軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

6.深夜の決行⭐︎

冷たい冬の空気が屋敷に漂う朝、ヴァイオレットは忙しげに動き回っていた。

聖杯の儀まであと3日。

使用人たちの間では、だれが今年の儀式に参加するのかで盛り上がっていたが、ヴァイオレットは耳を貸すこともせず、黙々と自分の作業に取り組んでいた。

彼女の頭の中は、その儀式よりも、もっと差し迫った決意でいっぱいだった。

(今夜、ここを出る。)

この言葉を心の中で繰り返すたび、心臓が高鳴る。

すでに計画は整っている。

あとは実行するだけだった。

レベルが2に上がって以降、ヴァイオレットの体調は劇的に改善した。

以前は薄暗い地下での生活や栄養不足で肌は乾燥し、目の下にはクマがあった。

油分なんてろくに摂っていないはずなのに、額や頬に小さな凹凸もあった。

しかし今や、滑らかになった肌には赤みが差し、頬もふっくらとした。

体力も付き、忙しい作業も少し楽に感じられるほどだった。

「やっぱり、ちゃんと食べるって大事だなあ」

人目を避け、【創造】で生み出した食べ物を少しずつ摂取してきた結果がこれだ。

創造した黒パンやソーセージ、スープはヴァイオレットの体を支えるだけでなく、心の余裕をもたらしてくれた。

多少なりとも体形も変わったはずだが、マギーの服をコピーして着ていたおかげで、窮屈な思いをせずに済んだことも幸運だった。

森に設置した物置小屋も、今のところ誰にも発見されていない。

そもそも公爵家の裏手にある森は、庭園と違い、ほとんど放置されている。

使用人たちはこの森には入らないし、貴族たちはなおさら興味を持たない。狩人も公爵家に遠慮してあまり近くには踏み込まない。

ヴァイオレットはこの事実に何度も感謝した。

とはいえ、いつか見つかる可能性は否定できない。

その時のために、小屋にはヴァイオレットのものとわかるような持ち物を一切置かないよう注意していた。

ちなみに、最近はレベルが3に上がり、新しい能力として【創造】した物を消すことができるようになった。これで証拠隠滅も自在だ。

(そろそろ潮時よね……)

聖杯の儀まであと3日だし、いくら人目のない森の中とはいえ、この物置小屋を守りながら長くここに居座るのは無理だと判断したヴァイオレットは、ついに脱出を決意した。

昼間、使用人たちの目をかいくぐりながら最後の準備を進めた。

スープの器を返す時に、干し肉にこっそり触れたことでこちらも【創造】できるようになった(おかげで引っぱたかれることになったが)。

ヴァイオレットにかかれば温かいスープも【創造】できるのだが、念のためだ。

庭師の作業小屋には木の器や水筒も【創造】で複製してある。

【創造】によって水筒を水で満たすこともできる。

森に置いてある鞄に布切れやナイフも詰め込んである。

その日の夕方、食事を終えてからヴァイオレットは便槽の汚物を汲み取っていた。

いつもなら汚物や臭いで気が滅入るのだが、心はすでに森の中の小屋に飛んでいた。

彼女の脳裏には、この屋敷を出ていく自分の姿が鮮明に浮かんでいた。

真夜中、使用人たちが寝静まった頃、ヴァイオレットはそっとベッドから抜け出した。

あかぎれた手に息を吹きかけて温め、外套(買い出しに行く小間使いに繕い物を申し出、運よくコピーできたものだ)を羽織る。念のため靴の音を消すために布を巻きつけ、廊下を忍び足で進む。

屋敷を出て森の中に入ると、冷たい風が頬を刺した。薄明かりの中、小屋が見えるとほっと胸をなでおろした。

ドアを開けると、そこには彼女が【創造】で用意した物資が整然と並べられていた。

鞄を肩にかけ、小屋の中で最後の確認をする。

水筒、食料、予備の服、道具類。

必要なものは全て揃っている。この小屋もその役目を終えたのだ。

「ありがとうね」

小声でつぶやきながら左手で触れて小屋を消した。

跡形もなく消えた場所を見つめ、しばらく感慨に浸る。

しかし、足を止めている時間はない。

深夜の森を歩きながら、ヴァイオレットはこれからのことを考えていた。

【創造】というスキルは、彼女の生活を大きく変えた。

しかし、それがどこまで使えるのかはまだ未知数だ。

「レベル100とかになったらどうなるんだろう。」

そもそもレベル3でここまでできるのは反則級と言っても過言ではない。

1レベルアップするごとに毎回新しい能力が使えるようになるなんてことは、【創造】というスキル上考えにくい。

せいぜい日本で使っていた物が【創造】できるようになるとか、かなり巨大な物も【創造】できるようになるとか、それぐらいだろうか。

そもそもレベル上限があるのかさえわからない。

そんな考えが頭をよぎったが、ヴァイオレットは首を振って追い払った。

そして、今考えるべきは目の前のことだ。

自由を手にするための一歩を、確実に踏み出さなければならない。

夜明け前、森を抜けて広がる道を進むヴァイオレットの背中は、これまでの彼女とは違っていた。

背筋が心なしかシャキッとして、明るい未来を目指して力強く進んでいく。

「私は生き延びる。そして自由になる」

誰にも聞こえないような小さな声でつぶやきながら、ヴァイオレットは新しい一歩を踏み出した。

トワイライトの空がうっすらと朝焼けの気配を見せていた。