軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

96.なーんも

一本の 雷(いかづち) がグリム・アスシュナーベルの身体に触れた。

「ギィ……?」

グリム・アスシュナーベルは不思議そうにそちらに視線を向ける。

ヨハンとリーゼも同じ方向を見る。

そしてヨハンがその人物の名を呼ぶ。

「白神のじいじさん……!」

そこにいたのは、界のじいじであった。

「せぇあっ!」

そのじいじは槍でもって、グリム・アスシュナーベルに一撃を加え、ヒットアンドアウェイで、すぐに後退する。

「キイィ……」

だが、グリム・アスシュナーベルにダメージはないようで、首を軽く 傾(かし) げるのみであった。

とはいえ、不意を突かれたことで、いくらか警戒している様子もあった。

その間、

「よかった……、じいじさん……」

リーゼも束の間の安堵を見せる。

「じいじさん、ドッペルゲンガーを……、っ……!」

この時、ヨハンはふと一つの可能性を思いつく。

まさか……今ここにいるのが……ドッペルゲンガーなのではないか? ということだ。

その可能性に気が付いたヨハンは顔を強張らせる。

「……ヨハンくん、君は本当に優秀だな」

常に最悪の可能性を考慮するのは、破魔師として優秀な証拠であった。

「だがまぁ、俺はドッペルゲンガーではない。俺は俺だ……」

「っ……」

この状況では証明のしようがなかった。

だが、

「信じますよ……。貴方がうちの爺さんの偽物なんかに負けるはずがない」

「その通りじゃ」

じいじは、にかっと笑う。

少し前のこと。

界のじいじである 元(げん) が対峙していたのは、ヴィルヘルム・ヴィンターシュタインの20年ほど前の姿をしたドッペルゲンガーであった。

ドッペルゲンガーは、ヴィルヘルムの 守護霊体(ホムンクルス) 『鉄拳の騎士』によりじいじに迫っていた。

肉体的に衰えていたじいじは魄術で具現化した槍により、鉄拳の騎士に一撃を入れるも、鉄拳の騎士はすぐに再生してしまった。

「おいおい、元よぉ……、20年の間にボケちまったのか? お前はもう20年前には、すでにその『槍』の魄術を使ってたじゃねえか……。なんなら身体能力の衰えがもろに影響してるじゃねえの」

「……そ、そうだったかのう?」

「完全にボケてるな……。もういい……。『鉄拳の騎士』よ……そこの老いぼれを粉々に破壊しろ」

ドッペルゲンガーがそう呟くと、鉄拳の騎士は猛烈な速度で、じいじに接近する。

そして、その鉄の拳を振り下ろす。

「っ……」

じいじは雷術の肉体強化を駆使しながら、かろうじてその攻撃を回避する。

「追い打ちをかけろ……鉄拳の騎士よ……」

ドッペルゲンガーの指示に従い、鉄拳の騎士はじいじに対し、乱打を仕掛ける。

「……っ」

じいじは一方的に、責め立てられる苦しい展開となり、唇を噛みしめる。

「どうした? 元よ……、逃げているだけでは勝つことは難しいぞ」

「……ちっ……、おしゃべりが好きなところは本物そっくりだ。だから今、なんとか打開する方法を考えているのじゃ」

「そうかいそうかい、ぜひ、とびっきりの方法を考えて楽しませてくれよ……!」

会話の間にも、鉄拳の騎士の猛攻は収まることはなかった。

そんな状況がしばらく続いた。

「お、おい……元……、いつまでそうしているつもりだ?」

ドッペルゲンガーは僅かにではあるが、焦っていた。

特に、状況が不利になっているとかそういうことではない。

むしろ、全く状況が変わっていなかった。

あれからじいじはひたすら鉄拳の騎士の攻撃を避け続けるのみ。

速度では鉄拳の騎士に利があるのだが、経験によるものなのか、スレスレではあるものの、大きなダメージを受けることもなく、のらりくらりと避け続けていた。

少々、奇妙であったのは、逆に、なにか状況を打開するようなこともしていなかったのだ。

「おい、なにか打開する手段を考えているんじゃなかったのか?」

ドッペルゲンガーはしびれを切らし、思わず、そんなことを尋ねる。

「…………はて?」

じいじはそんなこと言いましたか? とでも言うように聞き返す。

「この老いぼれ……本当に完全にボケてやがるのか?」

ドッペルゲンガーは怒りの表情を浮かべる。

「いや、すまんすまん……。なんとか打開する方法を考えている……確かにそう言ったかもしれない」

「……?」

「嘘なんだな、これが」

「っっ……!?」

「実は、なーんも考えておらん」

「ど、どういう……?」

ドッペルゲンガーが疑問に思ったその時、

「ギアァアアアアアアアア」

突如として、鉄拳の騎士がうめき声をあげ始める。

「なっ……!? どういう…………、ま、まさか……」

「そう……」

じいじは自身の持つ槍の切っ先に視線を向ける。

「毒なんだな、これが」