軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

106 ティアマト・ゲイザー・ヒヨリ ~大怪獣総攻撃~

モクタンが耳かきをして欲しがったので、俺は工房で金属製耳かきを作っていた。

どうやら俺とヒヨリがお互いに膝枕耳かきをしあっているのを見て羨ましくなったらしい。

最初は竹製耳かきにする予定だった。しかし、俺の膝に頭を預けワクワクのモクタンの耳に竹製耳かきを入れた途端に燃え上がりボロボロになってしまったため、燃えない金属製耳かきを作る事になったのだ。

自分の耳穴に突っ込んで使い心地を確かめながら微調整していると、マモノくんが玄関のドアベルを鳴らしまくり慌ただしくやってきた。応対に出たヒヨリと何やら口論になっている声が聞こえてきたので耳かき制作を中断し俺も玄関に出る。

玄関のたたきでは、河童がクチバシを地につける勢いで頭を下げヒヨリに懇願していた。

「――――だからどうか! 何卒、お願いします! ティアマトだけを倒せるのは青の魔女様、貴女をおいて他にいないのです!」

マモノくんには確かに家への招待を出していたが、何やら雲行きが怪しい。

工房見学に来たわけでは無さそうだな?

「マモノくんどしたん? 話聞こか?」

「大利さん。事前連絡も無く突然訪問して、こんな事を言うのは非礼と重々承知の上ですが。あなたからもお願いして貰いたい……!」

「だから話聞くって。何? 何がどうしたのか話して下さいよ」

話を聞くだけでお願いを聞くとは限らんが、話すら拒否するほどの仲でも無い。

俺が促すと、マモノくんは切々と訴えた。

話によると、マモノくんのペットの甲1類魔物ゲイザーくんが、伊豆大島から襲来する甲1類魔物ティアマトの迎撃に出たらしい。

ゲイザーくんは未許可の隠し子なので、何も知らない世間には恐ろしい目玉の怪物としか思われないだろう。

都市圏で大怪獣バトルが起きた場合、正義の魔物ゲイザーくんまでまとめて殺されてしまう。それは避けたい。

青の魔女の力で、なんとか事を丸く収めて欲しい……

一通り話を聞き、俺はまず自分の理解力を疑った。

「一応もう一回確認したいんですけど。マモノくん、甲1類こっそり飼ってたんですか?」

「はい……」

「このマモノ野郎ッ! なーにやってんだお前はッ!」

そりゃあヒヨリと口論になるわけだよ。

俺は甲1類を大怪獣とダイダラボッチしか知らない。古いデータだ。直接見た事もない。

しかし、奴らがもたらした大被害は知っている。人類を超越した超越者たちすら蹴散らす正真正銘のバケモンだ。都市の二つや三つ、軽く壊滅させる災害なのだ。

そんなモンを地下室でこっそり飼うんじゃありません! 俺に見せてくれるって言ってた地下室にいた魔物ってそのゲイザーくんだろ? バカッ! このマモノ野郎!

ヒヨリもよく口論だけで済ませたものだ。昔のヒヨリだったらマモノくんを始末して、その足でゲイザーくんとティアマトを街ごとまとめて氷漬けにしていただろう。丸くなったもんだぜ。

「私が言えた口ではありませんが、ゲイザーくんを攻撃するのは悪手です。彼は、人類のために戦ってくれています。ですが人類のために身を捧げているわけではない。攻撃されれば痛がりますし嫌がります。怒ります。怒れば、人類に味方するのをやめるでしょう」

「私なら二体続けて即死させられる。問題は無い」

ヒヨリは素っ気なく淡泊に言うが、マモノくんは最強魔女様のお言葉に懐疑的だった。

「青の魔女様が甲1類魔物を圧倒される事は疑っていませんが。都市部に現れた甲1類魔物を周辺被害なく討伐した前例はありません」

「ダイダラボッチ……は、僻地だったか。いや何年か前にコンラッドが人的被害無しで殺したという話を聞いたぞ」

「十五年前のミッドランド事変ですか? アレは石油タンク三基が爆発し、周辺の住宅地と工場が壊滅したはずです。甲1類魔物は一体でしたし、ストライキで工場に人がいなかった偶然に助けられた面が大きい。今回は絶対に避難が間に合いません。

先行しているゲイザーくんと足並みを揃えてこそ被害を最小限に抑えられ……いえ」

冷静に事実を並べ説得しようとしていたマモノくんだったが、語調を変え、ヒヨリの足元に土下座した。

「ハッキリ言いましょう。私はただ、ゲイザーくんを助けたいだけなのです。彼は私の友達です! ゲイザーくんは私を助けるために命懸けでティアマトに立ち向かってくれている。見捨てられません。私にできる事ならなんでもします。だからどうか、どうか……!」

涙ながらに繰り返すマモノくんにもヒヨリは興味が無さそうで、明らかに面倒臭そうにマモノくんをまたいでキュアノス片手に出撃しようとする。

「青の魔女様、お願いです。ゲイザーくんだけは……!」

「知らん。お前がそいつの無害を信じていても、私が信じる理由にはならない」

「んー。俺は50%ぐらい信じて良い気がする」

縋りつくマモノくんに鬱陶しそうにしていたヒヨリは、俺の言葉に顔を顰めた。

「おい、お前まで何を言い出す? 相手は甲1類だ。こいつの証言だけで信じるのは危険過ぎる」

「でもさあ。火蜥蜴たちもさ、危ないと思って始末しようとして、結局始末しなくて良かった~ってなったわけだろ」

「…………」

昔の話を引っ張り出すと、さしものヒヨリも気まずそうに黙り込んだ。

マモノくんは紛れもなくヤベー奴だが、同時に良識も持ち合わせている。頭から信じ切るのはちょっとアレだけど、半分ぐらいは信じていいと思うんだよな。河童ハウス見学の時、俺に絶対怪我させないよう気を遣ってくれてたし。

「とりあえずティアマトを優先して狙って殺す。

んで、その後にゲイザーくんの様子見をして、安全そうなら良し。危険な兆候があればゲイザーくんも殺す。

もしゲイザーくんに肩入れしたせいで被害が拡大したら、全部マモノくんの責任。

細かいとこはヒヨリの判断。

このへんが落としどころじゃないか」

マモノくんの違法飼育と管理不行き届き。

マモノくんのこれまでの功績と行動から来る信頼に俺の色目をつけて。

功罪両方あわせてこんなもんでどうだろうか。

俺の提案にヒヨリが不承不承頷くと、マモノくんは頭の皿の水が枯れるのではないかという勢いで泣きながら俺の手をとり感謝した。

いやあの、大袈裟っす。俺も折衷案出しはしたけど、十中八九ゲイザーくんは殺す事になると思ってるんでね。

甲1類と仲良しは無理では? 今まで飼育できてたのは何かのバグだろ。バグが消えずに残る事にワンチャン懸けるぐらいはアリだと思うけどさ。

ヒヨリは礼を言って言われて忙しい俺達を促し、玄関から出ながら言った。

「大利の方針で動いてやる。だが、ゲイザーの為ならなんでもすると言ったな? どんな結末になるにせよ、その言葉を忘れるな」

俺達は自己強化魔法とヒヨリの追い風魔法で一気に臨海部へ向かった。道中、青梅手前の迷いの霧の前でウロウロしていたマモノくんの弟とでっけぇ虎魔物に一声かけたが、だいぶドップラー効果かかっていた気がするからちゃんと伝わったかは怪しい。

自己強化にあんまり慣れていない俺は途中からヒヨリに担がれ、更に加速する。

ものの三十分で、俺達は海を望む品川区の総合商社屋上に到着した。

屋上にはローブと鎧の中間のようなガチガチの戦闘服に身を包んだ魔術師作戦部隊が指揮テントを設営していて、俺達三人の乱入に振り返り不穏にざわめく。

が、ヒヨリがキュアノスと一緒に 真空銀(ホロウシルバー) のカードを掲げて見せるとざわめきの種類が浮ついたものに変わった。

ヒヨリはカードを懐にしまい、俺の服の埃を払い襟を整えながらクドクド言う。

「大利。これ以上絶対近づこうとするなよ? この距離なら何が相手でも絶対に護ってやれるが、この先は保証できない」

「オッケーオッケー。いやー、一度ナマで怪獣バトル見たかったんだよなぁ!」

「緊張感無さ過ぎませんか」

マモノくんが何か言ってるけど、俺にだって緊張感ぐらいはある。

ヒヨリが大丈夫だと言ったから、大丈夫だと信じているだけだ。ヒヨリが俺を危険地帯に連れて来る訳ないからな。マジでここは安全だと思って良い。

商社屋上の縁の欄干に手をつき海を遠望すると、東京湾洋上では今まさに四頭竜ティアマトと睨み屋ゲイザーくんの戦いが勃発したところだった。翼長100mほどもあろうかというクソデカ黄金竜と、その半分ほどの大きさのクソデカ目玉がゴン太ビームを撃ちあう。

ティアマトの雷撃っぽい金色ビームとゲイザーくんの紫ビームは空中で衝突し、爆発して大規模な衝撃波を発生させ大波を起こした。

衝突の十数秒後に俺達のいるところまで圧のある風が届き、攻撃の威力を肌に伝える。

「すっげぇ迫力……! それにしてもマモノくんの地下室デカくね?」

全長50mの魔物を格納しておける地下室はもうシェルターだろ。

大怪獣バトルから目を離さず呟くと、隣に立つマモノくんは驚きを滲ませ言った。

「ゲイザーくんは怒ると空気を吸い込んで膨らむんですよ。しかし今までは3m程にしか……あれほど巨大になっているのを見るのは私も初めてです」

なるほどね。ゲイザーくんも戦闘態勢って事か。

初撃の衝突の後、二体の甲類魔物は距離を詰め組み付き合った。ティアマトの四つの顎がゲイザーくんの巨体に喰らい付けば、ゲイザーくんはその長い七本の触手でティアマトの首を強力に絞め上げた。

巨大怪獣の激突は海に幾度もの大波を起こし、沿岸部を襲う津波が船舶を次々と転覆させ、埠頭を洗っていくのが見える。

おっと、今回の事件による物的被害ゼロは早速不可能になったようだな。

と思った途端、突然ティアマトが三体に分身して奮戦するゲイザーくんを包囲した。

驚いて目を見開いたゲイザーくんが絡みつきを解いた途端、太いビームを撃ち込まれ怒りの咆哮を上げる。

俺は思わず身を乗り出した。ああ、ゲイザーくんがッ!

「あのドラゴン分身魔法使えんの!? ズルだろ!」

「いえ、あれは幻の魔法使いの幻影でしょう」

「幻の……誰だって?」

「東京魔女集会の魔法使いですよ。ほら、透明人間の」

「なるほど……?」

全く聞き覚えは無いが、現代にはそういう奴がいるらしい。

そりゃそうか。寿命で去った超越者もいれば、新しく生まれた超越者もいる。東京魔女集会の顔ぶれも変わっているのだろう。

というかティアマトの幻影を出したって事は、人類ティアマト側に味方してない?

どーなってるんですかそこの所は。

ゲイザーくん応援隊としてティアマトの肩を持つ人類に文句をつけたいところだが、俺にピリピリした魔術師部隊の皆さんにクレームをつける度胸はない。なんか大砲やら魔法陣やら魔法金属のインゴットやらの点検に忙しそうだし。

仕方なく文句を言う代わりに難しい顔をしているヒヨリと偉いっぽい人の会話に耳を澄ませた。

「――――試作生物兵器の緊急出動だと? そんな事を誰が言った?」

「魔物研究企業クラノムの葦沢博士です。都心で発生した恐るべき脅威に対処するため、研究中の甲1類魔物を出動させたと」

「嘘だな。その博士とは別口のクラノム社員から私に情報提供があったが、話が食い違っている。その情報筋によれば、逆だ」

「逆、と言いますと?」

「襲撃者はティアマトだ。ゲイザーは東京を護るためティアマトを迎撃している。クラノムは自社の管理不行き届きによるティアマト暴走の責任から逃れようとしているようだな」

「…………。確かですか?」

「情報の裏取りはそちらでやれ。そういう事情だから、私はティアマトを優先的に始末する。ゲイザーには暴れない限り手を出さない。幻の魔法使いを引かせろ、巻き添えにはしたくない」

「むぅ……了解しました。月居二曹! 幻の魔法使いに通信飛ばせ! 撤退だ! 青の魔女が動く!」

偉い人の指示に目玉の使い魔に囲まれてんやわんやしている通信の人が頷き、指示を飛ばす。ヒヨリは屈伸と伸脚をして何やら足をほぐし始める。

ヒヨリが出れば大怪獣バトルは終わる。

まあ、これは娯楽ショーでは無いのだ。もうちょっと見ていたいと思っても口に出すのは流石にマズい。

滅多に見られない大怪獣バトルを目に焼き付けようと戦況に目を戻すと、ちょうどティアマトの真上をとったゲイザーくんが一本減って六本になった触手を束ね、オーロラのような虹色ビームを四頭竜に叩き込むところだった。

ところがそのビームに貫かれたティアマトは幻のように消え去り、代わりに透明化していた本物のティアマトが現れゲイザーくんに強烈な黄金ビームを撃ち込む。

誤報とはいえ敵に味方してしまった幻の魔法使いのバッド・アシストによってビームの直撃を喰らったゲイザーくんは吹き飛ばされ、海面をバウンドし、臨海部の大型倉庫に突っ込んだ。

ゲイザーくんは全身から血を流し、弱々しくもがき、萎んでいく。

「うああっ……!」

マモノくんが身を乗り出し、まるで自分が攻撃されたかのような悲痛な声を上げる。

やばい。ゲイザーくんがピンチだ!

「ヒヨリ、早く早くッ!」

「任せろ」

俺が腕を振って催促すると、ヒヨリは頷き、弾丸のように駆けだした。

いや、弾丸よりも速いかも知れない。

屋上を飛び出したヒヨリは宙を爆走し、ソニックブームを出しながらみるみるティアマトへ距離を詰めていく。

速い! 速過ぎる。

魔術師隊の面々も思わず仕事の手を止め、口を半開きにして目を剝きポカンと見送る他ない。

マモノくんが唖然として言った。

「馬鹿な。魔力で道を作っている……!?」

「それ凄いのか?」

「か、神業です。詠唱魔法とは魔力の動きが違う。彼女は何をしているんだ? 人智を超えているという事しか分からない!」

河童マスクから目が飛び出しそうなほど驚いているマモノくんと違い、俺には魔力の動きが視えない。しかし何をやっているのかは分かる。

ヒヨリは無詠唱魔法で宙に道を作り、超絶自己強化をかけて音速で疾走しているのだ。

俺の彼女はすごいなー、すごいなー、とは思っていたが、魔力コントロールができる人の目からは凄いどころか神域に見えるらしい。

ヒヨリ、お前はもう魔神を名乗っていいらしいぞ。

超越者すらも超越しつつあるヒヨリは十数秒で彼我の距離を詰め切った。米粒より小さく見えるヒヨリが、100m級の黄金竜に突進し、何度も激烈な衝撃波を与え沿岸部から引き離していく。

激怒したティアマトの黄金ビームは鏡のような巨大な円形盾に反射され、ティアマトの体を焼き焦がす。

たまらず翼をはためかせ高度を上げ、態勢を整えようとするティアマトの真下の海面が白く凍り付いていく。

見覚えのある予兆に、俺は叫んだ。

「いけ、ヒヨリ。やっちまえ!」

まるで俺の声援に応えるかのように、海上から一条の白い光線が撃ち上がる。

その白い光線は、ティアマトやゲイザーくんのビームとは比較にならないほど細い。

だが、それは青の魔女が愛用する大魔法だ。

空中で大氷河魔法に貫かれたティアマトは翼を大きく広げた姿で即死し、凍り付き、美しい黄金四頭竜の氷像と化した。

巨大な氷像が宙に浮かぶ力を失い、落下していく。海面にできた流氷を割って海中に落ち、見た事もないほど大きな水柱が高々と上がる。

その水柱が空に描いた虹と、作戦指揮所から上がった大歓声をもって、大怪獣バトルは決着した。