軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

024

ファビオラは、立て続けに何人とも踊ったので疲れてしまった。少し休もうと休憩出来る所を探していると·····。

「ファビー」

久しぶりに聞く、甘ったるく魅惑的な声が聞こえた。ファビオラは、一瞬にして体が強張る。夜会に来る前は、多少なりとも気にはしていた。だが、他に心を占める事柄があった為、今まで頭から排除していた事だった。ファビオラは、ゆっくりと後ろを振り返る。

「お姉さま·····」

自分でも驚くほど、弱弱しい声だった。見ると、姉だけではなくマルティネス家全員が勢揃いしていた。出来れば、会いたくなかったなと心の中で呟いた。

「ファビオラ!いったいどう言う事だ?説明しろ」

約10か月振りに会う父親は、何も変わっていなかった。

「お久しぶりです、お父様。みんな元気そうで良かったです」

久しぶりに会う家族は、相変わらずみんな綺麗だった。姉は、結婚して約2年というのに、変わらず妖艶な笑顔でクリフォードに腕を絡ませて立っている。妹は、庇護欲をそそる儚さに磨きがかかり妖精のような雰囲気を漂わせ、シストにエスコートされている。

母親も父親も、毎年恒例で自分の店の最高級のドレスとタキシードを身にまとい、広告塔の役目を果たしている。こうやって見ると、とても華やかな一家だなと改めて思った。

「全く家にも帰って来ないで、今日お前が踊ってた方々はどういう関係なんだ?お世話になってるなら、我々にも紹介してもらわないと困るだろう?」

父親が、いやらしい笑みを浮かべる。

「ファビオラお姉様。一緒に入場された方は、どなたなの?私にも紹介して欲しいですわ」

妹のユリアナが、無邪気な笑顔を向けてくる。

「そうよファビー、私も姉としてご挨拶させて頂きたいわ」

姉のカリーヌは、紹介するのが当たり前だと言わんばかりの態度。母親は、ファビオラのドレスが気になる様で、ドレスを凝視している。クリフォードとシストは、言いたい事がありそうだが家族の手前遠慮してる。

ファビオラは、相変わらずだなと苦笑がもれる。ファビオラが築き上げて来た人間関係を、自分達のものにしようとしている事が見え見えだった。むしろ、そうするのが当たり前だと思っている。

「今日、ダンスを踊っていた方々は仕事でお世話になった人達です。一緒に入場した方は、第二騎士団の副団長様です」

ファビオラは、必要最低限に留め説明する。

「そうか。是非、紹介してもらいたい」

「お父様、それは無理です。今日は大きな夜会で、皆さま人に囲まれていらっしゃいますし・・・。また改めて機会がありましたら、ご紹介させて頂きます」

今日ファビオラが関わった人々は、国の中でも上位の高位貴族ばかり。今までの様に、ファビオラが紹介していた人達とはレベルが違う。マルティネス家の様なレベルで、満足な会話が出来るとはどうしても思えない。自分の家族だからあまり悪くは言いたくないが、マルティネス家は外見を売りにしているだけだ。努力しなくては身につけられない教養が、彼らには足りない。お付き合いのある貴族達も、同位の子爵家か下の男爵家。そういった理由もあり、彼らが高位貴族に通用するとは思えなかった。正直、家族を紹介するのが恥ずかしい・・・。

父親が面白くない顔をしている。だが、ファビオラの言う事も一理あるとわかっているようだ。

「ファビオラお姉様。でも、副団長様ぐらいは大丈夫なんじゃなくて?」

ユリアナは、尚も食い下がってくる。ユリアナに紹介して、何になるのかとため息しか出ない。横に婚約者いるよね?と苦笑いが込み上げる。

「シスト、ユリアナが副団長様に興味あるみたいよ。いいの?」

ファビオラが、さっきから何か言いたそうなシストに声を掛ける。

「お姉様、興味があるだなんて・・・そんなつもりはないの」

ユリアナが、悲しそうな視線をファビオラに送る。シストが何か言おうと口を開きかけた瞬間──────────。

「ファビオラ」

アーベルの声が聞こえた。

振り返ると、アーベルがこちらに歩いて来ていた。

「こちらの皆さんは?」

ファビオラは、アーベルの突然の出現に驚き一気に心拍数が上がる。姉も妹も、目をキラキラさせてアーベルを見ている。アーベル様も、姉や妹に目を奪われるのだろうか·····そんな感情を無理やり押し込んだ。アーベルに紹介したくない気持ちで一杯だったが、精一杯の営業スマイルを向けて家族を紹介した。

「えっと、両親と姉夫婦と妹と妹の婚約者です」

アーベルは、ファビオラの腰に手を回し余裕の表情で口を開く。

「初めてお目に掛かります、アーベル ハーディングと申します」

すかさず、姉と妹が口を開く。

「まぁ。アーベル様というのね。妹がお世話になってます。姉のカリーヌ サンチェスですわ」

姉が、図々しくアーベルを名前で呼び艶やかな視線を送っている。

「妹のユリアナ マルティネスと申します。先程のお姉様とのダンス、素敵でした。私、あんな風に踊りたいと憧れてしまいました」

ユリアナが、頬を赤らめ遠回しにダンスに誘って欲しいと潤んだ瞳で上目遣いにアーベルを見る。

ファビオラは、アーベルの顔を見るのが怖い。いつもこの二人のこの表情に、大抵の男性は惹き付けられてしまうから·····。

「申し訳ないが、まだ挨拶する方が残っているので失礼します。また、機会があれば。それとサンチェス夫人、初対面の男性を名前で呼ぶものではないよ」

そう言うと、アーベルはファビオラに視線を向け踵を返し歩き出した。マルティネス家の面々は、アーベルの素っ気ない態度に固まってしまう。カリーナは、今まで拒否された事が無かったため、顔を真っ赤にして悔しそうにしている。ユリアナは、誘いを袖にされて信じられないとばかりに放心している。いち早く動いたのは、シストだった。

「ファビオラ!一度必ず、家に顔を出して欲しい。ファビオラじゃなくちゃ、わからない事があるんだ!」

ファビオラは、一度止まって振り返る。シストの必死な顔が目に入る。流石に、一度は帰らないと駄目だろうなと返事をする。

「シスト、近い内に必ず連絡する」

一緒に足を止めたアーベルが口を挟む。

「君、婚約者の姉を、名前で呼ぶものではないよ」

アーベルは、行くぞっとファビオラを促しその場を後にした。