軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

20.氷の追憶

猫とサッサさんの『トロンポス・リリー』がハーモニーとなって氷の宮殿に響きわたる。天井や壁が音楽に反応するようにキラキラと反射して、みるみる姿を変えていく。

そしてまるで宮殿すべてが溶け消えたかのように、氷の高原へ放り出された。

「己の持つ力を示せ」

白ペングーの声が聞こえると、頭上にHPバーが現れる。なるほど、風景のBOSSか。いや、まさかこんな全天型だとは思わなかった。VRの中でVRしてるみたいじゃん。

みんながバフをかけている間に猫も従魔たちにバフをかける。ううん、ルビーの『地団駄』が聞けないのはちょっと寂しいな。あとリカは尻尾が股の間に入ってしまって戦意喪失している。ごめんよ、適正LV外で……。逃げないだけ十分えらい! あとでしっかり労わねば。

レトはやる気十分に杖をふりふりしているし、シロビもふわりと浮き上がって白狐から元の姿に戻った。ロニはプルプルしながら、猫の減ったMPを回復してくれる。

準備は万端だ!

「弱点は火属性で間違いないみたいよ」

「よっしゃ来い!」

「では遠慮なく!」

ヤマビコさんが念のためヘイトを取ったのに合わせて、サッサさんが『ファイアストライク』を放つ。単体火力型魔法としてはお馴染み。サッサさんいわく、火力としては『インフェルノ』が強いが、『ファイアストライク』の方がMP効率がいいので使い勝手がいいそうだ。あとエフェクトが小さめで軽い。なるほど。

サッサさんに続いてシロビも放ち、ヘイトを分散させる。

ちなみに召喚獣の稼いだヘイトは、相手の知能が高ければ召喚主にくる仕様。風景BOSSは知能高め設定らしく、召喚主にくるそうなので気をつけねばならない。

といっても、猫は『指揮』のないダメ飼い主なので、気をつけようがないんだけどね! ……SPの余裕が出来たら検討しよう。

しばらくはこちらが攻撃するばかりで拍子抜けだったが、途中から天候が悪化しはじめ、吹雪いてくると様子が変わってきた。

吹雪がそのまま全体攻撃らしく、ダメージになるのである。火花のように小さなダメージ星がパチパチと点滅する。ひとつひとつは大したことないけど、続くとめんどくさいやつだ。

ついでにバスケットボール大の氷の塊がときどき降ってきて、当たるとなかなかきつい。

「よう見て避けえや~」

「にゃん~、気をつけるにゃん!」

ヤマビコさんが回復してくれる。

氷塊を避けつつ、このまま吹雪が続くと思いきや、風景はまた切り替わる。

のどかな村の風景だ。

「昔のビオパールでしょうか……、むにゃ」

「寝たら死ぬぞー」

「んハッ!」

「眠りの状態異常ね。はいっ!」

むにゃ……と猫もなってたらリーさんに投擲された。『水風船』だそうで、すごく冷たくて一瞬で目が覚めた。

いろいろなアイテムがあるなあ。

というか氷の追憶、そんなに強敵じゃないっぽいからのんびり眺めてしまって、なんだかVR付き環境映画みたいでちょっと面白くなってきた。

いや、だいたい全体攻撃だから、ヒーラーしてるリーさんやヤマビコさんは慌ただしいみたいなんだけども。レトの回復は全体だけど、雀の涙だしね。

村がみるみる発展していくと、今度は騒音や地震の攻撃。ダメージとしては大したことないけど、精神的にくる嫌がらせだ。

「あ~~鬱陶しい~~!」

フーテンさんが特に嫌みたいで、めちゃくちゃ風を吹かせていた。風が吹くとスクリーンがまくれるように風景が揺らぐ。ちょっと古い映画館のようで面白い。

そんなこんなで面白がっているうちに、氷の追憶は危うげなく倒された。

ロッテンさん強いし、サッサさんは氷の弱点属性、火の使い手だし。助っ人にきてもらったみんなは適正LVより上だし。あっさりということもないけど苦戦ということもない、くらいだ。

最終形態の雪崩連発はちょっと危うい瞬間もあったので(主に猫とフーテンさんが)、ドキドキでしたな。

猫の出番はなかった! と言いそうなところだけど、アイテム提供はしました。ロマン羽根とか。よく燃えました。

「よくぞ試練を乗り越えた」

厳かに渋い声で白ペングーが言い、氷の追憶が収まった宮殿に白く、凍える光が現れる。白ペングーがペチペチと近寄って光に触れた。

『氷吟族による祈りが捧げられました』

「さあ、力を受け取るがよい」

『贄を選択してください』

ボウフォルでも見た表記だけど、事情を知った今となっては納得だ。今捧げる贄じゃなくて、これから贄になる人を選べってことなんだな、これ。

今回は遠慮なく全員でロッテンさんに捧げることが出来る。

『ロッテン:ALL』

『投票の結果、ロッテンが贄に捧げられました』

ロッテンさんが白い光に歩み寄る。光は彼の体を包み込み、目映く放たれ始めた。氷の宮殿の高い天井に反射して、辺りがシャンデリアのようにキラキラと輝く。

なかなか派手なエフェクト。

光が収まると、天井を見上げたままロッテンさんが手を開いたり閉じたりと何かを確かめていた。

「大丈夫にゃん?」

「ああ…、なんだか目が覚めたような、生まれ変わったような不思議な心地だよ。指先まで力が行き届いている」

『元々ルイネアの特徴があったロッテンじゃわからんけど、もしかしたら種族変化的なことが起こるのかもしれんな』

『アッ、そういうのありそうですね!』

『たしかに、完全変化はないにしても多少の変化は起きそうな気がするわね』

『フーテンもルイネアになるのかい?』

『この流れだとなるのかな~?』

『人間をやめるにゃんね~』

『その言い方は語弊があるにゃん~~!』

光があった場所に、今度は帰還の魔法陣が現れる。白ペングーを振り返ると、そこにはもう誰もいなかった。

「にゃん!?」

「ありゃ、消えちゃったか」

「異界生まれって言ってたけど、亡霊だったのか?」

「試練を受けるものが現れたときだけ出てくるひとだったんですかね…」

少し探してみたけどいなかったので、そのまま帰還することに。

『純魔のサブクエ、野次馬にきてよかったわほんと~』

『お役に立ったにゃん?』

『立った、立った。純魔のクエスト、一族の仲間入りっていうんで属性装備もらって終わりみたいだからね~。ルイネアに一目置いてるっぽいって話はあったけど、ここまでがっつり関わってるとは知らなかったわ』

『サブクエのがメインくらいの勢いやな』

『ほんとよ~~』

戦力お借りしちゃったので、お役に立ったなら何よりである。

さて、そんなわけで宮殿前へ戻ってきたのだが、もう一仕事残っている。

「にゃん~、猫は急がなくても全然問題ないと思うにゃんよ」

「そうですよ! 全部の属性回ってみて、本当に贄が必要か確かめてからでも遅くないんじゃないですか!?」

「しかしもう異界は開いてきてしまっているよ…」

そう、ロッテンさんの説得である。

ロッテンさんたらもうすっかり身を捧げる気でいるものだから、猫たちは焦ってしまった。

「俺たちマレビトがそのうち何とかするから、気長に構えてたらええんちゃう?」

「ええ、ドーンと構えて、待っていてくれたらいいわ」

「我々のことに、マレビトを巻き込むのは忍びないと感じる」

なかなか難しいなあ。

ロッテンさんを説得できる要素が猫にはない。ルイネアにまつわる古い話、は今回でたぶん決着がついちゃっただろうし、さてどうしよう。

猫が悩んでいると、ふとポユズさんが言った。

「君、家族はどうするんだい?」

「え?」

「そうだ、お前ひとりが犠牲になったところで異界は収まりやしない。後に続くものを残すのも仕事なんじゃないのか?」

ポユズさんに続いて、エドさんも言う。

家族!?

言われてみればルイネアの血を引く家族が他にいないと、後が続かないのかもしれないけども!

いや、言われてみればひとりで片付くことはないんだろうし、ほうれんそうは大事である。

「た、たしかに…」

効いてる!?

『よし、この線で押そう』

『天涯孤独の身とかだったらどうしようかと思ったけど、家族がいるみたいでよかったわね』

『氷の当主の家系だろうから、家族は多そうだけども』

『いや~でもロッテンってわりとはみ出しものなのでは?』

『あらそういってらっしゃい、であっさり終わってしまったりしてね』

『本当に大丈夫にゃん!?』

あっさり終わったら時間稼ぎもなにもないんだけども!

いや、もう何が正解かわからない。

『そもそもサブクエみたいだし、本命はメインの氷の 純魔(マギカ) にお任せでええんちゃうか?』

『そうだね。氷の純魔が身を捧げる方法があるのかもしれないし、それがメインルートであるべきと思う』

『にゃあ、たしかに』

『で、ですよね!? 楽士はあくまでお手伝いだと思います!』

たしかに、猫たちは本筋とはあまり関わりのないサブクエのはずだ。ここでロッテンさんの生け贄化をひとまず止めるだけで十分ともいえる。むしろメインを奪ってはいけない。

頼んだぞ、誰か知らないが氷の純魔さん!

『今回のを考えると、楽士2人入れた純魔PTっていうのが正規ルートなのかもしれないけどね』

『かなりマニアックだよね』

『しかしこれ風の純魔どうなるんだろ~~、今から心配』

『ちょうどいい生け贄を探して放り込め』

『いやダメじゃない!?』

『次回、さよならフーテン』

『それもダメじゃない!?』

わちゃわちゃしつつ、悩むロッテンさんを連れて宮殿を後にする。

帰還用魔法陣があったので、帰りはヨイヨイ楽々だ。

「君たちの言う通り、私だけで終わる話ではないと思う。姪と相談してみるよ……」

「めいっこさん」

「今は氷の当主をしている」

『ザマスやん』

『ザマスざます!』

氷の当主は老齢の女性なんだけど、語尾がザマスなのでザマスと呼ばれているらしい。ほうほう。

ひとまずすぐに生け贄になる道は外れたようで、ちょっと安心。今後どうなるかが気になるけど、それをいったら火の純魔だってわからなかったもんね。そこはそれぞれ特化ルートになるのだから、見られなくても仕方ない。

『まあ概ね似たような決着はするんだろうし、フーテンの種族クエに期待だな』

『楽しみにゃんね~~』

『まだルート見つかってないけどね~~』