軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

気にしたら負けな気がする…

二十年近い長い間、久侑はその難病と闘ってきた。

難病自体が生命の危機に直接的に関わることはないが、軽い風邪が即肺炎に悪化などの二次的被害のダメージが大きく現れる。それに、症状緩和のための投薬の副作用や小規模ながら繰り返される手術が、ずっと慢性的ストレスを与えてきた。

原因がわからない病気だ。特効薬が簡単にできるわけない。

そんな難病が、いきなり『治った』のだ。

緩和や調子が良いなんて曖昧な 感触(もの) じゃなく、難病のせいでずっと付き合ってきた違和感や不快感がきれいさっぱり消えたという。

「で、でもまだ完全に完治とは確定して……」

「まぁね。今日は日曜だからさ、診察と簡易検査だけだったけど……」

「なら、まだ喜ぶのは」

「明日、精密検査する。でも、自分の体だからわかるんだよ。なんか全部消えたって」

「そうか……」

俺としては、もう返す言葉がない。

本人が「そう」なんだと感じたんなら、他人には反論しようがない。

ただ、同じように食った俺はまったく変化なしなんだよなぁ。

病気してたわけじゃないから、これといって顕著な反応が出るわけないのかもしれないが、異様な疲労回復感や気力体力が――ってなことも感じられない。

「検査で完治してるって結果が出たら、アレについて教えろよな!」

「アレって?」

「スクちゃんが持ってたお菓子だよっ」

「……了解」

難題がひとつ減って、またひとつ増えた。

これがジィ様の予言だったのか?

そして、アレはこの世界の人間にも効く 万能薬(エリクサー) だったのか。

なにはともあれ、摂取したことによって 異(・) 常(・) な結果を生んでしまったのは事実だ。当人に説明くらいはしないとなんないだろう。

納得できる内容かどーかは別にして。

頭の痛い問題にどう対処しようかと悩みながら過ごした日の翌日、俺は戦慄の営業時間を堪えることになったのだ。

なんと、久侑みたいな現象を口にするお客さんが多数現れた。

難病が完治したとまで露骨な反応はなかったが、十人ほどのお客さんが口を揃えて『元気になった』という。中には、だらだらと長引いていた夏風邪がきっぱり治ったとまで。

「レ、レバニラが効いたんじゃないっすかね?」

あの日、夏バテ解消! と銘打って、限定メニューに豚レバニラや鳥レバーの香味から揚げを出した。

ここでウナギ辺りを出せれば、その台詞もすこしは信憑性があったかもだが、土用の丑の日でもないのにそこまで高価な総菜は無理だった。

「そーかしらー?」

「ええ。ちょっとイイ物が入ったんで、ぐっと効いたのかも。俺も体調を崩してたんで、お客さんたちにもスタミナつけてもらおうかと……」

ああああ、もう必死にごまかすしかない。

「そういえば、店長さんもマスクしてたもんねー」

うん。マスクしてたよ。でも、あれは別の理由からだけどね。

腹を壊したとか気分が悪くなったとかっつークレームじゃないんだ。むしろ、健康のためになったってんなら余計なことは言わずにおこう。

だって、俺自身がわけわからんのだから。

ただ、副作用みたいな症状がでないよーにと祈るしかない。

そして、この騒動は俺の周りだけじゃなくフィヴの周辺でも起こっていた。

ただし、こっちよりも理解が容易い世界なだけに好評を得て、思わぬ反響を呼んで繁盛していた。

そりゃそーだろ。 神様の葉(ウーナ) の加護がついた菓子だぞ? 実際に効果が表れてるとなれば、誰もが飛びつくだろうさ。

「……すげーなぁ」

丸太小屋店舗の前に、いろんな種族の客が長蛇の列を作っているのが木々の間から見える。列の中には竜種が何人か並んでいるのが見えたが、前後にいる別種の客と和気あいあいとした雰囲気で会話している。

本当に敵意がなさそうで、俺としてはすげー違和感しかない。

なんなんだろうな。種族の問題なんじゃなく、個々の問題として認識してんのかな? 確か前にも言ってたもんな。商人だから戦いには参加していなかった。その竜種個人には恨みは持たないって。

でも、そこまで単純に感情を切り離せるものか?

商人だろうが平民だろうが、自分たちを抹殺しようとしてた連中と同じ国の種族なのに……。

「トール!」

ぼんやりと繁盛してるフィヴの店を眺めながらまったく別の感慨に耽っていた俺をみつけて、フィヴが走ってきた。

多忙中なのにいいのか? っていうか、なにごとかと並んだ客がこっちを見てるんだが?

彼らに俺は見えないけど、それだけに何もない森の奥に向かって誰かの名を呼びながら走って行く店長さんの姿は、奇異に見えるんじゃ?

「よう。すげー繁盛してるな?」

「そうなの。 もう朝から晩まで大変で……。で、あのサブレ、どうなったの?」

店内でも駆けずり回ってその上に突っ走って来たからか、フィヴは薄っすら汗をかいて頬を上気させていた。

ふんわりしたワンピースの制服に緑色のエプロンドレスには、奮闘の名残のように粉や果汁で汚れている。

俺は、いつの間にか夢を叶えて肩を並べるまでになった彼女に圧倒されていた。

一言、凄いと感嘆の思いが湧き出る。

「あれな、チョリさんは駄目だった。でも、俺と別の奴が食った」

「――そう……。チョリ師匠は無理だったのね。まぁ、あの匂いだもの。お菓子職人の師匠の舌や鼻がおかしくなっちゃったら怖いし」

「おかしくなるどころか、鼻の病を長年患ってたヤツが食っていきなり完治したぞ」

「え?……」

ちょっと申し訳ないっつー気分でバラした内情に、フィヴは目を丸くして絶句した。

おもわず、してやったりって気持ちに変わる。

「フィヴには話し辛かったんだが、最初は処分するってことだったんだよ。それが――」

匂いと色に怖気づいた野々宮さんが拒否し、結論としては処分ということにしたが、それが簡単じゃないってわかってジィ様と考え込んでたところで盗み食いされたエピソードを話して聞かせた。

「で、なぜか俺の世界でもウーナの効果がでちまって、さあ大変って状況だ」

「それはまた……」

「フィヴのとこも、だろ?」

「あ、そ、そうなのよ! 焼き釜の掃除をして匂いを消したから大丈夫と思ってたのに、その後に焼いたお菓子が……」

俺たちは目を見合って、呆れたように乾いた笑いをするしかなかった。

俺のほうは久侑に説明しなくちゃならんし、フィヴのほうはいつまで加護が続くのかわからない不安な状況。

これは、喜んでいいものかどうか、だ。