軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

24.雨のお部屋で

「界くん、お疲れ様……お部屋に戻ろうか」

「あい」

栗田の響術訓練を終え、夕食を食べた二人は自分の部屋へ戻る廊下を歩いていた。

飴を食べた時、一時的に年相応の女の子モードになっていた雨は元の大人びた雰囲気に戻っていた。

廊下の突き当りは左右に分かれている。

界は左の通路側、雨は右の通路側が自室となっていた。

雨は自分が進む右側の通路をじっと見ていた。

「そ、それじゃあ雨さ……」

界は自室へ戻ろうとする……と、

「ねぇ……界くん」

「あい?」

「……私の部屋……来ない?」

「へ……?」

(…………な、なんで?)

「……訓練の続き……しない? ほら、イメージトレーニングならいいって言われてるでしょ?」

「訓練の……」

(やぶさかではないのだが、それは自室でもできるんだよなぁ……。もちろん別の子の部屋に行くのはNGだろうしなぁ……。うーん……)

界がちょっと悩んでいると……、

(ん……?)

雨が人差し指と親指で、界の服の裾を 摘(つ) まみ……、

「……ねぇ……お願い」

懇願してくる。

(…………震えてる?)

雨は何かに 怯(おび) えるように震えていた。

(…………そういえば、雨さんは何かに怯えるような時があるんだよな……)

「……」

(まぁ、依代の子ってのは本来、悪童確定と言われてるみたいだし、ちょっとくらいやんちゃしても大丈夫だろ……)

「……わかったよ」

「……~~!」

界が承諾すると、雨は明らかにほっとした顔をしていた。

そうして、界は雨の部屋にお邪魔することにする。

「「……………………」」

雨の部屋につくと、雨は宣言通りにイメージトレーニングを始めた。

なので、二人、無言。

そうして、しばらく無言タイムが続いた。

「…………界くん、お疲れ様。少し休憩しようか……」

「あい、お疲れ様です」

界と雨はかれこれ2時間くらいはイメージトレーニングをしていた。

そんな状況で、界は思うところあり、なんとなくドウマに語り掛ける。

(「…… 雨さん(この人) ……子供なのに、めっちゃトレーニングするな……。栗田先生の訓練も子供には十分すぎるほどの量だった。それなのに、自室に戻って2時間もイメージトレーニングって……」)

【お前もじゃん】

(……ほ?)

と、

「…………ん?」

界の視線に気づいたのか、雨が「なんだろう?」というような顔をする。

なので、界は聞いてみることにする。

「あの……雨さんってどうしてそんなに一生懸命、訓練してるんですか?」

「……!」

界の質問に雨は一瞬、はっとする。

「あ、雨さん、ごめんなさい……無理に話してというものじゃ……」

「ううん……いいよ……。界くん、今日、無理言って、お部屋に来てくれたし……」

(……)

「私、立派になりたいの……。だって、お父さんからお母さんを奪ってしまったから」

「……!」

それは依代の子の宿命。

この世に生を受けた時に、母親を呪い殺す。

界は偶然にもそれを回避したが、それは歴史上、初めての出来事であったという。

それはつまり、その前に生まれていた雨は例外ではないということ。

「雪女アサネはさ、八柱の慰霊の中では、穏やかな方なんだって……。アサネが抜けてから大人が言ってたんだ。不幸中の幸いだって……。それを聞いて思った。あぁ、私ってやっぱり 不(・) 幸(・) なんだなって……」

(……)

界は言葉に詰まる。

「お父さんは本当に私に良くしてくれたよ。私はお母さんを奪ったのに……。私の名前、お母さんがつけてくれたんだって。雪なんかに負けるなって。それで、雨。結局、自属性は氷になっちゃったんだけどさ……」

雨は更に続ける。

「アサネは確かに穏やかな方ではあったんだろうね。理不尽に人を呪い殺すことなんてなかったし。だけど、その美貌から、別の霊魔をおびき寄せた。そのたびに、お父さんは私を命がけで守ってくれた」

(…………雨さんが時々、なにかに怯えてるのは、そのトラウマが影響してるのか?)

「お父さんはね……クラス5〝力級〟の破魔師なんだ……。すごいでしょ? 私のお父さん……」

「あ、うん……。すごいと思う」

「だからね、私も立派な破魔師になりたい。お父さんやお母さんに恥じない……立派な破魔師に。多くの依代の子は大成しないっていう過去の前例を覆してやりたい……」

「なろうよ」

「……!」

それまで黙って聞いていた界が初めて発した言葉に雨ははっとする。

「一緒になろう。大成した依代の子って奴にさ! 雨さんが史上初の大成した依代の子。それで、僕が二番目……!」

「…………」

雨は目を丸くしている。

そして、続ける。

「界くん、過去の依代の子にも大成した人は少しはいるよ?」

「えっ!? そうなの!?」

「うん」

(……めっちゃ恥ずかしいぃ)

界は下を向く。

「…………ふふ」

(……?)

雨が少し微笑んだような気がして、界は顔を上げる。

「……な、なんでもない」

と、雨は照れくさそうに視線を逸らすのであった。

それから界、雨の栗田による自由時間の響術訓練は二か月ほど続いた。

そして、ある日のこと。

「界くん、雨さん、今日まで毎日、本当によく頑張った」

栗田が二人にそんなことを言う。

「正直、私なんて不要だったかもしれないが、二人の訓練に関わることができて光栄でした」

(……不要なんかじゃ全然ない)

「そんなことないです。栗田先生のアドバイスはとてもわかりやすかったです」

( 寂護院(ここ) へ来たのも悪くなかったと思えるほどに)

「ありがとう、界くん。それじゃあ、界くん、雨さん…………私に二人の今日までの成果を見せてくれないか? いわゆる成果発表会という奴だ」

「あい」「はい」

そうして二人は訓練の成果を披露することになる。