軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

59.お手本

「えーと、それじゃあ……」

初手、界が手の平を前に突き出す。

「「っ……!」」

じいじ、くまじいじ、そして蛇の霊魔達も驚かされる。

発生したのは壁。

それもアクリルのように、壁の存在は認知できるが、向こう側も視認できる透明な壁だ。

その壁が、部屋を隔てるかのように、界と霊魔1体、じいじと霊魔2体、くまじいじと霊魔2体を分離したのだ。

「ちょっ! 界……!」

界の初手に対して、じいじは少し抗議するように界の名を呼ぶ。

「なぁに……? この方が修行に集中できるかなって……」

「そ、そうなんじゃがな……ふ、封魔術をだな……」

「妖術はダメって言われたけど、 魄術(はくじゅつ) はダメって言われてないかなと思って……。ダメだったかな……」

「っ……、まぁ、確かに、妖術は使うなとしか言ってないな……。……だが、目的は……」

「わかってるよ。妖術を使うなって言うじいじの意図は、封魔術の訓練だよね?」

「……うむ、わかっているのならそれでいい」

「おーい、白神……私はそろそろ始めるぞい……」

そう言って、最初に動いたのはくまじいじであった。

界は目の前の敵に意識を向けつつも、くまじいじの方にも意識を傾ける。

壁で分離したのは、単に、分担分を明確にしただけではない。

じいじ、くまじいじという破魔師の戦いを観たかったから。

そして、

(……二人の封魔術のスペシャリストの実戦を観て、何かを吸収してやる)

界の目に野心的な光が 灯(とも) る。

「それじゃあ、いくぞ……」

(はやっ……!)

くまじいじは目にもとまらぬ速さで、封絶術の印を結ぶ。

ほぼ同時に、くまじいじの指先から太い縄が出現する。

「封絶術…… 封縄(ふうじょう) !」

縄の 封綾(ふうりょう) が二体の蛇に絡みついていく。

(……ってか、蛇自体が細長いから紐を紐で縛ってるみたいだなぁ)

などと界は割としょうもないことを考えていたが、

(あ、あれ……?)

結果として、ぱっと見では、二体の蛇の態度に大きな変化は起きていない。

(……なんなら気づいていない?)

「界様、封絶術は強力な術です」

界が観ていることに気が付いたのか、くまじいじが語りだす。

「ですが、封絶術そのもので相手を 破(やぶ) る 類(たぐい) のものではない」

「ジャアアアアアア!」

(あ……!)

何かをされた違和感はあるのか、二体の蛇がくまじいじに襲い掛かる。

と、くまじいじはポツリと呟くように、技名を宣言する。

「炎術…………〝 蛍火(ほたるび) 〟」

くまじいじが行使したのは炎の初級妖術〝蛍火〟である。

二つの小さな炎が放たれる。

(…………おぉ)

界は息を呑む。

界にとって、もはやお馴染みとなった炎術〝蛍火〟。

(蛍火に関して言えば、割と詳しい方だと思う)

くまじいの紅の蛍火は、呼吸と同調するように微かに脈打つ。その焔は放たれる瞬間を待ち、静かに揺れていた。

蛍火ガチ勢の界から見てもくまじいじの蛍火はなかなかのものであった。

とはいえ、あくまでも小さな炎の球体であることに変わりはない。

蛇達は怯むことなく、くまじいじに向かい襲い掛かる。

それを迎えうつかのように、静かに漂う蛍火に、襲い来る蛇が触れる。

次の瞬間であった。

「ギァアアアアアアアアア!」

突如、蛇達が身をよじり、奇声をあげる。

「……めちゃくちゃ効いてる?」

「……先ほどの私の封絶術は、奴らの防魔力を極小化するものです」

(なんと……!)

「奴らはそれに気づくことができず、弱い妖術と決めつけ蛍火に飛び込んでしまった。その先にあるのは……」

「ギァアアァアア!!」

「……消滅です」

くまじいじの前に、二体の蛇はあまりにもあっけなく消滅してしまった。

「……すごい」

界が感嘆の言葉を漏らす。

「界様、お褒めいただき光栄です。とはいえ、 余裕綽々(よゆうしゃくしゃく) という程でもないのです。私は封絶術を使用している間は強い妖術を使うことができません。つまるところ、今回は一人で消滅させるところまでをしましたが、基本的には私が封絶術をしている間に、別の破魔師に攻撃をしてもらうのが通常の戦い方になります」

「……そうなんだね。でも、くまじいじ、やっぱりすごいよ……!」

「ありがとうございます」

くまじいじは界にぺこりと頭を下げる。

(さて、次は……)

界はじいじの方に視線を向ける。

(じいじの封魔術……勉強させてもら……)

「雷術〝 雷轟(らいごう) 〟」

(……ばりばりぴしゃぁ)

じいじの放つ電撃を浴び、二匹の蛇は消し炭となった。

「って、じいじ!? 封魔術は!?」

界は思わずツッコミを入れるように尋ねる。

「……界、勘違いするよな? これは封魔術の基礎の基礎だ」

「え……?」

「封魔術を使う必要のない相手には封魔術は使わない」

「……!」

(……そうか……、封魔術は魔力の最大値を犠牲にするから……。例えしばらくして霊魔が復活したとしても、遭遇する度に霊魔を封印していたら、キリがないってことか……。じいじはそれを俺に教えるために……)

(………………ん?)

「……じゃあ、なんで父ちゃんは熊燐、封印してたんだろ……?」

「わからん」