軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

9.森の中

ヴァイオレットはひんやりとした森の空気を吸い込み、歩き始めた。

木漏れ日が差し込む森の中は静かで、鳥のさえずりと自分の足音だけが響いている。

「普通に歩くと時速4キロくらいって聞いたことがあるけど、森の中だからせいぜい半分ちょっとのペースでしか進めていないはずだよね……」

森の地形は複雑で、足元に根が張り出している場所や、背丈ほどの茂みを避けながら進まなければならない。

日本の鬱蒼とした杉の森とは違って光が差し込んでくれるのは救いだが、迷わないように注意を払いながら、道なき道を進むペースはおそらく時速2キロ強程度だろう。

初日の夜に4時間くらい歩いたし、昨日は遅めに起きてから10時間くらい歩いた。

食事や小休憩の時間を差し引いても、これまでに30キロほど進んでいる計算になる。

グレンダリング公爵領は広いが、この距離ならすでに境界を越えている可能性が高い。

「目安になる川とか街道に出られれば、今いる場所がもっと正確にわかるんだけど……今日中に行き当たるのは流石に無理そうね」

周囲には目印になるものがなく、現在地を正確に把握するのは難しい。

ため息をつきながらも、ヴァイオレットは足を止めなかった。

昼近くになった頃、ガサガサという音が聞こえ、ふと立ち止まる。

何かの気配を感じたのだ。

静かに耳を澄ませると、サラサラと葉が揺れる音の中に微かな動きが混じっているのが分かった。

目を凝らしても何も見えない――だがその違和感が危険の兆候だった。

「……いる。」

次の瞬間、木の根元から巨大なトカゲが姿を現した。

全長70センチほどもあるその姿は、ただのトカゲとは明らかに違う。

緑がかった鱗は木の皮と見事に同化しており、動かなければ完全に風景に溶け込んでしまう擬態能力を持っている。

ヴァイオレットの心臓が大きく跳ねた。

「これが……フォレストリザード……?」

ゲーム内の知識が頭をよぎる。

「擬態が得意で素早い」と説明されていたが、実際に目の前にするとその迫力は比べ物にならない。

なんせ、でかい。トカゲのフォルムなのに70cmとは、ほとんど恐竜のように見える。

牙をむき出しにしてじりじりと距離を詰めてくる様子に、背筋が凍る。

しかし恐怖に飲まれている暇はない。

ヴァイオレットは瞬時に思いついた策を実行に移した。

【創造】で細かな灰を生み出し、どっさり撒き散らす。

それは木々に溶け込んだフォレストリザードの輪郭を浮かび上がらせ、擬態の効果を無効化した。しかし、そのせいで煙い。

「ケホッ……これで隠れられないはず……」

リザードが怒ったように突進してくる。

ヴァイオレットはすかさず大きな石を【創造】し、その動きを止めた。

苦しそうにもがく魔物に息を整えながらとどめを刺す。

夕方になりかけた頃、またしても気配を感じる。

今度は空中を舞う蛾のような魔物だ。

翼を広げれば1メートルにもなる巨大な蛾、「ナイトシェードモス」。

暗闇でぼんやりと光るその姿は幻想的だが、毒粉を撒き散らしながら近づいてくる様子は、恐怖そのものだった。

ヴァイオレットは咄嗟に口元を覆う布を【創造】し、毒粉を吸い込まないように備えた。

そして日本の生活を思い出す。

「む、虫取り網……!」

集中して【創造】を発動する。

すると、見覚えのある形状の虫取り網が手元に現れた。

まさか異世界でこんなものが役立つとは思ってもみなかったが、捕獲にはうってつけだ。

毒粉を避けながら慎重に動き、隙を見て網を振り下ろす。

「やった!」

網の中でもがくナイトシェードモスを迷いなく踏みつけて仕留めた。

毒粉の撒き散らされた場所を避けるため、少し離れた場所に向かう。

毒粉の漂っていた場所から離れたところで、ヴァイオレットは物置小屋を【創造】しようとした。

そのとき、ふと考えが浮かぶ。

「そういえば、この世界で触れたこともなかった虫取り網が作れたんだから、コンパスもいけるんじゃない?」

手をかざし、イメージを集中させる。

しばらくして、手の中にコンパスが現れた。

「できた!」

針の動きを確認すると、正しく北を指している。

自分がこれまで進んできた方向が間違っていなかったことを確認し、ヴァイオレットはほっと胸を撫で下ろした。

「今日はいろいろ試しすぎたせいで、MPがちょっと心もとないなあ……」

それでも、ヴァイオレットは日本で使ったことのあるアイテムを【創造】できる可能性に胸を弾ませていた。

もしこれが実用化できれば、生活が格段に便利になるだろう。

「まずは物置小屋ね。これがないと話にならないわ」

物置小屋さまさまだ。さっそく【創造】し、中に入り込むと、軽食を摂りながらその日の疲れを癒やす。

「明日も頑張らないとね……」

布団の山に潜り込みながら、ヴァイオレットはゆっくりと目を閉じた。

森の中の静かな夜は、彼女にしばしの安らぎを与えていた。