軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

167 ネオメソポタミア

かつてグレムリン災害によって多くの国家が滅びた。

ギリシャ、オーストラリア、カナダなどだ。

多くは魔物によって滅びた。

オーストラリアなんて未だに魔物天国で、人類の再入植を許していない。

瓦解した後に再興した国もある。

エジプト、スペイン、中国などだ。

特に中国は甲1類魔物 饕餮(とうてつ) によって生きとし生けるものを根こそぎにされたのに、周辺に生き散った人々が舞い戻り、今まさに目覚ましい大復興・大躍進の最中にある。

中には滅びなかった国もある。

アメリカは一度は魔王に国土を荒らされキューバに亡命政府を建てるハメになったが、大統領が生き延び、見事国土奪還を成し遂げた。

日本は国土がバラバラに寸断されたが、東京を中心に再度日本列島を統合し国体を復活させた。

滅びるどころか領土を増やした国も僅かながらある。

そういう国は大抵国号が変わっている。

北朝鮮を併合した韓国が「真韓民国」と名を改めたのがまさにそれだ。

クウェートと国境を接する国も、そういうグレムリン災害前よりデカくなった珍しい国だった。

中東を代表する大河、チグリス川とユーフラテス川に挟まれた肥沃かつ広大な沖積平野を持ち。

イラク、シリア、レバノンを統合した、ペルシャ湾と地中海の二つの海に接する広大な領土を持つ。

それが「ネオメソポタミア」である。

美食族は月夜の墓場で群れを成し、ハンカチを振り見送ってくれた。完全遮光瓶に詰め込んだポカポカ糊のお土産付きだ。

たった一つの欠点を除けば愛くるしさの塊なファンシーモグラ達との涙の別れを終えた俺達は、クウェートを出てネオメソポタミアに入国した。

300万人の大人口を擁するネオメソポタミアだが、国際的な地位は高くない。

国民の多くは一次産業中心の農耕生活を送っていて、肥沃な土地を持つ国にありがちな魔物産業も未発達だ。

ネオメソポタミアの風土はインドと逆に 虎魔獣(ドゥン) が育ち難い土地柄であったり、よりにもよってチグリス・ユーフラテス川流域に魔獣に感染する風土魔法病が蔓延していたり、とにかく魔獣産業に優しくない。

魔獣を利用した王道ルートを辿る二次産業への発達がなかなか望めない。

もっとも悪い事ばかりではない。

魔獣に感染する魔法病は魔物にも感染するから、ネオメソポタミアでは魔物被害が少ない。この魔法病は人間や魔人には感染しないため、少ない軍備で国土を魔物から護る事ができる。

また一方で、魔物と魔獣にだけ感染する魔法病が変異を起こし、人間にも感染する人獣共通感染症が爆誕してしまった場合、大規模なパンデミックを起こすだろうと見積もられている。河川流域には国連の監視チームが常に常駐し、風土病の動向に目を光らせているとか。前時代の鳥インフルエンザのニュースが思い出される。

ネオメソポタミアは中学生が考えたような単純な国名なのに、内部事情は複雑だ。

まあ俺達は国を通過するだけだから、国政事情なんてあんま関係ないんだけど。

政情が比較的安定していて、通行に不便が無いというだけで十分だ。

ユーフラテス川沿いに小型の蒸気船で北上しながら、ヒヨリは船べりに肘をつき、船を追いかけるように編隊を組み優雅に飛んでいる燃える尾羽の鳥を眺めていた。

ヒヨリは最初餌をあげようとしたが、船員に止められ諦めている。普通に害鳥なのでできれば駆除して欲しいと頼まれたぐらいだ。

オクタメテオライトが拒絶するのは強力な魔物だけで雑魚は素通しするから、あの程度の雑魚魔物相手では守護神パワーが復活しているかどうか判別できないんだよな……

俺の隣で物憂げに鳥を眺めるヒヨリの魔女帽子にちょっかいをかけていたツバキは、おもむろに抱き寄せられ甘えた鳴き声を上げた。

「ミミミ。ナデナデして」

「ああ」

「ミッ! ミミミ……青の魔女好き。ナデナデ下手だけど」

ツバキが漏らした素直な感想を聞いたヒヨリは横目で俺を睨んできた。

俺も負けじと睨み返す。

「バカ。お前のせいでツバキが余計な一言を覚えただろうが」

「はあ~? 教育に悪くて悪かったな! いやマジでホントごめん、俺はバカです。それはそれとして何度も言ってるだろ、ツバキは首元を下から上に撫で上げてやると喜ぶんだ。親指の付け根で優しくモニモニしてやりながらだな……あーあーあーそうじゃない! 違うそうじゃない! どけ、ツバキのナデナデはこうやる」

「ミミミー! やっぱりオーリのナデナデ一番!」

ヒヨリの腕の中からツバキを奪って撫でまわしてやると、可愛いペットは大喜びした。

ぐおおおお、可愛い! 人型になっちゃったけど、中身はトカゲ型だったあの頃のままだ。一生このままでいて欲しい。

だが、この無邪気な炎妖精との別れは近い。

ネオメソポタミアの首都バグダッドについたら、ツバキとはお別れだ。

俺達は北のルーシ王国を目指して。

ツバキは西の地中海を目指して。

それぞれ別の道を行く事になる。

俺とヒヨリはそもそもルーシ王国に行き契約を果たすのが目的だし、ツバキは地中海のオリーブオイル産地を縄張りにするのが目的だ。

今までは向かう方向が同じだから同行していたに過ぎない。ずっとは一緒にいられない。

分かりきった話だ。最初からそういう話だったし。

別に驚きはないし、寂しさもない。

独り立ちできて立派だなぁ、偉いぞ凄いぞ! と感心するぐらいだ。

しかしヒヨリにとってはそうでもないらしく、ネオメソポタミアに入国したあたりからやたらとツバキをそばに置きたがった。

別れが近づくにつれて溜息が増え、アンニュイな雰囲気を纏うようになっている。

ここ数年で俺もコミュニケーションの何たるかを学習した。

ヒヨリの不可思議な様子が何を意味しているのか自力で読み解く事が可能だ。

ヒヨリは高確率で、ツバキとの別れを寂しがっている!

まあ現状、俺ができるのは読み解くところまでなんですけどね。

寂しい気持ちはちょっとよく分かんない。

別に死ぬわけでも永遠に会えなくなるわけでもないんだから良くないか? と思うけど、良くないんだろうなぁ。解せぬ。

ナデナデをたっぷり満喫してふやけきったツバキをヒヨリの腕の中に戻してやると、俺ごと抱きしめられた。

俺とヒヨリにサンドイッチされたツバキは満足げで、そのままウトウトしはじめる。

それを優しい顔で見つめていたヒヨリは、俺の目線に気付いて気まずそうに目を逸らした。

「……分かってるさ。ずっとほったらかしにしていたのに、今更一緒にいて欲しいだなんて。ツバキはもう一人前で、独り立ちしようとしているのに」

「お前は俺の目線から何を読み取ったんだ? 別にそんな事思って無いが」

俺が考えてたのは「彼女が寂しそうにしてるのヤだな」だ。

言葉を介してのコミュニケーションすら怪しい男がアイコンタクトで会話できると思うなよ!

「よく分かんねぇけどさあ、なんかさぁ、プレゼントとかしたら?」

「何?」

分からないなりに提案すると、ヒヨリは首を傾げた。

いや、お前プレゼントとか好きじゃん? 同じ事するのはイカンのか?

「俺はツバキにサラマンドラ作ってやったし、魔力封印防御のチョーカーもあげた。強いし便利だし、装備見ると時々は俺のこと思い出すんじゃないか? 知らんけど。

ヒヨリはツバキに魔法教えたりマナー教えたりしてただろ? それはそれでツバキのスペックアップに繋がるし思い出が残るだろうけど、物質的にも形に残った方が、こう、こう、なんて言ったらいいかな」

「…………」

「要するにツバキに何かプレゼントしてやって、ツバキからもなんか貰えよ。プレゼント交換だ。そうしたら別れても寂しくないとまではいかんかも知れんけど、寂しさも和らぐんじゃないか」

ヒヨリの寂しさには共感できない。

だが、寄り添いたいと思う。

俺なりの精一杯の献策を聞いたヒヨリはしばらく考えた後、いくらか明るい表情で頷いた。

「そう、だな。そうしてみるか」

「そうしてみろ。あとボチボチ火傷しそう」

「あっ! す、すまん」

スヤスヤのツバキと一緒に丸ごと抱きしめられ、熱がこもって腹が燃えそうだ。解放されて一安心。

大きく伸びをして雄大なユーフラテス川の川面を見れば、蒸気船の泡立つ白い航跡が後ろに伸びて渦巻き消えていく。

俺達の戯れを隙と見て取ったのか、蒸気船に追随飛行していた炎尾羽の鳥たちが鋭いクチバシをカチカチ打ち鳴らし急接近してくる。

が、編隊を組んだ部隊の先頭数羽が突然氷漬けになって川に落下していき、後続は泡を食って逃げ散った。

また一段と無詠唱魔法に磨きをかけた青の魔女は当然だとばかりに鼻を鳴らし、口をモゴモゴさせ幸せな夢を見ているらしいツバキを抱えて船室に向かった。

いやー、お前なんかネガティブになってるけどさ。ちゃんと家族やれてると思うぞ俺は。

バグダッドに着くまでまだ時間はある。

その時までヘタれた顔で過ごすより、ギリギリまで良い思い出増やしていこうぜ!