軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

162 60fps魔法造花

結局、キュアノスに実装する物理無効機能は魔力消費よりも安定性を重視する事にした。

神隠式(かみかくしき) 四次元技術による幽霊モードは、物質をすり抜ける物理無効状態になる代わりに、除霊魔法で消し飛ばされるようになってしまう。

そこで俺は四次元折り畳み回数を合計11回にまで増やした。これにより存在強度が理論上最大化。除霊魔法特効が入り難くなり、通常の攻撃魔法と同程度にしか効かないようになった。

除霊魔法耐性が得られた代わりに、秒間魔力消費が170Kから400Kに跳ね上がっている。普通の人間のみならず、魔人ですら数秒で魔力が枯渇する重い魔力消費だ。

しかしキュアノスには王笏ベイファンと同じ8000Kの魔力貯蔵機能がある。ヒヨリ本人も潤沢な魔力を持っている。魔力消費量を気にして性能を落とすぐらいなら、魔力消費量が増えても良いから性能を上げるべきと判断した。

現状の技術では低消費&高性能の両取りはできない。これが限界だ。

一連の神隠式研究で得たデータは大きい。

魔法杖の新機能実装に役立ったのはもちろん、幽霊グレムリン研究も飛躍しそうだ。

今まで幽霊魔物の発生や繁殖について謎が多かった。

しかし四次元に片足を突っ込んでいるがゆえの半透明物理無効状態と分かれば話が違ってくる。

幽霊魔物は、四次元空間で発生しているのではないだろうか?

あるいは四次元空間で繁殖しているのでは?

グレムリン災害から90年近くが経っているというのに、幽霊魔物がどこから来て、どう増えているのかよく分かっていないのは妙な話。半分ぐらい四次元に住んでいるのだ、と考えれば話の筋が通る。どれだけ三次元上でフィールドワークしていても、四次元上で何が起きているのかなんて分からないからな。

俺の想像が正しいのかどうかは、マモノくんを筆頭とした魔物学者たちが解明してくれるだろう。

あとはワンチャン幽霊グレムリンの工業生産も有り得る。

無重力空間で弾力性グレムリンを生産でき、高圧により高強度グレムリンを作れるように、環境がグレムリンの性質に影響する前例がある。

神隠式の四次元に片足を突っ込んだ物理無効半透明状態でグレムリンが育てられれば、それは幽霊グレムリンになるのではないだろうか?

幽霊魔物から幽霊グレムリンを採取する場合は除霊魔法で倒さないといけない。

だが神隠式なら、物理無効状態を解除するだけで三次元に戻せる。わざわざ除霊魔法を使わずとも育てた幽霊グレムリンを回収できる。かも知れない。

流石に仮定に仮定を重ねた絵に描いた餅ではあるものの、神隠式の運用は様々な技術にブレイクスルーをもたらし得ると思うんだよな。

関連資料と加工サンプルを日本に送ったから、後は魔法諸学研究者たちがイイ感じにアレコレやってくれるだろう。

予定通りキッチリ一週間で滞在を切り上げた俺は、研究に使わせてもらっていた本家神隠しの杖をヒヨリに頼んで寺院の院長ばあちゃんに返却してもらった。

てっきり遺品として旦那さんの墓にでも入れるのかと思ったが全然そんな事はなく、今後は0933と青の魔女お墨付きというバックグラウンドも含め街の観光資源として活かしていくのだそうだ。

御年90近いのにまだ街の未来を考えるその姿勢。なかなか逞しい。

ジャラリヤ市を南下して主要道に戻り、蒸気機関車に乗ってインド西海岸ムンバイへ向かう。ムンバイに到着したら海路でクウェート港まで一直線の予定だ。

線路が悪いのか車体が悪いのか、日本の汽車よりガタつくものの、一等客室だけあって座席は柔らかくしっかりしている。

ツバキは真新しいノートを開いて膝に乗せ、日本語でせっせと旅の食レポを書いていて(絵本を読むのもヒンディー語を勉強するのも飽きたらしい)、ヒヨリはキュアノスを抱えて目を閉じじっとしている。

俺はといえば、客室の窓の桟に肘を置いて60fps魔法造花を彫っていた。

60fps魔法造花とは、60 frames per secondで四次元的に造形を切り替える全グレムリン製の造花である。

青バラを模した花弁は、デフォルトでは閉じて蕾の形をとっている。

ヒヨリが持つと花柄に仕込んだ魔力識別機構を介して微量の魔力を吸い上げ機構が作動。

機構が作動すると花弁一枚一枚に薄く薄く隙間なく彫り込んだ幾何学立体展開図が四次元的に折り畳まれ、また同時に四次元に格納されていた花弁が連続的に出現する。

つまりこの魔法の蕾をヒヨリが手に持つと、秒間60回変形の滑らかな動きで花開くわけだ。

今はヒヨリが手放した時に咲いていた花が閉じていき蕾が閉じるようにするための機構を組み込んでいるところだ。

別にそう難しい加工でもないのだが、何しろ列車がガタンゴトン揺れている。揺れで手元が狂わないように気を遣うせいで作業が遅れる遅れる。

結局、昼に長めの停車時間が取られた隙に一気に仕上げる事になり、なんだかんだ合計五時間もかかってしまった。

駅の売店で二人分の弁当と一人分の潤滑油を買ってきたヒヨリから俺の分の肉弁当を受け取り、代わりに完成したばかりの60fps魔法造花を渡す。

困惑しながら受け取ったヒヨリは手に持った途端に美しく咲き誇った宝石の青バラに感嘆の声を漏らし、しげしげと眺めた。

「随分綺麗な物を作ったな。お前の四次元加工技術も腕が上がってきたんじゃないか? 安全性に欠陥は無さそうだ。魔力消費も少ない、十分実用的技術だと思う」

「何言ってんだお前」

よく分からない事を言って魔法造花を返そうとしてきたヒヨリの手を押し返す。

安全に決まってんだろ、ハトバト式じゃなくて神隠式使ってんだから。

「それはただのプレゼントだ。ヒヨリにやる」

「え? ……今日は何かの記念日だったか?」

「記念日じゃなきゃ彼女にプレゼントしちゃいかんのか」

まーた何かコミュニケーションエラーを起こしたのかと身構えたが、ヒヨリは慌てて首を横に振って魔法造花を胸に当て大切そうに抱え持った。

なんか期待してた反応と違う。もっと「わあ綺麗、大利大好き!」みたいな笑顔が見れるものかと。

むむむ。なんの事はない普通の日にポンと渡す物にしては手間がかかり過ぎていて困惑させてしまったと推察する。でも喜んではくれているみたいだしOKか。

「記念日に渡す方が良かったなら今日は記念日だったって事にするか? 『昨日よりもっとヒヨリを好きになった記念日』とかどうだ? いやダメだなそれは毎日か。なんかいい案ある?」

「…………」

話を振るとヒヨリは造花を持ったまま変な鳴き声を上げ、耳まで真っ赤になった顔を魔女帽子で隠してそっぽを向いてしまった。

どうした? なんで急に照れた……? 記念日設定の相談をしただけだぞ。

照れる要素が分からない。乙女心は複雑怪奇だ。

「ミミミ、ツバキ記念日は? ツバキ凄いぞ記念日は?」

「お。じゃあ今日をツバキ記念日にするか」

「ミッ! 記念日!」

無邪気に万歳して喜ぶツバキの心はメチャメチャ単純で読みやすくて大変助かる。

世の中の知的生命体は全員これぐらい単純明快であれ。

食レポを書きつけている旅の記録に早速「ツバキ記念日!」と追記しているウキウキツバキの顎下を撫でてやっていると、ヒヨリは無言で俺を後ろからハグしてきた。

「大利、お前は本当に良い彼氏だよ」

「そうか? じゃ、照れてる理由教えてもらっていいか。分かんねぇ」

「……コミュニケーションが死んでる以外文句のつけようがない」

俺の死んでるコミュニケーション能力でも分かるよう懇切丁寧に説明してもらいながら、三人で昼飯の弁当を食べる。

やがて列車は汽笛を鳴らして次の駅へ動き出し、俺達を旅の行先へと運んで行った。