軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

16.泥の雨と紫ハート

『猫ちゃんや~、精霊ってなんか蛍みたいなやつで合ってる?』

『そうにゃんよ~、蛍より大きいにゃんね』

『なんか山椒魚に食われてるみたいよ。もしかしたら、誘き寄せるのにも精霊使えるんじゃないかって。『闇の精霊石』ってもう渡しちゃったよねえ?』

そこで使うのか!

『にゃあ~、渡しちゃったにゃん。ちょっと借りられないか聞いてくるにゃ』

『よろしくねえ。あと浄水樽、本体にも有効だったから、スイッチ隊にでもちょっと預けておいて~』

『了解にゃん~!』

アライアンスチャットだったので、交代面子にひとまず10樽ほど預ける。

「おも!重いぃ!!」

「でも10L入りの樽だもん、5個持てるだけでもアバターに感心する…っ」

「それはそう!」

そう! 猫ったらリアルよりパワフル。

鞄込みとはいえ猫はルイ無し単独で30樽は持ててるので、アバターと鞄とスキルの力よ。

「ついでに何かに使えないか、エドさんとリーさんに渡してほしいにゃん~」

「ガッテン!」

『魔法の粉(光)』『閃光の粉』『光水』『閃光石』『光魔法石』などをいくつか、お預けしておく。重量オーバーしない程度に…。石系はなにげに重いのだ。

猫も試そうかと思ったんだけど、泉闇虫はひとまず『クリーン』でなんとかなってしまったからね。本体に使えるものがあるといいな!

あとは拡大『クリーン』をかけてスイッチ隊をお見送り。拡大するとしばらくは浄化の光がくるくる漂うので、効果が長続きするっぽい?

さて、では猫は『闇の精霊石』の交渉へ。ルイを走らせる最中にしゅわっと猫とルイの上に数字が浮かんだ。

おや、レトさん『カウント』かい? レトなりに鑑定的なことをしてるんかな?

猫も『カウント』教本、読もうと思いつつ忘れてたな。せっかくのレトとお揃い魔法、早く覚えねば…!

『闇の精霊石かーしてー』の交渉はうまく行ったような、いかないような。

シャイアネイラさんが『闇の精霊石』を抱きしめたまま気を失ってる状態なので、彼女ごと泉の近くへ、ということになった。

いいのそれ??

護衛対象が増えると困るのだが、そこはジョンさんが守るので気にせず、て話らしい。いやジョンさんも風邪完治してないし、猫にとっては護衛として信用ならんのだけど。

『ジョンなら死んでも生きるし問題ない』

『大丈夫大丈夫』

『ヤツなら溶鉱炉につき落としても生きてるって信じてる』

『いずれ第二第三のジョンが現れる』

アライアンスチャットの謎のジョンさんへの信頼よ…。第二第三のジョンは別人だしダメでは!?

しかしジョンさんごと硝子連合のPTで固めて守る、ということで、まとめてお預けする。

闇の精霊石、つまり人形の頭だけなら猫が持って移動するのが早かったけど、シャイアネイラさんごととなると、猫には向かない。ここはお任せだ。

そしてジョンさんが連れたシャイアネイラさんが近づいたときの反応は劇的だった。

泥の雨が広範囲に降り注ぎ、大山椒魚が長い尻尾を振り回して道を駆け上がってくる。ついでに闇虫も駆け上がってくる。

泥も降るし、虫も降る。当然、悲鳴も上がる。

「ギエーーーー!」

「オギャァー! 全部出てくると予想以上にキモいぃーー!!」

両生類苦手な人って多いよね。

いや、それ以前の問題として、最初に見たときより背中の辺りが歪に膨らんでいて、弾けそうな異様さがあるな? なんだろ、あれ。

考えてたら、メキョメキョと音を立てつつ背中が更にボコボコと変形して、バリッと翼?腕?が生えてしまった。コウモリっぽい感じの薄い皮膜の羽で、羽の先には爪の長い手?がついている。なかなかエグい。なんというかとても悪魔感のある変身。

ついでに後ろ足もメキョメキョして、バッタのような様相に。

わ、わあ…。

「飛ぶのー!?」

「いや跳ねるのでは!?」

「ヤダーー!!」

広範囲デバフ飛ばしてくる機動力が高いBOSSとか、そんなん猫もやだ!

機動力を上げてきたBOSSのジャンプ、接敵剥がしてくるのも厄介っぽいんだけど、それ以上に広範囲に泥の雨がドボドボ降り注ぐのがやばい。ついでに頻度も上がった。

一回一回は大したダメージではないとはいえ、あちこちで赤い小さなトゲトゲフキダシ(ダメージ)がぽんぽん弾けてるし、猫にもルイやレトも含めて全員に1回100前後のダメージがくる。いててて。

猫はともかく、レトなんかHP180しかない貧弱さだ。あわててポーションを出そうとすると、ポワワンとパステル紫のハートが猫の前に浮いた。回復は80ほどと『ヒール』にしてはずいぶん少ないが、レトが杖を振っているところを見るとレトのヒールだろう。

不思議なのは猫と同時にレトとルイも回復してるところだ。レトは範囲ヒールは持ってなかったはず??

首を傾げたが、飛び散った闇虫の追加ダメージで我に返る。考えてる場合じゃないな。回復してるんだし、ひとまず何も問題はなし!

とりあえず回復足りてなかったのでそれぞれにポーションをかけて、拡大『クリーン』でレトごとルイに飛び散った泥とひっついてる闇虫の処理。『浄水』は配る分もあるので、なるべく温存だ。

猫の魔力が豊富なら浄化して回るところだが、さすがに無理がある。

何度目かの泥の雨、レトのヒール、回復足りない分を猫がポーション、そして『クリーン』。

最初は頻度が増えてバタバタしてしまったが、泥雨タイミングが掴めてくると、やることは決まってるので余裕が出てきた。

猫はスイッチ隊が帰ってくるときに『浄水』を渡すくらいしか仕事がないしね。お暇。

ふと見るとレトのMPがほぼ空になっていたので、レトのポーションポケットに下級MPポーションを突っ込んで…、あれ、MPポーション減ってないな?

「好きに使っていいにゃんよ?」

レトに伝えると、レトはなぜか頭を横に振る。そして両手を上げてちょいちょい。なに? カムカム?

試しに下級MPポーションを出すと、うんうんとうなずき、カムカム。…猫がかけろってこと? こやつ、猫を使いおって。

よくわからんけど、とりあえずレトにMPポーションを使う。

するとレトはもう一度杖を振って、ヒールを掛けた。ポワワンとパステル紫のハート。80HP回復。うむ、ショボい。

……あれ。

いま、猫のとこだけじゃなくて、大山椒魚とワチャワチャしてるあっちの方でも、紫のハート出てなかった??

レトが続けて杖を振ると、やっぱり出ている。

えっ、まさか範囲どころか全体ヒールなの? どうなってんの?

そんなまさか、とも思うけど、ハートの中に数字が見えるってことは、レトのヒールなんだよなあ…。魔法使用者(従魔や召喚系含む)か、被回復者しか数字は見えないはずだし。

全体ならたしかに、回復量がかなり低いのも納得なんだけども。

どうなってんの??

…いや、レトのヒールの謎は考えてもわからんので今は置いておこう。

お、なんだか大ダメージのメタリック星。歓声が上がる。どうやら部位破壊が発生したようで、巨大山椒魚の飛び跳ね移動をようやく封じることが出来たようだ。

位置もちょうどよく、泉から山道に戦闘地が移ったことで、巨大山椒魚を囲んで攻撃出来るようになっている。

無事に巨大山椒魚のおびき寄せは成功したので、シャイアネイラさんごと護衛NPC3人は攻撃可能範囲外へと下がっていく。

「余所見せんといてな!!」

追うように顔を動かした巨大山椒魚の首を自分へ向けさせ、ヤマビコさんが挑発して固定。そして集団で囲んで魔法・遠距離攻撃の布陣が整った。

更に音楽も聞こえてくる。

これは『楽士』かな。サッサーさんがオカリナのような笛を奏でている。耳に届く範囲で全員に効果がある、というのが音楽系スキルの特徴だ。つまりこの曲は大山椒魚にも効果があるはず。

ステータスを見ると上がってるのは…、MP回復量か!

魔物にMP回復という概念はないらしいから、対mobでは万能な選択だ。そして猫としてはとても助かる。召喚獣もMP回復するので恩恵がある。ありがたや~。

どうやらジョンさんやあともうひとりのNPCも前衛らしい。ジョンさんは見たとこ、回避盾かな? 尻尾攻撃をさばいているっぽい。

NPCたちも参加したことにより、範囲攻撃の頻度はかなり抑えられてきた。こちら側の負傷は避けきれない全体攻撃だけに絞られて、なかなか順調そう。

レトはポワ、ポワと『ヒール』をかけ続けている。

猫たちが範囲攻撃に当たらない程度の遠さに離れてても、BOSSと戦ってるみんなからはハートが出てるので、距離は関係ないっぽい。回復量がだいぶしょぼくなってるとはいえ、全体ヒールなのに消費MPは普通の『ヒール』と同じ。

…ふむ、猫はここでレトにMPポーションかけてるのがいちばんお役に立てそうだぞ? レトが本体!

泥の雨は降るけど闇虫の量はだんだん減ってきて、『クリーン』の出番も少なくなってきた。なので回復したMPを『トランスファー』でレトに渡してみたり、『パウダー』をかけてみたりする。

なお『パウダー』はレトにくしゃみさせる嫌がらせに終わり、めちゃくちゃプンスカされた。ごめんて。

「危ないネコチャーーン!!」

あれこれ試しつつレトの回復に勤しんでいたら、突然大声がして驚く。

ハッと見ると飛んできた泥の塊が、猫の前に躍り出てくれたバンザイさんに直撃するところだった。ドチャッと飛び散る泥と闇虫。

アアー!?

ダメージを食らった上に泥だらけになったバンザイさんに、あわててポーションと『クリーン』をかけてお礼をいう。

バンザイさん、戦闘装備も作務衣だからわかりやすい! 薄着なのに大丈夫!?

「ありがとうにゃん~! 助かったにゃん! ボーッとしててごめんにゃん!」

「なんのなんの、地人族は頑丈ですからな、フハハ! どうやら光源目掛けて撃ってくるようですから、少し離れたところへ浮かべた方が良さそうですぞ」

周囲を見ると、みんな光源からはちょっと離れたところに立っているようだ。

「なるほど、気がつかなかったにゃん~」

「なにぶんみな戦闘中のチャット切り替えに不馴れでしてな、伝達が遅れて申し訳ない」

たしかにしゃべる方が楽だし、ショートカットとか別途組んでないと大変だろう。言われてみれば猫も咄嗟の切り替えは難しい。

チャットとかメールが向こうから来てるときはそこに返信すればいいから楽なんだけどね。しかしいくつも選択肢を出したままでは、視界が遮られてしまう。

「全然構わないにゃんよ~!むしろわざわざありがとうにゃん、庇ってもらっちゃったし」

「フ、猫さんを庇っての名誉の負傷、ティアラ嬢に自慢させてもらいますぞ!」

それは自慢になるんだろうか??

わからないが、バンザイさんとティアラさんは陶芸家とガラス工で競いあってるけどそこまで仲悪くもなさそうなので、これもじゃれあい…なのかもしれない。

バンザイさんとはついでに浄水樽の交換をして、また戻っていくのを見守った。

光源目掛けて撃ってくるなら、猫は『夜目』鍛えついでに光源無しでステルスしておこう。

レトの『ヒール』は個人をタゲるものではなくなっているからか、見えなくても問題ないみたいだしね。