軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

7.風邪を引いたら誰かが儲かる

え、なんかいる…。

宿の外壁に人が張り付いているんだが。

え、これはなに、どうすべきなの? スルーしていいやつ?

猫が宇宙猫になっていると、壁に張り付いていた人も猫に気がついたらしく、カサカサと壁を這って奥へと消えていった。

…なんか…、スパイダーなあれというか、Gみたいだったな…。黒かったし…。

さて、気を取り直して宿へのお荷物を――

『猫ちゃんや、荷物の配達依頼受けてる~?』

『受けてるにゃんよ~あと1個にゃん』

『ありゃ、宿への配達終わっちゃった?』

『これからにゃん』

『よかったにゃん~~、それ、ギルドへ差し戻してくれない? なんか確認したいって』

『にゃん?? わかったにゃん~』

大商人の方で事態が動いたらしい。

よいしょ、とルイを方向転換すると、目の前に黒い人がいてびっくりした。

ヒェ…!?

さっき壁に張り付いていた人? 顔もすっぽり覆って目だけ見える黒頭巾に黒装束。…うむ、昼間はとても目立つ。

「その荷物、渡してもらおうか」

怪しさ全開の追い剥ぎだァ!?

しかしここは村の中、セーフティーエリアで戦闘イベントになるときには事前警告が入るし(幽霊バグ許さん)、敵対NPCはマークが赤くなるのだが、黒い人は中立の黄色だ。

これもしかしなくても受け答えによっては赤くなるやつ?

さて、どうしよう。

「うっ、ゴホッゴホッ」

追い剥ぎも風邪だ!?

「流行りの風邪にゃん? 今お薬が作られてるところだから安静にするといいにゃ」

「ゴホッ、薬はありがたいが、今は休んでいる場合ではないのだ。ゴホッ、我が姫の 娘御(むすめご) の身柄が……、ゴホッゴホッ」

なんか今重要な情報っぽかったのに、ちょっと黒い人しっかりして!

咳き込んで話せなくなってる黒い人をどうにかすべく、ルイから降りてとりあえず背中をさすさすと撫でる。わあ、咳が止まらないのはどうすればいいんだろ。お水飲んで~も出来ないくらいに咳がひどいぞ。病気の種類によっては、回復魔法もダメらしいんだよね。

『お風邪なのに出歩いてて咳がヤバイ人を見つけたにゃん! どうしたらいいにゃ?』

『ランちゃんならひとまず『クリーン』よ! 咳が止まるまでかけてあげて。治まったらヒールも大丈夫』

『ありがとうにゃん!』

リーさんから助言を受けたので『クリーン』をば。ぽわ、ぽわ、ぽわ、と何度も掛けているとようやく治まってきた。座り込むというよりほとんど伏せてしまっているし、これは体力ヤバそう。よくこの体調で壁を上ってたな。

咳が完全に治まってもゼイゼイしているので、最近覚えた回復魔法のMP5魔法、『治癒』をポワポワと掛ける。レトも杖を出して『ヒール』をかけてくれた。……アアッ、レトの初『ヒール』を謎の追い剥ぎに 盗(と) られた…ッ!?

「ハァ、かたじけない、助かった」

「お姫さまの娘さんもお風邪にゃん?」

「いや…娘御は拐われたのだ」

なんか別の事件出てきちゃった。

「誘拐にゃん??」

「娘御は長らく学園都市にあったのだ。しかし、その力に目を付けた強欲な商人に目をつけられてしまった。そして姫に不当な要求を…!」

「身代金にゃ?」

「金で済むならばよかったが、やつが求めたのは技術…『人形遣い』の技だ」

新ジョブまで出てきちゃった。

なんぞこれ。

さすがにお手上げな気配。

『人形遣いはさすがにいないにゃんね?』

『それは…いませんわね…』

『おらんやろなあ』

はい。

まあクエストには繋がらないかもだが、話は聞けるだけ聞いておこう。

「この荷物の中に人形が入ってるにゃ?」

ルイの鞍に取り付けた荷物を示すと、黒い人――体格と声からして男は、首を振った。

「違う。しかしそれは、姫を脅している商人宛の、学園都市から届いた荷物なのだ。彼らが何を目的に姫の娘御を利用しようとしているのか、明らかになれば、と…」

「お預かりした荷物を他人に渡すわけにはいかないにゃんよ~」

「しからば…!」

黒い人が踞った姿勢のまま腰に手を当て、NPCマークが敵対の赤に変わる。

「にゃん~! 暴力反対にゃん~! これは今からギルドに差し戻す荷物にゃ。商業ギルドから呼ばれてるにゃん。向こうで何か掴んでるかもしれないにゃ? 一緒に来たらいいにゃん!?」

ここで転がされるわけにはいかんと猫は必死に言い募る。

黒い人は身構えていたが、しばし悩んだのち、構えを解いた。マークが黄色に戻る。

おお…、説得成功、か?

黒い人がスッと手をあげ、サッと下ろすと黒頭巾黒装束がごく一般的な村人の服装になる。

早着替え!?

「ではギルドへ参ろうか」

「にゃん…」

ところで何者なんだこの人は……。

黒い人改め村人Aを連れてギルドへ行くと、商人ギルドの受付さんと話してたフーテンさんが吹いた。

「ちょ!? ええ、猫ちゃんなんでジョン連れてるの!?」

「にゃん? その辺で倒れてたにゃん」

「介抱してもらいました」

しれっと合わせてくるぞこの村人A。

フーテンさんの反応から察するに、推定ジョンさん、猫向け既存クエストの登場人物だった?

荷物を持ってカウンターへ行くと、フーテンさんがさりげなく猫とジョンさんの間に入る。中立の黄色NPCだから警戒している? いや、さっきの感じだと猫向けクエストでも普通に襲ってくる敵対NPCだったのかも。

『エド~~ギルド来て~~猫ちゃんがジョン連れてきちゃった』

『はァ!? どこで引っかけてきた!?』

『お宿の前にいたにゃんよ~?』

『神出鬼没のジョンを引っかけてくるとか盛り上がって参りましたァ!』

『なんでナナちゃんじゃなくてジョンさんですの!?』

『ナナちゃんなら風邪引いて寝てるよ…』

『ちょ、どこにいるんだうらやましい代われ!』

『クロりんのことも忘れないであげて!』

わちゃわちゃとアライアンスチャットが盛り上がる。

あれ、みんなもしかして既存クエストの登場人物とは結構、接触してた? ネタバレ避けて黙っててくれてたっぽい?

あ、違う? 既存クエストの登場人物も普通に風邪で倒れてて、特に情報も出なかったので話題に上がらなかっただけらしい。なるほど。

まもなくエドさんがギルドに到着、二人が対峙すると一瞬空気がひりつき、ジョンさんのマークが赤くなる。フーテンさんが猫を庇うように前へ出た。や、やわらか魔法師…!

「お荷物確認しないにゃ!?」

ここで戦われると、猫は確実に巻き込まれ死ぬし、クエストも繋がらなくなりそうで困る!

あわてて声をかけたら、マークは黄色に戻った。心臓に悪いにゃん~。

「そうであった。商業ギルドから話を聞くのだったな」

「にゃん~、きっと悪いようにはならないにゃん」

ジョンさん、微笑むけど目が笑ってなくて怖いんだが。ほんと何者なのこの人…。

『ルイネアの精霊使い、シャイアネイラって名前なんだよね』

『えっ。えっ?? 殺戮鬼(マーダーロール) シャイアネイラ??』

『ルイネアだし、たぶん。寝込んでるからちょっと話が通じないところもあるんだけど、なんか娘さんをずっと心配してるんだけど、いまいち噛み合わなくて。シャイアネイラの娘の話なんてあったっけ?』

『メモリー検索かけてみたけど、殺戮鬼シャイアネイラって、昔に学園都市で大暴れした人っすよね? 精霊使いなんです? 人形遣いじゃなくて?』

『あれ? 人形遣いなの?』

『あっ。ネタバレしちゃってます? 大丈夫です!?』

『猫は遠い話は忘れるから構わないにゃんよ~』

『なら、情報足りないと困るやつかもしれないし、教えてくれると助かるよ』

『んと、七不思議ラビリンスの機械仕掛けシリーズからドロップする『重い歯車』を集めるクエストで出てくるんすよ。「こんな歯車しか出てこないようでは、もうあの人形も錆びて動かなくなってるだろう」みたいな話があって』

『それはまだやってないなあ。そうか、じゃあ娘ってもしかして人形のことなのかな。七不思議ラビリンスにいる?』

『ちょっと前に、どっかのクランが人形BOSS倒して戦利品ドールをオークションにかけてなかったっけ?』

『ありましたわね。鍛冶の方でどなたか入札したって聞きましたけども』

『素材の金属狙いでちょっと入れてたけど、後から『人形からは素材が剥げない』て情報が出たから、下りたんだわ。その情報でほとんど手を引いちゃって、結局かなり安値で落ちたはず』

アライアンスチャットをまったく知らない話が流れていく。

なんとなく上っ面だけ拾うと、流れが見えてきた、ような?

ジョンさんの主らしき『姫』さんはおそらくシャイアネイラさん。

そして娘さん、つまり人形を学園都市から拐ってきた…オークションで人形を落札した? 商人が、シャイアネイラさんに人形を見せて取引を要請、というより脅迫?した。

しかしこれだと『闇の精霊石』も出てこないし、風邪とも全然関係ない。

うむ、まったくの別件っぽいな。

シャイアネイラさんとジョンさんと人形の何かと、風邪のクエストが同時進行してるんかな??

猫が変なクエストを拾ってしまって申し訳ねえ…。

ちなみに今、猫の目の前では商業ギルドと運搬ギルドの受付さんたちが話し合いをしている。

商業ギルドとしては、今回の風邪についてはじめは毒物を疑っていたそうな。

しかし『闇の精霊石』が原因ではないかと出てきたことで調べたところ、以前にギルドへ『闇の精霊石』を売れないかと交渉したものがいた。これが、現在宿に泊まってる商人で、ジョンさんのいう商人だ。

交渉したが、売却金額に不満があって成立しなかった、という記録が残っている。

リーさんが疑われたのは、その前に マレビト(プレイヤー) も同じように鑑定と売却をしようとしたことがあるからなんだって。

こちらへの疑いは実績ある大商人フーテンさんによって晴れ、疑いは宿にいる商人に絞られた。

「『闇の精霊石』ってどんなものにゃん?」

「通常であれば、精霊石は魔宝石だ。精霊が宿ると色が深みを増す。闇であれば濃紫だろう」

答えてくれたのはジョンさん。

精霊が宿った魔宝石が精霊石なら、リューシーは精霊石ってことになるんだろうか。そんな表記ないんだけども。サイズの問題?

「通常でないなら?」

「我らが探しているものと同じであれば、それは人形の姿をしている」

エドさんの突っ込みに答えるジョンさん。

先に言え! 言葉が足りない系男子なのかジョンさん。

しかし、これで繋がった…のか?

それにしても精霊使いと人形遣い、被ってる?

「精霊使いは人形遣いにゃ?」

「人形遣いの中には精霊を扱うものもいる。精霊使いの中には人形を扱うものもいる。弓師が魔法を使うのと同じようなものだ」

なるほど、どっちも使えるとシナジーある、的な。

「その商人は、学園都市で『闇人形』を落札していますね!」

商業ギルドの受付さんが声をあげ、ジョンさんの言うとおり、『闇人形』が村へ持ち込まれていることの裏付けが取れたのだった。

そしてそれは風邪の原因である『闇の精霊石』を商人が持っているということにもなる。

なんかぽわんとクエスト完了報告が来たので、農作業から始まった連続クエストは『闇の精霊石』発見で一段落したらしい。