軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

139 ツバキ・スゴイゾ

言葉でも物理でも気炎を上げるツバキは、身の丈以上の黄金のでっけぇハンマーを背負っていた。服のように体にまとわりつき燃え盛る赤い炎は熱で空気を歪ませ陽炎を作り、足元に生える雑草を焦がす。

あんなに小さかったツバキが立派になって……! 飼い主として鼻が高い。人型になってしまった以外は満点だ。スゴイゾ!

でも、できれば再会は今じゃない方が良かったかな。

「ミミミ? 青の魔女いる!? なんで!?」

まさかの再会に驚愕する俺とヒヨリに負けないぐらい、ツバキも驚いた。ヒヨリの姿に目を留めるや漫画のように(あるいは猫のように)跳び上がって驚き、目を丸くする。

ヒヨリはぎこちなく手を振り、目線を右往左往させた。

「あ、ああ。久しぶりだな、ツバキ。元気そうで何よりだ」

「ミ、元気! モクタンとセキタン、フヨウ会った? みんな元気? 蜘蛛さんも?」

「元気だよ。そうだ、セキタンからお土産を預かっている。植物油の詰め合わせだ。初任給で買ったと言っていた。後で渡す」

「セキタン、エライゾ!」

嬉しそうにニッコリしたツバキは炎を噴き上げたが、すぐに笑顔を消し、訝しげにする。

「それで、青の魔女なんでここに? 私の応援してくれる?」

「いやそれが。そのだな、決闘の応援に来たわけじゃなくて……そうか、キンレンカめ。これだから私に? 姉の友達と戦いたくなかったのか? だからといって私に、いや私とツバキの関係を知ってる訳では無いのか。クソッ、頭がおかしくなりそうだ。全部継火が悪い!」

「???」

頭を抱えて苦しむ情緒不安定な青の魔女を怪訝そうに見ていたツバキは、鼻をフンフンさせて首を傾げる。それから周囲を見回し、決闘スペースから少し離れた広場の隅で防御魔法に護られ体育座りしている俺と目が合った。

「あれ? オーリみたいなのいる」

「ようツバキ」

「!? オーリの声。オーリ? オーリなの? 雰囲気変わった?」

「埋め込んでたグレムリン摘出したからな。お前も幼体の頃と雰囲気変わったしお互い様だろ」

「ミミミ! オーリ生き返った! オーリ!」

ツバキは嬉しそうに駆け寄ってきて俺に飛びつこうとしたが、防御魔法に跳ね返されて尻もちをついた。おでこをさすってしょんぼりする可愛いペットに心が痛む。

スマン。決闘の決着がつくまで安全圏にいさせてくれ。

「今から決闘だろ? 終わったら色々聞かせてくれよ。お前もここまで旅してきたんだろ」

「いーよ。でも決闘相手、まだ来てない。遅刻」

「キンレンカは青の魔女を決闘代理に立てた。お前はアイツと戦うんだ」

「えっ」

俺がヒヨリを指さすと、ツバキは目を瞬いた。

頭が痛そうにこっちを見ている青の魔女を見て、俺を見る。

また青の魔女を見て、また俺を見る。

五、六回見比べたツバキは、キリッとした顔で頷いた。

「分かった。私スゴイゾ。オーリ、私のスゴイの見てて!」

「マジで? ヒヨリに勝つつもりなのか?」

「私強くなった。負けない。一番なる! だから勝てるよー言って?」

「おー、根性あるな。勝っ……」

おねだりされるがまま応援してやろうとした俺は、ヒヨリの視線に気付いて口を閉じた。

そうだ。俺のために頑張ってくれる彼女を応援しなくてどうする? ペットの応援はできない。

「いや。すまんが俺はヒヨリの応援を……」

「ミ……」

前言撤回しようとすると、今度はツバキが酷く悲しそうに目を伏せてしまう。俺はまた口を閉じた。

80年以上経ってもまだ声を覚えていてくれた健気なペットを応援してやらなくてどうする? ここでヒヨリ側についたらツバキが可哀そうだ。

「やっぱりツバキの応援を……いやヒヨリの……お゛あ゛あ゛っ、あ、頭痛くなってきた……!」

彼女を応援すればペットが悲しみ。

ペットを応援すれば彼女が悲しむ。

俺もかなり人間関係の機微が分かってきたと自負しているが、分かってきたせいで苦しい。人間関係めんどくせぇーッ!

「あーもー分かった。ツバキ、稽古つけてもらってこい! 俺はヒヨリだけ応援する! すまん!」

「ミ゛ッ!? オーリ意地悪。勝っても菜種油分けてあげない!」

ツバキは怒ってベーッと舌を出し、頬を膨らませながらロープで区切られた決闘区画へ歩いて行った。悲しい。

俺は自分が情けないよ。あと30年はヒヨリを一番に愛し抜くと誓ったのに、ヒヨリの応援を即断できなかった。不誠実極まりない。

こんな程度の事で気持ちが揺れていたのでは、やはりヒヨリの80年の重みをもつ想いに応える事なんて到底できない。不甲斐なし。

俺が凹んでいる間にも事態は進み、決闘区画に入ったツバキは黄金のクソデカハンマーを振り回し物怖じせず青の魔女に嚙みついた。

「青の魔女ズルい。オーリの匂いべったり。毎日いーっぱいナデナデしてもらってるんだ!」

「へぇっ!? あ、うん。ナデナデ。まあうん。ハハハ……」

「青の魔女にだって勝つ。菜種畑もナデナデも手に入れる。一番なる!」

「あー……ツバキがやる気なら良いんだが。せめて殺しは無しにしないか」

「? 当たり前。群れの仲間、死んだら悲しい。まいったした方の負け!」

キンレンカは生死問わずの決闘形式だと言っていたが、双方の合意がとれてそれは無しになる。

かくして母と娘のガチンコバトルは幕を開けた。

お互いに距離を取り、投げ上げた小石が地面に触れた途端に決闘が始まる。

何も持っていない両手を前に突き出したヒヨリは、早口で詠唱を始めた。

「 鎖で(ナェタク) 留め置かれた(・ジーシォヲン) 勇士は(タルクェァ) ――――」

「ミミミーッ!」

対してツバキも片手をヒヨリに突き出し勇ましく鳴きながら、クソデカ黄金ハンマーをぐにゃぐにゃ変形させ全身を覆い始める。

魔力操作に応じて容易に変形する魔法随意金属、 深淵金(アビスゴールド) だ。

確かに杖の使用は禁じられているが、魔法金属の使用は禁じられていない。古い決闘法だから、比較的新しい技術の制限は考慮されていないらしい。

俺は何度かヒヨリが 深淵金(アビスゴールド) を変形させているのを見た事がある。

ツバキの 深淵金(アビスゴールド) 変形速度はヒヨリよりも更に早い。まるで生きているように素早く形状を変え、大きく広がっていく。

しかしそれでも変形完了よりヒヨリの詠唱完成の方が早い。

そのはずだった。

「!? バカな、魔力封印? どこでこれを覚えた!?」

「ミーッミッミッ! 魔法無し! 殴り合い! 私はツバキ・スゴイゾ!」

ヒヨリは詠唱の途中で驚愕し、呪文を中断する。

動揺している口ぶりなのに、喋りながら滑らかにサブウェポンの拳銃を抜き撃ちしたのは流石だったが、ツバキもさるもの。 深淵金(アビスゴールド) を素早く射線に割り込ませて弾丸を弾いた。

ツバキは 深淵金(アビスゴールド) の変形を完了させ、全長3mを超える黄金の巨人全身鎧の姿になった。鎧の隙間からは紅蓮の炎が吐息のように溢れ、凄まじい威圧感がある。

「へんしーん! ミミッ、覚悟!」

焔の金属巨人の中から、ツバキの猛る叫び声がくぐもって聞こえる。

巨体に見合わない俊敏さで殴りかかって来るアーマード・ツバキの巨大な黄金の拳を、ヒヨリは大きく後ろに跳んで避けた。外れた拳が地面に突き刺さると土砂が飛び散り、三階から軽トラを叩きつけたような衝撃が走る。

おいおいつえーぞ。マジでスゴイな、ツバキ! スゴイぞカッコイイぞ!

ヒヨリですらハトバトの手本を見てもなお再現できていない高等技術を使えるのか?

しかも魔法金属で武装し、体格差を帳消しにするどころか凌駕している。スピードもパワーもある。

流石ヒヨリの娘、そして俺のペットだ。青の魔女に挑み、勝機を見出せるだけの手札はちゃんと持っていた。

ツバキは怒涛の勢いで魔力を封じられたヒヨリを攻め立てた。

空気を切り裂き鋭く蹴り、大地を震わせ重く殴り、隙を見て見事に投げる。

明らかに何かしらの武術を修めた動きは、炎を纏う巨体装甲の戦闘力を何倍にも跳ね上げていた。

「ミミミミミ、ミミミのミミミ! もひとつミミーッ!」

「くっ……!」

ツバキの攻撃にヒヨリが防戦一方になっている理由は、もちろん娘だからというのもあるのだろう。ヒヨリが親だと知らず、思いっきりぶつかってくるツバキとは違う。

それに加えてツバキがかなりトリッキーな戦い方をするのも厄介だった。

ツバキは 深淵金(アビスゴールド) を活用した戦闘術に熟達していた。炎を纏う巨人と拳で殴り合いをしていたと思ったら、その拳が突然ハンマーや剣に変わる。

拳に意識を集中すれば、今度は鎧の腹部に熱が蓄積され、爆炎と共に 杭打機(パイルバンカー) が飛び出してくる。

迂闊に組み合えば、金属を操り這わせ拘束しようとしてくる。

纏う炎すら飾りではなく攻撃性がある。

当然ながら、炎は熱い。ツバキに近接戦を挑まれれば熱波が身を焼き焦がす。近くにいるだけで常人なら黒焦げだ。

ヒヨリは魔力を励起させ冷気に変えて熱を中和していたが、魔力封印のせいで魔法として形成されるほどの出力が出ていない。かなりキツそうだ。

拳を受け流し、蹴りを払っているヒヨリの額からは滝のように汗が流れ落ちる。

強い。

強いぞツバキ! 魅せてくれるじゃないか!

「まいったは!? 青の魔女、まいったは!?」

「私を侮るなよ、ツバキ……!」

音速を突破する強烈な回し蹴りでヒヨリを大きく吹き飛ばしたツバキに、ヒヨリは凶暴に笑った。

ヒヨリは胸元に手を突っ込み、首飾りを引きちぎりアミュレットを取り出した。更にポケットから超越者証明証を出し、二つまとめて硬く握り込む。

するとヒヨリの拳を中心に見えない力場が展開された。

真空銀(ホロウシルバー) だ。

真空銀(ホロウシルバー) はアミュレットと接触させる事で魔法減衰力場を発生させる。大魔法を無効化できるほどには強くないが、ツバキの炎を無効化するだけなら充分。

姿勢を低くし矢のように駆けたヒヨリは、疾駆の勢いをそのままに炎巨人に拳を振りかぶった。

「ぶちかませ、ヒヨリーッ!」

「任せろ! 大利が信じる私は無敵だ!」

応援に応え、ヒヨリは笑った。

ヒヨリは身体強化魔法すら使っていない。素の身体能力で戦っている。

それでも音を置き去りにする腰の入った 真空銀(ホロウシルバー) パンチは黄金の巨体の炎をかき消して深々と腹部に突き刺さり、見ていてドン引きする威力でツバキを高々と空に打ち上げた。

「ミ゛ーッ!?」

鋼鉄より頑丈なはずの 深淵金(アビスゴールド) 装甲がひしゃげ、ツバキが苦しげな悲鳴をあげる。

空中でジタバタもがくツバキを、ヒヨリは地上から見上げる。

そして左手で優しく手招きし、右手に冷気を渦巻かせ呪文を唱え始めた。

「 月影も(××・) 涼風も全て(××フィフィ・) ――――」

「ミ゛!? な、なんで魔法使える!?」

ヒヨリはハトバトの魔力封印を見ている。

魔力封印解除も見ている。

時間をかければ、ツバキにかけられた魔力封印を解く事だってできるのだ。

「 氷になればいい(イィヴァアラー) !」

「ミミーッ!」

ツバキが落下しながら繰り出した拳と、ヒヨリの魔法を帯びた拳が衝突する。

瞬間、ツバキが纏っていた黄金の鎧は全て透き通った氷に変成し、一瞬にして粉々に砕け散った。

べしゃりと地面に落ちたツバキは両手を見て愕然とする。

錬氷術魔法で武装を完全破壊されたツバキは、よろよろと立ち上がり焔を噴き上げてファイティングポーズを取る。

しかし、拳を鳴らして迎え撃つ姿勢を見せたヒヨリを見ると腰が引けた。

「ツバキ。私はお前を傷付けたいわけじゃない。だがあくまでも戦うというなら、殴り倒す」

「ミミミ……!」

ツバキは悔しそうに歯噛みしたが、素直に地面にコロンと転がり、お腹を見せてヒヨリに言った。

「まいったする。私の負け!」

かくして母と娘の決闘は母の勝利で決着した。

でも、ツバキもめっちゃ強かった。

大健闘したツバキ・スゴイゾに拍手だ!