軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

123 まものフレンズ

ヒヨリは世界最強の魔女だ。

怪獣より強い。そりゃもう強い。

しかし、心までは世界最強ではない。

人並みに傷つくし、不安になるし、落ち込む。

激重トラウマを街ごと抱え込んで、全身ハリネズミの引きこもりになった時期もあった。

俺は二代目入間封印に出かけていったヒヨリを気楽に待っていた。

ヒヨリは最強だ。今まで二度もあのエゲつない超速進化怪人・入間をぶっ殺している。事実上の三度目だって勝つに決まってる。

どちらかというと同行する地獄の魔女が巻き添えで死なないかの方が心配だったぐらいだ。

ところが当のヒヨリは不安でいっぱいだった。

一度目の入間には青梅市の住人を皆殺しにされた。

二度目の入間には俺を自らの手で殺さなければならない状況にされた。

三度目は誰が死ぬ? 封印できても、また大切な人が死ぬのでは……

出撃前日、ヒヨリはそんな不安をメソメソメソメソ一晩中俺に聞かせ続けた。

俺は最初の十分だけ真面目に聞いたが、話がループしている事に気付いてからは半分眠りながら相槌を打ち続けた。

人間なんて死ぬ時は死ぬんだから、心配したって仕方ないと思うんですがね。ちゃんと作戦立てて全力尽くしても誰か死んだら、それはもうドンマイだ。

結局、ヒヨリは出発する間際まで不安そうだったが、最終的にはドラゴンに変身して南へ飛び立っていった。

俺はヒヨリドラゴンが飛び立った直後にさっさと家に引っ込んで、一晩中ヒヨリの不安吐露につき合わされたぶんぐっすり寝た。

相手が入間の代替わり枠なんだから不安になるのも分からんでは無いが、俺は入間の厄介さよりヒヨリの強さの方が上だと知っている。

俺の最強キュアノスを装備した最強魔女に勝てるわけないだろ!! 常識的に考えろよな。

そして毎晩なんの不安も無いスヤスヤの快眠で彼女の帰りを待つこと五日。

ヒヨリはケロッと帰還魔法で戻って来た。

真昼間の裏庭に空から黄金の光が降り注ぎ、舞い散る光の粒子がヒヨリの姿を形作る。

ちょうど新しい目玉の魔女の石像の受け取り中だったマモノくんは、いきなり現れたヒヨリにびっくりして石像に圧し潰されそうになった。

光が収まり出張先から帰還を果たしたヒヨリは、俺に目を留めるとホッと安心した様子で抱きしめてきた。

「ただいま、大利」

「おー。今思ったけど帰還魔法あれば出入国審査無視できるよな。そこんとこどうなってんの?」

「うるさい。おかえりぐらい言ってくれ」

「おかえり」

ヒヨリはマモノくんを眼中に入れなかったし、マモノくんはマモノくんで自分に倒れ込んでくる目玉の魔女の石像を支え踏ん張ったまま頑張って気配を消していた。なんかごめんな、マモノくん。

俺の胸に顔をぐりぐり押しつけていたヒヨリの肩から力が抜けていき、全力で体重を預けてくる。俺がなんとなくヒヨリの腰に手を回しくるくるダンスをすると、ヒヨリは楽しそうに笑った。かわいい。

「このままお前と踊るのも悪く無いが。慧ちゃんも吸ってくる」

「え、今吸われてたのか」

「気にするな」

ヒヨリは俺から身を離すとひらひら手を振り、超スピードで風のように走り去った。

忙しい奴だ。出張帰りのアニマルセラピーというよりは、出張中に異変が起きていないのを早く自分の目で確かめたいのだろう。

実際俺を護れば教授をやられ(荒瀧組事件)、教授を護れば俺をやられ(ゾンビパニック)、酷い目に遭ってるもんな。80年前の動乱期は今よりずっと人の死が身近だった。

「……あっ! すまんマモノくん今助ける」

「思い出してくれて良かったですよ。いったん石像を起こしてもらえます? フクロスズメ連れてきてるので、収納を手伝ってもらえると助かります」

マモノくんは苦笑いして言い、俺は謝りながらフクロスズメの腹袋に石像を捻じ込むのを手伝った。すみませんね、検品中の不手際が起きてしまったようで。

石像受け取りだけでマモノくんの用事は終わりなのだが、昼飯がまだという話だったので、居間で飯を食っていく事になった。

朝炊いたご飯の余りをお茶漬けにして、たくわんと梅干、出汁巻卵を添えて簡単な昼食をパパッと作って出すと、マモノくんはありがたそうに箸をつけた。

「ありがとうございます。いやぁ、温かいご飯を食べるのは久しぶりですよ。染みる……」

「そんな忙しいのか」

「それもありますが、自炊をあまりしないので。キュウリの浅漬けは常備しているんですけどね」

マモノくんはクチバシの中に出汁巻卵を放り込みながら河童っぽい事を言った。

流石寝る時も国会に呼ばれた時も頑なに河童マスクを外そうとしない変人は言う事が違うぜ。

いや、マモノくんは河童だから、マスクを外すとか無いけどね? マモノくんは河童であり、河童はマモノくんなのだ。そういう体裁になっている。

飯を食いながら話を聞いていると、マモノくんは秩父山中に新設された魔獣牧場で既に乙1類幽霊魔物「スペクター」の群れの飼育に着手しているという。

この魔物は単体の飼育記録はあるが、群れでの飼育は史上初である。

スペクターは普通に人間を襲って生気を吸い殺す魔物なのだが、ゲイザーくんと同じく、満腹時は大人しい。

更に大日向教授から魔物の鳴き声言語についてのアドバイスを受け、餌と鳴き声によるコミュニケーションでなんとか制御しているとか。

今のところ、飼育ノウハウ蓄積の過程で出た死者はマモノくん一人しかいない。俺が知らん間にシレッと一度死んで生き返ってやがる。こえーよ。

「スペクターの飼育が安定したら、甲3類幽霊魔物の中からスペクターの生態に近い子を選んで単独飼育予定です。それが終わったら甲3類多頭飼育。繁殖試験。その後にやっと幽霊グレムリン量産という形になりますね。まあ、どこかの時点で幽霊魔物の野生下での繁殖あるいは発生を観察するためにフィールドワークに出る必要がありそうですが」

「ほ~。ちゃんとゴールまでの道筋見えてるんだ」

道筋が見えていてもその道を歩ききれるとは限らない。

しかし、歩むべき道がハッキリ見えているだけでも大したものだ。偉い。食後にせんべいも食べていいぞ。

「マモノくんも頑張ってんだな。死ぬほど」

「いえいえ、多くの方に助けられての事ですから。特に慧さんにはお世話になってばかりです」

「お? おお」

慧さん。

慧さん、ねぇ。

俺がヒヨリを下の名前で呼び始めたのは親友になったのがキッカケ。

マモノくんが教授を下の名前で呼んでいるという事は、二人は親友になっている?

いや、でも。

ヒヨリや教授は「友達の定義は人によって違う」とも言っていたし。

親友ではなく友達という説もあるな。いや、業務上の成り行きで助け合っているだけで、プライベートな面ではそれほど親しくない可能性だってある。

むむむ。分からん。

俺が箸で梅干しから種をほじくり出しながら考えていると、マモノくんは居住まいをただし、咳払いをして言った。

「大利さんは慧さんと親しいんですよね?」

「友達だ」

「慧さんの好みは御存知ですか? アレをあげれば喜ぶとか、コレをすると喜ぶとか」

「好みか。教授はお尻撫でまわすと喜ぶな」

「!!!???」

マモノくんは箸を取り落とし絶句したが、すぐに我に返った。

「あっ! オコジョ! オコジョ形態の時の話ですよね!?」

「それ以外無いだろ」

人間形態の教授の尻を撫でまわしたらドセクハラだし、面白くもない。

オコジョのもこもこ毛皮に包まれたふにふにのお尻を撫でるのが一番楽しい。今頃ヒヨリも教授のもこもこをキメてハッピーになっている事だろう。俺も行けば良かったかな。

俺が教授が喜ぶ撫でまわし方をレクチャーしてやると、マモノくんはなんだか複雑な顔をしながらもちゃんとメモをとった。

「……なるほど。ありがとうございます。参考にします」

「おー。なに? 教授にお礼でもするのか」

「そんなところです」

「友達? 親友?」

「私と慧さんがですか? あー、友達ですね。今は」

「ほう。言っとくが、俺は友達の友達は友達じゃない派閥だからな。マモノくんは友達じゃない。舐めるなよ。

友達の友達が友達であるならば、教授の友達はみんな俺の友達になる。顔も知らん奴が友達になるわけだ。その顔も知らん友達の更にそのまた友達も俺の友達って事になる。おかしいだろ? 人類みんな友達って事になりかねん。従ってそういう奇怪な事態を引き起こさないためにも、俺は友達を自分自身で選ぶ」

「聞きしに勝る理論派ですねぇ。こういう件に関しては特に」

俺が隙の無い友達理論を展開すると、マモノくんは笑って食後のお茶をクチバシに流し込んだ。

「では慧さんの友達のマモノくんではなく、ただのマモノくんとして見た時。私は大利さんの友達ですか?」

「え」

「私はもう友達だと思っていたんですが」

「うーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………友達だな」

一緒にいてストレス無いし、一緒に河童マスク改良したり、ボードゲームしたり、相談に乗ったり乗ってもらったり、色々していて楽しい。

マモノくんのためならちょっとぐらい自分が損しても親切にしてやろうという気分になれるし、裏切ったり見捨てたりしたら後味悪いなとも思う。

コイツ大丈夫か? と思う事は数あれど、マモノくんが事故ではなく故意に人に危害を加えるところなんて想像がつかない。

従ってマモノくんは良い奴であり、友達である。うむ。

「生まれて初めて男友達できたわ。よろしくマモノくん」

「あれ、私が初なんですか? うーん、よければ私の男友達を紹介しますよ」

「クチバシへし折るぞ馬鹿が。友達が多ければ多いほど良いと思っている馬鹿の台詞だそれは」

「おっと。言葉が過激ですねぇ」

苦笑いするマモノくんは席を立ち、空になった食器を台所の流しまで持って行く。

そういうところだぞ、マモノくん。ド変人の見た目と言動の真面目さの不一致が酷い。なぜなのか。

いや甲1類魔物を違法飼育したり、当たり前の顔して死んで生き返っていたり、変な見た目と変な行動は一致してるか? やっぱりよく分からなくなってきた。

マモノくんが忙しいのは事実らしく、昼食を食べたマモノくんは食後休憩を取る事もせずすぐに虎魔獣に騎乗し秩父に帰っていった。せわしない。

死を覆す蘇生魔法には幽霊グレムリンが必要で、幽霊グレムリンの安定供給にはマモノくんが必要。人類の夢を担う仕事をしているマモノくんが暇なはずもない。

それでもちょいちょい奥多摩に遊びに来たり、教授と待ち合わせて二人でどこかに遊びに行っているあたり、事故死はしても過労死はしなさそう。その点は安心だ。

……ああ、そうだ。

今度マモノくんが遊びに来たらヒヨリに贈る予定の婚約指輪について相談しよう。

マモノくんは婚約(破棄)経験あるし、良い知恵を貸してくれるに違いない。