軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

友情と言う名の尋問

海鮮ちらしの桶が空になったところで、俺を含めた三人は一斉に後片付けとこの後の宴会のために動き出した。

俺の家に二人が来た時に始まる、いつもの流れだ。俺は桶を洗って袋に戻し、鰻をチルドに入れて明日の準備をする。野々宮さんと中井のバカップルは卓袱台上にグラスやアイスペールを用意していく。本当に勝手知ったる俺の家で、何がどこにあるかをきっちり把握している。

酒飲みの二人は缶ビールや缶カクテルを持ち込み、俺だけジンジャーエールとウーロン茶で、彼らの持ち込んだツマミをご相伴に与る。別の袋から出してきたのは、焼き鳥の山。塩にタレ。皮からぼんじりまで種類もわんさか。そこに、俺は代々続く糠漬けを出してセッティング完了だ。

「で、何があったのかな?透瀬家では」

「…なぜ、俺ン家限定?」

「だって、俺たちじゃない他の人間がいた残滓が」

残滓と来たよ!友人との会話の中で、初めて聞く熟語だよ!

いつもの能面顔をもっと無表情にして、中井はグラスを使わず缶ビールに直接口を付け、缶の向こうから鋭い視線を送って来た。その横で、野々宮さんは氷を入れたグラスにピンク色のカクテルを注いでいる。

前にも話したが、俺は専門学校時代からこの家で一人暮らしをしている。だから、無暗やたらに知り合いを招待して溜まり場扱いされることを怖れて、中井にしか住所を教えていなかった。それ以降も、中井と彼女の野々宮さん以外は、この家に招待したヤツはいない。

つまり、中井に言わせると「俺たちの知らない人が居た形跡が散見されるが?」ってことだな。

しかし、犬や猫じゃあるまいし…。

「残滓って…そんなもんがどこに…」

「ご飯茶碗が三つ、水切りスタンドに置かれてたよ?」

野々宮さんの指摘に、そう言えば先ほど食器棚にしまったなーと思い出した。

「後は、座椅子が出されている点だな」

中井はわざわざ指さして、TV脇に積まれた折り畳み座椅子を示した。

あちゃーと、内心で叫びながら自分の失態を認めた。

俺は日ごろ座椅子は使わない。食事はほとんど台所のテーブルで終わらせるし、居間の卓袱台で飯を食う時はそのまま座り込んで座椅子なんて邪魔な物は出さない。

でも、椅子に座る生活が長かったレイモンドは、いくら柔らかい畳の上と言っても長い時間を支え無しで腰を下ろして座り込む姿勢は苦痛らしかった。それを見かねて異世界人二人に座椅子を使わせていたんだが…。

「ねぇ、もしかしてキンパツのイケメンって人?」

「なんだ?それ…俺は聞いてねぇぞ?」

ニヤつきながら野々宮さんが、OLさん情報を暴露した。それにすぐ中井が反応し、能面が剥がれて垂れ目を僅かに吊り上げて俺を凝視してきた。

なんですか、これ。尋問ですか?お前らは、刑事か探偵?

鋭い指摘にもう言い逃れすることもできず、頭を抱えながら大きな溜息を一気に吐き出した。

「…これから俺が話すことを信じるか否かは、お前ら二人にまかせる。信じらんねーと思ったら言ってくれ。その時点で俺は話を止めるから」

たぶん、俺は無茶苦茶シリアスな表情で話していたんだろう。二人は一瞬だけ目を合わせて互いの意志を確認し合って、すぐに俺に視線を戻した。その顔には、さっきまでの気安いニヤケ笑いの気配は残っていない。

だから俺は覚悟を決めて、ここ半月ほどの間に起こった一連の出来事を話し出した。

「最初にさ、窓を開けたんだ。そこに――――」

相棒のキッチンカーの窓の向こうに、こことは全く違う異世界が広がっていて、そこの住人であるレイモンドと言う名の俺と同世代の男に出会ったことから始まった奇跡の話を、二人は途中で茶化したり口を挟んだりせずに最後まで聞いてくれた。

「じゃあ…何度かウチの店に寄った時に、あの営業車の中にいたんだ…」

「初めの頃に二回ほどな。…あんまり顔出しして万が一パトロール中のお巡りさんに出会ったら、と考えたら怖くなってな」

「賢明な判断だな…」

「あーでも、会いたかったなぁ。キンパツのイケメンと豹耳の美人ちゃん…」

二人はごく自然に、俺の話は嘘ではないって前提で会話を進めているけど……俺の与太話に合わせているだけか?

異世界人二人が帰還してしまった今、証拠を見せろと言われても何もない。今更だが、スマホで記念撮影でもしとけば良かったと思わないではないが、たとえその画像を見せても中井たちが『証拠』として認めるとは思えない。だって、『コスプレしてる知り合い』で終始してしまう日本人ですから。

だから、つい訊いてしまう。

「……信じるか?」

「嘘なのかよ?」

「大マジ」

こればかりは、本人に会わせないと信じられないだろう。レイモンドじゃなく、フィヴだったら一発だろうし、キッチンカーの窓越しだったらなお良しだろうな。

「私はさ、やっぱし会ってみない限りは半信半疑かなー。透瀬が嘘をついてるとは思わないけど、自分の目で見たものしか信じられないって質だし」

はっきりと自分の判断を口にする野々宮さんは、ブルーのTシャツから伸びた首筋から頬までを朱に染めて、酔いに潤んだ眼差しを俺たちに向けた。

彼女は、専門学校時代から現実主義者だった。誰かが拾ってきた確証のない噂話には絶対に耳を貸さず、自分の目と耳で確認が取れたことしか認めない。

そんな所を中井は気に入ったんだろう。すぐに喧嘩別れすると周りに言われていたのに、そんな感じは全くないね。

「ん~~…やっぱり会ってみたい…よな?」

「「当然!!」」