軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

幕間:本屋さんのレシピ

「『文字水溶液』を作ってきたら『惑えるインク』の作り方を教えてやる」

「にゃん??」

本日雨天。自由都市マケットは滅多に雨の降らない地域なのだけど、たまにほんの少しだけ雨が降る。雨が降るとNPCの対応が変わったりするので、プレイヤーにとってはちょっとしたサービスタイム。

そんなサービスタイムを利用して本屋さんに遊びに来たらば、この通りである。

「『惑えるインク』って、ウニョウニョ動くやつにゃん?」

「『錬金術』にも使えるって話は聞いたことがある」

ポコポコと煙を吐きながら、本屋のお爺さんが言う。

本屋出禁事件から明けてしばらく。フーテンさんに連れられて行ったら、ごく普通に入店出来ちゃって呆気に取られたのは記憶に新しい。しかも別に猫に用事があるとかじゃなくてスルーされた。出禁にされてましたのに! ちょっと悔しかったけど、元通り本屋さんに入ることが出来るので、まあよい。

お金ないけどフラフラ立読みによく訪れている猫を邪険にしないのでお爺さんはいい人である。……まあ、立読みしたくても背表紙が見れるだけで、中身は読めないんだけども。

「そういえば『製本師』もインクはいるにゃんね。共通にゃん?」

「さあなァ」

白い煙がぷかぷか。

ふむ…。もしかしてこれは本屋さんの貴重な…デレ!?

これを逃す手はないぞ。

「にゃあ、『文字水溶液』にゃんね、任せるにゃん!」

それが何で出来てるかもわからんけど、猫に話を持ってくるということは猫が作れるアイテムなのだろう。やってやろうじゃないの!

……と意気込んだはいいものの。

「なにもわからないにゃん~~!」

掲示板に情報なし、マケボ販売履歴なし、頼みの綱の大商人も「聞いたことないにゃんね~~」とのことでまったく手がかりなし。

猫の持つ生産スキルは『錬金術』『魔道工』『調薬』『料理』。一応、全部のギルドの書庫は回ってみたけど該当のレシピなし。受付さんにも聞いてみたけど情報なし。

これはなかなか手強いどころの話じゃないな!?

いや、ものはわかるんだ。

『文字水溶液』というからには、おそらくは『動く文字』を溶かしてインクに変化させるためのアイテム。

つまり以前に本屋さんが扱っていた、小さな瓶に入っていた透明な液体。あれがそうだと思われる。

でも、見たことがあるだけなんだよなあ…。

さすがに「小瓶に入った透明な液体」だけでは、絞りきれない。

他に『動く文字』を扱うところといったら、 廃都(ルイネ) の役所か、あるいは探索者ギルドか。

まずは近場から、ということで探索者ギルドへ来た。

「『動く文字』を回収したあとどうするかって?」

「そうにゃん。『文字水溶液』を使ってるんじゃないかと思ったんだけど」

「卸し先によって処理のしかたは変わる。そこから先はナイショだよ」

探索者ギルドの受付お兄さんはなかなか手強い。

「にゃん~~」

「『動く文字』の卸し先が知りたいなんて、本でも作ってもらいたいのかい?」

「知りたいのは『文字水溶液』の作り方にゃん~」

「ああ、あれは『動く文字』がたくさん必要だからね」

「にゃん???」

「うん?」

「『動く文字』が大量に必要にゃん?」

もしかして、『動く文字』を溶かすための液体じゃない?

「文字を大量に溶かした液体が『文字水溶液』だよ。作るのは大変だそうだね」

「にゃあ、そういうのが知りたかったにゃん~! 溶かすのに必要なのが『文字水溶液』だと思ってたにゃ」

「溶かすのに必要なのは『溶解ポーション』かな」

まさかの投擲用アイテム。たしかに投擲用ポーションは小瓶に入っているものだ。完全に騙されたぜ。

「ありがとうにゃん!」

「どういたしまして? もし集まりきらなくても、『溶解ポーション』も『動く文字』も、納品を受け付けているからね」

「余ったら納品に来るにゃん~」

さて。

そんなわけでまずは『溶解ポーション』製作としよう。

『溶解ポーション』は投げると敵にダメージを与えることの出来る投擲用アイテム。『調薬』で作れる最初の投擲用ポーションである。

それだけにごくごく初期の『調薬』レシピとなっており、材料はジェリのドロップである『ジェリ水』5つと、『極小魔石』1つとお手軽、簡単!

しかし、実は現在『溶解ポーション』より『ジェリ水』の方がマケボ価格が高くなってしまっている。

原因は『ジェリ水』を大量に煮詰めると作れる『ジェリーゲル』という別アイテム。これが『リジェネポーション』の材料なので、『ジェリ水』は常にそこそこの価格で取引されているのだ。

一方、ほぼ『調薬』LV上げアイテムに過ぎない『溶解ポーション』は無料同然の取引値。するとどうなるか。

マケボ販売されないのである…!

はい。

そんなわけでジェリを乱獲するところから始めたので時間がかかってしまった。

ちょうどこの前、冒険者ギルドの依頼達成数が足りないっていうんで『ジェリ水』を大量納品したところだったから…。在庫一掃なんてするもんじゃないな! やはり100は取っておかないと。

生産施設を借りて『ジェリ水』から『溶解ポーション』を生産していく。

あ~~コンロ買っておけばよかったなあ~! お金なくなると一度はあきらめたあれやこれやが幻影のようによみがえってくる。この現象はなんなんだろうね。くぅ!

特につまることもなく『溶解ポーション』は完成。今度は『動く文字』。

これは本屋さんに行けない間に貯めていた『動く文字』があったので事なきを得た。いや、本屋さんに一度は渡そうとしたんだけど「今は必要ない」って、受け取ってくれなかったんだよね。このクエスト?のための布石だったのかもしれない。

しかし今お金ないから、助かった。 転移施設(ポータルポート) もそうそう使えないし、危うくまたいつかの棚上げになるところだった。

『動く文字』を摘まんで、『溶解ポーション』の中へ入れていく。ポイポイ。

10文字ほどいれると手応えを感じた。

お??

ジワジワと文字が溶けて緑や青色がポーション瓶の中へ広がっていく。くるくると瓶を振ると、『溶解ポーション』から『文字水溶液』へ変化した。成功! やったぜ。

10文字で通常品質みたいだ。ポイポイ入れてたから見逃したけど9文字あたりから低品質で作れたのかもしれない。まあ結果オーライだ。

材料的にあと何個か作れそうだったが、今後どうなるかわからないので作るのは1個だけにしておく。

いざ行かん本屋さんへ!

「『文字水溶液』作ってきたにゃんよ~」

「思ったより遅かったな」

くっ、ジェリ狩ってたりしましたし…!

いや、これはきっと本屋さんのツンデレのツン成分よ。

早速『文字水溶液』を渡すと、本屋さんは光に透かして見たり、瓶を揺らしたりして確認した後、ひとつうなずいた。

「まあ、合格だ」

「しっかり溶かしてきたにゃん」

「あと2文字多く溶かしてたら上出来だったな」

「にゃん~!」

そうすると高品質か、最高品質になってたのかな?

品質の指定はなかったし、これはきっとツン。……いや、ツンに見せかけたデレかもしれない。高品質へのヒントをくれてるんだもんね。

「『惑えるインク』の材料は『文字水溶液』『純魔石』『魔法のゲル』」

「『純魔石』にゃ?」

聞いたことのない素材だ。

『魔法のゲル』はたしか持ってたな。初心者アイテムの合成実験で作ったやつだったはず。あれって結局、学園都市の採取素材だったんかな? 聞き損ねてたな。

「素材については自分で調べな」

これは間違いなくツン!

「しっかり混ぜたら、錬金術師に持ち込め」

「にゃん? 猫、錬金術師にゃんよ?」

「それならどうしたらいいかわかるはずだな」

「にゃ、にゃん……!」

反論できない…!

自由都市の錬金術師、バルトロさんは捕まっちゃったから会えないし、あと猫の知り合いのNPC錬金術師といったら、魔道具マーケットの雇われ店主、ルドルフさんくらいしかいない。うっ、 転移(ポータル) 代…!

い、いや、猫にだって見たら分かるかもしれないし! これまでのところに何かヒントが………あったか?

とはいえ、錬金術で出来ることといったら単体での『圧縮』か『変成』、あるいは『錬成陣』にかけるか。いや、いっぱいあるな。いろいろある! やっぱり持ち込まないとダメなやつ?

「もし『惑えるインク』ではなく『古書のインク』が出来たら高く買うから、頑張るといい」

「『古書のインク』にゃんね。了解にゃん~!」

よし、早速本屋さんから教わったレシピを試してみよう。

まずは新しく『文字水溶液』を作成する。1文字ずつじっくり溶かしてみると、8文字で最低品質に作れた。

錬金術の素材にするなら品質は悪い方がいいだろう、てことでとりあえずこれを利用してみることに。

次に『純魔石』。これは錬金術ギルドの秘密の書庫で調べ直したら見つけた。『極小魔石』を3つで圧縮すると『純魔石』になる。3つというところがにくい。10個だと失敗するレシピ。

『魔法のゲル』。掲示板を調べたところ発見。学園都市に生息するマジックジェリの一種、トラップジェリを、燃やさずに採取することで手に入る。

トラップジェリってことは、罠なんかな? 燃やせば簡単に片付くところを、あえて漢解除することで入手できるアイテムらしい。

空を飛べる『採取』持ちか、『10フィート棒』があると簡単に採取できるんだって。ふむ、ルビーがいれば猫にも採取できそうだ。

『魔法のゲル』は『ジェリーゲル』の代用になるようだが、トラップジェリの生息数がそもそもそこまで多くないため完全な代替にはなってないらしい。

買おうと思えばマケボで買える価格だったのでありがたい…。

そんなわけで材料が揃ったので混ぜる。

混ぜたら錬金術師に持ち込めと言われていたけど、どうしたものか……と思っていたら気がついた。これ、当たり前だけど『純魔石』は溶けていないのだ。

ということは、溶かさないといけない。

『錬成陣』で『クリエイトウォーター』するか、変成で水のかたちにするか、どちらかということになる。そして変成するなら先に『純魔石』の効能を水に移しておくべきだったね。

うん、まずは錬成陣にかけてみよう。サイズも『真円錬成陣』にちょうどよさそうな小瓶だし。

込めたい魔法は特にないので、無属性にしておくかな。

つまり『 接(セツ) 』をプールして『クリエイトウォーター』で押し出す。

ピカッと光って無事『惑えるインク』が完成!

やったぜ。

たぶんこれはルドルフさんが使ってた、『魔道工』に使うインクだろう。『魔道工』に関しては錬金術ギルドの秘密の書庫にちょっとだけさわりの部分があるので、またチェックしておかねば。

今は『動く文字』が足りなくて試せないけど、『古書のインク』が作れるようになったら本屋さんにもお礼に行きたいところだ。

次に目指すは廃都のドゥーア。未だ見ぬ図書室も楽しみだな~!