軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

15.瑞獣を探して

『ウィンドカーテン』は飛び道具と風、火属性攻撃のほとんどを無効化する魔法だ。鳥属性mobにはお馴染みの魔法で、モンシラも使っていたやつ。風の膜を張るものだから、たしかに雪風である吹雪は防げてもおかしくないんだよね。これは盲点。

いや、猫は『ウィンドカーテン』持ってないけどさ!

『もしかしてこれが最適解だったりします!?』

『いや、でも視界はさすがに確保できてないにゃん!』

吹雪の体感はないけどホワイトアウトはしていて、周囲は真っ白だ。

走行している内に金色の雪が降ってきて、ついでにスノーウィングも急降下してくる。

サッサさんが前に出て、『ウィンドカーテン』の範囲外へ飛び出す。猫もあわててついていく。

「『ファイアーウォール』!」

「シロビお願いにゃん~!」

前方でサッサさんとシロビの炎の壁が迫り上がり、スノーウィングが奇声を上げながら雪面へ転がる。わ、わわ、雪が溶けてびちょびちょになるぞこれ。いらんリアリティー!

『ウィンドカーテン』が新雪を吹き飛ばし、『ファイアーウォール』が根雪を溶かしながら進む。2回目の『サーモスタット』をかけ直したときだった。

「にゃっ!? 『ファイアーウォール』ダメにゃ!」

「にゃにゃっ!?」

猫の制止にサッサさんが慌てて従い、少し遅れてシロビも止まる。

すると雪の中から、かすかな声。

「雪のなかになにかいます!?」

「なんだって!?」

猫はあわててリカから降りて、雪を掻き分ける。まさかなにかいるのに火を使って溶かすわけにはいかない。するとサッサさんも、ロッテンさんも手伝ってくれる。

そうして掻き分けてくると現れたのは、灰色の……鳥?

「でっかいけど、これは何かのヒナにゃん?」

「鳥にしては翼のつきかたが少しおかしいような?」

「ペングーのヒナだろうね」

「ペングー!」

なるほどペンギン。ペンギンなら灰色のモコモコもうなずける。ちなみにヒナながら猫よりちょっと小さいくらいで、とても抱えて移動する感じではない。

「スノーウィングが狙ってたのはこれにゃ?」

「かもしれませんね」

スノーウィングはひとまず追い払ったので、しばらくは来そうにない。

「金色のオーロラが示したのもこのヒナでしょうか?」

「にゃあ、ペングーの親がヒナを探してた?」

あのラッパのような音はペングーのものだったのだろうか。

「そうだとして、ヒナはどうするんだい?」

「にゃあ……」

それよなあ。

ここにヒナを放置したらスノーウィングの餌食だし、さすがに寝覚めが悪い。この大雪のなか、親が来るまで待っているのも現実的ではない。

となるとあとは、ヒナを抱えて移動、ということになるのだが。

猫とサッサさんは顔を見合わせた。こちとら風猫族と小人族の小さいコンビである。

ロッテンさんを見上げると、彼は苦笑した。

「わかった、私が運ぼう」

「ありがとうにゃん!」

「お願いします!」

持つべきものは背の高いNPC仲間である。

ロッテンさんにヒナを抱き上げてもらい、猫たちが来た道を踏み均しながら進み(溶かしたはずがすでに雪が復活していた)、ロッテンさんの歩行を助けることになった。

進んでいくと、再びスノーウィングが現れた。やはりヒナを狙っているようで、第2陣、3陣と波状に襲いかかってくる。そのたびに『ファイアーウォール』で撃退を続ける。

「……スノーウィングのヒナだったらどうしよう」

「恐ろしい想像はやめるにゃん!!」

「はは、スノーウィングのヒナはトカゲ型だから大丈夫だよ」

「信じますよ!?」

わちゃわちゃと話しつつ、ようやく少し雪が小降りになり、街の近くまで戻ってきた。ここまでくるとさすがにスノーウィングも追ってはこないらしい。

よいしょ、とばかりにロッテンさんがヒナを雪面に下ろすと、ヒナはぺしゃんと潰れる。

「にゃん!?」

「弱ってしまった!?」

「お腹が空いてるんじゃないかな?」

ロッテンさんの言葉を信じて『チッギョ』を与えてみると、食べる食べる。すごい食欲だ。

「親からはぐれて、雪に埋もれて待っていたんでしょうか」

「そうかもしれないね。そして親は鳴き声で子どもを探していた」

「にゃあ、氷の尾根からにゃんね……」

やっぱり、氷の尾根まで行かねば話は進まなそうだ。

「氷の尾根は禁足地だ」

「でも、もう人は入っちゃってるみたいですし」

「送り届けるだけなら、いいんじゃないかにゃ?」

「いや、でも…」

渋るロッテンさんを説得する。猫とサッサさんだけではヒナを連れていけないのだ。

「にゃん~、あのラッパみたいな音に探されていたってことは、これは瑞獣のヒナってことになるにゃん?」

「アッ、たしかに!」

「そう、だね。我々の瑞獣はペングーだったのか……?」

ちょっとショックを受けてそうなロッテンさんを、ヒナが早く次のご飯を寄越せとつついている。

瑞獣なら妖精族だろうから喋るはずなんだけど、喋りそうにないな、このヒナ。

『ロッテンにヒナを運んでもらうとしたら、やはり戦力は我々だけで、ふたりで庇いながら尾根に向かうってことになりますよね?』

『だと思うにゃ。ふたりで行くのは厳しそうだと思ってたのに、守りながらとなると更に難易度倍増にゃん~~』

『んねー!』

サッサさんは難しそうな顔になる。

『実はたぶん助っ人が必要になるだろうと思って、ひそかに連絡を取っていたんですけど、今回は硝子連合の面子は呼べないみたいなんですよ』

『にゃあ、それは残念にゃん~!』

どうやら硝子関連でなにかあったらしく、今は手が離せないというお返事だった模様。

むむむ。残念ながら、今は青月夜というタイミングでもないしなあ。

しかし迷っていても仕方ない。猫に出来ないことは、猫じゃない手を借りるしかないのだ。ゆくぞ他力本願。

『にゃん~、たぶん『精霊の涙』が手に入るイベントに興味はないにゃん?』

たすけて大商人!

『にゃん? それってどこかの 純魔(マギカ) クエ?』

『たぶんそうにゃん。氷の純魔のサブクエストだと思われるにゃ』

さすが大商人は秒で返事がくる。たのもしや。

『氷か~。人数が必要な感じ?』

『にゃん~、純粋に戦力が足りないにゃん。猫ともうひとりでNPCを守りながら山登りになりそうにゃんよ~。道中に未確認魔物っていうBOSSが出そうにゃん』

『未確認魔物!? UMAにゃん、また変なクエスト引いてるにゃん~!』

『猫はなにもしてないにゃんよ~!』

『またまたそんなことを仰って。ん~~氷で山登りか。ちょい待ち~~。一応GPS送っておいて~』

『了解にゃん~~!』

お手数かけますにゃん!

「フレンドに聞いてみてるにゃん~」

「おお、ありがたいです!」

その間、ロッテンさんは灰色のヒナと正面から向き合い、厳しい顔をしている。

「どうかしたにゃ?」

「いや、このヒナを見ていて気がついたのだけれど…、最近、ビオパールで『幻のスープ』という屋台が出ているのを知っているだろうか」

「ああ、『ホットワイン』の屋台の隣にありましたね」

「にゃあ、品切で、でも鶏ガラ出汁のいい匂いが……!?」

「まさか!?」

そりゃたしかにペンギンも鳥類だけども!?

「杞憂であってくれればいいのだが……」

「さすがに嫌な想像が過ぎます!!」

「にゃん~~!」

灰色のヒナはきゅるんとした目でロッテンさんを見つめている。

「にゃ、にゃ、そういえば冒険者ギルドに『ペングーベビーの捕獲』依頼があったにゃん」

「み、密猟!」

「飛べもしないヒナが、氷の尾根からこんなところまで移動してくるのはおかしいにゃん……?」

「たしかにそうですけども!」

嫌な話になってきたぞ。

未確認魔物に加えて、謎の密猟犯までいるかもしれないのか!?

「とはいえ『幻のスープ』の屋台って、別にすんごい高額だったわけでもないですよね?」

「にゃあ、スープは副産物ってことかも?」

「つまり、求めているものは別にある?」

「もしこのペングーが瑞獣なのだとしたら、『氷の心臓』を持っているはずだね」

「『氷の心臓』って、氷の乙女が持ってるっていうやつにゃ?」

吹雪の乙女に目覚めをささやくっていう、氷の乙女がペングーってこと?

その背を覆う髪は黒々と美しく、金の冠を飾り、肌は白く、唇は橙の実……。

背中は黒くて腹は白い、金の冠、くちばしはオレンジってことなら、たしかにペンギンではあるけども!

「吹雪の乙女と共に過ごしていたから、瑞獣は氷の乙女と呼ばれることもある」

「にゃん~」

『 純魔(マギカ) クエは北欧神話由来って話があったから、吹雪の乙女は氷の女王スカジ由来かなとか考えていたんですけどね……』

『北欧神話にペンギンは出ないにゃんよ~~!』

ペンギンは南半球の生き物だもの。北半球にはいないはずなのである。……まあ氷の常冬の街にペンギンがいなかったらいないで、さみしい感じがするので気持ちはわかる。

いやいや、突っ込みどころはそれだけじゃないぞ。瑞獣って、そんなドロップアイテムとかある感じなの?

風猫族の猫も、もしかして『風の心臓』的なアイテムを持ってる?

「瑞獣は、かつて乱獲された時代もあったそうだ。瑞獣のほとんどが人間と対立しているのは、そのせいだと伝え聞く」

「にゃあん」

「なかなかセンシティブな感じですね……」

「風猫族も、昔は故郷があったのだとか。それを失ったのは人間のせいだという説も」

「にゃあ~、風猫族はたぶん、故郷とか覚えてないだけにゃんね……?」

猫はそう思う。

お猫様に悲しい過去はあってほしくない猫心だ。

「それにしても、捕獲依頼があったっていうのは本当かい?」

「本当にゃん。ペングーベビーって書いてあったにゃんよ」

「ギルドに提出されているということは、認可のある依頼だ。まさか『氷の心臓』目当てで捕獲しているとは考えたくないが」

「そうですよ! 保護のためって可能性も高いんじゃないですか?」

「保護ならば保護のための施設があって然るべきだが、そんな施設は街にはない……」

「にゃん~~」

わからない以上、ペングーのヒナを冒険者ギルドに持ち込む案は、さすがに無しだ。