてしまう。

「どこからどう見ても狐だな」

エスカリオットが蕩けそうな笑顔になった。

「くっ、卑怯な……」

笑顔にノックアウトされて、背中を優しく撫でられてシャイナは陥落した。