軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

25.精霊の丘

緑の火はユラユラと揺らめきながら形を変え、手足を持ち、燃える人間形になった。

「大地の収穫」

猫の荷物から『白ラコラ』が捧げられ、光りながらくるくると回る。

光はだんだん大きくなっていき、馬車になった。ラコラの馬車だけあって真っ白で、どことなく瑞々しい。いや馬車に瑞々しいってなにって話なんだけど、なんか艶めいてるのである。立派になって…。

「大地の生物」

ペチカちゃんと猫の肩からふわりとムムちゃんとレトが浮かび上がり、馬車の前へ立つ。すると体が光り輝きながら大きくなり、2匹とも葦毛の馬になった。

あっ、がま口が消えてない。首からがま口下げてる!

シャランと光の帯がのびて、2匹を馬車へと繋ぐ。

『ムムちゃんが立派なお馬に…』

『本獣たちも心なしか自慢気にゃん』

『ほんとですねー!』

『これ最大PTなら6頭立てに出来たかもしれないにゃんね』

『たしかに! 王室御用達みたいな6頭立て馬車、見てみたかったですねえ』

ペチカちゃんと思わず 写真(スクショ) を撮りまくってしまう。いや、こんな機会は二度とないと思って。

そしてラスト。

「大地からなり大地と触れあうもの」

ペチカちゃんの荷物から『ロキの靴』が捧げられ、燃える人間はその靴を履く。一瞬おおきな火柱が上がり、真っ白に火の色が染まった。

マグネシウムのように炎を噴き上げたそれは次第に収まっていき、あとには燐光を放つ少女が残される。

「えっ」

「にゃん!?」

それはどこからどう見ても、ユーリハーだった。

「我は約束を繋ぐもの」

ユーリハーらしき少女がそう言うと、猫の荷物から『切れた妖精リボン』が捧げられる。

『にゃあ、これって『切れた妖精リボン』のクエストだったにゃ?』

『そうっぽいですね!?』

リボンがふわりと伸びて少女を包み込んだ。光の裾が広がり闇のなかに輝く。長く尾を引く、華やかな青いローブ。

これは情報サイトで見たことあるやつ。

ユーリハーの戦闘用装備だ!

「ああ、鐘が鳴る前に行かなくては…」

「そのお衣装でどこに行くにゃん!?」

舞踏会じゃなくて武道会だったやつ!?

「なんかこれBOSS戦みたいなの想定されてそうなとこありましたっけ!?」

「にゃ、にゃあ…、ルイネで大規模レイドが開催されそうって情報はたしかにあったにゃん…」

「それ私も知ってますぅ! ぜんぜん関係なさそうって放っておいたところにきてしまいましたね!?」

いや、ほんと、まさにそれ。

シンデレラだと思ったまではよかったけど、シンデレラがどこへ行くかなんてまったく考えてなかった!

「いざ行かん」

ユーリハーがいい、御者台にひらりと舞い上がったかと思うと、馬車の扉が開く。

「あっ、これ私たちが乗るための馬車なんですね!?」

「連れてかれるにゃん…!」

そう言いつつ、乗りこむふたり。だって乗らないと進まないみたいだったし。

こんなイベントが起きるなんて思ってなかったから、猫の連れている従魔はルビーだけだ。あとロニ。ペチカちゃんとPT組んでたし。

ルイは精霊の祠の前に繋いでいた。従魔は主人から距離が離れすぎると、牧場かホームに自動送還されてしまう。きっと戻されてしまうことだろう。にゃん~!

「御者はオオネズミでしたっけ。マルモの数が足りていたら、ユーリハーも馬車に乗ったんでしょうか」

「にゃあ、でもトカゲのお付きも省略されてたにゃん?」

「そうでした。……向かっている間にレイドについて調べてみましょうか」

「賛成にゃん~」

調べてみるとすぐ見つかった。『改!フェアリーゲート登場』というスレだ。

フェアリーゲートってなんか聞いたことがあるな。

「たしかメインストーリーの最初のレイドだったと思います。二番目が「ミミット大行進」で」

「にゃあ、思い出したにゃん!」

猫が初日にガンガン進めたお使いクエストで出てきたのだった、フェアリーゲート。もうすっかり忘れていた。忘却の彼方だったといっていい。

フェアリーゲートは『狂った精霊』を怒らせてしまったことで起きたレイドだ。

精霊は自らの消滅をかけて世界の滅びを願い、異界の扉を開いた。そしてそこから偽妖精界につながり、偽妖精が流れこんできた……というのが、ゲーム初のレイド『フェアリーゲート』である。

今から考えると『狂った精霊』ってことは、たぶん堕ち神さまみたいなものだ。それを怒らせてしまったのだから、災いがもたらされるのもしかたない。

『死したはずのメインストーリーのBOSSたちが大月の力でよみがえる…というシナリオが各地で起きているみたいです』

『なんてはた迷惑にゃん』

ティアラさんのいってた復活 祭(まつり) ってこれか!

それに、村人の言っていたもっと根源に近いもの、ってのもそういうことだったのかもしれない。

しかしこういうレイドって、暗黒夜に起きるものだと思っていたのに。

今回は特に第一エディションのメインストーリーBOSSを中心に復活しているらしく、掲示板はかなり盛り上がっていた。

第一エディションのストーリーBOSSというと、ミミット大行進とか、噂のワイバーンのところの赤ジェリもなんじゃなかろうか。後者はちょっと怖いもの見たさがあったけど、掲示板がSAN値チェックしてたので行かなくて正解だったのだろう。

「改というだけあって、かなり強化されたBOSSみたいですね…」

「にゃああ」

そんな強化されたBOSSのところへ行っても、猫たちなにも出来ないんじゃない?

精霊の祠を飛び出た馬車は一路、精霊の丘を目指して駆けていく。

馬車には窓がついているので外も見える。

わあ、花畑の上にどす黒いクリーチャーみたいなのいる……。

あれが大BOSSで、取り巻き大量召喚みたいなタイプらしい。なかなか毒々しい色が飛び交っている。

「これ、猫たち降りた方がいいにゃん?」

「あ、さっき確かめたんですけど、ドア開かないです」

「にゃん!?」

まさかの降車拒否スタイル。

「乗車人数で戦闘力が変わるタイプのイベント助っ人なんじゃないかなあと考えていました」

「ありそうにゃん~。その場合は猫たちヨワヨワにゃんね…」

「そこはもはやどうにもならないところです…!」

ペチカちゃんとほのぼの話している間にも馬車は取り巻きと衝突し、おそらくはユーリハーらしき少女がバッタバッタと敵をなぎ倒している。さすがお強い。

「偽ユーリハーさんのHPが尽きると放り出されるタイプかにゃ?」

「あっ、たしかに馬車のHPゲージありますね! これは中から回復出来るんでしょうか?」

言いながらペチカちゃんがおもむろに杖を掲げ、『ヒール』を唱える。馬車の内装が輝き、HPゲージがわずかに回復した。

「出来そうです!」

「なら猫たちに出来るのはひたすら馬車の回復にゃんね」

ペチカちゃんの方がLVと魔力が高いので、回復はお任せして猫は『トランスファー』でペチカちゃんのMP回復に勤しむことにした。ロニもいるので、MPはそこそこある。

「この馬車はムムちゃんやレトちゃんでもありますから、倒されないように頑張りましょう!」

「やるにゃん~!」

ペチカちゃんはマッスルミミットのミミちゃん、ドゥドゥー(ダチョウ)のメメちゃんを前衛に、ブルーペングーのペペちゃんが魔法アタッカーを勤めるテイマーだ。ペチカちゃんの位置は必然的にヒーラーバッファーなので、ヒールのLVが高い。

ちなみに普通の『ヒール』と『クイックヒール』を使い分けているという。オーソドックスなヒーラーだ。

「にゃっ」

外でなにやら光の柱が立った。あちこちで光ってるな。

「なんか見たことがありますね?」

「『不思議な栞』にゃんね!」

「あっ、なるほど!」

偽妖精界から来るという『フェアリーゲート』なら『不思議な栞』の効果が使えるのか。

とはいえあれも事前準備が必要なアイテムだし、今回使うのは無理そう。あれからちょっと栞は増えていたので、残念。

外に立つ光の柱を眺めていたら、今度は猫たちが光に包まれた。

「わわ!?」

「にゃん!?」

どうやら外で戦ってる人が猫たちの偽ユーリハーにバフをかけてくれたらしい。ついでになにやら効果も載っているようなので、『不思議の栞』のバフ対象をこの馬車にした模様。

周囲で緑の炎が燃え上がり、渦巻いていく。バチバチとメタリック星が上がる様は壮観だ。強い。

馬車はそのまま大BOSSを目指したが、辿り着く前に有志によって倒されてしまった。ちょっと残念。

大BOSSが倒されると、ガラン、ガランと鐘に似た音が響き渡る。

「鐘が鳴りましたね…」

「舞踏会の終わりにゃん」

馬車はゆっくりと溶けていき、後には白ラコラが残される。なんか…なんかシュール。

そして馬はマルモへ戻り、それぞれの主人の肩へ駆け上がった。おかえり、レト、ムムちゃん。

それにしても、花畑の踏み荒らされた精霊の丘、人がいない。いつの間にかイベント空間に入ったらしい。

杖を掲げ、狂った精霊の亡骸の前に立ち尽くす人影。ユーリハー(本物)だ。

彼女はこちらへ気づき、そして偽ユーリハーに気づく。

偽ユーリハーは炎を上げると、徐々に小さくなり、大きな耳を持ち、長い何本もの尻尾を持つ妖精ヴィへと変わった。白狐っぽい。

「おまえは、ヨハンの……」

ユーリハーが手を伸ばそうとするが、白狐のヴィは炎に溶けるようにして消えていく。ユーリハーは目を見開き、歪め、唇を噛み締める。

きっとメインストーリーをしっかり追いかけてきた人には感動的なシーンなんだろうな~。猫はいまいちユーリハーに思い入れがなくてわからない。ここにいるのが猫でごめんよ。

ついでにレイドの経験値が来て猫、LV30になりました。レベルアップは10刻みで花火が上がる。猫の背後でドンドコ花火が上がってて余計すまない。

チラリと横を見ると、ペチカちゃんは両手を握りしめて目をキラキラさせていた。…うん、こういうのとても好きそう。

そんな余所事を考えていたからだろうか。青月夜の月光がキラキラと猫へと降り注ぎ、ペチカちゃんさえフッと消える。

『にゃ!?』

『わあ!?』

あ、ちゃんとPTは組まれている。

『これ妖精契約のやつですね!?』

『にゃあ、なるほどにゃん!』

妖精契約では、契約のために一度、妖精界へ連れ去られる。二度目だけど、情緒もなにもなくカットインされるとびっくりしてしまうな!

猫を導いてくれるヴィは白尾のヴィだが、さっき現れた妖精よりは尾の数が2本と少なく、かなり小さい。30cmもないんじゃないか? あの子の子どもなんだろうか。

いや、妖精ってそもそもどういう生態をしてるのか謎だし、ただ同じ種類ってだけかな。