軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

13 竜の巣

ドラゴンに掴まれ一体どこまで連れ去られるのかと恐れ戦いたが、案外すぐに強制遊覧飛行は終わった。体感で数分とかそれぐらい。実際にはもっと短かったかも知れない。

竜の魔女が着陸したのは、決壊したダムの横腹だった。巨大な横穴が掘られ、洞窟のようになったそこが巣になっている。

ガラス片やグレムリン、古銭、100円玉やら500円玉やらシルバーアクセサリ、ジュエリーケースが地面に敷き詰められ、寝心地は最悪そうだ。まあドラゴンの体躯と鱗ならベッドが凸凹していようが関係無いんだろうけど。

あとなんか香水かシャンプーみたいな花の匂いがほんのりする。獣臭さはない。

奪った戦利品と共に巣にぽいっと投げ出された俺は、まず文句を言う前にぐでーっと寝転がった。

普通に腰抜けたし、全身の震えが止まらない。命綱無し、心の準備無しで大空の旅をさせられ寿命縮んだ。今の俺なら笑ってバンジージャンプできるぞ。

竜の魔女は腹袋の中身を出して巣の中にキラキラを増やし、財宝の小山に頭を突っ込んでキャッキャしている。無邪気なもんだ。畜生が。

俺が萎えた足腰に苦労しながら這いずってそーっと逃げようとすると、尻尾で逃げ道を塞がれた。

「脱走禁止なの。えーっと、確かこのへんに……あったの。ほら、手錠なの。足をそこの石像に繋ぐの」

「チッ!」

薄汚れた手錠を前脚で投げ渡され、渋々足を石像に繋ぐ。

俺が石像に繋いだ足を振って見せると、竜の魔女はデカすぎる猫のように丸くなって巣の中心に体を落ち着け、のんびり話しかけてきた。

「大利。お前を私の財宝管理官に任命してやるの。お宝磨いて綺麗にしたり、新しいお宝いっぱい作ったりするの。代わりにお肉たらふく食わせてやるの。魔物からも守ってやるの」

「思ったより悪くない提案なの。でもお断りなの。奴隷扱いは御免なの」

「ぶっ殺されたいの?」

俺が命令を拒否すると、竜の魔女は牙を剥き出し凶悪な目で睨みつけてきた。

こええ。でもコイツにとって俺は貴重なお宝生産係だ。ちょっと機嫌を損ねただけでプチッと潰したりはしないはず。強気に出よう。

相手がドラゴンでも、人じゃないなら強気に出れる。

「媚びた語尾しやがって。ドラゴンにそんな需要ねーよ」

「うるせぇの。アラサーでこの喋り方キツいのは私だって分かってるの。変異したらこう喋るようになっちゃったの。不可抗力なの」

「ほんとかよ」

「知らないの? 変異で体とか性癖とか変わるのは魔女あるあるなの。目玉の魔女とか主食が目玉になっちまってるの。本人単眼だしマジキモいの」

「こわ」

想像するとかなりオドロオドロしい。昔話に出てくる悪い魔女みたいだ。

まあ、本当に魔女だもんなあ。一番身近な青の魔女が仮面被った普通の女みたいだから、忘れそうになるけど。

つーか、そうだよ。

青の魔女だ。

「いいのか? こんな事して。俺の仲間の魔女がすっ飛んでくるぞ」

俺は異変を察した青の魔女が本当に助けに来てくれるか内心ちょっと疑いながら、それを悟られないよう堂々と言う。

竜の魔女は鼻で笑った。

「目玉? 継火? 八王子? どいつもこいつも私の敵じゃないの」

「青の魔女も?」

他の魔女との対立を嫌がる様子がない竜の魔女に青の魔女の名前を出すと、ドラゴンの巨体がびくっと震える。小声で恐る恐る聞いてきた。

「……お前、青梅市民なの?」

「違うけど」

「なんだ、ビビらせんじゃねーの! あいつが青梅から出て東大和まで来るわけねーの。怪獣が攻めてきた時だって引きこもってたの」

「いやアイツ隣の市ぐらいならちょいちょい行くぞ。奥多摩にもよく来るし。ここが東大和なら青梅近いだろ」

「お前が青の魔女の何を知ってるの? 青梅市民じゃないなら助けになんて来ないの。アイツは心凍ってる女なの」

唯一切れる交渉のカードを一笑に付され、自信が無くなる。

コイツの言う通りかも。

大日向教授が誘拐されたら東京を丸ごと氷漬けにしてでも助け出しそうだけど、俺だからなあ。魔法杖販売の業務提携相手ってだけだ。青の魔女に俺を助ける義理はない。

俺の身柄を隠して技術流出を防ぎたがってはいたけど……うーん。他の魔女と敵対してまで助けてくれるのかな。

「とにかく何言っても逃がさないから、諦めるの。魔石加工できるんなら、まず魔石加工に取り掛かってもらうの。ピカピカキラキラにカッティングするの!」

「魔法の威力を上げる加工するとかではなく?」

「なにそれ? 魔石は綺麗なの。世界一の宝石なの。お前には魔石の魅力をぐーんって引き出してもらうの」

ははあ。マジでこいつ財宝の事しか頭にないんだな。アラサー女子を自称する割にかなり原始的な脳みそしてそう。

魔女になる時に語尾変わったって言ってたし、脳が変異して知能下がったりもしたんですかね。

鼻息荒く、目を強欲にギラギラさせる竜の魔女はのっそり立ち上がると、俺を爪先で小突いた。

「ちょっと後ろ向いてるの。いったん人型になるの」

「変身するのか? それはちょっと興味あるな。見てていいか」

「はあ? とんだスケベ野郎なの。エロ本でも読めなの」

「アッ裸になるのな。すみません後ろ向きます」

俺が後ろを向いて目をキツく瞑り両手でしっかり目隠しすると、背後でガサゴソ音がした後に呪文が聞こえた。

「 人ならざる(カーマイカパジャ) この身なれど(エンィエンシュォア・ウー) 、 せめて体だけでも(×××・×ダガド・) 人らしく(ミェ・カーマイ) 」

風船が破裂するような音がして風が吹き、少し間を置きまた呪文が聞こえる。

「 空を飛び(××××・××) 、 火を吐けば(ニーテッテッタテ) 、 蜥蜴も竜(ナグ・ナズグ・エンィエンシュォア) 」

再びの風船破裂音がしてから、「もういいの。こっち見るの」と言われて目隠しをやめ振り返る。

一瞬、竜の魔女の姿は連続変身前と何も変わらないように見えたが、よく見ると胸に埋まっていた炎を押し固めたような巨大宝石が無くなっていた。

その宝石は魔女の爪先につままれ、俺の目の前に掲げられている。

竜の魔女は自慢げに言った。

「これが私の魔石、『メテオフレイム』なの。これを私の首に 映(ば) える首飾りに仕立てるの」

「竜の魔女が持ってる魔石は死んだ吸血の魔法使いからパチった『ブラッドムーン』だって聞いてるけど」

「言いがかりなの。これはメテオフレイムなの。港区に落ちてたのを拾って保護したの」

物は言いようだな。絶対火事場泥棒しただろ。

港区は故・吸血の魔法使いが治めていたエリアだ。

俺の家を漁ったように、家主がいなくなった吸血の魔法使いの家を漁って魔石を盗んでいった姿が容易に想像できる。もしくは吸血の魔法使いの死体から剥いだのか。

とんだ泥棒女だが、それはそれとして目の前の赤魔石には大変興味をそそられる。

デカい。

キュアノスの魔石より、オクタメテオライト(握りこぶしサイズ)よりデカい。なんと小玉メロンぐらいある。

内部にかなり不純物が見られるが、それが光の反射で生きた炎のように揺らめいて見える。

面白い!

形は球形よりも楕円形か直方体に近い。

ふーむ。これを首飾りに加工するなら、バゲットカットかエメラルドカットか?

不純物(インクルージョン) を見えない・見えにくいようにカッティングするのが宝石加工の常道だが、この魔石に限ってはむしろ見せつけるように加工した方が美しそうだ。

これだけ大きければ石座にも一工夫必要だ。小振りな宝石なら似合う台座デザインでも、この大きさだとたぶんチグハグになってしまう。何種類か図面を引いて、木で実寸大の模型を作ってみて……

赤魔石を受け取り考え込んでいた俺は、竜の魔女にじーっと見られている事に気付いて我に返った。

「こほん。あー、コイツの加工依頼は受ける。家に工具あるから帰してくれ。今なら訴えないでいてやる」

「お前の作業場はここなの。明日あたり工具もってこさせるから、今日はデザインでも考えておくの。私はもう寝るの。逃げずにいい子にしてろなの。

食べ物はそのへんに転がってる缶詰食べるの。傷つけたり汚したりしないなら、お宝は自由に見ていいの。巣の一番奥のお墓は触ったら殺すの。トイレと風呂はそっちの横道の先にあるの。私が入ってない時は自由に使っていいの」

「ドラゴンサイズの風呂か……プールでも沸かしてんの?」

「人間用サイズの五右衛門風呂なの。私もお風呂の時だけ人型になってるの。ボディソープとシャンプー節約なの。あっ、ピンクのボトルのシャンプーは私のだから、お前はお客さん用の緑ボトル使うの」

なんかすげー所帯じみた注意をされてしまった。

竜の魔女は目を閉じて顎を前脚に乗せ、寝息を立てはじめる。まだ昼過ぎぐらいなのに良い御身分だな。

しばらく竜の魔女の様子を窺うが、鼻から提灯を出し始めたので、寝たふりではないと確信する。

よし。

脱走するか!

この巣に蓄えられた金銀財宝を自由に加工するのは面白そうだが、足を繋がれ奴隷のように無理やり働かされるのは普通に不愉快だ。

脱走で問題になるのは手錠。

俺の足に手錠で繋がれた石像はかなり重い。抱えて歩く事はなんとかできるが、石像を抱えてヨタヨタ歩いていては逃げられるものも逃げられない。

しかし俺には特技がある。

宝の山に半分埋もれていた豪奢なドレスを着たマネキンのカツラからヘアピンを拝借し、ちょちょいと手錠を外した。

フンッ、馬鹿め!

俺の器用さをナメたな。俺は器用さで世界を獲れる男だぞ。

手錠なんて無意味なんだよ間抜けーッ!

俺は勝利の余韻に浸りながら足音を忍ばせ、そーっと巣の外に出ようとした。

が、ニュッと突き出してきた尻尾に道を塞がれる。

恐る恐る見れば、薄目を開けたドラゴンが鋭い牙を見せ小さく唸っていた。

冷や汗が流れる。

俺は後ろ歩きで元の場所に戻り、足に手錠を着け直す。

手錠を振って見せると、ドラゴンは目を閉じ、また寝息を立て始めた。

ダメだこりゃ。野生の勘か? 逃げられそうもない。

助けて青の魔女!

はやくきてー!

夕方になり、日が暮れて、夜が過ぎ、朝が来た。

一日経っても、青の魔女は来なかった。

代わりに日の出と共にやって来たのはスーツを着た小太りのおじさんだった。

「じゃ、お仕事行ってくるの。財前、そこの新入りに色々説明しておくの」

「かしこまりました、魔女様。いってらっしゃいませ」

小太りおじさんに深々と一礼され、竜の魔女は大あくびをかまし大空へ飛び立っていく。

大卒魔術師を日本全国に輸送する仕事してるって話だもんな。今日もノルマがあるのか。

唯我独尊の竜の魔女も、魔女集会の仕事を請ける程度の社交性は持っているらしい。

竜の魔女の姿が空の彼方に消えたのを確かめてから、俺はしっかり地面を見て小太りおじさんに頼み込んだ。

「あ、あの、すみません。実は俺、誘拐されてここに来たんですよ。逃がしてくれたり……しません?」

「あ~、ちょっと難しいですねぇ。私、 財前(ざいぜん) 金太郎(きんたろう) と申します。竜の魔女様の縄張りの事務担当のような事をやらせていただいています」

「やっぱり逆らって俺を逃がすと殺されるんですか」

「いえ? ちょっと倫理観がアレな方ですが、逆鱗に触れなければ殺されたりはしませんよ。もっと治安が良い地区もありますが、ここだってそんなに悪くない。えーと……?」

「?」

「失礼ですが、お名前を伺っても?」

「あ、大利です」

「大利さんも災難でしたが、まあ、住めば都と言いますし」

そう言って小太りおじさんは哀れな虜囚に色々と教えてくれた。

小太りおじさん……財前金太郎さんも以前竜の魔女に誘拐されてきた人らしい。「名前が縁起いいから」というアホみたいな理由で連れて来られ、俺と同じように巣に繋がれたが、一カ月ほど従順にしていたら解放されたという。

俺、助けが来なかったら一カ月繋がれっぱなしなのか? 勘弁してくれよ。

「竜の魔女様は武蔵村山、東大和、東村山の三市にまたがる地域一帯を治めていらっしゃいます。ドラゴンは、ほら、とても強い魔物でしょう? 弱い魔物は竜の魔女様の臭いがしみついた縄張りに近づきません。市内で発生した弱い魔物も逃げていきます。臭いを無視して現れる強力な魔物も討伐して下さいます」

「へえ」

意外とちゃんと治安維持してんだ? 俺の事は誘拐したけど。

「人間同士の衝突や犯罪は仲裁して下さらず自治に任せているので、魔物の被害が少ないからといって平和なわけではありませんが。

ウチの地区最大の利点はやはり肉です。他の地区と比べ、食料配給に肉がとても多いんです。大利さんも肉は滅多に食べられないでしょう?」

「そ、そうですね。良い肉食えるのは鹿獲れた時ぐらいで。という事はアレですか。このあたりでは畜産業が生きている……?」

飼料の確保も家畜の世話も、相当大変なはずだが。

「いえ。竜の魔女様がクジラをとってきて下さるんです」

「クジラ」

なるほどね、それはデカい。文字通り。

クジラは巨大海洋生物だ。たった一頭で何百人、何千人分の肉になる。

ちまちまウサギを罠にかけて捕まえたり、何時間も山を歩き回り鹿一頭を仕留める猟とはスケールが違う。巨大魔法生物・ドラゴンならではのビッグハンティングだ。

「ウチでは鯨の解体班が組織されておりまして、肉の他に油や骨をとり資源として活用しています。交換市の人気商品なんですよ」

「はえ~……」

「大利さんは何か特技はお持ちですか?」

聞かれて素直に言いそうになったが、ギリギリのところで口を閉じた。

ドラゴンには既に俺の加工技術がバレている。しかし財前さんにはまだバレていない。

今更な気もするが、青の魔女に散々口を酸っぱくして危険技術をひけらかすなと言われているし、秘密にしておくに越した事はない。

俺は財前さんがドラゴンと話した時に矛盾が出ない範囲で事実を伏せた。

「宝石職人です」

「ああ~……それは気に入られるわけです。御愁傷様です。そういう事なら、後で回収班と顔合わせをしましょうか。これから一番会う機会が多くなる班でしょうし。

回収班というのはですね、廃墟から貴金属や宝石を回収するチームの事です。荷物に余裕があれば医療品なども回収します。

彼らは竜の魔女様に連れられて魔女や魔法使いがいない壊滅した都市部へ行き、散らばって回収作業を行います。作業中は魔女様が見張って下さいますから、魔物に襲われる危険は少ないのですが、落下や崩落など事故は起きますし、絶対に魔物が来ないわけでもありません。危険な仕事をするチームです。

まあでも、そのぶん配給が増えますし、良い家に住めますし、出動する時以外はオフで休めます」

「はあ。あのドラゴン、あんな感じなのに福利厚生ちゃんとしてるんですね」

「私が整備しました。大利さんも何かありましたら、まず私に話を通して下さい。竜の魔女様は……ちょっとアレなので」

財前さんは言葉を濁した。

ふむ。竜の魔女が治める地域だとは言うが、実質的に内政を回してるのはこの人なんだな。

魔女も魔法使いも元は普通の人。以前政治家や会社運営者だったような、人をまとめられる人ばかりではないだろう。竜の魔女がそこまで考えているのかは怪しいものだが、武力のある魔女が頂点に君臨して、内政は内政が得意な別の人に任せる、という統治方式はけっこう良さそうだ。

逆に脳筋で政治センスないのに内政までやりたがる魔女の地区はやばそう。

財前さんの言う通り、竜の魔女の地区は「そんなに悪くない」ようだ。

とはいえ。

俺にとってのユートピアはここじゃない。

だってここ、人の気配がプンプンするもん。巣から普通に住宅街でウロついてる人間見えるし。やだ。

奥多摩に帰りたい。見渡す限り人っ子一人いない、俺の理想郷に。

「あの~、言い難いんですけど、やっぱり、そのー、誘拐されたわけですし、地元に戻りたくて。勝手に逃げるんで、見て見ぬフリをしてもらったりとか……」

俺は二度頼んだが、申し訳なさそうに謝られた。

「すみませんねぇ、先ほども申し上げましたが、難しいです。

竜の魔女様は嗅覚が凄いんですよ。逃がして差し上げても、すぐ捕まえられると思います。魔女様は獲物の匂いをかなり遠くからでも嗅ぎ取りますし、お宝の匂いなんていうのも分かるそうで」

「あー」

そうか、それで腑に落ちた。

その財宝嗅覚で奥多摩上空を通りかかった時にオクタメテオライトを嗅ぎ付けやがったのか。家の中にあるのに遥か上空から匂いを嗅ぎ取ったなら回避できない。

自分勝手な性格にドラゴンのスペックが搭載されてるの、かなりタチが悪いぜ。

いやドラゴンのスペックになったから自分勝手になったのかな? どっちにしろか。

財前さんは宝石加工用の道具を手配して持ってくる事を約束し、他にも仕事があるからと言って帰っていった。

くそー。悪い人じゃなさそうだし、竜の魔女への忠誠もそんなに無さそうだけど、かといって俺を助けてくれるほどの義理も無さそうだ。

竜の留守の隙に逃げても、警察犬のように匂いを嗅いで追跡されたら逃げ切れない。このあたりの地理なんて知らないし、青梅までは距離がある。脱走に気付いた竜の魔女が俺を捕まえる前に青の魔女の家に逃げ込むのは無理筋だ。

うぐぐ。俺、このまま一生ここでコキ使われるのか?

かつて俺と同じ境遇だったという財前さんを見る限り、悲惨な目には遭わされなさそうだけどさあ。アレってストックホルム症候群じゃない? 誘拐犯に被害者が心を許してしまうってやつ。嫌すぎる。

強盗拉致監禁クソドラゴンだぞ! 忘れるな、奴を許すな。

自力脱出の芽が消えた以上、希望は青の魔女が助けに来てくれる事しかない。

赤魔石を弄りながら午前中ずっと青の魔女を待ったが、来なかった。

あいつは毎日奥多摩を訪ねるわけじゃないから、誘拐に気付くのに遅れてもおかしくはない、が、待つ身としては不安で不安でしかたない。

頼むマジで。来てくれ青の魔女。こんなに人に祈った事はない。

しかし祈り虚しく、昼頃に来たのは青の魔女ではなく畜生ドラゴンだった。

ゴキゲンで腹袋からATMを出して中身を巣にぶちまけ、空のATMを巣の外に投げ捨て、俺に気安く話しかけてくる。

「今どんな感じなの? もう首飾りできたの?」

「そんなすぐできるか馬鹿。財前さんが道具持ってくるの待ちだよ」

「楽しみなの。完成したら魔女集会で見せびらかしてやるの。みんな絶対羨ましがるの。ガーハッハッハなの!」

馬鹿笑いの咆哮を上げる竜の魔女だったが、俺と同じタイミングで異変に気付く。

季節は秋。肌寒い季節で、山の方では霜が降りる日もある。

しかし、真昼間に地面に霜柱が立つのはおかしい。

住宅街の道路を白く染め上げた霜柱は、まるで何かの接近を知らせるように竜の巣へ広がってきていた。

爬虫類顔なのに、赤い鱗に覆われたドラゴンの顔がサーッと蒼ざめていくのがよく分かった。

一方俺は大歓喜だ。

うおおおおおおお!

きた!

青の魔女きた!!!!!