軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

157 待て、話せば分かる

ギャン泣きしていた俺は、ツバキがウィリアムズの手を引いて地下研究所に姿を現した事に気付いた。

俺を見たツバキは目を丸くして一目散に駆け寄ってくる。

そして俺に飛びついて、涙と鼻水まみれの顔面をめちゃくちゃに舐め回し始めた。

「ミミミミミミミ、ミミミミミ……!」

「あぶぶぶぶぶぶ、ぶぶぶぶぶ……!」

ツバキは心配そうに鳴きながら俺の顔面をベロンベロンに舐めてくる。

犬猫が仲間を舐めてケアするのと同じだ。

ツ、ツバキ、待ってくれツバキ。

心配してくれてありがとな。でも涙と鼻水が舐め取られた代わりに、ヨダレでベトベトだ。

「ちょっ、ツバキ、あぶぶぶぶぶ、大丈夫、大丈夫だから。もう泣き止んだ。ぶぇふっ、大丈夫だからよせ」

「ミミッ」

肩を掴んで引き剥がすと、ツバキは小さな手を一生懸命伸ばして俺の頭を撫でた後、プンスカ怒りだした。

「オーリ泣かせたの誰? やっつける!」

「い、いや……その、いったん落ち着いてくるとコレ行き違いだったんじゃないかって気がしてきて」

「オーリ誰に何された? 言って。我慢しないで」

「あー……まあ、なんだ、結論を言えば、ヒヨリが俺の友達を殺したから泣いたんだが、」

「オーリの友達殺したの!? 青の魔女、最低!」

驚いて跳び上がったツバキは全身から炎と熱波を噴き上げる。そしてべしょべしょ泣きながら何やらウィリアムズと話しているヒヨリを強く睨んだ。

怒髪天を突くというやつだ。燃える焔の髪が熱気に煽られ逆立つ。

俺はクソデカハンマーを担ぎ持ってブン殴りに行こうとするツバキの手を掴んで慌てて止めた。

待て待て待て! 話がこじれる!

「落ち着けツバキ。冷静になって考えてみりゃこの子は蘇生魔法で生き返るんだよ。何も魔法的な死で塵になったわけじゃないんだから。ひでぇ話だけど、眠ってるのと同じだ。睡眠魔法かけられたようなもんだ」

「ミ……? そうなの?」

「そうなの。いくら殺戮モードのヒヨリでも意味無く子供を殺したりはしない。ちゃんと理由があったはずなんだ。それより問題なのは、俺が全力全開で助けにきてくれたヒヨリに感謝もせずにダメ出しばっかりしちまった事で」

「ミミッ!? 青の魔女にありがとう言わなかったの!? 助けてもらったのに!? オーリ、最低!」

驚愕したツバキはハンマーで俺の腹を強めにド突いてきた。グエーッ!

そっ、そうだよな。

ヒヨリは俺がコミュニケーションエラーを起こすと、いつも呆れるか怒るかする。

泣く事なんて無かった。

しかし今は泣いている。

それだけ悲しませてしまったという事だ。

最低だ。

「オーリ、謝って。青の魔女にごめんなさいして!」

「そ、そうなんだけどさあ。謝るの怖い。マジで。本当に怖い。謝って許して貰えなかったらどうしようって想像すると震える。見ろ、俺の足を! こんなにガクガク震えるのは人生初めてだ。でもこの恐怖は俺の都合なんだよ、許してもらうために謝るのなんて不誠実極まりない自分都合のカスの所業なんだ、例え許されなくてもただ誠心誠意謝罪する事を目的として謝罪するのが正しくて、ヒヨリを泣かせたカスの分際で自分が悲しい思いをするのを怖がるのは無様な主客転倒メンヘラに過ぎなくて。それに本当に俺はダメだなと自分でも思うのは心の片隅で俺にも一理あるだろって思ってるところなんだ、だってヒヨリは俺の友達を、せっかく生き別れの兄ちゃんと再会できそうだった女の子をぶっ殺したわけで、それをヒヨリが泣いてるから無罪ってするのはそれはそれでおかしいと感じる一方で、全部勘違いか行き違いで悪気なんて欠片も無かったに決まってるし、そうなるとやっぱり彼女が一番だ愛してるヒヨリを一番に愛し抜くって言っておきながらそれを一時のショックに流されて実行できずに80年の付き合いがあるヒヨリよりも友達を慮ってしまっていやもうこれは吐いたツバは飲めんぞこんな有様で果たして本当にヒヨリとのこれからの長い長い時間を一緒に過ごしていけるのかっていう」

「ミ!」

俺が鬱鬱と泣き言を言うと、ツバキは途中で俺の口にサラマンドラの石突を突っ込んで黙らせてきた。

「もがが」

「オーリ、話難しくしないで。二人とも最低なとこあった。二人ともごめんなさいして、いーよしたら、仲直り。簡単!

あ、でもちゃんとお腹の底からごめんなさいしないとダメ。ごめんなさいのフリして後で舌べーってするとね、蜘蛛さんすごく怒るよ。ミ~……」

「ツバキ……」

何かを思い出して怖そうにぎゅーっと目を瞑るツバキの頭を撫でる。

お前は本当によくできた子だよ。

そうだよな。まずは謝ろう。ゴチャゴチャ考えていても何も解決しない。

とはいえ謝ってもヒヨリに拒絶されたらどうしようと思うと怖くて足に根が生えたように動かなかったので、俺は情けなくもツバキにズルズル引きずられてヒヨリの前に引っ立てられた。

すんません、情けなくて。心は誠心誠意謝れって叫んでるんですけどね。体が言う事聞かなくて。

床にへたり込み泣きはらして目を赤くしたヒヨリは、俺を見るとそっぽを向いた。

「……話したくない」

「!!!!!!!」

「困ったね。青の魔女、僕は君に笑っていて欲しいんだ。幸せでいて欲しい。それと同じぐらい、悲しんで欲しくない。彼の言葉を聞くだけでも聞いてあげてくれないか」

「…………」

「いつか遠い未来に。あの時ちゃんと話し合っておけば良かった、なんて後悔をして欲しくないんだよ。話し合って、どうしてもダメだと思ったならそれで良いんだ。お前なんて嫌いだと言ってやればいい。でも、言葉を尽くさないまま、取り戻せる繋がりを失くしてしまうのは悲しい事じゃないかな。

だから他でもない君自身のために、話し合って欲しい。大丈夫、何があっても僕は君の味方だから。どうだい?」

「…………ん」

「ありがとう。さあ、大利。君が言うべき事を言うんだ。大利?」

「…………」

「ミッ? オーリ気絶してる。オーリ起きて!」

ツバキの往復ビンタで正気に戻された俺は、ヒヨリの顔色を窺いながらしどろもどろに謝り、思う事、考える事を全て伝えた。

俺の長話を黙って聞いてくれたヒヨリも、ぽつぽつとヒヨリ側の気持ちや事情を話してくれる。

最初は目も合わせてくれなかったヒヨリだが、お互いの全てを打ち明け終わった時にはしっかり俺の目を見てくれていた。

「そうか、そうだったな。お前が人外の女と光の速さで仲良くなるのを忘れていた……」

「語弊がある。見た目が人外でイカつくてイカしてたのもあるけど、あの子は陰の波動が一致したから。話しかけるとすぐ床見る仕草とか俺と完全一致で親近感湧いたんだよな」

ヒヨリとちゃんと話しあって、ようやく理解する。あの子が普通のジメジメ陰キャ女子に見えた俺の方が異常だったのだ。

俺の目には彼女の合成身体の縫合痕が見えたし、赤い外皮のスカートに折り目をつけたり綺麗に畳んだりして、精一杯のオシャレファッションをしているのもすぐ分かった。

細かな仕草も俺に似ていて陰キャ全開。引っ込み思案で、怖い大人に強く言われたら逆らえず唯々諾々と従ってしまう気弱な性根が透けて見えた。

強大で凶暴な怪物にはとても見えない。

が、ヒヨリもツバキもウィリアムズも口を揃えて怪物呼ばわりする。なら、たぶん、標準とは違う視点でこの子を見ていたのは俺の方なのだ。

ヒヨリ視点だと囚われの身の大利賢師が悍ましい怪物に襲われているように見えたらしい。

実際にはハートフルな仲良しの 握手(ハグ) をしていただけなのだが、それは俺と少女の主観であって、外から見ればそんな事は分からない。

納得していると、ヒヨリが思い切った様子で言ってきた。

「これは私のワガママなんだが」

「ん?」

「どんな時でも私を一番に考えて欲しい。もちろん、それが難しい時があるのも分かる。分かるが……悲しい思いをするのは嫌なんだよ」

「んんん゛……! ……OK! 確証持てないとか言う事じゃないよな。分かった、これからは何があっても、例え世界がひっくり返ってもヒヨリを一番にする。誓う」

「ならいい」

ツバキが言う所の「ごめん」「いーよ」を達成した俺達は、固く抱きしめ合って和解した。

ヒヨリの事情を慮れずに咄嗟にヒヨリを非難してしまった今回の悪例は酷いものだ。

だが、入間に傀儡にされてもなおヒヨリを一番に信じれた好例だってある。

ヒヨリの見敵必殺が裏目に出る事も、俺の常識外れコミュが裏目に出る事もある。

お互いの性格や行動が裏目に出てすれ違っても、今回のように話し合って仲直りできる強い関係を築き上げていきたい。

これから長い長い付き合いになるんだから。

俺達が温かな抱擁の中で心通わせていると、黙って見守っていたウィリアムズが呟いた。

「なんというか、君達は凄いな。凄く……純粋だ。こういう風に和解できるカップルは稀有だよ」

「ミ? でも二人はいつもこういう感じ。普通。ウィリアムズ、二人仲直りしたし未来視生き返らせに行くよ。蘇生、蘇生! 悪い奴みんなやっつけて、良い奴はみんな幸せ! ミミミ!」

ウィリアムズは元気なツバキに引っ張られ、仕方なさそうに笑いながら来た道を引き返していった。

残された俺達は抱擁を解き、見つめ合う。

もうわだかまりはない。ヨシ!

「じゃあこっちはこっちで未来視の妹生き返らせようぜ。氷溶かして、それから蘇生魔法。幽霊グレムリンあるだろ?」

「あ、ああ。あるが……そのー……へ、変異を起こして死んだ死体には蘇生魔法が効かない……」

「え」

酷く気まずそうなヒヨリと、氷の中に閉じ込められた未来視の妹を見比べる。

嘘だろ?

そんな事ある?

全然ヨシ! じゃなくね?

「魔法的死じゃなければ生き返るんじゃないのか?」

「極端に損壊した、つまり元の状態からかけ離れた死体には蘇生魔法が効かないんだ。ゾンビの魔女は損壊した死体を元の状態に修復する魔法を覚えていた。が、遺失していて呪文が分からない。魔女や魔法使いは変異した体が元の状態として魔法に認識されるが、変異学的に弄られた変異体は……」

ヒヨリは尻すぼみに言葉を切った。

一瞬、愕然とする。

兄ちゃんに会いたい一心で非道な人体実験に耐え抜き、悪辣な命令に従い、なんとか生き延びていた哀れな少女の最期がコレなのか?

しかしすぐにふつふつと怒りとやる気が湧いて来る。

許せん。

会ったばかりで友達Lv1とはいえ、あの子は友達なんだぞ!

俺は頭をフル回転させ、突破口を探した。

周囲を見回し、培養ポッドや実験器具、手術台、ファイルにまとめられた研究資料の山を順番に見て作戦を練る。

「なあ、ヒヨリはこの子助けようとしても怒らないよな……?」

「おい、気にし過ぎだ。私をなんだと思っている? 私を一番にしてくれとは言ったが、二番目以降を捨てろなんて言ってないぞ」

「よし。じゃあ手伝ってくれ。この研究してた奴ら本当にゴミカスクズだけど、めっちゃ高度な研究してる。なんとかなるかも知れん」

「何をするつもりなんだ?」

ヒヨリに尋ねられ、俺は手術台に手を置いて答える。

大丈夫だ。絶対いける。

俺は瀕死の人魚の魔女を初見一発勝負で治した男だぞ?

「力づくで、いや、器用づくで変異前の体に戻す」

しばらく魔法杖職人大利は休業だ。

天才魔法医大利、いきます!!!