軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

66.林檎の木

林檎はさておくとして。

異界の扉と化してしまった人形遣いの村。ストルミさんが生け贄となって止めた後も、異界の扉は完全に封じることは出来なかったらしい。

『ルイネアは、生まれたばかりの……いや、生まれる前の精霊に過ぎない、ということね』

苦笑気味にストルミさんは言う。

生まれたばかりの精霊では、異界の扉を封じるに足りなかったというわけか。

「それじゃあ、生け贄になり損にゃん?」

『ルイネアは原初の精霊の子。私たちが身を捧げた場所には、精霊が訪れてくれるの』

「獣の神さまはそれで来てくれたにゃ?」

『然り。かの神は、正しくは反転の神であった。晴れと雨の顔を持ち、ふたつの様相を入れ替える。……人によって名付けられて長い時を経て、その姿も変幻してきているが』

獣の神について答えてくれたのは羊だ。

なる、ほど?

『元々ふたつの顔を持つ神さまだったのね』

『石像も二面性と言われればそんな感じがしなくもなかった…かな?』

うん。でも、あれ??

石像がアルテザへ行っちゃってたら、村の異界の扉を封じることは出来なくないか?

「人形遣いが石像を彫ったって聞いたにゃ?」

「その人形は、主の遺作であったのだ。けれど、アルテザに奪われてしまった」

「にゃあ」

石像ではなく、元は遺作である人形に宿っていたらしい獣の神さま(大精霊)。どうやらこれが、大きな羊と共に目撃されていた『半裸の獣面の男』であるらしい。

しかし老朽化してしまい、人形はアルテザへ迎えられ、代わりとしてその人形を模した石像が建立された。

『うーん、なんともいえん…』

『廃村に壊れた人形があって、それに神々しい気配がしたら『新たなご神体を作らねば!』てなる気持ちは理解できるわね』

『持って帰って位置変えしちゃったのは若干アウトだけど、廃村はミニダンジョンだしね』

『善意のアクシデントやな』

『獣の神は、石像によって獣の面を持つ半人半獣の神とされるようになり、他の獣人神と特徴が似ていたことから名前が『獣の神』になっちゃった……てこと?』

そして結局、異界の扉は閉まりきらなかった、と。

羊が布を要求していたのは、布で出来ている自分の修復のためだったそうだ。

「ぬいぐるみにゃん!?」

『いかにも』

『私が初めて契約した精霊だったわ』

シャイアネイラさんと同じ、人形遣いの精霊が人形遣いになってるパターン。精霊って、成長するとかなり器用になるんだなあ…。

獣の神のときには素材もなく、修復も間に合わなかったが、アルテザとコミュニケーションを取ることで材料を要求し、スプーキー・インプたちの手を借りて、どうにか自身を維持していたのだとか。

メエメエ様の儀式はそういうことだったわけね。

ちなみに元々アルテザはめちゃくちゃ雨の多い立地で、それを獣の神――反転の神が守っている、という構図で正しいみたい。獣の神はアルテザへいっても羊を気にかけてくれていたらしい。

そしてスプーキー・インプは元々、ここが人形遣いの村だった頃は、子どもが初めて作る人形のレシピだったんだって。刺繍したハンカチにリボンを結ぶだけの簡単な人形。そしてそれを小人のぬいぐるみボディに移してあげることが、最初の試練だったのだとか。

ストルミさんが存命の頃はそうして作成した小人をアルテザへ旅立たせたりするのも修行の一環だったけど、だんだん捕まって帰ってこなかったりするようになって、アルテザへ行かせるのは廃れたんだって。

人形遣いがいなくなったのになぜスプーキー・インプが作られているのかというと、そうして人形遣いに作られた小人が、今は人形遣いになってるから。これも羊と同じく、自身を修復しつつ時を繋いできたらしい。

そう考えると中身が精霊の人形遣いって、ある意味、不老不死だよなあ…。

かれらとしては、昇華して自身を大精霊に育ててこの揺らぎを埋めたかったのだけど、どうやら昇華して自身を育てるっていうのは、精霊自身にはかなり難しいらしい。

精霊は人形遣いにはなれても、精霊使いにはなれないってことなんだろうね。その辺がギブアンドテイクなのかもしれない。昇華させてあげるのが精霊使いの役目。

『林檎の木のおかげで、ようやく揺らぎを封じることが出来た』

「後はこの木が成長すれば、完全に異界の扉は閉ざされ、安定するでしょう」

木の成長か。それって、たぶん、あれよね?

『林檎にDP注ぐにゃんね?』

『あの表示からするとそうでしょうね~~』

『私たちDP使うところないと思うので、ご入り用なら入手した分、ドーンと出せますよ!』

今回入手したDPは1人40DP。かける29人。……余裕で賄えてしまう。やはり数はパワー。

相談した結果、注ぐDPはアルテザを拠点にしている人が多め、それ以外は少なめということで決着した。

裁縫師互助会は、やはりDPを持っていても仕方ないだろうからここで使いきりたい、という要望。これはショーユラさんも同じく。

オードリーさんも互助会の一員だし、特に使いどころもないからと参加。

そんなわけで裁縫師たち全員がまず手持ちのDPをすべて注ぎ込み、猫たちが残りを出すことになった。

ティアラさんたちやフーテンさんたちはマレビトダンジョンのためにDP貯めてたはずだけど、「林檎の木がどうなるのか見たい」とのこと。今回入手分で賄えるし問題ないって。

みんなでDPを注ぐたびに、樹がぐんぐん育っていくのはちょっと面白い。某アニメ映画のどんぐりを思い出してしまう。

『これがマレビトの奇跡の力…!』

『異界へ干渉する力とはこのように作用するのね…』

羊とストルミさんが言っているのは、うっかり忘れそうなマレビトの設定のことだろう。

マレビト――つまりプレイヤーの持つ、マイルームとインベントリは異界へ干渉する力だと言われている。

マレビトは異界を操る力を持っている。鞄すら持たずに大量のアイテムを持ち、なにもない場所に扉が開けるのは、体内に小さな異界を持っているせいだ。そしてこの異界は安定しており、世界を揺らがせない。

死の概念がないのもまた、異界へ消えることが出来るからだ、と。

ゲームのご都合といえばその通りなんだけど、そういう理由付けがされているのだ。まあ、マイルームはダンジョンで開けなかったりと制約はあるんだけどね。

そういう観点からいくとDPとは、異界の扉からこちらの世界へはみ出ていた異界をマレビトの異界へ回収したもの、と言えるのかもしれない。だからダンジョンを消し去ったり、ひとまず落ち着かせたり出来る。

DPとして入手した異界は、インベントリやマイルームのように、マレビトの扱える異界になる。だから塞がりかけてるけど塞がらなかった異界の扉にDPを注ぎ込めば、安定した人工ダンジョンを作り出すことが出来る……ということ、かな?

ルイネの林檎にDPを与えると成長するってことは、林檎は異界の扉から養分を取って成長する植物なのだろう。林檎がマレビトの代わりをする。

やがてぐんぐん育っていった林檎はポン!と花を咲かせる。

『おおお、『ルイネの林檎』、ワンチャンくる~?』

『入手できたらかなり実入りのいいクエストになってしまいますわね!』

見守りつつも順番に注いでいくと、青い実が付き、徐々に赤くなっていく。

そして。

『マレビトダンジョンが開通しました』

『クラン『裁縫師互助会』がマレビトダンジョンを所有しました。情報を開示しますか?』

「いいえ!」

間髪いれずヘレナさんが悲鳴のように否定した。

わあ。林檎の木でもダンジョンになっちゃうのか。マレビトパワーが上回ってしまった。

通常通りに成長した場合はどうなるんだろ? 何処かにそういう木もありそうで気になる。

『そうきたかー』

『それとこれとは別物と思ってたのに生えちゃうのかダンジョン』

『ど、どうしましょう、こんな、私たちクエストらしいことはほとんどなにも出来てませんのに…!』

『ぼくも精霊までもらってるのに、これいいんです!?』

ヘレナさんたちは動揺してるけど、そうは言ってもなあ。

すでにダンジョンを所有している神官農家たちの情報で、DPを多く出している人の方が権限が大きいと聞いている。

猫も20DP出したので、一応共同所有者となり、ダンジョンへの侵入や施設利用が可能になるらしい。へええ! ちょっと面白そう。

でも林檎の木に入れるだけで十分かな!

『にゃん~、猫はまだダンジョンはいらないにゃん』

『私も、マイルームすら全然整えられてませんし!』

ペチカちゃんと猫はマイルームも整ってないからと所有を辞退。

『こっちは、いずれ自分たちだけで取りたいと思ってる』

『せや、DP貯めてるとこやねん』

『別荘みたいな感じでね~~』

『1人100か、200もあれば取れるみたいだしね、そう遠い話じゃないよ』

フーテンさんたちは、取るなら自分たち専用のダンジョンがいいからと辞退。

『わたくしたちも、取るなら硝子連合専用で取りたいですわね!』

『砂取り放題、鉱石取り放題のダンジョン! 憧れですねー!』

『工房も作りたいよなあ』

ティアラさんたち硝子連合も専用ダンジョン狙い。

マレビトダンジョンは開通した土地の影響をかなり受けるようなので、廃村ミニダンジョンに繋げば銅と金、砂は採れるため条件はいい。でも今回はお手伝いにきただけだし、アルテザにあるならドゥーアにもあるはずだから、と譲る姿勢だ。

結果このマレビトダンジョンは、そのまま裁縫師互助会とショーユラさんで共同所有となった。

なかなかアルテザには寄らない余所者より、近所に住んでる人が管理する方がいいだろう。

『やー、しかし、所有はいいけど防衛どうする~?』

『……あ!』

そうだった、マレビトダンジョンってCVC要素含んでるんだっけ。

ありゃ、防衛能力のない裁縫師互助会には重い荷物になってしまうだろうか。

…と、思っていたら思わぬことがわかった。

『界が安定してしまえば、この異界はマレビトの力に飲み込まれる。林檎の木もこの村に隠しておくことが出来るだろう』

??どゆこと?

どうやらミニダンジョン『廃村』の中にマレビトダンジョン『林檎の木』がある状態だけど、これから安定すると廃村ダンジョンは林檎ダンジョンに飲み込まれるよ、という話らしいんだけど。

それで何が起きるのかが、詳しく説明してもらってもいまいちわからない。

しかしこれについてはマレビトダンジョンの説明を熟読していた互助会の面子から発見があった。

『『情報を開示しない』を選択すると、林檎ダンジョンはCVCの対象にならないそうです!』

『その代わり、DPを注いでも林檎は生らなくなっちゃうみたいです』

ちょっと覗いてもらったら、林檎生成5個で2000DPかかるらしいから、なくなっても惜しくないってさ。

『そんなものより平和です! 平穏は何者にも変えがたき幸福なのですから!』

うんうんとうなずく着ぐるみたち。

たしかに平和なのがいちばんいいよねえ。

そんなわけで林檎の木が生えちゃったり、マレビトダンジョンが生えちゃったりしたアルテザの赤月夜は幕を閉じたのだった。