軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

60.お約束と怖い話

お次は泉だ。

うーん、綺麗な泉ですね。

澄んだきれいな水を湛えた泉で、魚も水草も何も生えてない。水底が見えてもおかしくなさそうな透明度だが、異様に深いのか見えない。

いや、さっきまで穴が開いてた場所なんだからそんな深いはずないんだけど、なにせメルヘンの国、気が抜けない。

「ここはなにをするところにゃん…??」

「お世話必要なさそうですね?」

小人たちを見ると、泉の中になにかを投げるジェスチャー。

「お賽銭…?」

「ええ…?」

よくわからんけど投げろというジェスチャーが止まらないので、1zを泉に投げ込んでみることに。まずはペチカちゃんから。

すると泉が荘厳にキラキラと輝き始めた。

こ、これは…!

「あなたが落としたのは、この金貨、それともこの銀貨ですか?」

現れたのは泉の女神様……ではなく、予想に反して等身大のてるてる坊主だった。なんと言おうか、首もとをリボンで結んだシーツお化けだ。立派なちょうちょ結びで、心なしか誇らしげ。

布がめちゃくちゃ神々しく輝いている絵面と、アルトボイスのちょっとカッコいい荘厳な声がミスマッチでなんともいえない。

てるてる女神は右手(?)に金貨(1万z)、左手(?)には銀貨(100z)を持っている。

「いいえ1zです」

キリッとした顔でペチカちゃんが告げる。

「正直者にはぜんぶあげましょう」

チャリンと猫の財布に10101zが入る。あれっ?

そして、てるてる女神は消えた。

「猫にお金入ったにゃん」

「私にも入ってますよ!」

儲けた!

いや、この泉の利用方法コレジャナイ感。

「……『石ころ』でもいけると思うにゃ?」

「いえ、ここは童話に倣って斧では?」

「斧は不法投棄になるって攻略サイトで読んだにゃん~」

「あー! ありましたね! じゃあやはり『石ころ』? でも石も投棄といわれると悩ましいですね」

「この砂金ナゲットを投げるとどうなるか気になるにゃん」

「なるほど、元々川を流れていたものだし、お賽銭感もあるし、いいんじゃないでしょうか」

ペチカちゃんの了承を得て、大きめの『自然金★』をお賽銭っぽく投げ入れる。

すると再び現れるてるてる女神さま。キラッキラ。

「あなたが落としたのはこの金塊、それともこの小さな金塊ですか?」

持っているのは金塊というかインゴットだ。右手と左手にサイズ違いのを乗せている。

「いいえ『自然金★』にゃん」

「正直者にはすべてあげましょう」

やったぜ。

もらえた『金のインゴット★』ふたつは、それほど大きくはないが、人形サイズのアクセサリーならいけるんじゃないかな??

この方法で砂金を増やせるなら納得だ。

素材アイテムはペチカちゃんはもらえなかったそうで、共に増えるのは現金だけだったらしい。

アイテムで全員に増えるとなると、インベントリ問題ややこしいからかな? 総じてイベントアイテムは重量多めか、ゼロのどちらかだ。例えば『ルイネの林檎』なんかはびっくりするほど重い。許可証系の持ち歩かないといけないアイテムは軽いけど、持ってることでイベントが進むアイテムは重めっぽい。素材系も重い。

そして金属も重いので『金のインゴット★』はかなり重いアイテムだ。『運搬』でアクセサリー『鞄』持ち以外では増えるとかなりきついアイテムだと思われる。

さて、ここでタイムアップ。

素材を生産班に渡して、猫たちは再挑戦かな?

『金のインゴット★』は大金星だったようで、バンザイさんたちに大変喜ばれた。

「これで『王錫』と『王冠』が作れる~~!!」

「『首飾り』先に作ったせいで大失態かと思ってましたー! 助かる~!」

『砂金』は沼地を放置した際に川で出るワニからのドロップだったらしく、ワニの生息数そのものが少ないもんだから、圧倒的に数が足りなかったのだとか。

他素材続々集まり、昨日の分と合わせてレシピ分の製作はなんとかなりそう。

猫たち非戦闘班では入手不可能だった魔宝石も、BOSS(トロルだったそうな)から無事ドロップしたそうだ。よかったよかった。

残り必要なのは魔石などの討伐系ドロップだそうで、後はフーテンさんとオードリーさんにお任せだ。

当初は3周する予定だったミニダンジョン周回だが、探索素材が不要なら、とここで中断。

残り時間、メエメエ様についてもう少し聞き込みした方がいいのでは? というのが猫とペチカちゃんで一致した意見だったのだ。

スプーキー・インプはともかく、メエメエ様はちょっとまだ謎の存在だ。

服を用意する辺りとかちょっとスプーキー・インプと被ってるのに、本当に関係ないのか?とか、巨大な羊と半裸の男(たぶん羊飼い?)ってなんだったの?とか、聞いた昔話だけでは疑問が多すぎる。

「猫は2ヵ所、お話聞けそうな心当たりがあるからいってみるにゃん。ペチカにゃんは一緒に来るにゃ?」

2か所の内訳は、まだメエメエ様関連の聞き込みをしてないスザンヌ工房と、古着屋のトミちゃんだ。

「私はもう1回、ププちゃんと工房主さんに会ってこようと思います。メエメエ様の話はまだちゃんと聞いてなかったんで」

そんなわけで二手に別れて聞き込み……の前に猫はちょっと買い物だ。

トミちゃんに会いにいくので、崩壊しちゃったハンカチの代わりの品を買っていきたい。

刺繍のされているハンカチを買うべきか、それとも素の白いハンカチを買うべきか。でも素の白いハンカチっていうと『愛のハンカチ』を思い出しちゃって、あんまりよくない気も。

いや、せっかくだから、お話聞きに行きついでにスザンヌ工房で買おうかな、ハンカチ。 繻子(サテン) 織の亜麻ハンカチとかきっとありそう。ただお話聞きに行くよりは、何か買いに行く方がいいはず!

たーのもー。

「ハンカチ? もちろんあるよ、刺繍用のでいいのかい?」

再びスザンヌ工房を訪れると、ジャボのときと同じおばちゃんが出迎えてくれた。

刺繍用のハンカチ、刺繍済のは見本のしかないらしい。あれこれ悩んで、結局未刺繍の白いハンカチと、それからリボンを買った。

リボンは以前、ペチカちゃんに聞いたやつだ。『あなたと友だちになりたいです』という意味があるというアレ。

ペチカちゃんには自由都市でリボンを買ってすでに交換済なのだが、トミちゃんとも 友だち(フレンド) になりたい。あわよくば文通したい。だって猫の知り合いNPCで文通してくれそうな人いないんだもん!!

ジョンさんは論外として、串焼きのおじちゃんも本屋さんも無理だろうし、野菜売りのおばちゃんも無理そうよ。喫茶店のお姉さんならあるいは…?くらい。とはいえお姉さんの好感度はそこまで稼げてないだろうしなあ。

いや、でも念のため何本か買っておこう。3本もあればいいか。

「いいねえ、リボンを贈る友だちがいるなんて」

「1本は、紹介のお礼にトミちゃんへ贈るにゃんよ~」

猫が言うと、おばちゃんは首を傾げて微笑んだ。

「お友だちかい? 仲がよくていいねえ」

え。

「この工房を紹介してくれたおトミちゃんにゃん」

「おトミちゃん…、誰だろう?」

えっ?

『トミコのハンカチ』を見せようにも壊れてしまっているわけで、いやハンカチが壊れたからフラグがおかしくなってバグってるのか?

えっ、でもこんなバグある???

「にゃあ…」

「あらあら、メエメエ様に化かされちゃったのかねえ」

「化かされる…」

「獣のお面を被った子じゃなかったかい? それか、猫ちゃんみたいな種族の子」

「ミミパットだったにゃん」

「ミミパット! やだねえ、猫ちゃん、ミミパットは異界の住人じゃないか。街にいるわけないだろう?」

「……にゃあ~~~」

ミミパットは、メインストーリー『ミミット大行進』で出てきたという、服を着て喋れるミミットだ。言わばミミットの上位種族で、ミミットの王族的なやつ。『ミミット大行進』の指揮者として登場した……という記事で猫はミミパットを知っていたのだった。

つまり、はい、まさに異界の住人でしたね…。

可愛かったのでうっかりうっかり。ほら、立て続けに風猫族と会ったから、喋れる獣顔に慣れてしまっていたというか!

よく考えたらわかることだったのに、ちょっとこれは悔しい…!

ていうか、ええ??

つまり、どういうことなんだ。

メエメエ様に化かされたのは猫なの?

おばちゃんと猫の面識があるのはトミちゃんのハンカチのおかげなんだが、それはいったい!?

なんだか狐につままれたような気分で工房を出る。

『ランさんそちらどうですか? こちらは手がかり途絶えちゃいました…』

『何かあったにゃ?』

ペチカちゃんの声が落ち込んでいる。

『クエストを他にお任せしたからでしょうか、フラグがおかしくなっちゃったみたいで。工房主さん、あんなに執着していたププちゃんのこと、全然覚えてないんです。まるですべてリセットされちゃったようで、なんだか気味が悪いです…』

『にゃあ』

これはもしや、猫と同じ状況?

『実は猫の方もそうにゃん~。でも、まったく今回の件と関係ないと思ってたところが繋がってたみたいにゃん。よければそっちで『メエメエ様に化かされる』て話を聞いてみてほしいにゃん』

『メエメエ様って化かすんです!? わかりました、聞いてみます』

化かされた側からの話は工房主から、そしてどうしてそうなるのか?という話はたぶんププちゃんから聞けるのではないか、と思うのでペチカちゃんにお任せしちゃおう。

猫はきっとナザール工房へ行ってもきっと同じ状況だろうし、ここは覚悟を決めて、トミちゃんに会いにいくか。

よし、と歩き始めるとポタ、ポタ、と水音が聞こえ始める。雨ゾーンに入ったらしい。ううむ、たしかにこれはちょっとホラー演出。

いくらもしないうちに、サーッと雨が降ってくる。まだ時間はあるし、濡れていくほど急いでいない。軒先を借りて雨宿りしていると、ひらり、ひらりと窓から布が振られるのが見える。

最初に見たときは気づかなかったけど、ほんとに降ってから外に布を出しているんだな。いくつかのはためいた布のうち、ひとつがふわりと窓から放たれて飛んでいく。

かすかに光ったかと思うと、くるんと回転。あれがメエメエさまが取っていくというやつなのかね。……いや、どうみてもシーツお化け、スプーキー・インプなんだよなあ。

こんなに同じもののように見えるのに、NPCは頑なに違うものだと思っているのが不思議だ。

はじめはプレイヤーにはわからない違いがあるのかと思っていたけど、もしNPCは一定条件下でスプーキー・インプや小人さんのことを忘れてしまう、とか言うのだったらまったく話は変わってくるぞ。

伝承が歪んで伝わってしまっている…とかいうパターンも、もしかしてあり得るんじゃない?