軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

63.人間やぞ

界が封魔術の実戦訓練をしてから数日後――。

「界様ぁあ、あぁあ゛ぁああ゛ああ」

新幹線を見送りながら 咽(むせ) び泣く 翁(おきな) が一人。

くまじいじである。

(ばいばい、くまじいじ、ありがとうね。また会おうね)

界は心の中でそう思いながら、にこりと微笑みながら、手を振る。

「界様ぁああぁあ゛ぁああ゛ああ」

(あらあら、くまじいじったら……、昔の恋愛ドラマみたいに、走って新幹線を追ってきて……無理しないでね……)

「…………」

(……って、ちょ! 本当に無理しないでねぇええ!)

ホーム先端まで結構な速度で追ってきたくまじいじに界はちょっと怯えつつ、ここ二週間ほど、お世話になったくまじいじと別れた。

「ったく、あのじじいは自分の年齢考えろや……」

ついに車窓から見えなくなったくまじいじに対してじいじが苦言を呈す。

(ははっ……、じいじもね……。二人とも 労(いたわ) わって欲しいな……)

界はそんなことを思いつつ、苦笑いする。

こうして、初夏のダブル 爺(じい) による封印術訓練の日々はひと段落し、界はじいじと共に東京に帰るのであった。

東京に戻ってから――。

界は東京でも、じいじと共に封魔術の修行を続けた。

鏡美による基礎訓練が7割、じいじによる封魔術訓練が3割といった具合であった。

界の父はいまだ修行から帰ってきていなかった。

母は、妙に大人びた界よりも、まだ2歳である妹の 巡(めぐり) の世話をしている時間が多かった。

それもあり、界は敷地内にあるじいじの家で過ごす時間が増えていた。

実のところ、前世においてもこの頃からじいじとばあばと生活していた界にとっては、むしろその方が普通感があった。

そして、じいじは東京でも、時々、霊魔の実戦現場に連れて行ってくれた。

実戦訓練を経て、界は、自身の封魔術における現在地をある程度、掴むことができた。

といってもそれは一般的な封魔術の特徴と一致していた。

すなわち

①相手を弱らせないと成功しない

②相手が強くなる程難しい

の二点である。

加えて、じいじから一つ、重要な指導があった。

それは、よほどのことがない限りは封魔術ではなく、消滅させるべきという内容であった。

この理由も封魔術の一般論と同じである。

封魔術は最大魔力量を消費して、行う術である。

いかに界の魔力量が多いとはいえ、消費される魔力量が不明であるから、むやみやたらに使用するべきではないという理屈である。

界は少し残念ではあった。

しかし、東京に来てからの実戦訓練では、 狒々(ひひ) のような生理的に気持ち悪いタイプの霊魔ばかりであり、幸いにも消滅させることに 躊躇(ちゅうちょ) する必要はなかった。

そんな日々を送っていたある日のこと、界はじいじとの訓練中に、封魔術について質問をしていた。

「じいじ、ちょっと封魔術について質問したいことがあるんだけど……」

「なんじゃ……」

「鎮霊の儀ってどうやるの?」

「ブフォっ!」

界の何気ない質問にじいじは吹き出す。

鎮霊の儀とは、霊魔を赤子の依代に閉じ込める儀である。

界自身も鎮霊の儀によりドウマを 卸(おろ) された依代の子である。

「ど、どうしたの? じいじ」

「界……あのなぁ……鎮霊の儀ってのはな、歴史上最大の封魔術と言われていてな……。そんな素朴な質問みたいに聞かれてもなぁ……」

「……そうなの?」

「そうじゃよ」

(「そうなの?」)

界はドウマにも尋ねてみる。

【…………儂様はそうは思わない】

(「……」)

鎮霊の儀を編み出したドウマ自身と、世間の評価は少し違うようであった。

ただ、じいじは鎮霊の儀に対して好意的な評価をしていたが、歴史上最 悪(・) の封魔術と考える派閥があるのも事実であった。

「界よ……、鎮霊の儀はな、封魔術の中でも 犠(・) 牲(・) の(・) 封魔術と呼ばれている」

「犠牲の封魔術?」

「そうじゃ。要するに大きな犠牲と引き換えに大きな効果を得ることができるというわけじゃ」

「……うん」

「そう聞くと、犠牲さえ払えば、できるのかと思うじゃろ?」

「……うん」

「だが、実際には極めて複雑な印をつなぎ合わせて、完成させるものだと言われている」

「……言われているってどういうこと?」

「昨今の破魔師からすれば、それは失われてしまった技術というやつじゃ」

「……!」

(ロストテクノロジー的な……?)

「それともう一つ、大事な話がある」

「……?」

「界、封魔術にはな、大きな弱点というか問題点があるのじゃが、わかるか? 今まで教えたこと以外で……だぞ」

(……! なんだろう……)

界はしばらく考える。

しかし、思いつくことができなかった。

「わからないよ、じいじ」

界がそう答えると、じいじはなぜか少し嬉しそうにして、そして真剣に語り始める。

「封魔術の大きな問題点。それは〝術者が消滅すると効果が消える〟ことじゃ」

「……!」

「……え、じゃあ、どうして鎮霊の儀はずっと……」

(……! そ、そうか…………。ドウマ自身が……慰霊になることで……)

と、

【犠牲の封魔術はもう誰にも伝承されなくていいものだ……。永続的な封魔術なんてものは、平和な今の時代には不要だろ……?】

(っ……)

ドウマの言葉はどこか 儚(はかな) げに聞こえた。

「……でも、じいじ、僕、もっと封魔術を極めたいよ!」

「……なんと! そんなにじいじの得意な封魔術を……?」

「うん……!」

「…………意思はわかった」

じいじはこくりと頷く。

しかし、その日はそれ以上のことはなかった。

時は流れ、3か月後。

2016年秋――。

ある日、界は訓練を終え、家に戻った。

その日は大雨で、じいじの家から自宅に戻るまでの間にびしょびしょに濡れてしまった。

(うへぇ、濡れた濡れた……。家の中汚さないように風呂にでも入るか……)

そうして、界は直行で風呂に入ることにした。

意気揚々と浴室に入った界は、

「え…………?」

思考停止する。

そこには、同い年くらいの色素の薄い髪質をした……要は西洋風の美少女がいたからだ。

もちろんすっぽんぽんだ。

少女も界を見て、完全に動きが停止している。

意味不明な状況に、界は思う。

(「…………こんな霊魔もいるんだなぁ」)

【人間やぞ】