軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

9.酪農の里ファーム

はじめての街だって 転移施設(ポータルポート) であっという間。酪農の里ファームへやってきた。

牧歌的な風景が広がっている。山並みまで延々と続く平原が見通せる、開放的な場所だ。歩きで行くとちょっと大変な地形にあるので、 転移(ポータル) さまさまである。

里というから集落くらいあるんだと思っていたけど、なんというか大牧場に、ちょっと人の居住空間がある、くらい。

人の居住空間にもヤギや牛、羊に鳥などが入り込んでいて、そこかしこに犬が寝そべっている。牧羊犬なんだろうか? 残念ながら猫はいない。

うーん、動物王国。

まずはGPSにしたがって巡礼だ。こんなところに神像なんてあるのかと思ったが、お地蔵さんのように神像が並んでいる区画があった。

いちばん大きいのは牧畜の神。あとは名もわからない神だという。そのうちのひとつが巡礼の神像だった。ここも小さいタイプ。やはりアルテザが特殊だったんだな。

大きいのから参っておこう。お祈りアクション。

牧畜の神さま、こーんにーちはー。

『よく育め』

ポワンと光って声がかかり、加護をいただいた。やったぜ。

順番に名もなき神さまの神像にも参っていき、最後に巡礼の神像。

『あなたの上に導きがありますように――』

お祈りして例の文言、次の神像へのGPSを入手。よしよし。

次はお使いクエストだな。

「ワーッ! 待って待って、止まってえええ!!」

「にゃん?」

突然悲鳴のような声が聞こえて振り返ると、見えたのは巨大な白い毛の群れ。

「んにゃーーーーッ!!」

目の前が真っ白に染まると同時に、ドーンと激突、キラキラとお星さまが舞う。

あっ、これは何かに轢かれたな。

ぽんと宙に投げ出され、お空が見える。わあ、大きな入道雲……。

「いやあ、本当に申し訳ありませんでした」

「猫がマレビトじゃなかったら大惨事にゃんよ~」

撥ね飛ばされ踏みつけられのダメージコンボでそのまま送還かと思いきや、HP1残って無事だった。どうやらそういうイベントらしい。

行政施設の医務室と思われる部屋に運ばれて治療を受けて、現在。

猫を轢いたのは牧羊 犬(フルク) に追われた巨大羊の群れだったらしい。巨大羊はビッグメリーという白いフワモコで、普段はおとなしいが、追われるとかなりのスピードを出す羊だそう。もちろん巨体から繰り出されるタックルの威力はいわんや、大岩をも砕くという。おそろしや。

「いつもあんなふうに爆走してるにゃん?」

「ええ、いえ、最近入った牧羊フルクが大変な利かん坊でして。飼育員の言うことをなかなか聞いてくれませんで…」

「それは危ないにゃん~」

む、これはもしかしてブリーダーのクエストかな?

お使いクエストは調べてきたけど、ブリーダーのクエストはノーチェックだ。

ブリーダーじゃなくてテイマーの可能性もある? 牧羊フルクやビッグメリーがテイムできるなら、ちょっと気になるところである。

とはいえ、これが利かん坊のフルクをどうにかしつけるクエストだとしたら、猫、『指揮』も『統率』も持ってないのである。

この2種類なしに犬の躾って出来るもんなんだろうか?

「にゃあ、職員にテイマーはいないにゃ?」

「もちろんおりますし、テイムして『指揮』もしてるんですけども」

フルクの担当であるらしい職員さんは、頬に手を当ててため息をつく。

「どういうわけか全く言うことを聞きませんで…」

「にゃあ~…。何もわからないかもしれないけど、猫もテイマーでありブリーダーの端くれにゃ。件のフルクを見せてもらってもいいにゃ?」

「ええ、はい、もちろん構いませんよ。羊を追っていないときは、とてもいい子なんです」

おや、ずっと利かん坊なわけじゃないのか。それじゃあテイム解除して野に返すという選択肢はないのかな。

リアルだったら言語道断でも、ゲーム内だとそれが最良というパターンもあるので難しいところだ。

そんなわけでやってきた牧場のフルク小屋。

犬小屋といっても一匹だけ入る小さなものではなくて、わんこの集団が無理なく暮らせる一軒家といった様相。フルクのテイマーさんも一緒に暮らしているので、フルク小屋というよりフルクテイマーさんの家というほうが近いのかもしれない。

「ああっ、すみません、この度はたいっへんなご迷惑を、おかけしまして…!」

「にゃん~、この通りピンピンしてるからそんなに気にしないでいいにゃんよ」

猫を見るなり深々と頭を下げたのは人族の女性で、テイマーのミルカさん。

その隣でぺたんと伏せているわんこが件のフルクだそう。伏せたサイズで猫の肩くらいある。なかなか大きい。ハスキー系かな? 白い毛並みに、青い目をしている。

ハッハッと舌を出しているけど、猫たちに向かってきたりしないし、おとなしそうだ。

「このフルクが、ビッグメリーを追いすぎちゃうにゃんね」

「はい……。普段は本当に、とってもいい子なんですけども」

賢くていい子なのに、羊だけは追いすぎてしまうのだ、と困った様子のミルカさん。

「フルクの名前はなんていうにゃ?」

「まだ名前はないのです」

年少のフルクはお試し雇用という形であり、野に返すこともあるため、名をつけていないという。ちゃんと仕事の出来るフルクであることがわかって初めて契約するのだそうだ。

NPCテイマーはマレビトと違って、どんなにランクやLVが高くても飼育数は3匹までと決まっている。だからそういう前契約があるんだって。なるほどなあ。

ミルカさんにとっては最後の1匹となるので、慎重に見極めたいところらしい。

猫が見たところでは、フルクに異常はなさそうだ。触らせてもらっても動かないし、とてもおとなしい。

うーん?

「にゃあ、ビッグメリーの方を見させてもらってもいいにゃん?」

「構いませんよ。お産したばかりのビッグメリーもいますから、子メリーにはあまり近づかないようにしてくださいね」

「了解にゃん~~」

ちょうど厩舎へ集めたところだというので、早速観察へいく。

巨大な羊だけあって、厩舎自体もでっかいし、広い。見て回るだけでもなかなか大変だ。

見たところ、全部普通のビッグメリーっぽい。

賢い牧羊犬のなかには怪我した羊や病気の羊に気づく能力をもったものもいると聞いたことがあるし、この名もなきフルクもそういった特異な能力持ちではないかと疑ってみたのだが……。

……あれ。

今みた羊、なんか変だったぞ?

つらつらと考えつつ目視確認していた羊の群れから、ちょっと戻る。大きなビッグメリーの下に、小さなメリーたちがワラワラしているところ。

生まれたばかりの子羊といえど、母がでかいせいかこちらもすでに普通の羊サイズである。羊ってなかなか大きい。まあ猫が小さいから、大体のものは大きく見えるのだが。

問題はそこじゃない。

1匹だけ、赤いベルみたいなのがついてる子羊がいるのだ。

よく見ようとすると母羊が回り込んできてしまってよく見えない。

ううん、でも気になるぞ。

「子羊に飾りをつけたりはするにゃ?」

「飾りを? いえ、そんなものはつけたりしませんけども」

「にゃあん…」

絶対つけてる羊がいるんだけどなあ。

ちょっと離れた場所までいって、振り返って観察するとやっぱりいる。

赤くて丸いベルみたいなものが、羊の首についている。

なんかあのベル、見たことあるんだよな。緑の飾りに、赤い丸いベルがついてて、まるでトマトみたいな。

トマトみたいな赤い実を持つ……羊?

なんかそれ、猫知ってるな。

具体的にいうと最近、マイルームでも見た。

猫の倉庫部屋で育てているやつ。最近、逆立ち状態から全身が出てきたと思ったら四足歩行になって、倉庫内をちょっと歩いていてビックリしたのだ。あれはホラーだったね。

そう、悪魔の木の実、バロメッツである。

「にゃん!?」

このゲームのバロメッツは育ちきると独立歩行するらしい、というのは猫が実証済みだ。ちなみに1匹出てきたと思ったら2匹目の蹄が出てきたので、バロメッツの植木鉢は今、箪笥の中に封印している。

出てきた羊とは従魔契約が可能だったので、早速契約した。

そんなわけで猫の従魔にはバロメッツのバロンが加わっていたのだけれど、これが悪魔の木の実と言われるだけあってなかなか癖が強いのである。畑の雑草取りに使えるかと召喚してみたら、真っ先にモリーを食べようとしたので畑は出禁になった。

植物モンスター特効ということなのだろう。弱点は飾りのようについている赤い木の実で、ここを攻撃されると弱い、らしい。攻撃したことないから知らんけど。

閑話休題。

あの子羊、バロンに似ているのである。バロメッツなんじゃないかなあ。

この牧場にバロメッツがいるということは、どこかにバロメッツの本体…というか、種がまだ植わってる可能性もあるし、危険だと思われる。周辺一帯の植物を食べ散らかすという悪魔の木の実であるからして。

もしかして名もなきフルクくんは、バロメッツを退治しようとして追いかけ回していたのではなかろうか?

「――と猫は思うんだけど、どうにゃん?」

「ま、まさか悪魔の木の実がこの里に!?」

ミルカさんは青ざめ、すぐに里長に報告してくると飛び出していってしまった。

かと思えば大慌てで里長も出てきて、里全体でまず平原から悪魔の木の実の本体を探そうという話になった。

「にゃあ、猫の話を疑わないにゃ?」

これまでなかった植物系モンスターが突然現れるなんて、だいぶ荒唐無稽な話のような気がするのだが。

「実は先頃、ロックランドバルバトロスがこの先の山に住み着いたことがあったのです」

「にゃあ」

なんだか懐かしいお名前。初代ロマン羽根の主ですな。

「羊を盗んでは糞を落としていく、とても厄介な鳥でしたが、恵まれたこともありました」

ロックランドバルバトロスの糞にはさまざまな植物の種子も含まれていて、それはこの村では手に入らなかったものも多かった。新たな植物に恵まれ、里の畑は前より豊かになったらしい。

「もちろんロックランドバルバトロスは害鳥です。冒険者ギルドに依頼を出していたところ、マレビトによって退治されました」

「よかったにゃん~」

「はい。それで、糞が落ちた種塚からはめぼしい植物がなくなったこともあり、近寄らなくなっていたのです。ところが…」

里長は沈痛な面持ち。