軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

エピローグ

あれから色々あったが、概ねみんなに祝福して貰った。俯いていた気持ちが、アーベルや周りのみんなのお陰で、少しずつ立ち直ってきている。

自分では気づかなかったが、仕事をしていてもふとした瞬間、表情が無くなっていたようだ。そんな時は、必ず誰かが声を掛けてくれて笑顔に引き戻してくれた。

アーベル様も、出来るだけ一緒にいようとしてくれる。思い出すと恥ずかしいのだが·····。先日、ファビオラは仕事が休みの日に第二騎士団の練習風景を見に行った。

キースが教えてくれたのだが、騎士団の家族や恋人が、差し入れを持って遊びに来るのだそう。ファビオラも良ければ見に来ないかと、キースからお誘いを受けた。

「勿論、アーベルには内緒。突然来てびっくりさせよう」と言ってパチンとウインクをされる。

キース様らしいと、ファビオラは笑った。ファビオラも、遊びに行く事を考えたら楽しくなってきたので、では今度のお休みに行っちゃいますねと、キースに返事をした。

お休み当日、甘さ控えめのクッキーを食堂の厨房を借りて手作りした。アーベル、キース、ローレンツにはそれぞれ個々に包装をして。

他の団員達には、大きな容器に沢山詰め込んだ。

ちょっとドキドキしながら、第二騎士団の訓練場に向かう。一人でここに来るのは、一番最初に来て以来だなと懐かしく思う。

騎士団の扉を開けて、受付を見る。最初に来た時と同じ騎士の人が、受付に座って作業をしていた。

「あの、すみません」

ファビオラは、受付の男性に声を掛ける。男性が、視線を上げてファビオラを見る。

「はい。差し入れですか?」

人懐っこそうな男性が、笑顔で尋ねてくれた。

「ファビオラ・マルティネスと申します。ハーディング様に、差し入れなのですが……。よろしいですか?」

ファビオラが緊張しながら訊ねる。男性が、目を輝かせて答えてくれた。

「副団長の婚約者様ですね。キース様から聞いてます。案内しますよ」

そう言って、立ちあがって訓練場の方に案内してくれた。ファビオラは、婚約者と言われて照れる。言われ慣れていないし、本当にそうなったのか今一実感が湧いていない。

訓練場の中に入ると、グランドで騎士達が各々ペアになって打ち込みをしていた。活気があって熱気が凄い。

見ていたら、元気を貰えそうとファビオラは釘付けになる。先頭の全体を見渡せる位置に、アーベル、キース、ローレンツが立っている。打ち込んでいる騎士達に激を飛ばしている。

職務に集中している姿を見るのが新鮮で、アーベルを見ながら格好良いと見惚れてしまう。

「やっぱり、副団長格好良いですよね!呼んで来るので、待ってて下さい」

案内してくれた騎士の方が、笑いながらファビオラに待っているように言うと走って行ってしまった。言われたファビオラは、恥ずかしくてしょうがない。

見惚れてたの、見られたよー。顔が真っ赤になるのを、止められなかった。

ファビオラが、顔をパタパタと扇ぎながらなんとか顔の熱を鎮めている。そこにキースが、手を振りながら走って来てくれた。

「ファビオラ、待ってたよー」

さっきは、厳しそうな顔をして立っていたけど、今はいつものキースだと顔が綻ぶ。

「キース様、お疲れ様です。クッキー持って来ましたよ」

ファビオラも、笑顔で返答する。

「えっ。クッキー。食べたい!はい、あーん」

そう言って、キースが口を開けてファビオラの前に立った。ファビオラは、びっくりしつつもしょうがないなと、バスケットの中をガサゴソとあさりクッキーを一枚取り出す。

「もう、一枚だけですよ」

ファビオラがキースの口に、クッキーを運んだその瞬間—————。

「お前は、自分で食べろ!」

アーベルがキースの後ろから突如現れ、ファビオラの差し出したクッキーを自分の口の中に入れた。しかも、ファビオラの指をペロッと舐める。

え?ファビオラは、何が起きたのかその場からピクリとも動けない。今、指、舐めなかった?

「もー、アーベルったら、やーらしー。可哀そうに、ファビオラ固まっちゃってるじゃなーい」

アーベルが、ファビオラを見る。

「クッキー、美味しいぞ」

アーベルが、笑顔でクッキーの感想を言ってくれる。ファビオラも我に返り、手を後ろに隠して声を出す。

「ほっ、本当ですか?良かった。手作りなんですよ」

動揺を押し隠し、ファビオラも笑顔になる。

「後で、ゆっくり一緒に食べよう。もうすぐ昼休憩だから、それまでここで待っててくれるか?」

アーベルが、思ってもいない提案をしてくれる。一緒にお昼を食べられるなんて思ってなかったので、ファビオラも嬉しくて返事をする。

「はい。嬉しいです」

じゃあ待ってろと言って、キースを引きずって戻って行った。キースは、アーベルにちょっと私に少しは感謝しなさいよ!と言いながら引きずられている。

ファビオラは、その光景が可笑しくて笑ってしまう。その後も、騎士団の練習風景を見て元気をもらった。

お昼休憩の時間になると、騎士達がちりぢりになり休憩に入って行った。ファビオラが待っていると、アーベルが走ってやって来る。

「アーベル様、お疲れ様です」

ファビオラが、アーベルに声を掛ける。アーベルが、ファビオラに待たせて悪かったなと言って、騎士団の食堂に連れて行ってくれた。

その途中で、ファビオラは持って来たクッキーをアーベルに渡す。アーベルは、食堂にいた騎士に騎士団員の分のクッキーとキース、ローレンツのクッキーを渡して、みんなで食べるように言づける。

受取った騎士が、ファビオラにありがとうございますと嬉しそうな笑みを向けてくれた。ファビオラも持って来て良かったと、笑顔で返事をした。

食堂で、アーベルが外で食べられるように昼食をバスケットに入れて貰う。ファビオラは、どこに行くのかなと疑問に思いながら黙ってついて行った。

建物の外に出て、訓練場の裏手に広がる林の様な所に到着する。

「訓練場の裏手ってこうなってたんですね。知らなかったです」

ファビオラは、緑が多い所ってやっぱり気持ちいいなと思いながら歩いて行く。アーベルが、大きな木の下の木陰に、ハンカチを敷いてくれたのでそこに腰を下ろした。

「食堂の人が、気を利かせて色々入れてくれたぞ」

そう言って、アーベルがバスケットの中を見せてくれる。ファビオラが中を見ると、サンドイッチに焼き立てのパン、サラダに、果物に、容器に入ったお茶まである。

「すごーい。こんなに一杯。食べきれるかな?」

ファビオラは、目をキラキラさせている。

「食べられるだけ、食べればいい」

アーベルが、サンドイッチを手に取ったのでファビオラも美味しそうなパンを一つ取る。いただきますと言って口に入れると、まだ温かくてふんわりしている。

「美味しい」

ファビオラが、幸せーと思いながら食べすすめる。バスケットの中も、ほぼ空になる。美味しかったですねーと、ファビオラがアーベルに微笑みかけた。

すると、アーベルがおいでと手を広げて待ち構えている。ファビオラは、え?と首を傾げる。意味の解っていないファビオラに、アーベルがこうだろっと言って突然座っていた場所を移動した。

ファビオラが、座っていた後ろに座り直しアーベルに包み込まれる。ファビオラは、何が起こったのか意味がわからない。

クッキーの時同様、固まってしまう。それでもアーベルは、手を緩めない。寧ろ、ファビオラをギュっと後ろから抱きしめた。

ファビオラは、抱きしめられた瞬間、ただでさえドキドキして辛いくらいだったのに、アーベルの匂いに包まれて、もはやどうしていいかわからない。

すでに違う意味で泣きそうになっている。真っ赤になってる顔を、見られないで済んでいるのが不幸中の幸い。

「アーベル様、これはちょっと……」

「なあ、ファビオラ」

「ひゃいっ」

アーベルが、ファビオラの呟きに優しい言葉で被せてきた。しかも耳元でしゃべられて、ファビオラは変な返事をしてしまう。

「ファビオラは、隙が多すぎると思うぞ。キースといくら仲が良くても、さっきのはないんじゃないか?」

喋り方は、物凄く優しいのに、なんでだろ?凄く怖い……。

「えっと、あの……、今後、絶対、絶対気を付けます。だから、もう離れて下さい」

ファビオラは、もう必死だった。なんの免疫もない私には刺激が強すぎるー。

「ファビオラは、わかってない。わかるまでこのままだ」

アーベルが、耳元で甘くささやく。ファビオラは、わかった。もうわかったよーと心の中で大絶叫していた。

初夏の日差しが降り注ぐ、午後の一時。仲良さそうな恋人達が、木漏れ日の中幸せそうな時間を楽しんでいた。

おしまい