軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

【IFルート66 崩壊世界の魔剣鍛冶師】

毎週日曜は、青山コトネの定期メンテナンスがある。

今日も青山コトネは姉同伴で時間通りに魔剣工房を訪ねてきた。

「おはようございます。今日はよろしくお願いします、大利先生」

「おはようございます、先生。これ、近所で採れた蜜柑です。よろしければお召し上がりください」

お揃いの仮面を被った姉妹は丁寧に挨拶した。

青の魔女が今となっては貴重な段ボールの小箱に入れた蜜柑を差し出してきたので、頭を掻く。

食料も医療品も衣類も全部足りていると言っているのに、彼女は何かと付け届けを寄こしたがる。

妹の延命を恩に着ているのか。それとも妹をしっかり診てもらうために恩を売ろうとしているのか。

俺には判別がつかなくて、ちょっと不気味だ。

まあ蜜柑は美味しいしもらうんだけど。

「あー……そこ置いといて。青山コトネ、先週と何か変わった事は」

「特には。また少し、侵蝕が進みました」

「OK。服脱いで寝ろ」

「はい、先生」

青山コトネは大人しく上半身の服を脱ぎ、工房の金床に仰向けに横たわった。

メンテナンス開始だ。

青山コトネは、かつて死病に侵されていた。

グレムリン災害前なら日本の高度な医療で助かった病気も、電気が失われ医療が衰退した今では不治の病。

その避けられないと思われた死の運命を無理やり捻じ曲げ、パワープレイで命を永らえさせたのが俺の「四号魔剣」だ。

東京近郊の哨戒をしていた鴉の魔法使いによって発見され、東京魔女集会付の技術者として都市部に移されたのはもう五年以上も前になる。

魔剣鍛冶師としての活動歴も同じぐらいだ。

吸血の魔法使いの仲介で魔女集会メンバーと面通しをさせられた俺は、荒川の魔法使いの魔剣に惹かれた。当然だ。男子なら誰でもでっかくて強そうな魔法の剣に惹かれてしまう。

知能だけが取り柄のゴミクズカスの取り成しで荒川の魔法使いから魔剣を借りた俺はすぐに解析に入り、手動非破壊検査で内部構造を把握。その毛細血管じみた複雑な内部金属網と、さざれ石の魔女の腕部分解データ(後でちゃんと組み立て直した)を照らし合わせ、地球文明でも再現可能な領域にまでダウングレードして鍛造したのが「一号魔剣」。

刃渡り二メートルの馬鹿サイズを半分まで縮小し、軽量化したのが「二号魔剣」。

善人面し腐ったチリダニノミにそそのかされ入れ知恵されて、魔血反応炉による 魔剣水銀(ミスリルアクア) 生産法を確立し、荒川の魔法使いの飛ぶ斬撃「魔塵剣」を放てるようにしたのが「三号魔剣」。

そしてむせび泣く青の魔女に縋りつかれ、死にゆく彼女の妹のために鍛えたのが「四号魔剣」である。

荒川の魔法使いのオリジナル魔剣は生きている。

血に飢え、所有者を蝕む。

その対価として所有者に力を与える。

体は頑健になり、身体能力が増強される。

怪我や病に強くなる。

四号魔剣はオリジナル魔剣のブースト機能を特化模倣していて、死の淵にあった青山コトネを無理やりに生き永らえさせた。

青の魔女は「治してくれた」と表現するが、俺は全くそうは思わない。

これは呪いだ。

金床に横たわる青山コトネの右腕には、四号魔剣が完全に癒着融合してしまっている。

肘の先には腕がなく、黒々とした刀身が剥き出し。

肘から肩にかけても骨や肉が 啜命鉄(ライフアイアン) と名付けられた魔法金属に置き換わり、肩から胸にかけても肉体の魔法金属置換侵蝕が進んでしまっている。

四号魔剣は確かに青山コトネに死病を捻じ伏せる力を与えた。

しかし、力を与える代わりに肉体を奪っている。

由々しき事態だ。

青山コトネの青白い肌を触診し、肌の下がどうなっているか確認していく。

自己申告通り魔剣の侵蝕は肉体内部で緩やかに進んでいるようだった。

乾教授と石矢先生の見立てでは、侵蝕変異が心臓に達すると命に関わるという。

あの 魔剣戦争(クーデター) の唯一の良かった点は大量の魔剣使用者臨床データが採れたことで、夥しい死者から得たデータを最大限活用し、メビウスグレムリン積集合回路を開発して四号魔剣に組み込み侵蝕を遅らせている。

遅らせてもなお、このザマだ。

包丁が人を殺しても、それは使い手の問題だ。

製造者に責任なんて無い。

だがこの四号魔剣がもし青山コトネを殺してしまったら、それは製造者の問題だ。

紛れもなく、四号魔剣を鍛えた魔剣鍛冶師である俺の責任だ。

そんな屈辱有り得ない。

俺の、俺の作品が、俺の作品を愛好してくれる顧客を殺すだなんて有り得ない。

そんなふざけた事は神が許しても俺が許さん!!

「融合境界線の採血をする」

「はい」

「した。んー、また少し赤血球が減ったか? 金属血漿は微増か」

「あの、前から思ってた事なんですけど、それって注射器を直接見て分かるものなんですか?」

「分かる」

「石矢先生は顕微鏡使いますけど……」

「俺に勝ちたいなら光学顕微鏡じゃなくて電子顕微鏡持ってこい」

青山コトネは俺の言葉の何が面白いのかちょっと笑った。よく分からん奴だ。

状態は見終わったので、最後に微妙に刃こぼれしている四号魔剣を研いでやってメンテナンスを終える。

「OKメンテ終了。服着てよし。先週と変わりなし。小康状態だ。後で所見をまとめておくから、帰りがけに持ってって石矢先生と乾教授に渡せ」

「はい。ありがとうございました」

「ああ。で……そのー……話は変わるんだが……この後……暇、だったりするか……?」

メンテナンスに必要な事務的会話ならなんてことは無いのに、私事となると途端に口が回らなくなるのは我ながらちょっとどうかと思う。

恐る恐る青山コトネの予定を尋ねると、工房の隅の椅子に腰かけて待っていた青の魔女が勢いよく立ち上がった。

青山コトネはおろおろする様子のおかしな姉に苦笑いして優しく言う。

「お姉ちゃん大丈夫、絶対違うよ。そういうのじゃない。先生、試し斬りですよね?」

「そう! 試作八号魔剣がさあっ、会心の出来でさあっ! 俺は魔力足りないからアレだけど、青山コトネが使えばワンチャン三つ目の魔剣技発動するかも知れないんだよ! あの、アレ、なんだっけやばいド忘れした、物理強度無視するやつ!」

「無尽剣ですか? 分かりました、試してみますね。楽しみです!」

服を着た青山コトネは勝手知ったる工房を出てウキウキしながら試験場に向かった。

青山コトネは超越者以外では人類初の魔剣士だ。

最も長く魔剣の侵蝕を受け、最も魔剣の扱いに熟達している。

試し斬りを任せるにあたり、彼女以上の適任はいない。魔剣の侵蝕が進むほど魔剣が好きになっていっているのはちょっと怖くはあるが。

メンテナンスキットを片付け俺も試験場に行こうとガタゴト物を動かしていると、青の魔女が咳払いを一つして話しかけてきた。

「大利先生、午後は何かご予定が?」

「いや? なに、なんかあんの」

「昨日アメリカから黒船が来たでしょう? 舶来の良い酒が手に入ったので、一緒にどうかと思いまして」

「拒否。アメリカはどうなん? 何の用でわざわざ日本まで来たんだ? 目新しい魔法技術持ってたりした?」

「あー、と、すみません。まだ魔女集会で内々の話になっていて。今晩か明朝には情報解禁があると思います」

「え~……なんでそんなに焦らすんだよ」

「取り扱いが難しい情報が多いものですから。ただ、そうですね……そう、これは先生も間違いなくすぐに知る事なので……」

「なんだよ」

思わせぶりに言われ、片付けの手が止まる。

視線を向けると青の魔女は慎重に言葉を選んで言った。

「アメリカは独自のグレムリン分析法を開発していてですね。それで魔石を分析した結果、分かった事が」

「ほう」

「複数の魔石をアメリカ式の分析にかけたところ、オクタメテオライトだけが他の魔石と違う結果を示しました」

「はっ!?」

驚くような事を言われれば驚くに決まっている。

俺は持っていた砥石を放り出し青の魔女に詰め寄った。

「馬鹿お前、魔女集会はまーたオクタメテオライトちゃん虐めてんのか! 魔剣戦争で強制徴収するわ、超高温耐熱試験するわ、今度はアメリカ式分析だぁ? いい加減解放しろっ! 入間がオクタメテオライト見てバチギレてたのはオクタメテオライトが聖なる存在だからだぞ! 絶対そうだ! それをそんな、いつまでもいつまでも封じ込めて虐めて弄り回して、不敬過ぎる!」

「落ち着いて下さい。大丈夫です、オクタメテオライトには傷一つつけていませんから」

「当たり前だ!」

魔女集会のオクタメテオライトへの所業を思い出すほど、ふつふつと怒りが湧いてくる。

入間に敵対した石なんだから、どう考えたって人類の守り神だろ! 敵の敵は味方だ。

それなのに、吸血おじさんは「敵の敵はまた別の敵かも知れない」だの「未知の惨事を起こすかも知れない」だのと煮え切らない慎重論をかまして俺とオクタメテオライトを引き離しやがる。

言ってる事は分からんでもないけど全然納得がいかない。

オクタメテオライトの御加護に懐疑的なのは、およそ非の打ち所がない超人・吸血の魔法使いの数少ない悪い部分だ。

「それで。一つ分かった事があるのですが」

青の魔女は強引に話の軌道修正をして、俺の耳に口を寄せる。

何を言うつもりかと思っていると、青の魔女はヒソヒソ声でとんでもない爆弾情報を口走った。

「オクタメテオライトは、生きています」

「!?!?!? オクタメテオライトが!? 生きてる!?!? どどどどーいう事なんだよそれは!」

「これ以上はちょっと。でも酒を飲んだら口が緩むかも知れません」

うろたえる俺をにこやかに見る青の魔女はそれ以上口を割らなかった。

何をどう聞いても答えてくれず、結局、俺はまんまと口車に乗せられマンツーマンの酒の席に誘い出されてしまう。

狡猾な魔女は俺をぐでんぐでんに酔わせ、俺の個人情報(好きな色や本や女性のタイプ)を根掘り葉掘り聞きだし、そのクセ、オクタメテオライトについては沈黙しやがった。

許せん!

でも、明日の朝には情報解禁があると確約してくれた(もし情報解禁が延長になってもコッソリ教えてくれるらしい)のでギリ許す。

なんという事だろうか。

入間の魔法使いに相対した瞬間莫大な魔力を迸らせド畜生に隙を作り魔剣戦争を勝利に導いたスーパーゴッド勝利の女神魔石オクタメテオライトの謎が、いよいよ明らかになるかもしれない!

いいのかな。神の神秘を人間が不躾に暴き立てていいのだろうか。

でも気にならないと言ったら嘘八百なんだよな。

うむ、きっとオクタメテオライトもケチな事は言わないだろう。

情報解禁が待ち遠しい。

おお守護神オクタメテオライトよ。

我に叡智を授けてくれたまえ……