軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

86.対処

そこは人里離れた場所であった。

「白神のじいじさん、ご迷惑をおかけします。ここなら、無駄な被害を出さずに済みます」

ヨハンはそう言うと、革のアタッシュケースを取り出し、地面に置く。

「僕は愚か者だ……。嬉々として、こんなものをあろうことか、日本に持ってきてしまうなんて……」

だが、

「ヨハンくん、今は嘆いても仕方がない。君は若い。そして、俺から言わせれば、君は十分に立派だ」

じいじは優しい口調でヨハンに告げる。

ヨハンとリーゼは自身らの祖父の危篤の報に接し、空港ではなく、こんな人里離れた場所へ来た。

それは封魔術の大きな問題点。

〝術者が消滅すると効果が消える〟ことにあった。

そして、ヨハンらは技術交流会のために、ヴィンターシュタイン家のじいじが封印していたガイストの依代を日本に持ち込んでいる。

つまり、ヴィンターシュタイン家のじいじがドイツの地で亡くなった場合、その封印が遠い地で解かれてしまうということである。

例えば、移動中の機内、日本からドイツのフライトの間に、ヴィンターシュタイン家のじいじにもしものことがあれば、機内が大惨事になることは想像に難くない。

「白神のじいじさん、本当に申し訳ありません」

「いんや、この事態を想定し、指摘できなかった俺にも問題がある。まさかあいつがこんなことになるなんて想像もできなかった……。いや、年齢を考えれば、いつこうなってもおかしくはないのだな……。自身の危機感の低さに辟易とする」

じいじは遠くを見るようにそんなことを言う。

ヴィンターシュタイン家のじいじに当てはまることはじいじ自身にも当てはまることであった。

「そんなこと……ないよ……」

そう言ったのはリーゼであった。

「っ……」

じいじははっとする。

「長生きして……」

それは六歳の女の子らしい言葉であった。

「ありがとう……リーゼちゃん」

しかし、このリーゼは六歳にして自身の責任を主張し、一人の 霊の審判者(ガイストリヒター) として、道場に残ることを拒否した。

根本的な考え方として破魔師や 霊の審判者(ガイストリヒター) は、界の前世の価値観と異なり、年齢よりも実力が重視される。

つまるところ例え若くとも、実力が伴うならば、その意思が尊重されるということだ。

そんな幼き 霊の審判者(ガイストリヒター) の『六歳らしい素直さを持つ』一面と、『実力者して責任を果たす』という相反する一面に、じいじはうっかりほろりと来そうになる。

だが、今はゆっくりと感傷にひたる余裕はない。

「ヨハンくん、互いに後悔はあるだろうが、起きちまったものは変えようがない。今は目の前の問題に向き合う他ない。すでに日本の可能な限り優秀な破魔師に応援要請を出してはいる。しかし、すぐにここに来れるわけではない」

「応援要請……痛み入ります。では、僭越ながら現状の整理をさせていただきます」

「よろしく頼む」

「はい」

ヨハンは腰を落とし、革のアタッシュケースを開く。

石や瓶が詰まっている。

「ここには、11体……あ、いや、ヴォルフィは界くんが引き継いでくれたので、えーと、10体のガイストが封印された依代があります」

「うむ」

「もっとも楽観的なケースは、爺さんが危篤状態を脱すること……。その場合、何事も起きないわけですが、それはきっと……難しいです……」

「あぁ……」

「そして、もっとも悪いケースとして、今、この瞬間に、爺さんが……息を引き取り、この10体が同時に放たれてしまうことです。つまり、今、自分達がやるべきことは、封印が同時に解かれることを避けるべく、最小限のガイストの封印を解きながら、処置していくことです」

「うむ、同意だ。それで、ヨハンくん、その10体……。それぞれの強さはどれほどなんだ?」

「はい……。10体とも簡単な相手ではありません。ですが、その中でも特に強力なのがグリム・アスシュナーベルです」

「あぁ、あいつの最大の功績だろうな……」

「はい」

「つまりそいつを何とかすれば何とかなりそうということか?」

「そう……と言いたいところなのですが……実はもう一体……強力なガイストがいます」

「……!」