軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

03.色々とおかしい

「おぎゃあああああ!」

「……赤ちゃんが泣いております。お乳を欲しがっているのかと。ここからは家族の時間です。儀式関係者はお下がりください」

助産師がそう告げると、その場にいた7割の人が去っていく。

赤池はまだ少し不満そうであったが、他の人間に続く。

「では、こちらを……」

看護師らしき女性が哺乳瓶を片手に現れる。

と……、

「お待ちください……私が……私の母乳をあげてもよいでしょうか?」

母がそう申し出る。

看護師ははっとする。

それもそのはずだ。

本来であれば母はここにいない想定であった。

だからこそ、最初から粉ミルクを準備していたのだ。

「構いません……本来であれば、絶対にその方がいいのです」

自分もいないはずであった助産師はそう告げる。

「ありがとうございます…………さぁ、 界(かい) 、たーんとお飲み……」

(界……!?)

母に呼びかけられ、初めて自分の名前を認識した界は驚く。

(え……? 名前まで前世と同じ……)

そして、界は母の胸にあてがわれる。

(え……!? まじか……)

生まれたばかりの赤子の視力はとても低い。

しかし、かなり近くまで寄れば、なんとなく視認することができる。

(…………母さん?)

それは若かりし日の界の母であった。

「おぉー、界、いっぱい飲めよぉ」

「ちょっと旦那様、新生児にそんなに顔を近づけるのは……」

「あ、すみません……つい……」

助産師に注意された父……それも若かりし日の父であった。

(……???????)

界は混乱する。

それもそのはずだ。

(え……? うちの両親って普通のリーマンとOLだったんだが……いや……それ以上に……父ちゃんと母さんが……生きている)

「あれ…………飲みませんね……」

助産師が少し焦りの表情を浮かべる。

界は、あまりの衝撃に母乳を飲むことを忘れていた。

「なんということだ! 生まれてすぐにあんな怪しげな大人たちに囲まれたストレスからだろうか……。界、大丈夫だぞ……!」

「界……! 大丈夫よ……。貴方は絶対に父ちゃんと母ちゃんが守るから……」

父と母が必死な様子で界に声を掛ける。

さらに……、

【おい、 早(はよ) う……飲め。 儂様(わしさま) はお腹が減って力が出ない……】

頭の中の人が界を急かす。

(こっちは今、頭の中、ぐちゃぐちゃだってのに……。あー、わかりましたって……)

界はいまだ混乱していたが、勢いに任せて母の乳に吸い付く。

(っ……! な、なんだこれは!?)

界は衝撃を受ける。

(美味しい……! 美味し過ぎる……!)

その味は、まるで身体の中に電流が走るようであった。

【な、なんだこれは……!? 非常に美味だ……!】

頭の中の人も同じであるらしい。

「おぉ……急に、すごい飲みっぷりですね……」

助産師が安心したように言う。

助産師は更に続ける。

「本来、生まれたばかりの子は可能な限り、初乳を飲むべきなのです」

産後から数日間の間、通常とは異なる黄色がかった母乳が出る。

この母乳は赤ちゃんの免疫力を高めると呼ばれ〝黄金の液体〟などと呼ばれている。

【本当に信じ難い……! 未だかつてない味だ……!】

(「いやいや、ドウマさん……あんたは今まで母親も呪い殺してたから飲めなかったんでしょうが……」)

界は気がつくと頭の中の人に語り掛けていた。

【……っ!】

すると、頭の中の人は絶句する。

【貴様……依代の分際で、このドウマ様に意見するとは、いい度胸だな……】

その発言で、界は頭の中の人が〝鬼神ドウマ〟であることを確信する。

【少し支配から耐えたからといって、あまり 儂様(わしさま) を舐めない方がいい……腹も満たされたことだ……そろそろ本気を出させてもらおう】

(え……?)

「「……界!?」」

界の身体を禍々しいオーラが包み込む。

【うぉおおお! なんという力だ……! 力が溢れ出てくるぞ】

(「おい……! ドウマさん、やめろよ……!」)

しかし、これまでと異なり、制止の意を示しただけではオーラが収まってくれない。

(…………やばい)

【それじゃあ、まずはお前の父親を呪い殺そうかなぁ……。父親からはあの美味い母乳も出まい……】

ドウマはねっとりとした邪悪な声で言う。

(……っ!)

界は焦る。

そして鬼神と呼ばれるドウマを少し舐めていたことを反省する。

(調子に乗るな、俺……! 元は前世で何も果たせず死んだリーマンだぞ? 謙虚になれ……)

だが、例え前世で何も果たせていなかったとしても、父を殺すなど到底、黙認できるものではなかった。

(何か……何かできることはないか? 赤子状態のこの俺にも……!)

界は必死に考える。

(っ……!)

そして、辛うじて一つの案を思いつく。

(「だったら……自殺するぞ?」)

一か八かであった。

【は……!?】

界の言葉にドウマも動揺する。

その反応で、ドウマも界に死なれては困ることが分かる。

しかし、ドウマもすぐには引かない。

【はーん、泣くことしかできない赤子のお前がどうやって自殺するというのだ?】

嘲(あざけ) るような口調で、界に尋ねる。

(「どうって……こうだよ……!」)

【……!】

界は息を止める。

要するに、窒息自殺である。

【は……!? そんなことできるわけ……】

ドウマが言いかけたその時であった。

界の身体から漏れ出ていたドウマの禍々しいオーラが霧散する。

(「ん……? あ、止めてくれたんですか、どうもです」)

【……え? あ、あぁ……そ、そうだ……今日はこのくらいにしておいてやる……】

(ん……?)

ドウマの言葉はどうも歯切れが悪かった。

「ねぇ……あなた……」

「あぁ……」

一方で、父と母は顔を見合わせる。

「いや、そんなまさか……だが……真弓……私も微かに感じた……。今、界から一瞬、 光(・) の(・) 魔(・) 力(・) が放たれたような……闇を打ち消す光属性……」

「旦那さま……流石にそれは……」

少し離れて見ていた助産師が父と母の反応に懐疑的な意見を投げかける。

「鬼神ドウマの依代の子はドウマ様の持つ強力な闇属性の魔力であると言い伝えられております。先ほどから界くんが何度か 纏(まと) った強い魔力の気配は確かに闇属性。闇属性の魔力を持っていることは間違いないかと……」

「それはそうなのだが……その……一瞬だけな……光属性を感じたんだ……」

「ならばなおさらです。二つの属性を同時に持つことなど……前例がございません。それが稀少中の稀少とされる光属性となると……」

「……それもそうだな」

父は助産師の意見を聞き入れる。