軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

08 オコジョ教授

青の魔女が魔法語資料を持ってきてくれると言ったので、俺は約束の五日後を指折り数えて待った。

魔法杖は魔法語を通して行使される魔法を補助強化するものだから、魔法杖を製造する上で魔法語知識は欠かせない。

魔法語を知らずに魔法杖を作るのは、現場を知らない社長が製造業の音頭を取るに等しい。まあやれるけど、上手くは行かないよね。

魔法語の勉強は魔法杖の構造理論理解と発展のために欠かせないものだと睨んでいる。

あとシンプルに魔法語に興味がある。

学生時代に無理くり英語を勉強させられていた時とはやる気に雲泥の差があった。

だって魔法語だもんな。誰だって興味ある。

そして五日後、青の魔女が持ってきてくれるであろう魔法語資料の束をワクワクして待っていた俺の期待は裏切られた。

青の魔女はいつものボロボロ黒服に青魔杖キュアノス&仮面装備で、資料を持っていなかった。代わりに肩に小動物がちょこんと乗っていた。

「こんにちは、初めまして。 大日向(おおひなた) 慧(けい) です!」

「しゃ、喋った!?」

小動物は幼い女の子の声で元気よく挨拶をかましてきた。

そいつはイタチのように見えたが、体毛が白いからたぶんフェレットだ。

フェレットが喋った。普通、フェレットは喋らない。でも喋ってる。という事は、

「フェレットの魔物だーッ!」

「アハハ、やっぱりそう見えちゃいますよね。実はオコジョなんですよ。あと、人間です」

フェレット改めオコジョはそう言って青の魔女の身体をささーっと駆け下り俺の足元までやってくると、小さな右前脚を差し出してきた。

意味不明なジェスチャーだったが、一拍遅れて意図に気付き、俺はしゃがんで握手した。

手、ちっさ! 俺、喋るオコジョと握手しちゃってるよ。ファンタジーというかメルヘンだ。

ふん、おもしれー生き物。

でもそれはそれとして、俺が注文したのは魔法語資料なんですが?

どうなってるんですか、配達員さん。注文の品と違いますよ。誤配ですか?

「魔法語の資料は? 配達遅れ? せっかく今日手に入るって期待して待ってたのにさ、オコジョなんて連れて来られてガッカリだよ」

自分自身の飼育ですら苦労してるのに、ペットなんて飼えないぞ。

青の魔女に文句をつけると、彼女は珍しく嬉しそうに言った。

「慧ちゃんは青梅生まれ青梅育ちなんだ。グレムリン災害の前に両親が離婚して、父に引き取られて港区に引っ越したおかげで生き残ってくれていた」

「あ、そーなん? 良かったじゃん」

俺は素直に祝福した。

青の魔女が青梅とその住人の守護に固執しているのはよく知っている。

全滅したと思われた青梅の住人が、形はどうあれ無事見つかったなら喜ばしい。

「て事はなに? こいつ元々人間?」

「そうなんです。魔法の暴発でこーなっちゃいました!」

そう言ってオコジョ、大日向は短い両手を上げバンザイした。

めっちゃかわいい~! ニコニコしてしまう。

テレビの動物アテレコ番組は大嫌いだったけど、本当に人の言葉を喋る動物ってマジかわいいな。人の言葉は苦手だし、動物畜生も苦手なのに(畑を荒らす畜生共のせいで嫌いになった)、合体すると可愛いのは不思議だ。

お前人間辞めて正解だよ、と思ったが、口に出さないだけの良識がギリギリ俺にもあった。

「変身失敗か。じゃ、魔女なんだ? オコジョの魔女とか?」

「いえ。私は魔法語学者です。今日はですね、大利さんが魔法語の講義をお望みとの事で、青の魔女さんに紹介頂いて伺いました!」

「…………」

ちっさい頭をぺこーっと下げお行儀よく一礼する大日向を見て、真顔になる。

俺は青の魔女を建物の影に引っ張った。

声を潜めて詰問する。

「おいっ! 資料でくれよ! 紙でくれ! なんで研究者本人連れてきちゃうんだよ! バカ!」

「私も最初は紙の資料を受け取ろうと思っていたんだが。研究室を訪ねて話していたら、慧ちゃんが青梅出身だと分かったんだ」

「分かったからなんなんだよ」

「 魔法杖職人(ワンドメーカー) に興味があると言ったから、連れてきた」

「はぁ~?」

おいおい、話したんか?

奥多摩に魔法杖職人がいると。

コミュ障非正規人間国宝がいると。

俺こそが あの(、、) キュアノスを作った魔法杖職人だと。

話したんか!

「俺の存在は隠した方が良いって言ったのお前だろ。なんでペラペラ喋った?」

「もちろん、信用できるからだ」

「そうなのか?」

「ああ。慧ちゃんは青梅出身だからな」

青の魔女は「空は青い」ぐらい当たり前の事実を言うようにのたまった。

ダメだこいつ。普段は冷静沈着なのに、青梅出身者に甘すぎる。

人間に会いたくない俺と、核爆弾クラスの技術を広めたくない青の魔女の間で、俺の存在を隠すという合意はとれていたと思っていたんだが。とんだトラップがあったもんだ。

俺は少し距離が離れたところでちょうちょを目で追っているメルヘン動物をチラ見した。

いや、でも、大日向は全然人間に見えないっていうか人間じゃねぇしなあ。

どうみてもただの喋る小動物。こんな見るからに非力で可愛いオコジョを怖がってたら生きとし生けるもの全てを恐れなきゃならんぞ。

対外交渉を全て青の魔女に丸投げしたのは俺だし……青の魔女が信用できると判断したなら、まあ、いいか?

魔法語の資料は紙で貰えるのが一番良かったが、喋るオコジョでも悪くはない。

人間じゃなくて良かった。事故ってオコジョになってくれていて良かった。一生そのままで頼む。

俺は詰問を終えオコジョの前に戻り、歓迎した。

研究職の方と話すのは初めての経験だ。

教授とお呼びしないとな。

「今日はよろしくお願いします、大日向教授」

「はい! こちらこそ! キュアノスについて色々ご教授いただければ嬉しいです!」

頭を下げると、オコジョ教授はお手手を胸の前で揃えムン! と気合を入れた。

うーん?

魔法語の研究をしている教授って割には、声も仕草も幼い気がするんだよな。

見た目はオコジョ、中身は若作りオバさんとか?

いや待てよ。

「教授」という言葉の響きで中年~老齢ぐらいをイメージしていたが、そうとは限らない。

一応聞いてみる。

「失礼ですが、大日向教授はおいくつですか?」

「先月、十二歳になりました!」

ふんっ、なんだガキかよ!

飴ちゃん食べるか!?

立ち話もなんなので、大日向教授を家の中に案内する。勝手知ったる人の家、青の魔女は俺の蔵書(漫画)を読むために一言断ってからさっさと書斎に引っ込んだ。

踏みつぶしてしまわないよう気を付けながら大日向教授を我が作業室に案内すると、オコジョは歓声を上げた。

「わあっ……!」

オコジョは小さくつぶらな瞳をキラキラさせ、作業机の上にちょろちょろっと駆け登り部屋を見回し感嘆する。

「すごい、すごいです! 魔法職人さんの工房みたい!」

みたい、っていうかその通りなんだよなあ。

青の魔女も初めて作業部屋に通した時は同じような反応だった。

実際、元々土間だった八畳の作業部屋にはファンタジー感がある。

電気をこの世から消し去ったグレムリン災害の後、3Dプリンターやグラインダーは部屋から撤去し、砥石や鉄床など原始的な工具を増やした。

グレムリン結晶をジャンジャラ詰め込んだ半開きのジャンクボックスはまるで宝箱。壁にはオクタメテオライトを飾って祀ってあるし、いくつかの魔杖設計図も貼り付けている。

奥多摩中学校の理科室からパチってきた実験器具もガラス棚を彩り、俺が天井から吊り下げたランタンにマッチで火をつけると、部屋はオレンジ色の柔らかな光に照らされた。

溶けた蝋とススの匂いがまた雰囲気のある古臭さを演出し、大日向教授は鼻をピスピスさせ置きっぱなしの工具を触らないようチョロチョロ動きながらあれこれ聞いてくる。

うむ、なんでも聞いてくれたまえ。

「これはなんですか?」

「それは砕いたグレムリンをエーテル溶媒に入れて手廻式遠心機で成分分離できないか試してた」

「なるほど? 面白い実験ですね! 結果はどうでした?」

「失敗した」

「あら。残念です……こっちは?」

「エッチングでグレムリンを加工しようとした。耐腐食性が高すぎてこれもダメだった。工具溶かしただけだった」

「へぇえぇ~っ! 色々やっていらっしゃるんですね! すごいです!」

「まあね」

元気いっぱいの小動物の賛辞にちょっと引く。

このオコジョ、ぐいぐい来やがるな。友達多そうで壁を感じる。

「大利さんは頭がいいんですね。こういう実験って全部自分で思いついてるんですか?」

「まあ……」

「おおーっ! 発想力あるんですね。やっぱり大学でそういうの勉強したりしたんですか?」

「大学はあんま関係ねぇんじゃないか。知識が発想の元になるのはそうなんだろうけど」

「あ、分かります。私もお父さんに習ったこと、すごく研究に役立ってます。こういうのって職人さんと一緒なんですねぇ。大利さんはどこの大学に通ってらしたんですか?」

「言っても伝わらん地味なとこだよ」

「そうなんですか? そんな事ないと思いますけど……東京の大学ですか? 大利さんの地元ってどこなんですか?」

「愛知」

「愛知っていうと、味噌カツ! 美味しいですよね。やっぱりよく食べるんですか?」

最初は魔法杖工房に興味があるのかと思って質問に答えていたが、なんかちょっと違うっぽい。関係あるようで関係ない話題を振られまくる。

なぜこんなに俺のプライベートを掘り下げてくるのか? 魔法杖にも魔法語にも関係ないぞ。ひょっとして身元の探りを入れられてる?

でも子供だしなあ。十二歳の子供がそんな事するか?

「さっきから何だ? 根掘り葉掘り聞いてきて何がしたいんだ」

「あ……嫌でした? ごめんなさい。おんなじ魔法の研究をしている同士ですし、仲良くなりたいなって思って。えへへ」

「仲良く……?」

「はい! 友達になれたら嬉しいです!」

「???」

動物の顔だと分かりにくいが、どうやら大日向教授は照れてモジモジしているようだった。

日本語のはずなのに脳が理解を拒んで何を言っているのか分からない。

お前は一体何を言っているんだ?

友達ってのはなろうとしてなるもんじゃなくないか?

友達になるために仲良くするって意味不明だ。

気が合うから、必然的に仲良くなって、いつの間にか友達になっている。それが自然の成り行きというものだ。

仲良くなるための努力ってお前、そんなの歪だろ。人間の摂理に反している。

じゃあ相手の事が大嫌いでも、本心を隠して仲良くなる努力をして、上っ面の「俺達友達だよね」が通れば友達なのかよ!?

はーまったく、コイツは友達という概念をなんもわかってねぇな。

俺、生まれてから一人も友達つくったことないけど、そういうのは分かるぞ。

……分かるぞ!

俺が大きく舌打ちすると、全面拒否の意図を察したらしい大日向教授はびくっと震え、小さな尻尾を垂れ下げションボリした。

社会の厳しさを知らんガキがよぉ。世の中にはカラオケに誘われただけで動揺で呂律が回らなくなる男もいるんだ。もっと友達は選びな!

「そういうのいいから。さっさと魔法語について教えてくれ。そのために呼んだんだぞ」

「はい……すみませんでした」

大日向教授は悲しそうに落ち込んでいたが、すぐに気を取り直し、作業用の製図板にジャンプして飛び移った。

「えっと。じゃあ、あの、この紙と鉛筆使っていいですか」

「いくらでも」

「では失礼して。それでは講義を始めさせてもらいますね。あ、トイレとか大丈夫ですか? 一応、90分の講義内容を組んできたんですけど」

「問題ない。聞かせてくれ」

俺はクッションを敷いた椅子に尻を預け、メモを取る準備をして傾聴の姿勢をとった。

まさか大学を卒業してからまた講義を聞く事になるとは思いもしなかったぜ。魔法言語学の講義がある大学があったら大人気だっただろうな。めちゃかわオコジョ教授だし。

「まず魔法言語学の歴史から。私の父、 大日向(おおひなた) 聡一(そういち) は大学で言語学の教鞭をとっていたんですが、グレムリン災害が起きて間もない頃、知人の吸血さん……吸血の魔法使いに相談を受けたんです。グレムリン災害に端を発した一連の事態を重く見た父は、研究室の助教とゼミ生を集めて魔法言語解析チームを発足しました」

「ほう」

出たよ、吸血の魔法使い。

青の魔女の話にもよく出てくるけど、手広く色々動いてた有能マンだったらしいな。

もう死んでしまったというが、生きていても会う事はなかっただろう。社交性の高い人は苦手だ。

「研究チームは、まず言語サンプルを集めました。言語学に限らず全ての学問に適用できる実験科学の手法に、『観察・推論・仮説・検証・考察』という五段階法があります。観察してデータを集め、データから予想を立て、予想が正しければこうなるはずだと仮説を設定し、実際に仮説を検証して、検証結果を考察する。そしてまた観察に戻り、繰り返します。こうして理論的かつ効率的に真実に近づいていくんですね。

あ、このあたりはメモ取らなくても聞き流して大丈夫ですよ。ガイダンスなので。

言語サンプルの蒐集はこの一連の五段階法の『観察』にあたる初歩です。研究チームは吸血さんに協力頂いて、13人の魔女と魔法使いから呪文の聞き取り調査を行い、合計72の呪文をサンプリングできました。この72の呪文の意味と発音方法を分析分類したところ、人類には発音不可能な未知の発音記号7音を少なくとも設定しなければならないという結論に達しました。つまり魔法語は、そもそも人間、ホモ・サピエンスが使う言語ではないんですね」

「それ聞いた事ある。青の魔女も変な音で詠唱してたな」

「ああ、ヴァアラー系統も発音不可音を含んでいます。よく御存知ですね」

大日向教授は頷いた。

「魔法言語学は言語学ですが、歴史や風土学の要素も含みます。例えばですね。身近な例では、日本語は雪に関する言葉が豊富です。淡雪、粉雪、牡丹雪、みぞれ、霰、吹雪、地吹雪、べた雪、新雪、残雪などなど。これはですね、日本が雪国だからです。雪がよく降る国の言葉なので、雪を細かく言い分ける文化が生まれ、言語に反映されているんですね。これがモンゴルだと、馬を非常に細かく呼び分けます。生活と馬が密着した文化ですから。言語を知ればその言語が生まれた風土が分かりますし、風土が分かれば言語理解の助けになるんです。どこに住むどんな人々が話す言語なのか? という事ですね。

だから研究チームはネイティブスピーカーではないけれど、それに最も近い魔女・魔法使い本人についても言語研究と並行して調査しました。これらは非常に根気の要る研究で、機械が使えなくなったせいもあって常に人手が足りず、私は研究室にお邪魔して父の研究を手伝うようになったんです」

ここまで拝聴していたが、気になってしょうがないので挙手をする。

「ちょっといいか」

「はい。どうぞ」

「大日向教授、本当に十二歳? 小学生がやる講義内容じゃないんだけど」

「ありがとうございます。私、私立に通ってたんですけど、入学してからテストで一位以外取った事ないんですよね。お父さんにもよく褒められました」

そう言ってオコジョはヒゲをピンと立て、自慢げに胸毛を膨らませた。

神童じゃーん。すげぇな。

なんだろう、今生き残ってる人類ってなんかに特別秀でてないとダメみたいなのあんのかな。俺といい、青の魔女といい、大日向教授といい。

特技も取柄も無い人は厳しすぎる生存競争の中で脱落してそう。キツい時代だぜ。

「話を戻しまして。呪文の中には文学について言及しているものがあるので、どうやら魔法語にも文字はあるようです。が、その文字がどんなものか、私達には知る術がありません。必然的に魔法言語学は発声、発話ベースの研究が主になります。

しかしこれには大きな危険が伴います。グレムリンまたは魔石が近くにある状況で魔法言語を正確に発音すると、魔力コントロールができない人間は強制的に魔法を発動させてしまうからです。もちろん、発音の正確さを測る非常に有効な検査としても機能するので、研究に欠かせない現象ではあるのですが。魔法の暴発が危険である事に変わりはありません」

俺は頷いた。

青の魔女にも注意された事だ。うっかり魔法ドーン! はマジで危ない。喋っただけで拳銃が暴発するようなものだ。下手したら死人がでるぞ。

「研究チームは魔法語の研究を行うわけですが、時代が時代です。すぐにでも研究を実利に結び付ける事が求められていました。何の役にも立たない研究に貴重な人手を割くわけにはいかないですからね。

具体的には、研究チームは呪文の改造と改良を至上命題として掲げています。

吸血さんが使うデーニッ系統の呪文を例に挙げましょう。デーニッ系統の魔法は血に関するものですが、その一つに自己強化魔法があります。これは魔力と自分の血液を消費して身体能力を大きく向上させるもので、消費魔力量と血液量的には一般人でも使用に耐えうるものです。使用後に貧血になりますが、大事には至るほどのものでもありません。この自己強化魔法を使えば、理論上大きめのグレムリンを握った一般人が弱い魔物を打倒できるようになります。魔物狩りを行っている魔女と魔法使いの負担を大幅に減らし、肉体労働効率を大幅に向上させ、他にもあらゆる面で役に立ちます」

「おお。それ覚えたいな。どんな呪文?」

「覚えられません。発音不可音を含むので」

「ああ……」

なるほど、そこがネックになってくるのか。

じゃあダメじゃん。呪文には魔女魔法使い専用が多すぎる。いくら研究しても唱えられないんじゃ意味はない。

「だから、迂回詠唱の研究開発をしています。魔法語を分析し、発音不可音を避けつつ、同じ意味かつ人間でも発音できる単語を使って詠唱文を再構築する事で、人間が発音できる同じ効果の魔法を作り出そう、という研究ですね」

「おお!」

研究する意味、ありました。

なるほどね~! 確かにそれは言語学者にしかできない仕事だ。

言語学ってスゲーッ!

俺は大日向教授に尊敬の眼差しを向ける。言語学者大活躍じゃん。俺の魔法杖も世界を変えられるけど、彼女たち言語学者も世界の命運を左右できる。流石にリスペクトっす、教授!!!

「そしてこの研究の過程で起きた魔法の暴発で、研究チームは次々と亡くなり、父を含め全員死亡しました。今は私が一人で研究を引き継いでいます」

「えっ」

さらりと告げられた驚愕の事実に恐れ戦く。

魔法の暴発で下手したら人が死ぬっつーか、本当に死人出てるじゃん。出まくってるじゃん。どうなってんだよ! 安全性はどうした!?

「魔法語の研究ってそんなに危ないのか? 人が死ぬほど?」

「そうです。この研究は命懸けです。呪文の構造を弄った改造呪文を唱えた結果、期待している効果とは違う効果が発揮される場合が多々あります。時に、それは致命的です。血液を消費して自己強化するはずが、血が沸騰したり、急激に増血して破裂したりします。私もドラゴンに変身する呪文を改造して唱えたところ、オコジョになってしまいました。無機物や微生物に変身したり、即死したりしなかったのはかなりの幸運です」

「ひえっ」

オコジョ教授の事を何も考えず脳死で可愛い~とか思っていたが、事情を聞くとシャレにならねぇ。

危ない橋渡った結果がソレかよ!

十二歳の子供がやる事じゃねーぞ! そんな研究してたら命がいくつあっても足りない。

「魔法を暴発させずに済む魔女とか魔法使いに研究任せればいいだろ」

「彼女たちは自分が何をどう発音しているかに無自覚ですから。結局は、発音不可音が混ざっていないかどうか、発音不可音を発音できない普通の人間が呪文を唱えてチェックする必要があります。事故の危険があっても、やらなければなりません」

「いや辞めたら? 研究。お前も死ぬぞ。大人に任せろよ」

「私は自分の手で父の研究を完成させたいんです」

大日向教授はキッパリ言った。

つぶらな瞳に、動乱の時代を生きる者の激しい覚悟の炎が灯っていた。

気圧される。ちんちくりんの体躯が大きく見える。覚悟ガン決まりかよ。

大日向教授、すごい女だ。